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『遊びに行こう 』
十影夕aa0890)&浅水 優乃aa3983)&玖渚 湊aa3000

 待ち合わせは改札口。
 だらだらとラフに集合したのは昼過ぎのことだった。平日の昼間、駅の人は疎ら。
 十分前に来たのが玖渚 湊(aa3000)で、三分前に来たのが十影夕(aa0890)で、ジャストに来たのが浅水 優乃(aa3983)だった。
「ひゃああお待たせしましたごめんね……!」
 ICカードのチャージをうっかり忘れて手間取ったことと(こういう時に限ってチャージ機が混雑する)、初めて降りる駅で一瞬迷いかけたのと(西口東口どっちだっけ現象)。慌てて改札から出てきた優乃に、「大丈夫大丈夫」と夕は手をヒラリとした。
「急に呼び出したのはこっちだし……うん、いきなり来てくれてありがと」
「こっちこそ! 誘ってくれてありがとう」
 走ってきたせいでズレてしまったマフラーをかけ直しつつ、優乃は同級生に笑みを返す。こうやって遊びに誘って貰えるのは嬉しいことだ。
「二人とも初対面だったよね。同級生の浅水。学校違うけど友達の玖渚。みんなエージェント」
 夕はそのまま優乃と湊にそれぞれを紹介する。夕の辞書に人見知りという言葉はなく、ゆえに配慮という発想はない。そういうところ、雑だけど自分と違って羨ましいなぁ……と湊は思い、直後に優乃と目が合った。
「「えっと、」」
 そして声が重なる。「あ、ええと、お先にどうぞ」と湊は緊張しながらレディファーストに努めた。はにかむ優乃が頷いて改めて自己紹介。
「浅水優乃、です……よ、よろしくお願いっ、します」
「浅水さんですね。俺、玖渚です。初めまして」
 お互いに、初めましてはやっぱり緊張してしまう。
(変な感じになってないよね……?)
 優乃はそっと深呼吸。
(今日はなるべく、普通でいよう……)
 湊は分厚いノート――待ち合わせの間、ずっとペンで書き込みを行っていたものだ――が入った鞄をそっと擦った。彼はハイパーグラフィア“過書の病”、文字を書かずにはいられない気質がゆえに異質の目で見られてきた。目の前のこの少女からも「変な奴」と思われるのは怖い。笑顔を浮かべつつ、彼もまた深呼吸をした。
 そう、今日は楽しい日。気を取り直す。最近は学業が忙して、こうして羽を伸ばす機会もあまりなかったから――湊は久々にわくわくしていた。

 受験も終わったし、英雄たちは出かけているし、一緒に遊ぼうか。今日はそういう日なのである。

「じゃあ行こっか」
 こっち、と夕が歩き始める。二人も、それについて行った。







 駅前直通の屋内型アミューズメント施設。平日の午後とだけあって、土日祝日のような賑やかさはないが、見渡せば夕達と同じ境遇なのであろう学生らしき姿もチラホラ見える。
「わ〜……」
 あまりこういう所に何度も足を運んだことがない優乃は、賑やかな店内BGMが響く周囲を見渡していた。それは湊も同様で、興味深そうに瞬きをしている。慣れた様子の夕にキョロキョロ付いて行く二人は、例えるなら……オンラインゲームでベテランユーザーに付いて行く若葉マークユーザー、という雰囲気があった。
「ん、これやろ」
 そう言って夕が足を止めたのは、VR型のシューティングゲームアトラクションだった。「みんな銃使いだし」と夕が二人に振り返る。
「ゾンビ倒すゲーム……のやつ? うぅ、怖そうだね……」
 おどろおどろしい案内を見つつ、優乃が呟く。「突然起きた謎のパンデミック! 貴方はゾンビがはびこる町から無事に脱出できるか!?」といった内容のゲームのようだ。
(十影ってこういうホラー系好きなのかな……)
 湊はそんなことを思いつつも、「いいよ」と友人に頷きを返した。優乃も、「わ、私もがんばるね……!」とコクコク頷く。

 特に長蛇の列でもなかったので、案内されたのは間もなくだった。
 パンデミックが起きた町の警官隊……という設定のスタッフが案内と説明をしてくれる。さて、VR装置を被って、模造銃を手に持って、いざ三人はゾンビはびこる恐怖の町へ――。

