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『日常に幸せを 』
雁屋 和aa0035)&シルフィード=キサナドゥaa1371hero002)&ユエリャン・李aa0076hero002

「まったく、遅いですわ! このわたくしを待たせるだなんて、どのようなご了見でいらっしゃるのかしら!」

 日傘を片手に腕を組み、出入り口を睨むようにして駅前で仁王立ちしているシルフィード=キサナドゥ。あどけないながらも整った顔だが口を尖らせ、どことなく人を寄せ付けない高貴な雰囲気に、人の波は自然と避けるように割れていた。

 時折、日傘を傾け出入り口上にある時計を睨みつけ、もっと早く動きなさいと言わんばかりに秒針を凝視している。その間、踵を浮かせてはストンと地に着けるを繰り返してと、落ち着きがなくなっているのをおそらくは自覚していないだろう。

 そんな風にそわそわしているシルフィードがやっと、見知った顔を発見した。

 身体のラインに合わせシュッとしたいつものようなシンプルな服装で、コートも着ていないがまるで寒がっている様子を見せない(筋肉のおかげと思われる)雁屋 和と、男女ともに着られるマニッシュなチェスターコートに首からマフラーを垂れ下げ、ピンヒールを履いているがその顔立ちはどちらかといえば男の雰囲気をかもし出しているユエリャン・李の2人である。

 和はやや低い方であるし、ユエリャンも飛び抜けて背が高いというわけではないので人混みに紛れやすいのだが、人混みが割れてできているシルフィードへと続く道を歩いてまっすぐに向かってきているので実にわかりやすい。

 そしてシルフィードの姿を確認した2人が、やや驚いた顔をして後ろの時計を見た。

「遅れてはいないはずね……?」

「そのはずではあろう。事実、時刻は約束された時刻よりも20分ほど早いのだからな」

 首を傾げる2人へシルフィードがずしんずしんという音が出そうな歩き方で詰め寄ると、口を開いた――が、いつもはもっと複数の能力者と英雄達を交えて行動しているので、こうして3人だけというのはなかったことだとふと思い立ち、今更ながら緊張してしまった。

 なによりも2人が自分を待たせたわけではなく、自分が1時間も早く待っていたのだ。2人に対して怒りをぶつけるのはお門違いだと、皇族としての節度が思い留まらせてくれた。

 詰め寄ってきたシルフィードの目の下が、わずかながら黒くなっているのにユエリャンが気づいた。透けるような白い肌だけに、はっきりわかってしまう。

(ああ、楽しみすぎて昨夜は眠れていないのだな。今朝も待ちきれず、出てきてしまったのか)

 クスリと笑い、ユエリャンが両手でシルフィードの頬を包み込み、親指でクマを揉みほぐす。その手を払いのけようとしたのかシルフィードの手が途中までは動いたのだが、目元マッサージが気持ちいいのかその手は宙ぶらりんとなってさまよい、されるがままになっていた。

「この程度で動きに支障をきたすことはないのだろうけれど、理由はどうあれせっかくのかわいい顔なのだから、気をつけねばなるまいて」

 ユエリャンが揉みほぐしている後ろで、和がそっと自分の右頬に一瞬、触れていた。

「そうね、睡眠不足は筋肉だけでなく、肌にもよくないものだから……それはそうと、せっかく早く集まれたのだし早く行こう。見たいものにもよるけれど、混んでゆっくり見られないこともあるしね」

 目元マッサージを続けていたユエリャンも「うん、それは良い意見だ」と手を止め、シルフィードを解放する。目元の血行が良くなったおかげか、クマも薄れてほぼ目立たなくなったシルフィードも、当初の緊張が少しはほぐれ、「それには賛成ですわ」とユエリャンの横をすり抜け、軽やかなステップで先に行ってしまう。

 わかりやすく浮かれているシルフィードの後ろ姿に、和とユエリャンはわずかに微笑み、静かについて行くのだった。




 2人よりも先に境界坂動物園へ入場したシルフィードだが、入場したとたんにたたずんでしまった。

 日傘を持ち上げて目の前の大まかな区画を説明した案内板を見上げ、そして左右を見回す――この道の先になにが待ちかまえているのを示すイラスト付きの看板、室内展示をしている出あろう建物、はしゃぐ親子連れやカップルに1人できている人など、それぞれの事情で楽しみに来ている人であふれかえっている園内。

(テレビで見たままですわ!)

