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『こんなクリスマスだっていいじゃない 』
トライフ・A・アルヴァインka0657)&響ヶ谷 玲奈ka0028)&エヴァ・A・カルブンクルスka0029

 クリムゾンウェストも季節もそろそろ年の瀬、聖輝節の時期である。
 リアルブルーでのクリスマスとほぼ同様のイベントであり、この日はホームパーティを催す者も多い。
 さて、この三人はといえば――
 
 
「ねえねえ、トライフ。こんどの夜開いてる? 一緒にクリスマスを祝おうかなと思ったんだけど」
 ガチで好みのタイプな玲奈にそんなことを言われ、トライフは
「え、勿論かまわないよ!」
 そう言ってにっこりと笑顔を浮かべる。ほんの少しだけ頬を染めているのは、まあしぜんとそうなってしまうとでも言うべきか。玲奈はそんなトライフの顔を見てうんうん、と頷いて返した。
「いや、エヴァと一緒にパーティをしようと思ってたんだけれど、やっぱり二人では面白みも減ってしまうしね。トライフが来てくれるなら大歓迎だよ」
 そう言ってこちらもにこり。
(お邪魔虫になるのがいるのか、それでもまあいいか。折角の機会だもんな)
 トライフも打算的に考え、勿論大丈夫、と頷く。
「それじゃあ待ってるからね」


 ――なんてやりとりがあったのが数日前。
 トライフは今日、いつもよりも更に小綺麗にめかし込み、花束やプレゼントもしっかり用意して、玲奈の家の前に立っていた。
(……にしても、なんだ? この嫌な予感のするにおい……)
 こんこん、とノックをすると、
「やあ、ようこそこんばんは、いらっしゃい。いい聖夜だね。きっと役立たずにも祝福は授けられるだろうとも。こんなにいい日和なんだからね」
 ちょっとの皮肉めいた言葉をさらりと言いながら、玲奈が出迎えてくれた。と同時にむわっと中からニンニクの強い匂いが漂ってくる。
 部屋のなかではなにやらエヴァがボウルに入ったものと格闘していたが、トライフの姿を確認すると近づいてニコニコ笑いながら出迎えてくれた。
 エヴァは話すことができない。かつて喉を怪我し、そのまま声を失ってしまったという過去があるが、本人はそれでも至って元気そうに活動している。普段は単語カードや筆談でやりとりをするのだが、今は手が食材にまみれていることもあって筆談は難しそうだ。
 そんなエヴァの身体からも、そして玲奈の身体からも、漂ってくるのは強いニンニク独特の匂い。
「折角の聖夜に、何やってるんだい?」
 トライフが不思議そうに尋ねると、
「いや? ホームパーティの準備だよ。と言っても今日は餃子なる料理を食べてみようと思ってね」
「ぎょーざ」
「うん。不満なようなら帰るかい?」
 明らかに確信犯、と言うような意地の悪そうな笑み。エヴァはまち切れなさそうに、早く早くと飛び跳ねている。
(ぐううう! もっとロマンチックな聖夜をイメージしていたのに! ニンニクの匂いまみれのなかでパーティとか、マジか。マジかよ……)
 トライフは逡巡するが、玲奈との仲を近づける絶好のチャンスなのも間違いなく、トライフは小さくため息をつきながらそのまま部屋に入っていったのであった。
「まあ、拗ねていないではじめようじゃないか。私もエヴァも、もう腹ぺこなんだよ」
 そう言いながら、玲奈が苦笑を浮かべた。
 