「え、なにこれ、こわ……」
 ずるずるぞろぞろと押し寄せてくるゾンビの群れ。バーチャルの銃声を響かせつつ、夕が呟いた。
「ちょっ……射撃のアトラクなのに暗くない……? お化け屋敷とか苦手なんだけど……」
「え、え!? 夕君てっきりこういうの好きなのかと思ってた!?」
 声を震わせつつ、やたらめったら引き金を引きまくる優乃がビックリした声を出した。
「なにこれ聞いてない、え、こわ……」
「アトラクションの看板に思いっきり“オブザデッド”って書いてあったし思いっきりゾンビ描いてあったしスタッフのお兄さんも“この町にゾンビが〜”って言ってたよね……!?」
 湊も友人を二度見した。「マジで?」と夕が呟く。「「マジだよ!?」」と優乃と湊の声が重なる。
「うん、倒せばいいんだけど急に出てくるのほんと怖い。曲がり角から急に効果音と一緒にバーンはやめてほしいよね」
 マイペースにそう言うもんだから、本当にビビってるのかも良く分からない夕である。
 ブレないというかなんというか、むしろ安心すら覚えるというか……とかく、湊は銃を握り直す。ゲームとは言え、人(まあゾンビだけど)を撃つことにはちょっと抵抗ある。けれど、こんなに目まぐるしく出てくると、そんなこと言ってる暇もないな!
「十影、左よろしく!」
「おっけ」
 息を合わせてゾンビ達を次々撃ち抜く。ヘッドショットは一撃だ。二人のスコアがどどんと増える。流石の命中適正である。
「す、すごい……!」
 既に優乃のスコアと桁数が違う。彼女は戦闘に関しては英雄あってこそのタイプだった。とりあえず見えたゾンビに撃ち切るまで引き金を引いている。おっかないゾンビやクリーチャーやビックリ演出には、声もなく叫び撃ちまくる。そしてリロードをうっかり忘れる。慣れ親しんだAGWはリロードが必要ないので、毎度弾が切れると「!?」となってしまう優乃であった。
 が、それでもラッキーショットはあるもので。偶然にも、優乃の撃った弾が、湊に迫っていたクリーチャーにヘッドショットを決めた。
「わわ、浅水さんフォローありがとう」
「えっ、あっ、どういたしましてっ……!」
 と、そこへ夕が「ボス戦だって」と二人へ声をかける。ヘリポートを直前に、巨大なゾンビクリーチャーが現れて――……







「あとちょっとだったのにな」
 施設内のフードコート。バニラの甘いシェイクを飲みながら、夕が呟いた。
「いや、でも、初見であそこまでいけたのは割と凄くないか?」
 フライドポテトをつまんだまま、湊が言う。
「二人とも、凄かったね」
 ハンバーガーの包み紙を開けながら、優乃が二人を見渡した。

 結局、三人は“ボス”を撃破できなかった。YOU DEAD……というやつだ。いやぁ、流石に強かった。というわけで今は空いた小腹を満たすために一休み。有名で大衆的なファーストフード店のジャンクな味は舌を裏切らない。お得な大盛りフライドポテトを三人で分け合いつつ、先程のシューティングの感想で盛り上がる。優乃も湊も人見知りな方だけれど、最初の時よりも打ち解けた様子だった。

