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『死に至らぬ呪い 』
満月 美華jb6831


 何故戦うのか。
 何のために戦うのか。
 何故抗うのか。
 何のために抗うのか。
 最早理由すらも分からなくなってしまった。
 自問する。何故、何故、と。
 課せられた呪いに蝕まれながらも、抗う以外に手段を持たない。
 戦う以外に術を知らない。
 もし。
 もしも。戦うことも、抗うことも。諦めてしまったら。
 死と同義だ。
 そんな無意識下の認識だけが、彼女を生に繋ぎ止めていた。


 体が肥大化し続けるという、豊穣の呪い。
 豊穣とは、大地より湧き出る恵み。溢れ出るほどの養分が、草木に、あるいは花に、活力を充満させてゆくものだ。
 しかし。その、草木や花が抱え得る限界を上回る養分が注ぎ込まれたら、どうなることだろう。
 満月 美華は、そのような自然の摂理など考える余裕も持ち合わせず、ただこの場に立っていた。
 凡そ人型とは呼べぬシルエット。肥大化を続けた体はとうとう400kgを突破し、その体は球体と形容する他にない。
 胸も、腹も。自重で潰れてしまいそうなほどに膨れ上がった。歩行すらも困難であろう。
 それでも美華は立ち続ける。
 いつか手にしていた剣は、そこにはない。まともに振るうこともできない武器に、用はない。
 いや、剣が悪いわけでは、ないのだ。この体が、もっと言えばこの呪いが悪いのだ。
 とはいえ、呪いに責任を求めたところで、解決などしない。剣という武器の存在を否定することでしか、己の存在を肯定することができないのだ。
 だから彼女は、杖を手にしていた。
 最早体を動かし、腕を振ることも困難となった彼女は、魔力を増幅させる杖を用いて、慣れない魔法に頼る以外に、戦うことができない体となってしまったのである。
「正面に、一匹……。これくらい、どうってこと!」
 詠唱を始める。
 魔力増幅の恩恵を受けんがため、杖を掲げる。そして、目の前でただ存在しているだけの敵へ、一撃を加えるのだ。
 これくらい、仕留められないで、何が撃退士か――!
 だが、現実は非情だ。
「わ、と、あっ!」
 体を支えるのでやっと。そんな彼女の巨体は、ただ杖を持ち上げるという、子供にもできるような動作にも耐えられず、そのまま仰向けに倒れてしまった。
 敵を視界に捉えられない。
 手足を動かし、もがく。しかし、ただ地べたを転がるだけで、身を起こすこともできずにいた。


 訓練終了。
 難易度は最低レベル。仮想敵、スライム一匹。
 結果は惨敗。一撃も浴びせることができず、美華はただ、スライムの思うままに攻撃を受け続けるだけだった。
 これは最早、訓練とすら呼べない。
 シミュレーターから転がり落ち、床に寝そべって天井を見る。
 薄暗い。仮想現実に意識を集中させるため、光量は最低限に設定されているからだ。
「どうして」
 そんな言葉が漏れた。
 しかし声は続かない。声を押し出すだけの力が、残されていなかった。
 どうしてこんな体なのか。
 どうしてこんな呪いなのか。
 何がいけないのか。自分が何をしたというのか。
 産まれてきたことがいけなかったのか? 一族が受けたこの豊穣の呪い。分かっているのなら、何故私などを産んだのか。
 嗚呼、そうだ。産まれてこなければ良かったのだ。
 親の代で。いや、そのずっと前の段階で。この呪いに終止符を打っておけば良かったのに。
 誰が産んでくれと頼んだのか。そんな、親の都合だけで作り出された存在の惨めさを、知らないわけでもあるまいに。
 それとも。呪いを受け継いでしまった自分がいけないのだろうか。
 きっとそうだ。私こそが呪いを断ち切り、この連鎖から抜け出すことができると信じたからこそ、私を産み出したに違いないのだ。
 そんな期待に応えられなかった、自分の責任。
 産まれてきてごめんなさい。生きていてごめんなさい。
 ごめんなさい、ごめんなさい……。

 決して許されることのない謝罪が、胸の内に押し寄せる。
 それは彼女の巨体を以てしても収めきることのできない、増殖し続ける罪悪感。
 自分なんて、と考える内に。
 息苦しさを覚えた。体重によって肺が押しつぶされるそれとは、違う。
 美華は知っていた。この息苦しさが、何を表すものなのかを。
 何度も何度も何度も何度も味わってきたこの感覚。

 膨張が始まる。

 どくん。
 体が跳ねた。この嫌悪感と共に脈動する感覚は、間違えようがなかった。

 やめて。
 もう膨らみたくない。
 やめて。やめて。
 これ以上大きくなる自分を、もう見たくない。
 お願いだから!
 ただ自分の足が見たいだけなんだ!
 ただ地べたに座ってみたいだけなんだ!
 ただファッションを楽しみたいだけなんだ!
 許して。
 そんな当たり前のことをしていたいだけなんだ。
 だから、もう膨らまないで。
 お願いだから。
 私を、当たり前から遠ざけないで。
 もう十分以上に、遠いところにいるのに。
 これ以上遠ざけないで!


 いつ気を失ったのか。
 どこまで思考したのか。
 もう覚えていない。
 目が覚めた瞬間。見覚えのある景色、のはずだった。
 幾度となく繰り返した。
 呪いの進行と共に意識を失い、目覚めると病院に搬送され、最初に目に映るのは白い天井のはずだった。
 しかし。ここは……どこだろうか?
 山が見える。三つだ。
 真っ白な雪を被った、山。
 そんなはずはない。最後の記憶を必死に辿れば、シミュレータールームにいたはずだ。山が見えるはずがない。
 するとここは……。
 そんなことを考えている内に、だんだんと意識が鮮明になっていく。
 これは、山などでは、なかった。さらに肥大化した、自らの胸と腹だ。雪を被っているように見えたのは、シーツのせいだ。
 おかしい。いつもは天井を見上げているはずなのに。

 しばらくすると、主治医がやってきた。
 話を聞くに、肥大化は胸と腹に顕著なものの、他の部分も膨張しているという。首回りの肥大化も進んでいて、仰向けに寝かせては気道が塞がり、自発呼吸が不可能となる可能性がある。そこで、枕の高さを調節して、直立していれば足元を見るかのような首の角度に調節したとのことだ。だから、胸や腹が見える。
 そして。
 次に告げられた言葉は、美華から全てを奪うに等しいものだった。

「その体では、二度と戦うことはできない」

 死の宣告だ。
 そうとしか受け取ることができない。
 戦うことでしか自らの存在を繋ぎ止められない。
 戦うことでしか自らの運命に抗うことができない。
 その、たった一つの手段を、奪われた。

 美華は泣いた。
 ただただ涙を零した。
 そして気が付いた。
 最早、声も出せないほど、肥大化は進んでいるのだと。
 最後の言葉は何だったっけ。
 深く暗い絶望が美華を包む。そこに救いなど、ない。


 答え合わせは、必要ないだろうが。
 敢えて解答を添えるのならば、「根腐れ」だ。
 ただ、唯一違う点があるとするならば。彼女の場合、死という解放、救いに至ることができないということだろうか。

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【満月 美華(jb6831) 女性 ルインズブレイド】

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エリュシオン
2018年02月27日

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