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『美味しい料理と心のモヤモヤ 』
九鬼 龍磨jb8028

「さて。晩ご飯の用意をしなくちゃな」
 九鬼 龍磨(jb8028)は自分一人しかいない部屋で、炊飯器のスイッチを入れながら言った。
 わざわざ言わなくていもいいことをつい口に出してしまうのは、きっと、今日の仕事で思うところがあったからだろう。

 キッチンに立ち、エプロンをつける。背が高く体格もいいため、エプロンが少し小さめになってしまうのは仕方ない。
 一部が白い前髪も、目にかからないよう向日葵の髪留めでしっかりと止めた。
 食材を用意してから手を洗う。

 メニューはすでに決まっている。こちらの気持ちはともかく、何だかんだで報酬が良かったのでいつもより豪華なものにしようと、仕事帰りに買って来たのだ。
 九鬼は慣れた手つきで作業を開始する。
 大根をいちょう切り、ネギも斜めの輪切りにし、水を張った鍋に切った大根とあごだしパックを入れ火にかけた。
 沸騰するまでの間に豆腐の水切りをする。絹ごし豆腐をキッチンペーパーで包みレンジにかけ、その後平たい皿の間に豆腐を挟み雑誌を三冊ほど上に乗せて置いておく。
 終わった頃ちょうど鍋が沸騰してきたので大根の様子を見、
(もう少しかな)
 と火が通るまで少し待つ。
 そうしていると、自然に思いが今日の仕事へと飛んだ。

 仕事自体は大したことではなかった。なかったけど……、アウル能力者と一般人のいさかいを収めるのにいささか苦労したことが、九鬼の胸にモヤモヤしたものを残していたから。
 学園にいた頃は一般人とのズレを意識することはあまりなかった。学園に入る前も、自分がアウルを持っているからといってひどい仕打ちを受けたことなどなかったし。
 だけど確かに、九鬼が出会った人の中にも、力を持たない人達からひどい迫害やいじめを受けたという能力者はいた。そういう理由で学園に入った生徒もたくさんいただろう。
 人は、自分とは違う異質なものを恐れるから。

 なんてことを思索しながらも、九鬼の手は休まることなく、味噌とワカメとネギを入れ、テキパキと味噌汁を完成させていた。

 流れるように次の工程に移る。
 フライパンに牛脂を入れ、ニンニクのスライスと牛ステーキ肉を焼き始める。
 焼きながらまた九鬼は思う。

(天魔という人類の大きな敵がいなくなったら、今度は僕達能力者が彼らの『敵』なのだろうか)
 今まで彼らを守るために戦ってきたのに。
 まさに死力を尽くして戦い、今の平和を勝ち取ったはずなのに。
 人間は平和の中にも敵を見出さなければ生きていけない生き物なのか?
 今後は能力者と一般人の対立が増えてくるのだろうか。

 次第に険しい表情になりながらも、九鬼は料理を続ける。

 表面全体が程よくいい色に焼けた肉とにんにくを取り出し、そのフライパンに粗みじんにした玉ねぎを投入。半透明になるまで炒め、醤油やみりん、酒などを加えてさらに煮込み和風ソースを作った。
 ステーキ肉を切ってみるとミディアムでジューシー。
「うん、いい感じだね」
 九鬼は肉を食べやすい厚さに切ってレタスを敷いた皿に並べ、さっき作った和風ソースをかけた。にんにくのいい香りが漂い、食欲をそそる。

 次はアスパラと人参、こんにゃく、カニ缶を取り出した。
 具材を同じ大きさの細切りにし、酒とめんつゆを入れてレンジで加熱。粗熱をとっている間に、水切りしていた豆腐をボウルにあけフォークでつぶし、味噌や醤油、ごまだれなどを入れて混ぜる。
 九鬼は恵まれた体格のおかげで、動かずともキッチンのあちこちにすぐ手が届くので、手際が良い。
 混ぜている時も作業が単調なせいか、九鬼は先程の思考の続きに戻ったりしていた。

(あの人達はいつも、自分より大きな力を持つものを怖がっている)
 なぜなら、強い者がいつ自分を傷付けてくるか分からないから。それに抵抗する術がないから。
 大きな力を持つ者は必ず悪いことをすると思っているようだ。
 九鬼だって、自分が人と違ってしまったことは充分に解っている。だからと言って心まで人から外れてしまった訳ではない。
 そういうことを、今日の仕事でいさかいを起こした一般人達は忘れてしまっているみたいだった。
 撃退士達が命をかけて人類を救ったことさえも。あの時、アウルを持たない人達だっであんなに想いを、強い願いを撃退士に託してくれたのではなかったのか。
 平和になった途端、それはなかったことになってしまうのか?

 こんな世の中で、自分は何をするべきなのだろう。
 何を求められているのだろう。
 天魔という大きな驚異が去った今、もう『能力者』の自分は必要とされていないのだろうか。

 悶々と考えているうちいつの間にか、アスパラとこんにゃくと人参、カニほぐし身の白和えが出来上がっていた。

 最後はフルーツトマトを一口大にカットし、モッツァレラチーズも同じくらいの大きさに切る。
 それらにオリーブオイルをからめて、塩を少々と最後にパセリをまぶして完成。


 ご飯を盛り、温め直した味噌汁や、出来上がった料理をテーブルに並べる。
 デザートにはたっぷりフルーツのタルトも買ってある。
 我ながら見た目にも鮮やかで、とても豪華な夕食になった。
「それじゃあ、いただきます」
 一人丁寧に挨拶をして、早速ステーキから食べてみる。
「う〜ん、美味しい!」
 その美味しさに、今までの暗鬱な考えが心の隅に追いやられた。
 険しかった表情が一変、いつもの九鬼のほんわかとした顔になる。
(まあ、なるようになるか)
 おいしい料理は心をほっこりさせる。

 そう、敵対していた天使が仲間になったこともある。
 ちゃんと誠意を持って話せば、人は分かり合えるのだ。
 だって最初から争いたい人なんていないはずだから。

「明日も仕事頑張ろう!」
 自分で作った料理を頬張りながら、九鬼は明日はきっといいことがあるさ、と思った。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb8028/九鬼 龍磨/男/25才/美味しいは幸せ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度は発注して下さりありがとうございました!
料理上手な九鬼さん、素敵ですね!

メニューはこちらで勝手に決めてしまいましたが、料理の描写とかご希望に添えているでしょうか…。ご満足いただけると嬉しいです。
もしイメージと違う、気に入らない箇所がある等、ございましたら遠慮なくリテイクをお申し付けください。

また何かありましたらよろしくお願いします。
ありがとうございました。
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久遠由純 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年02月28日

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