 まだ入場しただけで喜びにうち震えていると、かさつく何かで肩をトントンと叩かれる。首だけを動かしてその方向へ向くと、動物の画像を大きくあしらったものが目に飛び込んできた。

「まずマップで確認するのは大事よ。早めに来たとはいえ、全部の動物が見られるとも限らないのだから、ある程度見るものを決めて、ルートを選択するべきね」

「なるほどですわ。しゃしゅ……しゅしゃ? 選択というものですわね」

 肩に置かれた細長く折り畳まれたパンフレットを和から受け取り、改めてどの動物がどこにいるかわかりやすく描かれた全体マップに目を通す。

「我輩の推しはライオンであるな! やはりネコ科は神。力強くもしなやかな体躯、まさに王者の貫禄であるぞ!」

「ネコ科なら虎とか、黒豹やチーターもいるようだけど? それとふれあいコーナーに小型猫もいるようね」

 自信満々に推しを語るユエリャンだが、マップを確認しながら何気なく口にした和の言葉に口元を手で隠し、肩を揺すってそわつくユエリャンの姿がそこにあった。

「わたくしは……ほとんどの動物がご覧になったこともありませんが、やはり、テレビでご覧になったパンダを見てみたいですわ。あの白と黒の愛らしくかわいらしい見た目に、興味ありますですわ」

「シルフィ嬢ももふもふが好きなのであるか! よかろう、どちらも愛でるルートを選ぼうではないか」

「そうなると……どちらもほぼ園の端だけど、見事に間逆の位置ね。こっちの道から大外回りで目指していくのが、一番かもしれない。園の中心部にいる鳥類とか猿は諦めることになるかもしれないけど」

 和が指し示す先に目を向け、「そこは仕方なかろうな」とユエリャンが頷くと、「しょぎょ無情ですわ」とシルフィードも頷き、すでに決めたと言わんばかりに歩き始めたので、和もマップを閉じて歩き始めた。

 最後にちらりと見えた、室内展示場に展示されている動物のジャンルに心惹かれたりもしたのだが、苦手な人もいるだろうからと、自分の推しだけは口にせず、後をついて行くのだった。



「はーーーさわってみたい、たてがみもふもふしてみたい……はーーー!」

 普段の尊大で理知的な大人像などどこかへといってしまい、走ってライオンの檻の前で乗り越えてはいけない柵を今にも乗り越えそうな勢いのユエリャンが、賢明に腕を伸ばしてライオンの画像を撮っていた。

 ここまでの道中、他のネコ科を見ているときも普段からは想像も付かないくらい興奮して前のめりになりながらも説明していたユエリャンだが、さすがは推しというだけあって、それまで以上の食い付きである。

 ユエリャンのはしゃぎっぷりに虚を突かれたシルフィードも、人の興奮にあてられて自身も走り出しそうになったが、皇族としてのプライドがブレーキをかけ、一瞬だけつんのめる。そんなシルフィードの背中を和が押し、「ここでは誰しもはしゃいでいいのよ」と言ってくれたおかげで、シルフィードも駆け出すことができたのだった。

 そこからは緊張も程良くほぐれたシルフィードは自制することもなく、気になる動物がいれば真っ先に駆けだし、年相応にはしゃぎ始める。

 パンダにいたってはユエリャンとシルフィードが競い合って向かっていく様に、和はほんの小さく笑っていた。

 くぼ地のやや広い敷地内で笹をはむったり、タイヤの上でだらけたりしているパンダ。愛くるしいとされるその姿を見下ろしているシルフィードは、真剣な目でパンダの一挙手一投足をつぶさに観察する。

