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『倖色日記 』
御子神 藍jb8679


 ねえ、流架。
 倖せの色って、何色だと思う?

 私はね――

**

 骨董品店『春霞』の裏手には、周りの雑木林と調和する一軒家が佇んでいた。

 様々な種類の木々が密に生い茂り、風の揺らめきに香る草花に囲まれ、四季の移り変わりも手に取るように感じられるその空間は、元教師と元生徒という間柄であった夫婦――御子神 流架(jz0111)と、御子神 藍(jb8679)の住まい。

 外壁は、澄み切った青空によく映えるホワイトカラーにソフトカラーの木素材。
 一階から二階までを繋げる吹き抜け。
 階段とリビングスペースを隔てる木格子や、住空間の僅かなスペースに設えた生け花が、繊細な和の雰囲気を醸し出している。

 そして、風情ある雪見障子の寝室。

 ――。

 備え付けられた座卓には、桜の花弁と白い雪が舞うスノードーム。そして、和綴じの日記帳が据えられていた。
 青い鳥の縮緬タッセルで飾られた表紙の柄には、淡い桃色の花弁が幾重にも彩る八重桜。

 繊細さが宿る白い指先が、するり――仙花紙の間を撫ぜ、想いを開いた。
 目は、意識は、“彼”の字で綴られた追憶の波へ、時を移さず流されてゆく。それはまるで、心を奪われるような――





 二度目の“恋”。




















・・・‥‥………………………………………………………‥‥・・・

 2017年7月17日。

 海の日――海の恩恵に感謝する日と言われているその一日は、俺達が結ばれ、夫婦になった日。





 俺はもう、藍がいないと生きていけないな。

・・・‥‥………………………………………………………‥‥・・・

 2019年4月1日。

 散りゆく薄紅と、舞う白が生んだのは、季節外れの“奇跡”――雪桜。

 俺と藍は実家の縁側で寄り添い、溜息が出る程に美しい光景を眺めていた。

 ――やっぱり子供の名前は、この前話したのがいいと思うんだぁ。青空に望みを架けて、咲く桜……二人で意味を持つ、大切な色なの。
 ――ん……俺達らしい繋がりを継いだ名だと思う。
 ――えへへ。
 ――藍。……怖くはないかい?
 ――え? ……赤ちゃん、産むのが? んん、ないよ。だって、大好きで大好きで、どうしようもなく大好きな人との子供だもん。私……本当に倖せなの。奥さんとしても、女としても。だから、誰よりも優しい旦那様の為に、お腹の中で元気に動いてる子達の為に……私、頑張るからね!

 膨らんだ藍の腹に触れると、二つの命を宿した“光達”が応えるように、力強く蹴ってきた。

・・・‥‥………………………………………………………‥‥・・・

 2019年5月29日。

 その日は、“幸福の日”と云われているらしい。



 予感はしていた。
 髪を撫でてくる煩わしい夜風が、任務中の俺に踵を返すよう囁きかけていたから。

 胸元の携帯電話が主張を示してきた後、ノンストップでバイクを走らせ、産院へ向かった。
 何を考えていたのか。
 唯、喜びに触れるその瞬間を――



 ――流架……私達の子供、生まれたよ。とっても、とっても可愛いの。ね……お父さん、抱っこしてあげて?



 そっと抱いた我が子から伝わってくるのは、優しい温もりと小さな力。
 時の流れを忘れるほど見つめていた、愛しい寝顔。

 宝物の、子供達。

 元気に生まれてきてくれてありがとう。
 俺達に、掛け替えのない幸福を届けてくれてありがとう。

 誓うよ。

 貴い日々を重ねていく中で、君達は俺が護る。――必ず。

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(綴られた想い出を捲っていく音)

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 2026年8月3日。

 小学生になった子供達は、相変わらず懐こい。

 天真爛漫な娘は、海色の髪に翡翠の瞳を受け継いだ。素直じゃない双子の弟が可愛くて仕方が無いようだ。
 冷静沈着な息子は、夜色の髪に藍玉の瞳を受け継いだ。単純な双子の姉が屈託無く笑う姿をこっそりと見るのが好きらしい。

 食べ物の好き嫌いは親に似たのかな。俺が桜餅を食べていると二人揃って寄ってくる。藍のピーマン嫌いは息子に継がれたようだ。渋々食べる顰めっ面が母親そっくりで、面白い。