「うわー、エヴァはやっぱり手先が器用だな。さすがは画家なだけある」
 玲奈に言われて、エヴァは照れくさそうに、でも嬉しそうに笑いを浮かべる。
 ギョーザパーティなのはともかくとして、包む皮から手作りという本格派。と言っても皮のほうはもうできあがっていて、今はあんを皮に包む作業を行っている。
 先ほどエヴァがこねていたのはギョーザのあんの部分であり、それを一つ一つ、エヴァは丁寧に包んでいく。
 声を持たない分、エヴァは手先が器用だった。絵描きとしてもやっていけるだけの腕前を持っていて、彼女が手を動かせば綺麗に包まれていく。
「うまいもんだな」
 そう言うトライフの目の前にできあがるのは、ギョーザとは似ても似つかぬ怪しい物体。ろくなモノができあがらないのがまた気にくわなくて、更にどうしても子どものようにすね気味にポケットからタバコケースをとりだし、そして中から一本取りだしてくわえようとするが、
「ちょっと、ここは室内禁煙だよ?」
 玲奈がそう言うと、トライフがまたもやげっそりした表情を浮かべる。
(マジかよぉ)
 気分転換にと思ったのだが、そう言うわけにも行かないらしい。
 ちなみにエヴァはそんな合間にもギョーザ包みをどんどんと進ませ、玲奈にもコツを教えていった。
「なるほど、こうやると美味しそうにできるんだね。そう言えば羽付ギョーザというのもあるらしいけれど……」
 ふふん、と鼻高々な表情を浮かべるエヴァ。鼻歌を口ずさみながら、中には時々香辛料どっちゃりの外れギョーザまでも作っているらしく、ちょっとしたサプライズと言ったところだろうか。
 ……もちろん、エヴァにだけわかる目印をつけてる……なんてことは無いと信じたい。うん。
 
 気が付けば予想以上の数のギョーザができあがっていた。
 どっさりとできあがった餃子は焼いたり茹でたり、調理方法は山のようにある。フライパンで焼き(一部は羽付ギョーザにして)、茹でたり水餃子にした者も多く、もうギョーザの満漢全席という感じの状態である。
 どんどんどん、と皿に盛られたギョーザはうずたかく、てんこ盛りという言葉が一番しっくりとくるくらいだ。
 ついでにその横に置かれているのは七面鳥ならぬ北京ダックであり、なんだか聖夜にかこつけて遊びたいだけだろうと言わんばかりの構図であるが、まあそのくらい浮かれた気分になるのもこの日くらいはきっといいものだろう、と三人で乾杯をしてグラスを傾ける。
 トライフのほうもここまで来ればもう開き直ったもので、がつがつと食事を口の中に運ぶ。ギョーザはニンニクやニラが良くきいた絶妙な味わいで、食べているとなんだか元気になってくる気がするのだから不思議なモノだ。
「随分予想よりもたっぷりになったけど、まあこのくらいは問題なかろう」
 けろりとした顔で玲奈はそんなことを言いながら、玲奈は頬を緩ませてもぐもぐとギョーザを口に運ぶ。
「最近調子はどう?」
 玲奈が何気なくそう聞けば、
「まあ、ぼちぼちってところだな。それなりだ」
 トライフもギョーザをむしゃむしゃしながらそう応じる。酒精の影響もあるのだろう、今日はだれもが少しばかり饒舌な感じだ。会話というコミュニケーション手段を持たないエヴァも、ニコニコ笑いながらさらさらと筆談用のスケッチブックにしたためて
『私も元気だよ! でも、酒とギョーザと北京ダック……完璧なクリスマス! 流石完璧ね!』
 なんて見せれば、そんなもんかも知れないなと三人でケラケラと笑う。楽しい時間と言うこともあってか、酒の回りも少し早いらしい。酒豪というわけではないが、皆どちらかというと酔うと陽気になるタイプたちなので、すっかり心地よさそうにしている。
「エヴァも、絵のほうはどうなんだ?」
『ふふ、それなりに頑張ってるよ!』
 そんなやりとりがあれば玲奈は思わずエヴァの頭を優しく撫でて猫ッ可愛がりもするし、エヴァもエヴァでまんざらでもないというふうにニコニコ笑みを浮かべる。
「流石わたしのエヴァだ!」
 そう言われて嬉しくないはずもなく、エヴァも玲奈の首筋に飛びついたり、きゃっきゃとはしゃいでいる。
 そうこうしているうちに、あれほどあったギョーザも残り一つ。(なおエヴァがこっそりこしらえた外れギョーザは全てトライフが食べるなんて言う残念な結果に終わった)
 トライフが箸をのばそうとすると――ちら、とこちらを見てくるのはエヴァ。最後の一つ、どちらも食べたいらしい。
『それ、私にちょうだい』
 走り書きしたその文字を見て、トライフはにやりと笑う。
「譲るだぁ? ッ、なんでお前に譲らなきゃいけないんだよ?」
「へえ。わたしも欲しいんだけどなぁ」
 玲奈がそこに口を挟めば、
「ん? 玲奈も食べたいのかい……? 無論いいよ、なんなら食べさせてあげようか?」
 そんな風に態度をころりとかえるものだから、無論エヴァには大不評。玲奈も玲奈で、
「いや、やっぱりわたしはいいよ。それにエヴァが食べたいなら、エヴァに譲ってあげたいしね?」
 そう言って意地悪げににーっこり。結局最後のギョーザはエヴァのおなかにしっかり収まったのだった。
 
