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『タチイルベカラズ 』
カイン・シュミートka6967

 時折――きし、と家鳴りがして、夜が更けたことを伝えてくる。
 ひやりとした夜気の流れ込んでくる窓を施錠して、小さなあくびを噛み殺しながらカイン・シュミート(ka6967)は自室へと戻っていた。
 ベッドの脇でお行儀よく待ち構えていたフラウとシィレーンを撫でてやりつつ、ベッドへと入ると、一緒に寝ようとばかりに二匹がそろって毛布の中に潜り込んできた。
 冷えた寝床に二匹の体温が心地よい。
 すぐにうとうととする中で、ふと思い出すことがあった。
 ――そういえば、最近放火騒ぎがあったな。
 寝床の中で撫でる毛並みを感じつつ、気をつけないと行けないなと思いつつ、カインの意識はまどろみに飲まれていった。

 夜半、ぴくりとフラウとシィレーンの耳が動き、カインに気づかれぬままに寝床から抜け出した。
 二匹が窓辺から見下ろす先、庭に忍ぶ影の姿を丸い瞳が捉えていた。
 ちらりとカインへと視線を向けた二匹は何やら頷きあうと、ペット用の出入り口から外へと抜け出してゆく。


(庭が広いってこた、そこそこ金目のものもあるって期待が持てるわな)
 すでに用途をなくした火種を投げ捨てて踏み消し、勝手口を探し裏手へと回り込む男は手にしたロックピックを弄びつつ、気配を殺して歩いていた。
 しかし、ただの人間が獣相手に隠密で勝るというのは難しいだろう。
「「にゃぁ〜お」」
 二匹の猫の鳴き声に、ロックピックを取り落とす。
「……なんでえ、猫かよ」
 とりおとしたロックピックを探そうと地面に屈み、そしてそれと目が合った。
 黄緑がかった金色の一対の目。
 暗闇の中に浮かび上がる白が何の形なのかは定かではない。
 実のところブルーメなのだが、闇に紛れる黒い毛並みと浮かび上がる白い毛並みは、男にとって得体の知れないものに一瞬見えてしまったのだ。

 ――ばりっ

 そんな音が聞こえたような一閃がほとばしり、激痛に男は顔を抑えた。
 猫というのは、狩猟生物である。
 単純に体格差の問題で人間を狩れないというだけに過ぎない、牙を向けば――今は爪だが、十分な傷をつける能力がある。
 得体の知れない攻撃を受けた、と認識した男が慌てて距離をとろうと庭へと駆け抜けたのは、結果としてブルーメの予測どおりであり、男にとっての不運である。
 先の二匹、フラウとシィレーンの合図で皆迎撃体制になっていたからだ。
 闇夜に浮かぶ無数の目、リリーにデイジー、セレジェイラ、トゥリパにネックロース、クラニア、ピポー、フルール、ロザージュ、男にとっては知りようもない話であるが、皆カインが可愛がるペットである。
 実態は何匹もの犬の群れであるが、暗闇の中で突然の攻撃にさらされた男にとって冷静にそう分析するのは難しかっただろう。
 無数の目玉と口を持つ化物、そうとっさに感じてしまっても無理のない話である。
 最も彼らにとってみれば、最愛の人――カインに忍び寄る不埒な男なのだが……。
 夜中であり、吠えることをしなかったことが、より一層恐怖を煽ったかもしれない。
 一斉に襲いかかる無数の口と目に、足がもつれて転びそのまま体中を噛みつかれることとなる、ただし重症を負うような傷ではない、そのあたりはきちんとわきまえているペット達だった。
 ――なに忍び込もうとしてるのよこの変態!
 ――私だって一緒に寝たことないんだからね!
 ――あんたなんかが近寄っていい人じゃないのよ!
 と、喋れたのなら彼女たちは言っていただろう。
 当の本人はそんなこととはつゆ知らず、夢の中である。
 ひとしきり噛みつかれてぼろぼろになりながらも、なんとか化物を振りほどきほうほうの体となった間男は、本能的に何処かへ逃げ込もうとしたのだろう、厩舎の扉を開いて中へと潜り込んだのである。
「な、なんだってんだ!」
 派手にそこかしこにぶつかり転げ回りつつ逃げ込んだ先、事態を把握していたフィオーレが後ろ足で蹴り飛ばしたものだからたまったものではない。
「うわぁっ!?」
 敷き藁を巻き上げながら派手に転がり、更に転がり込んだのはフロルの房である。
 ――とりあえず私も一発。
 ぐらいの気軽さでフロルに服を踏みつけられた男はうんともすんとも動けなくなり、荒い息遣いと匂いの中に囚われる。
 それはなおパニックを加速させるに十分なものだった。
 更にこの厩舎、ヴィーシニャにフロアレ、ナルギにクヴィェチナとクッカも居る。
 ――不埒者ですって、やーねぇ。
 ――脅してやりましょ!
 ――そうね、良い薬よね!
 ――あの人に勝手に手を出そうとするなんて許せない!
 とばかりに蹄を鳴らし始めるに至る。
 暗闇の中、得体の知れない恐怖というのはどこまでも人間の想像を加速させる。
 一体、彼の頭の中ではどんな怪物が生まれたのだろうか。
 あんまりうるさくなってもまずいと思ったフロルがようやっと拘束を解いたとおもえば、間男は悲鳴を上げて転がるように逃げ出していった。