「あれがパンダ……」

「熊は体格といい爪の殺傷力といい、良いであるよな」

「肉の付き方も申し分ない。ネコ科のようなしなやかさはないのだろうけど、あの太さ。頑強さや力強さを備えつつも、見るものにそれを感じさせない毛のカモフラージュは見事としか言えない」

 見所と見方が一般人とやや違うユエリャンと和へ、「熊なんですの?」とシルフィード。意外そうな顔が幼さを感じさせる。

「熊にしてはという気がしなくもありませんわね……ところで、先ほどから和さんはわたくし達に合わせていらっしゃるようですが、何かご覧になりたいものがありませんの?」

「私? 私はまあ……」

「ないこともない、そのような態度であるな。我輩がぴたりと言い当てようではないか――それはずばり……!」



 爬虫類館――いくつかある室内展示場のひとつであり、飼育員監視の下であれば触れてしまうものもいるという、非常に貴重な体験ができるコーナー。だがその人気は低いとまではいかないにしても、やはり高いとは言い難い。

 それなのに和が行ってみたいだろうと、ユエリャンはずばりと言い当てた。途中途中にある大きな案内板で、和が向けるわずかな視線に気づいていたのだ。

 和が「よく見ている」と感心する。

「戦闘の才は皆無であるが故、であろうな」

「そう――ではお礼としてこのマフラーをつけてあげるわ」

 そう言って、飼育員から渡されたちょうどユエリャンが首から垂れ下げているマフラーと同じくらいの長さで、斑でぬらぬらと光っているそれを手にユエリャンへ近づいていく。

「や、我輩その子にはちょっと触れないというか……」

 後ずさるユエリャンに和がじりじりと距離を詰めているその時、ガラス越しにヒョウモントカゲモドキとシルフィードが、睨めっこを続けていた。

 先に視線を外した方が負けだと言わんばかりに、お互いずっと見つめ合い、何も考えていなさそうなヒョウモントカゲモドキの目を見つめるシルフィードは、これまですでにカメレオンなどとも睨めっこを続け、戦績が全戦全勝なだけに半ば勝利を確信していた――が。

「あーーーーー!」

 ユエリャンの叫び声に思わず視線を外してしまい、負けを喫してしまう。代わりに、首をすくめて硬直しているユエリャンの動くマフラーと視線を交わし、そこでもスタートする。

「和嬢、とってもらえないだろうか……」

「今、シルフィードさんと通じ合っているようだから、もう少し待ってあげて」

 ユエリャンの懇願に、無情な言葉が返されるだけであった。

 そんな目に遭い心がささくれたユエリャンだが、すぐお隣の大人気スポット、ふれあいコーナーに来ただけでもすでにささくれは治っており、それどころかこれまで以上のはしゃぎっぷりかもしれない。

 触れあえるのは小型猫だけでなく、ウサギや、区画分けしてあるといえども猫と一緒の建物にいてもいいのかと不安になるような親指サイズな数種類のハムスター達。

 ユエリャンの手の上で種をかじっているジャンガリアンが、勢い余ってユエリャンの小指にもかじり付いたりする――が、そこはさすが英雄。痛がる様子を見せない。

 見せはしないのだが……

「はーーー可愛い……好き……我輩、此処に住む……もう無理……」

「ユエさん、そんなところで横になられましたら――」

「自ら帰ってくるまで、そっとしておいてあげよう……」

 ハムスターに全身たかられているユエリャンを心配しての声かけではあったが、和が諦めたように首を振る。

 ただシルフィードの目には心配だけでなく、いいなぁという羨望もあった。シルフィードの周りには集まってきてくれないどころか、だいたいが逃げてしまう事に寂しさを覚えていたからだ。

