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『しづごころなく 』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001

●堕ちて
 敵味方入り乱れる戦場の中、不知火あけび(aa4519hero001)と共鳴した日暮仙寿(aa4519)は影を縫うように駆け回る。彼の役目は、戦場の柱であるトール(NPC)を引き付ける事だった。
《トール》
 来たりて取れ。レオニダス王が遺した叫びと共に、トールは戦いの火蓋を切った。酷薄な手段に訴えながらも、仲間の意志を守らんとしていた男。彼の罪は赦せなくとも、その生き様には半ば共感していた。故に、己の持てる力全てを注ぐ事に決めたのだ。
 仙寿は懐からライヴスソウルを取り出す。周囲には彼自身の仲間を含め、多くのリンカー達が足並みを揃えてトールを取り囲んでいた。彼は呆れたように、しかしどこか愉しそうに溜め息をつく。
「随分と大勢で来たもんだな。そんなに俺に正義を見せつけたいか」
 ふと、仙寿も口端に笑みを浮かべる。
《そういう事だ。お前が下る地獄への道、此岸の縁までは――》
 ライヴスソウルを叩き割る。込められた霊石はその瞬間臨界に達し、大量のライヴスとなって彼の身に流れ込んだ。それが呼び水となって、仙寿とあけびの魂が織り重なっていく。
 ――共に強さを目指し続けよう――
 ――そして、誰かを救う刃であれ――
 二人は二つの誓いを復唱する。初めて二人を結び付けた誓約と、戦いの中で培った新たな誓い。覚悟を決めた瞬間、白翼はバラバラと散っていき、青年としての姿は薄れていく。
「――付き合ってやるよ!」
 少年へと還った仙寿は眼を見開く。深紅の瞳がトールを捉えた。雷切に毒を纏わせ、彼へ向かって正面切って突っ込む。
「はん。生意気言いやがる……!」
 トールは稲妻纏う長剣を振り上げると、仙寿を迎え撃った――

●眠って
 東京海上支部の一角に建つ、メディカルセンターの一室。あけびは仙寿を見守っていた。寝息さえも立てずに眼を瞑る彼を見ていると、このまま永遠に目覚めないのではないかという錯覚にさえ囚われる。

 戦いには勝った。彼らが守るアウタナの苗木は砕かれ、取り巻きである従魔も散らされ、腹心の部下も斃れる中、仙寿とトールは最後の斬り合いを演じた。二人の渾身の想いを守護刀に込め、神速で迫るトールを擦れ違いざまに斬りつけたのである。
 トールは満足したように戦場の仲間達を見渡し、世を去った。それを自らの眼で見届けた仙寿だったが、無事では済まなかった。許容量を超えたライヴスに浸り続けた結果、全身の筋線維は傷つき、骨もあちこちに罅が入っていた。生命力も人並みに落ち、治療スキルを以てもトールに斬られた傷が中々塞がらないような状態になっていたのである。

 そんな状態はどうにか乗り越えたものの、その後も彼はこんこんと眠り続けていた。その安らかな寝顔を眺めていると、ついあけびは思い出してしまう。嘗ての世界での出来事を。
『あの時も……こんな風に看病してたんだっけ』
 森蝕での作戦と同じ、総力を傾けての戦い。その最中で、本当の兄のように慕ってきた存在に庇われる事になり、彼は重傷を負うことになってしまった。
 それだけではない。最後の決戦の中でも、肝心な時に何かがあった気がした。思い出そうとしても思い出せず、胸を締め付けるような後悔ばかりが浮かび上がってくる。その後悔に直面するたびに、哀しくなってしまう。
『(守られてばかりだ。私は)』
 英雄は一緒に戦うことが出来ても、最後に傷つくのは能力者だ。それを庇う事は出来ない。自分の置かれた立場が歯痒くて仕方なかった。
 ちらりと机の方に眼を向けると、次々見舞いに訪れた友人や仲間達の置いていった大量の見舞い品(主に苺)が置かれている。全てを出し切った彼への労い、これからの活躍への期待。彼らが見舞いの品に込めた思いは様々だ。
『(応えられるかな。仙寿様)』
 心の中で問いかけるが、当然彼が応えるわけもなく、眠り続けている。起きたら何と声をかけたものか。あけびは仙寿の上下する胸元を見つめ、ぼんやりと思案するのだった。