「――んぅ」
 遠のいていく悲鳴にまどろみから引き上げられてみれば、寝るときに一緒に居たフラウとシィレーンの姿がない。
 気まぐれだなとおもいつつ窓を開けて外を見てみるが、すでに特に変わった様子はみられなかった。
「……さみ、寝直すか」
 そう思って窓を閉めようとしたとき、二匹が揃って戻ってきた。
「おかえり」
 窓から迎え入れた二匹は何事もなかったかのようにベッドの前に待機する。
 特に何もなさそうだと、再びカインは二匹と一緒に眠りの中へと戻っていった。



「あら、カインさん。朝早くからせいが出るわね」
 翌朝、多少の片付けを済ませてゴミとして出しに行った所で、ばったりと近所のお話好きのおばさんと遭遇してしまった。
「ああ、こんちわ」
「お片付け? 最近物騒だものね」
「まあ、そんな所だ」
 話をなかなか切り上げることもできず小一時間ばかりしたころ、おばさんはビッグニュースとばかりにようやく本題に入った。
「そう言えばね、昨夜とうとう放火魔が捕まったんですって! ボロボロで路上を転げ回っていたところを捕まったらしいわよ」
「やっとか、これで少しは安心できるな」
 そう思ったのと同時、昨夜の悲鳴はもしかして件の放火魔のものだったのではないかと思い至る。
 一体何に遭遇したんだか……。
「それがどうにも、そうはいかないみたいなのよ、なんでも化物屋敷にはいっちゃったらしくてね」
「化物屋敷?」
 こんな世界だからそんなことがあってもおかしくはないだろう、歪虚に困らない世界である。
 だが、もしもそんなものが近くにあるのだとしたら放火魔よりも一大事である。
「無数の目を持ち鋭い牙を持ついくつもの口を持っていて、体重はものすごく重く生臭くて蹄と鋭い爪をもってるそうよ」
「……想像できねーな」
「ねー、怖いわよねぇ」
 そう言って身震いしてみせるおばさんであるが、はたしてどの程度その話が信用できるのか……。
 それから半刻ほど、ようやっと話を切り上げて家に戻ったカインは、オフィスになにか話が入っていないか聞きに行こうと思いたち家を出る。
 直後、がさりとした音に振り向くと、ノーニーンが茂みの中から出てきた所だった。
「にゃーん」
「お見送りか? ありがとな」
 わしわしと撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らす、そんな彼女に見送られて、今日も一日が始まる。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6967/カイン・シュミート/男性/20/機導師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご指名ありがとうございました。

ペット欄に愛を感じました。
全員登場させたらそれこそ文字数が足りないのでだいぶ絞らせていただきました。
リテイクなどありましたらお気軽にお申し付けください。
この度はご依頼ありがとうございました。
――紫月紫織
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紫月紫織 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年03月12日

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