 食事も一通り終え、デザートの杏仁豆腐(形はケーキっぽく頑張ったらしい)を食しつつ、プレゼント交換タイム。といっても、三人がそれぞれプレゼントを渡しあうていどだが。
 トライフが受け取ったのは、玲奈からのキーケースと、エヴァからの財布。どちらも革製で、それなりの値段はするモノだろう。
 エヴァが受け取ったのは玲奈から最近評判になっている画材セット、それと――トライフからの大胸筋養成ギプス。エヴァはこれを受け取ると無言でトライフにキャメルクラッチを仕掛けたりしているが、まあこれについてはやむを得まい。
 そして玲奈へは、エヴァからはお揃いのアクセサリ。抱きついて頬に口付け、親愛の情を示しながら渡せば、
「ありがとう、だいすきだよエヴァ!」
 玲奈もすっかりご機嫌だ。
 一方のトライフからは、小さな紙袋。中にはセンスがいいんだか悪いんだか、下着の上下セットが入っていて。
『トライフの変態!』
 すかさずエヴァがそう言わんばかりに睨み付け、玲奈も呆れたようにため息をつく。
「ちょ、なんだよその顔!! 俺がどれだけ……!」
 しかし二の句を継がせないのがこの二人。皿洗いの担当を任されてしまったのだった。
 
(くっそぉ)
 トライフ、そう思いながらごしごしと皿洗いに励む。根は真面目なのだ。たぶん。
(でも、こういういいことをしているよい子にはプレゼントがあってもいいよなぁ)
 発想が相変わらずクズだが、それでも助かるのは事実。
 と、すっと玲奈が横にやってきた。これは本当にご褒美があるかも、と顔を緩めながら、
「ほら玲奈。僕だって頑張っているんだ、ご褒美の一つもあってもいいんじゃないか?」
 そう言いながら口元を小さく開く。
 しかし玲奈は物怖じもせずににこっと笑っていった。
「残念な話だけどね、わたしたちは今とってもニンニク臭いしニラ臭いし、ムードもへったくれもないよな? わかるだろ?」
 そう有無を言わせぬ声で言って――勿論笑顔のまま――、危機は脱したのだった。まあ、実力行使されてもビンタの一つくらいはくれてやるつもりだったが。
 
 そんなどんちゃん騒ぎになりながら、聖なる夜は更けていくのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka0657/トライフ・A・アルヴァイン/男/23歳/機導師】
【ka0028/響ヶ谷 玲奈/女/20歳/聖導士】
【ka0029/エヴァ・A・カルブンクルス/女/18歳/魔術師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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今回はご依頼ありがとうございました。
クリスマスに餃子パーティ……実に飯テロ案件でした。
もっともクリスマスはずいぶん前に過ぎてしまいましたが……。
しかし楽しく執筆させて貰いました。
不幸な青年にも幸あれと願っております。
では、今回はありがとうございました!
イベントノベル(パーティ) -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年02月23日

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