●目覚めて
 柔らかい。羽根に包まれている感覚だ。温かい。小春日和のうららかな日差しが心地いい。そして重い。まるで自分の身体が自分のものではないかのようだ。
 ゆるゆると目を開くと、おぼろげな視界の中に、色艶鮮やかな苺が視界に現れる。いつも食べているものから、手が届かなくていつかは食べたいと思っていたものまで。
(目の前にこんなたくさんの苺が……? そうか。ここは天国なんだな……。俺は死んだのか。トールとの戦いの後に、身体が持たなくて……でも来れたのか、天国に……)
 茫洋として定まらない思考を続けていると、不意に手を握られた。ほっそりとした感触は間違いなく女性のものだが、小指辺りが少し固い。戦い慣れた人間の手だ。ちらりと横へ眼を向けると、しっかりと手を握りしめたあけびが潤んだ目を見張って仙寿を見つめていた。
『仙寿さ――』
 あけびの顔を見た瞬間に、仙寿の思考回路に稲妻が走る。思わず彼女の手を両手で握りしめて声を張り上げる。
「あけび! お前も死んだのか!」
 あけびはずっこけた。思わず仙寿の布団の上に顔を突っ込んでしまう。慌てて身を起こし、彼女は困ったような顔を仙寿に見せる。
『死んでないよ! 一体どうしてそうなったの!』
「いや、だってこんなに苺が」
 仙寿は思わず口走ってしまう。あけびはがっくりと肩を落とすと、テーブルに置かれていた見舞いの品を彼の眼前に差し出す。
『仙寿様の天国は苺尽くしなんだね……大丈夫。私も仙寿様も生きてるよ。体力使い果たしちゃって、数日寝込んでたんだよ』
「そ、そうだったのか……死んだわけじゃなかったんだな」
 仙寿はようやく意識がはっきりとしてきた。はっきりしてくると、部屋の外から押し殺したような笑い声が聞こえてくる。知り合いの研修医の声だ。
「何でそこで笑ってるんだよ! 早く入ってくればいいだろ!」
「……いやあ、すまないね。面白かったものでつい」
 研修医は戸を開く。女性にも似た風貌の彼は、くすくす笑いを堪えられずにいた。