 その中でも近づいては逃げるを繰り返す1匹に、どことなく誰かの影を重ね愛着が沸いてしまい、相当な時間をそこで過ごしてしまうのだった――



「やはり全部を見て回るだけの時間はなかったな。また今度、来よう」

 昼のピークをだいぶ過ぎたが、それでも忙しそうな近所にあった評判の洋食店で腰を落ち着け、和がビーフシチューを口に運ぶ。

 評判なだけあって、しっかりと牛の旨味を閉じこめながらもくどくないデミグラスソースが絡んだ、とろけるような牛肉はさすがの一品――といっても実の所、和は下見の時に食べているから知った味ではあったので、初めての時ほどの感動はない。

「我輩がライオンとふれあいコーナーで我を失わなければ、もう少し見られたかもしれないと思うと、申し訳ないことをした――だがあのもふもふも愛くるしさも反則であろう」

 そう思わないかシルフィ嬢と話を振るのだが、シルフィードはこの店一番人気のオムライスに心奪われ、話を振られてからたっぷり数十秒かけてから「え?」と反応する。

「いや、なんでもない」

 それほどまでにおいしいものなのかと思いつつ、ユエリャンもスプーンに手をかけたところで、ふと思い出す。

「お似合いかと思ってな、これとこれを2人に贈ろう」

 手提げの紙袋から取り出したパンダのぬいぐるみをシルフィードの前に、手のひらよりも少し大きいくらいの箱を和の前にそれぞれ置いた。

 オムライスに一心不乱だったシルフィードもさすがに手を止め、突然のプレゼントを手に取ってまじまじと眺め、ぬいぐるみと、先ほど見た生のパンダを思い出して比べる。

「なかなかに精巧な造りですわね――想像よりも小さくて、可愛い姿がそのままですわ」

「きっと近くで見たら、今の想像よりも大きいと感じるであろうな。もっとも、怖いとは思えなくなってしまっておるだろうが」

「私のは……マグカップ?」

 箱を開けて確かめた和が取っ手をつかみ、ぶんぶんと上下に振り回す。

「うん、いい質量」

 デザインよりも質量で善し悪しを決める判断基準はどうかという話かもしれないが、そこもまた彼女らしいとユエリャンは苦笑する。

 2人からのありがとうを聞き、満足げに頷いたユエリャンはここでようやくオムライスにスプーンを刺し込んだ。

 そして口に運び――シルフィードが心奪われるのも仕方ないと、知る。

 べたべたな甘さではない、ほんのわずかにトマトの酸味が混じった薄い色のチキンライスに、卵とは甘いものなのかと気づかせてくれるレベルで力強い甘みを持っているとろっとろの黄金色が絡み合い、それが口の中で一体となって交互に刺激し合うのだ。

 反則級に、美味い。

「美味しい……」

 どんな美辞麗句を並べ立てるよりも、万感の思いでその言葉を吐き出した。

 和は動物園の話をもっとしようと思っていたのだが、満足と感動で胸一杯の2人を見ていると、今日という日が大成功だったと口元に笑みを浮かべ、頷く。ユエリャンもまた、和につられて頷いていた。

「もふもふを堪能し美味しいものも……幸せであるなぁ」




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0035@WTZERO/雁屋 和/女/20/控えめな筋肉さん】
【aa1371hero002@WTZEROHERO/シルフィード=キサナドゥ/女/11/しゅじゅちゅって言いそうな皇女】
【aa0076hero002@WTZEROHERO/ユエリャン・李/男/28/キャラは崩壊していない母】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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毎度のことながらお待たせいたしました。キャラの口調は呟き部分からのものなのでだいぶイメージに近いかと思われますし、キャラを調べるうちに何となくで思いついた部分なども取り入れてみましたが、いかがだったでしょうか。
もしもよろしければ、またのご発注、お待ちしております。
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2018年03月06日

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