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『『冬、自室にて』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 ハロウィン、クリスマス、年末年始、そしてもうすぐバレンタイン――。
 イベントごとが続くこの時期、アレスディア・ヴォルフリートの自室に甘い匂いが漂うことが多かった。
 それは毎年の事というわけではなく、この街に訪れてから。そして最近特に多くなった。
 今日、彼女が作っているのは、チョコレートブラウニー。
 チョコレート、小麦粉、卵、砂糖などで作る、濃厚なチョコレートケーキだ。
 今回、チョコレートはビターチョコを選んだ。
 チョコを細かく刻んで湯煎で溶かし、バター、グラニュー糖、卵を入れてよく混ぜる。
 それから、ラム酒にナッツ類を加えて更に良く混ぜて、オーブンで焼く。
 焼き上がり、冷ました後、端を小さくカットしてアレスディアは一口、自分の口に運んだ……。
「む……」
 アレスディアの眉間に軽く力が入る。
 不味い、わけではない。
 見かけも悪くは、ない。
 だが、人に贈るものとしては自信がない。
「改善の余地がある」
 まずは味。これはもう少し苦みがあった方が喜んでもらえそうだ。
 食感。外側のサクサク感、中のしっとり感が足りない気がする。
 そしてナッツの量。少々多すぎたようで、ブラウニーの濃厚な味の妨げになっている。……ような気がする。
 切り分けてラップに包み、片付けようとして、アレスディアは「2、3日は朝食に困らないな」と、軽く苦笑する。
 こうして作った菓子は、おやつや食事の代わりにして、自分自身で消費をしていた。
 武器でも盾でもなく、ヘラやボウルを手に、戦場ではなく、キッチンで格闘している自分。
 柄にもないことをしているという自覚はあった。
 アレスディアは家事の一環として普通に自炊が出来るが、料理を趣味にしているわけではない。
「普段の自分で食べる食事ならともかく、こういった料理は範疇外、なのだがな」
 それでも、季節の行事が近づくと何か作ろうと考えてしまうのだ。
 誰かに、贈るために。喜んでくれる人が、いるから。
「作ったものを喜んでくれる人がいるというのは、それだけで嬉しいことだ……だが」
 それだけでもなかった。
 調理器具を片付け、エプロンを外す。……ふと、彼のことを、そうディラ・ビラジスから貰った可愛らしいエプロンを思い浮かべ、アレスディアは恥ずかしさを思い出す。
 そして去年、バレンタインデーに彼にチョコレートをあげた時のこと。
 それから、ハロウィンやクリスマスの時のことを思い出していく。
 アレスディアから、手作りの菓子を受け取った時の彼の表情。料理を食べた時の顔。
 自然とアレスディアは微笑していた。そんな自身の表情の変化に気付くことなく、ただ思い浮かべていく。
(同年代の一般人に比べて表情に乏しい彼も、最近はよく笑うようになった)
 ディラがアレスディアに見せた数々の笑顔が、アレスディアの脳裏に浮かぶ。
 出会った当時、彼は獣のような目をしていた。
 あの時の彼からは想像できない笑顔を、アレスディアは何度も見てきた。
 彼がよく笑うようになったことに、アレスディアは安堵しながら……それとは別の何かをも感じていた。
 何故だろう。
 熱が、胸に宿っている。
 この熱は一体何なのか。
 アレスディアは無意識に首を左右に振る。
 分からない。
 不思議な感覚。不思議な感情。
 自身に問いかけても、答えは出ない。
 アレスディアは1人嘆息し、仕事の準備を始める。
 今日は夜勤だ。彼も――ディラも一緒だ。
 彼と会えば。笑顔を見れば、熱の正体が判るだろうか。
 いや、今晩は菓子を贈る理由もなければ、贈れるようなものが出来上がってもいない。
 再び嘆息し、アレスディアは準備を整え、自室を後にする。
 時が経てばわかるだろう。
 彼の笑顔を見ているうちに、判っていくだろうと思いながら歩き出す。
 そのためにも。
「より、喜んでもらえるものを作らねばな」
 自覚なく、再びアレスディアは微笑していた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
どんな分野であっても、アレスディアさんは本当に真面目で努力家だなと感じました。
アレスディアさんは、誰かの幸せを護る幸せを知っていますが、ディラとの交わりで、アレスディアさんに誰かの幸せを作る幸せをより実感してもらえたらいいなと思いました。
ご依頼、ありがとうございました!
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年03月07日

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