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『学ぶ訳 』
砂原・ジェンティアン・竜胆jb7192


 槍が持つリーチの差という有利に、これほどまで意味を見出せない場はこれで何度目だろうか。砂原・ジェンティアン・竜胆はそんなことを思う。

「返しが遅ぇんすよ!」

 右腕の手甲で滑らせるように槍の一閃を流して突っ込んでくる悪魔の言葉に分かってるよ、と内心で小さく毒づく。
 だが。突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀――ではないが、槍を変幻に富ませる手段は知っているし、目の前の悪魔の真っ直ぐな性質も知っている。
 本人の気質か手加減されているのか分からないが、何度も手合わせしていると彼の動きが非常に直線的であることはいい加減分かってくる。
 悪魔が距離を詰めきり必殺の踏み込みを作る瞬間、タイミングを外すように槍へのアウルの供給を止め、武器を一瞬、ただの布へと戻す。

「!」

 手甲に返る感触が消失したことに、悪魔は分かりやすく動揺を見せた。
 その反応に好機を感じ、手首を動かして布と化した武器を悪魔の腕に巻き付け引き倒そうと力任せに後ろへ引き――直後その判断を後悔する。

「こ、のッッッ!」

 竜胆によって体勢を崩しかけた悪魔はしかし、歯を食いしばってそれを堪えた。どころか布槍が巻き付いた右腕を腕力に任せて引き戻し、竜胆の体勢を崩までやってのける。
 つんのめるような体勢になってしまった竜胆の腹部へ、悪魔の左拳が音を切り裂くように振り抜かれ。

 ――やべ。
 腹部を貫く衝撃と共に、そんな呟きが竜胆の耳に届いた。
 次いで背中に強い衝撃。住居である船、エンハンブレの船壁に叩きつけられたのだ。

 ――兄さん! 竜胆の兄さん!! ちょ、ジュエルん! ちょっとこっち来てー!!

 息すら満足につけない衝撃の中、手放しかけた意識の隅でそこまで慌てなくても――と、竜胆は小さく笑うのだ。


「……ん」
「あ、起きたっすか?」

 頬を冷たい風が撫でていく感触に意識が覚醒していくと同時、聞きなれた声が隣から聞こえてきたことに竜胆は視線を隣へ。
 ロウワン。ケッツァーと呼ばれる集団に所属する悪魔。竜胆が目を覚ましたことに安堵したような表情を浮かべ、緩く息を吐きだした。

「悪ぃっす。ちょっと熱入り過ぎて。粗方治してもらったんすけど、まだ痛いとことか無いっすか?」
「大丈夫…だけど。膝枕してくれないの?」

 意識を失った自分を甲板に寝かせてくれていたのだろう、とは予測がつく。けれど、エンハンブレの甲板はお世辞に寝るに向いた所ではない。

「いや膝枕は女の子にしてもらうからいいんであって野郎がやったって固ぇだけっすよ」
「違いないね…けど、それはそれとしてね」

 依頼したのは別の悪魔だろうか。治してもらったという言の通り、身体の痛みは殆どない。
 とはいえ倦怠感が抜けきらずまた身体を甲板に横たえ、毛布を肩まで被りなおす。

「つか、今更なんすけどなんで訓練つけるの俺なんすか」
「ホントに今更だね。ロウワンに稽古つけてもらうの、これで三回目くらいじゃなかったっけ」
「俺がとりあえず突っ走ってから考えるのなんて、それこそ今更っしょ?」
「それも違いないね…まー、自分の限界を突破してみるのもいいかなって」

 笑いながらの声に、ロウワンは今一つ納得していないような表情。

「昔兄さんは前で殴り合いさせる奴は本気出させた奴だみたいなこと言ってたっすけど、それ接近戦のが強いって意味じゃねえっしょ」
「……そうだね。本気出す、イコール強いではないんだよ、僕」

 それは分かる、とロウワンは先を促すように頷いた。
 問うているのは適性の話だ。ロウワンの役割は鉄砲玉である。突っ込んで派手に暴れて時に死ぬ。そこに彼自身異論を挟む余地はない。
 だが、竜胆にそれを求めるのは配置ミスであると、ロウワンでも思う。竜胆が船に乗るようになって以降、事務作業など頭脳労働を担当する姿を見る事が多い。
 頭の足りていないメンバーが多いケッツァーという組織において、彼の能力は貴重なのだ。
 そうでなくとも、本気出して前に出るよりは後ろで楽々動き回っていた方が彼の能力を十分に発揮できるのは敵として向かい合ってきた過去から分かる。
 幸い、ケッツァーにも遠距離攻撃に秀でた者はいる。鉄砲玉の自分よりもそっちに稽古つけてもらった方が竜胆をより伸ばせるのではないか、とロウワンは思うのである。