●過ぎって
「ライヴス量、活性度ともに異常はなさそうだね。熱も平熱まで下がってきたらしい。怪我も良くなったし、このままなら予定通りに退院できるだろう」
 研修医の言葉を聞いて、仙寿はほっと胸を撫で下ろす。
「なら良かった。……出来る限り早くに復帰したいと思っていたんだ」
「まあだが、無茶は禁物だと改めて言っておくよ。リンクバーストの安全な解除法はまだ明らかになっていない。リンクバーストで戦いそのものは潜り抜けられても、その後バーストクラッシュで邪英化しちゃいましたじゃ笑い話にもならないからね」
 研修医は、真剣な眼差しで仙寿を見据える。今でもトールをリンクバーストによって討ったのは正しいと思える。しかし仲間の英雄でもある彼の心配ももっともだった。仙寿は頷く。
「ああ。……また本当に必要だと思える時が来るまでは使わないようにする」
「そうだね。……じゃあ、邪魔者はこの辺りで失礼するかな。安静にしたまえよ」
 にっこりと笑って頷くと、さっさと研修医は立ち上がる。検査器具を手早くまとめると、彼はそそくさと病室を出て行ってしまった。
「おい、待て! 別に邪魔者とか思ってないぞ!」
 彼の声は病室にわんと響く。しかし、ぱたぱたという足音は静かに遠ざかっていくだけだった。仙寿は顔を顰めると、どさりとベッドにもたれ掛かる。
「何なんだよ、どいつもこいつも……」
『アハハ……何だか、困っちゃうね』
 あけびも苦笑する。やがて二人は黙り込み、病室はしんと静まり返る。
「……やり遂げられたんだな」
 やがて、仙寿がぽつりと呟いた。あけびはそんな彼の横顔を見つめ、柔和に微笑む。
「“本物の光”だって、認めてくれたんだよな」
『……うん。きっとそうだよ。最期の顔、とても満足してたから』
 二人は死を前にしたトールの姿を思い出す。天を仰ぐ彼の顔は晴れやかだった。
「あいつも、俺達と同じだった。誰かを守るための力で在りたかったんだ。……でも、あいつの理想はあいつ一人で背負うにはとてつもなく大き過ぎた」
 だから、その思いが全部あの部下や、バルドル達に向く事になった。彼らと共に戦う為ならば、どれほど自らの手を汚しても構わない。そんな鮮烈な意志へ塗り替わってしまった。あけびは小さく肩を落とす。
『出会いが違っていたら……ラグナロクじゃなくて、H.O.P.E.と出会っていたら、もしかしたらまた変わっていたかもしれないよね……』
「確かにあいつはもういない。あいつらはラグナロクで、俺達と戦って果てた事実は変わらないんだ。……でも、あいつの想いは引き継げる」
 仙寿は机の上の幻想蝶を手に取る。二人の想いの高まりを現すかのように、その宝石は前にもまして透き通った輝きを秘めるようになっていた。
『誰のものでもない、自分だけの正義を貫く……そう言ってたね』
「それが俺達の戦いなんだ。戦いで重ねた罪からも逃げないで、ずっと向き合わないといけないんだよな」
 彼は精悍な顔をしていた。刺客としての生に苦しんでいた頃の彼は、もういない。
「そうだ。……リンクバーストした時なんだが」
 仙寿は不意に窓の方を向いて、小さく口を開く。どこかその声は上ずっているように聞こえた。弾む気持ちを無理やり抑えようとでもするかのように。
『リンクバーストした時?』
 あけびは頬を緩める。本当に嬉しい時に限って中々素直な態度を取ろうとしない。今日も間違いなくそのパターンだ。
「戦ってる時は夢中であんまり実感が無かったんだが……」
『うんうん』
 白い羽根が一息に散り、感覚が一気に軽くなったのはあけびも感じていた。優れた体格を駆使して悠然と戦うのではなく、青くともエネルギーに満ちた身軽な体躯で敢然と戦う仙寿を、融け合う意識の奥底で見守っていた。
「戻ってたんだよな。俺自身に」
 その言葉は、不自然なまでに淡々としていた。湧き上がる喜びをすっかり抑えきれないでいるのがありありとわかる。
「リンクバーストすると身なりが変わったりするって言ってたが……元に戻るなんて不思議な事も起きるんだな」
『全然不思議じゃないよ』
 あけびはくすりと笑った。その声を聞きつけた仙寿は耳まで赤くして振り返ったが、あけびは構わず手を伸ばし、仙寿の手を取った。
『仙寿様が、仙寿様自身の答えを貫くと決めたんだもん。……それはつまり、仙寿様が自分の事を受け容れられたって事だよ』
「俺が俺の事をか……だとしたらそれはきっと、あけびのお陰だな」
 目を背けながらも、確かに洩らしたその呟き。今度はあけびが真っ赤になる番だった。咄嗟に手を離すと、腕組みしたり宙を見つめたり、声も上ずらせる。
『そ、そう? そうかな……まあもちろん、仙寿様の力になりたいとは思ってるけど』
「……どうしたんだよ」
 明らかに戸惑っているあけびをまじまじと見つめ、仙寿は首を傾げる。あけびはにやけてくる頬を必死に固くするしかなかった。声を震わせ、あけびはたどたどしく応える。
『ど、どうしたのかな』
 本音だ。誤魔化したわけではない。本当にわからないのだ。自分のお陰と言われただけで、どうしてここまで舞い上がってしまうのか。
『(なんでだろ……私のお陰って言われたのは嬉しいけど……)』
「とにかく。……これから、もっと愚神や従魔は強くなっていくと思う。だから、これからも俺と一緒に戦ってほしい」
 仙寿は真剣な顔をしてあけびを見つめる。その真っ直ぐな瞳にまたしてもどきりとしつつ、あけびはこくりと頷いた。
『もちろんだよ、仙寿様』

 春風が吹き、病室の外の木々が揺れる。固くなっていた桜の蕾は緩み、今まさに花開こうとしていた。その花はまた、静心無く散るだろう。しかしそれは翌年、さらに美しい花を咲かせるためだ。彼らもまた幾度となく壁にぶつかるだろう。そして、それを乗り越えるたびに成長していく事だろう。
 日暮仙寿と不知火あけびの物語は、まだ始まったばかりだ。


 しづごころなく おわり





 数日後、屋敷の門が開かれ仙寿とあけびが帰ってくる。渡り廊下を歩いていた使用人は、ちらりと彼らの方へ眼を向ける。何を話しているのやら、また随分と距離が近い。
「……随分とまた、親しげになられたもので」
 日暮家の恋模様もまた、静心無く移り変わっていくのだった。

 To be continued…


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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日暮仙寿(aa4519)
不知火あけび(aa4519hero001)
トール(ゲストNPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
後半はおおよそ大体入院中の描写になりました。何か問題がありましたらリテイクなどお願いします。
これまでの積み重ねに相応しい出来だと良いのですが……

ではまた、御縁がありましたら。

カゲエキガ

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2018年03月06日

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