 藍は出会った時と比べて、随分と大人びた……かな?
 以前と変わらず元気に囀る、俺の愛しい青い鳥だ。奥さんになっても、母親になっても、彼女の本質は変わらない。



 今日は久方振りに、家族で海に行った。

 子供達の海好きも、藍に似たようだ。
 バイクから飛び降りると、二人揃って一目散に砂浜を駆けてゆく。

 ――ヒーロー参上! かかってこい、あおあおマン!
 ――ちょっと、なにそれ……ぼく、きみの敵なの?
 ――え? 敵じゃないよ? でも、悪いひとが相手じゃなくても戦ったりするんでしょ? この前、お母さんがお父さんにぽかぽかしてたよね。
 ――してたね。負けたけど。
 ――負けたね、お母さん。いつもお父さんに負けるよね。お母さん、弱いのかなぁ?
 ――相手が父さんだからだよ。
 ――そっかぁ、お父さん強いもんね! わたし、お父さん世界でいちばん大好き!
 ――そういう意味……も、あるけど……母さんの場合はそれだけじゃないでしょ。
 ――?
 ――父さんは、母さんのヒーローなんだよ。



 ――二人とも、なに話してるのかな?
 ――んー? お母さんは僕が護る、とか言ってるんじゃないのかい?
 ――えっ!? なにそれっ!?
 ――おや、気づいていなかったのかい? あの子はわかりやすいよ。平静を装ってはいるけれどね。
 ――そ、そうなんだ……! あ、この前ね、「お母さんはわたしの恋のライバル!」って言われたの。ちょっとショック。
 ――へえ? でも、俺には「お母さんはライバルだけど好き」って、言っていたよ。ふふ、よかったね?
 ――ええっ!? な、なんで流架ばっかり色々知ってるかな!?
 ――さあ?



 それは、君が俺の“倖せ”だから。
 それは、君達が俺の“奇跡”だから。

 不安を消し、勇気をくれる。何気ない日々を、色濃く過ごしていける。君達がいるから――




















「見たね?」
「Σわあっ!?」

 耳朶へ触れた囁きに、藍は正座したまま跳び跳ねた。

「こら、子供達が起きてしまうよ」
「る、流架のせいでしょ!?」
「ほう?」
「……違う、すみません」

 八重桜の表紙に指先を添えたまま、藍が心恥ずかしそうに睫毛を伏せる。

「私の大切な想い出は心の中に在るけど、流架の綴った色濃い日々も……嬉しい」
「……」
「流架?」
「目の前の俺より、文字の中の想い出の方がいい?」
「そ、そんなことないよ。どっちも……どっちも、好きだよ。流架の全てが大好きだもん」
「ふふ、その想いもきちんと残しておかないとだな」
「も、もう!」
「ああ……でも、残せないこともあるか」
「え?」

 流架は藍の手の甲に掌を重ねると、ぱたん――日記を閉じた。

「これからすることとか……ね?」
「あ――」

 半開きの唇に熱い吐息を感じ、首の後ろに片腕が回された。そして、寝間着の背中がゆっくり布団へ倒される。
 唇の合わせ目が角度を変える際に薄く外れる刹那――

「愛してる」

 流架の蕩けそうな睦言は、藍を夢路へ辿る心地にさせた。互いの眼差しが狂おしいほどに絡む。
 藍が瞼を伏せる際、



「私の身体も心も、あなただけのものだよ」



 掻き立てられた二人の熱を隠すかのように、部屋の明度が落ちた。

**

 俺の倖せは、君達がいるから色付くんだよ――。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8679 / 御子神 藍 / 女性 / 20歳 / 桜のBlue】
【jz0111 / 御子神 流架 / 男性 / 26歳 / 海のFortune】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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平素よりお世話になっております、愁水です。

此度のご依頼は流架目線ということで、日記という形で彼の想いを表現させて頂きました。
綴られている文字に彼の倖せを感じて頂ければと思います。
又、お言葉に甘え、最後は二人だけの甘い時間を。夫婦デスシ。

PCとNPCの子供の名前は表記出来ないことや、字数の都合により泣く泣く削除した文面もありますが、双子ちゃんの会話が何時までも書けるくらいに楽しかったです。
素敵なご依頼をありがとうございました!
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エリュシオン
2018年02月23日

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