「ほら。ちょっと前にお酒の場で『電喰』って技の話聞いたじゃん」

 竜胆が話題に乗せたのは、いつぞや開かれた酒宴の場での話。ロウワンが聞いてもいないのにベラベラと喋り出した、地球では見る事の無かった彼のスキル。
 周辺の魔力を喰らいながら成長していく雷撃を放つ技。狙う相手との距離が離れているほど威力が増していくという特性を思い返し、竜胆は小さく笑った。

「あれさ、僕との相性最悪だったよね。後ろに立ってやることやってればオッケーって訳にはいかないケースだって絶対あるよねって思ったよ」
「だから殴り合いも出来るようになろうってことっすか?」
「そ。できることを増やすのは悪いことじゃないよねって」

 船内で出来ることがあろうと、所詮は人間の身だ。ケッツァーのメンバーの中で一番弱い存在であるという自覚はある。
 ロウワンが喧嘩を売ってきたあの時も、数人がかりであるからこそ勝てたのだ。その隔たりは、彼らと争っていたからこそ骨身に染みて分かっている。

「でもさ、だったら強くなればいいんだよね…って、何この青臭い台詞」

 笑みに苦味が混じったのを感じつつロウワンの様子を横目で見ると、ベソをかいてるのか腕で目元を抑えている姿が映った。

「どうしたの」
「だっで……兄ざんがめっぢゃやる気出じでで俺何が嬉じぐで…」

 マジ泣きだった。ポケットから鼻紙を取り出し手渡し、ロウワンは流れるような手つきで鼻をかむ。

「ロウワンさあ、ちょっとその泣き虫な所直した方が良いよ」

 ぐ、と。反論したいけど反論できない、とでも言いたげな雰囲気に竜胆は横になったまま肩をすくめるような仕草。

「……まあ、てのもあるんだけどね」
「はあ」
「他の子で『まともな訓練』になると思う?」

 ロウワンの視線が竜胆の真顔からつつー、と逃げた。そんなことをする時点で竜胆の言葉を認めたようなものである。
 船の中ではまだ癖のない方である自分が訓練をつける、というのは間違っていない人選なのかもしれない――ロウワン本人ですらそんな風に納得してしまう。

「そう言えば、ロウワンって飛べないの?」

 空気が何だかグダグダになってきた気配を感じ、竜胆は話題を変えた。
 訓練をサボる訳ではないが、彼が翼を動かし飛行している姿を見た事がなかったので疑問が頭をよぎった今が聞くには丁度いいタイミングでもあった。

「飛べるっすよ。走ってんのが好きなだけっす」

 しゃきーん、と口にしながら二枚の翼を顕現させるロウワン。どことなくドヤ顔であった。
 しかし、一転竜胆は不満げな表情。

「知らなかったなあ。隠し事は感心しないよロウワン」
「なんで俺が悪いみたいなことになってんすか!?」
「他に隠し事は〜? ほらほら、お兄さんに全部見せてごらん」
「その手ぇなんすか! 何かこえーんすけど!?」

 手をワキワキと動かしながらにじり寄る竜胆に、ロウワンは思わず後ずさり。
 こっち来たらぶつぞと言わんばかりに拳を構えるまでやった。

 傷つくなー、と竜胆が大げさに悲しむような仕草を見せ、あああそんなつもりは無かったんすよー! とロウワンが狼狽える。
 じゃれ合う二人が再び訓練に戻るには、もう少し時間がかかりそうだった。

(了)

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)/男/24歳/アストラルヴァンガード
ロウワン(jz0385)/男/?歳/悪魔

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご発注ありがとうございました。
そして毎度お届けが遅くなってしまい申し訳ございません。ちょっとスケジュールの取り方も考えないと駄目だなあと思っております。

今回書かせていただくにあたって、竜胆さんがケッツァーに入ったことでケッツァーの何が変わったか、ということを考えるのに一番時間を要しました。
ノベルでも多少触れましたが、必要な人材がいなかったって意味だと竜胆さんがケッツァーに入ったのってあのメンバーにとっては間違いなくプラスだったと思うのですよね。(入った直後からロクに片付けられていなかった頭脳労働が降ってきたと思わしき竜胆さんには合掌せざるを得ませんが)
むしろ頭脳労働者のいないケッツァーが良く今まで持ってたなぁとも思ったりで。(以前はもしかしたらカッツェさん@真人MS担当辺りがやってくださってたのかもとか思ってたり)

また、ロウワンが稽古をつけるサイドに立った場合、
最初は相手のレベルに可能な限り合わせようとする→途中で熱が入っちゃってマジでぶん殴りに行く
という教導適正の低い残念な結果になるのですが、確かにケッツァーだとそれでもまともな部類に入るのかも……といただいた発注文から頷く私がいました。
いやフォローするならみんな自分の世界に生きてるだけで請えばきちんと協力してくれるとは思うんですけど。(それが竜胆さんのためになるとは言っていない)

お楽しみいただければ幸いです。
改めて、ご発注ありがとうございました。
重ね重ね納品が遅れてしまったこと、お詫び申し上げます。
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エリュシオン
2018年03月12日

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