「二人はもう合否出た?」
 さて、他愛もない話の中で。チキンナゲット用のケチャップソースにポテトをつけつつ、夕が二人に問うた。「ん」と優乃がちまちま齧るハンバーガーを飲み込んでから、こう答える。
「私は推薦でもう決まってるよ。玖渚君も受験だったのかな……?」
「大学は……まあうっすら、とは……」
「そっか。夕君も玖渚君も、受験お疲れ様」
 優乃がニコリと微笑んだ。もう進路が決まったそんな友人に、ポテトを頬張る夕は「いいなぁ」と座した椅子の背もたれに身を預ける。
「俺は公立だからまだ。私立併願する余裕ないし……大学ダメだったら専門学校とか、まだ勉強はしていきたいとは思ってる」
「応援してるよ。私も……とりあえずピアノが続けたくて、家から近い私立の音大にしたんだ」
 したいことがある。夕の場合は勉強で、優乃の場合はピアノだった。「就きたい仕事とか決まってるわけじゃないんだけど」と少女は苦笑する。
 したいこと……湊は氷でちょっと薄くなってしまったオレンジジュースを飲みながら、二人をそっと見やった。自分のしたいこと。少し言いにくそうにしてから、湊もまた口を開いた。
「俺も、今は……あんまり具体的にはイメージできてないんだけど、編集がしたいというか……。……H.O.P.Eのエージェントがこなしてきた、歴史や偉業を、本にしたいな、って」
 大きくはない声だけれど、眼差しには芯があり、真剣だった。彼の夢を馬鹿にするものなどそこにはいない。優乃はゆったりと微笑み、夕も表情こそ乏しいなれども穏やかな眼差しで。
「素敵だと思うな。……玖渚君が作った本、読んでみたい」
「あ、ありがと……うん、出せるといいなぁ、まだまだ夢のまた夢だけど」
 照れるように湊は笑った。少年は己の記録衝動に意味を見出したいと思っていた。だから――自分が迫害された理由だった衝動に基づく夢を肯定されると、なんだか顔が熱くなるほど嬉しくて。それを冷ますように、残ったオレンジジュースを喉に流した。
 湊の様子に、優乃もなんだかホッコリする。最初こそ緊張していたが、その純朴で優しそうな雰囲気にちょっとずつ打ち解けられそうだと嬉しさを感じる。
 そんな友人達の様子を夕は味の濃いナゲットをもぐもぐしつつ眺めている。飲み込んでから、こう続けた。
「浅水も。ピアノのコンサートとかあったら呼んでね」
 次いでポテトに手を伸ばしつつ、優乃に言う。「こここコンサートだなんてそんな」と少女は頬を赤くした。
「そんな、すっごいプロピアニストを目指してるわけじゃ……っ」
「でも音大に行ったってことは、何かしらピアノを仕事に役立てる感じだよね。仕事にするってなら、プロじゃん」
「あうあう」
 そうかもしれないけど。そうかもしれないけど。まだ入学式すら迎えていない優乃には、どうも“プロ”と呼ばれるのにはムズムズした。湊は微笑みつつ、“友人達”に「お互い頑張ろうね」と言うのだった。







 デザートにはクレープを食べて。それから、あれやこれやとのんびり遊んで。
 そろそろ学生は帰る時間だ。「今日は楽しかった」と誰からともなくそう言って、聞いた誰もが「楽しかったね」と同意する。
「ねえ、最後にプリクラ撮ってく?」
 そんな最中だった。夕がプリクラの筐体を指でさす。優乃も湊もプリクラというものに慣れ親しんではいなかった。だけど――だからこそ、夕の提案に頷きを返す。

 三人で引っ付いて、やたらファンシーな音声の「次は皆でハートを作ろう♪」「次はモデルっぽくポーズを決めて♪」に踊らされたりして。ちなみにフレームやらモードやらは夕がなんとかしてくれた。二人は「えっ時間制限、えっえっ」と終始オロオロしていた。

 というわけで、今、三人の手には分け合ったプリクラがある。デコレーションではちょっと面白くなって悪ふざけしすぎた。明らかにスタンプまみれでちょっとシュールである。世間一般のJKは上手くデコるのだろうが、まあ。

「私、こんなに目おっきくないよー……!?」
 プリクラ特有の補正がかかった自分の顔に、優乃はつい苦笑が込み上げてしまう。湊も「これが噂の……」と、足長効果バリバリになったプリクラを笑いながら見ている。「俺もすごい美肌に」と夕もプリクラを眺めていた。
 まあ、補正はさておき、思い出になったのは確か。ふ、と口元を笑ませた夕は、プリクラを大事に鞄に仕舞った。
「……こうやって遊べる友達がいるの嬉しいな。仕事して高校行ってって大変だったけど、両方やってよかったなと思う」
 呟いた言葉。二人が夕を見る。
「そういえば、俺あんまり友達いなくて。……話す程度の友達はいるんだけど、深く関わるのがちょっと怖いっていうか」
 少しの間の後、口を開いたのは湊だった。
「だから今日、普通に、当たり前みたいに休日を過ごす事ができて、すごく嬉しいなって思った。だからありがとう、十影。もちろん、浅水さんも」
 今日一番の笑みだった。「私も!」と優乃もへにゃりと笑ってみせる。
「今日は本当に楽しかったよ! ……ま、また遊ぼうねっ」
 約束、と少女は言った。ゆびきりげんまん、するほど子供じゃないけれど。代わりに、互いは互いをそれぞれ見て、「うん、約束」と頷いたのだった。



『了』




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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十影夕(aa0890)/男/18歳/命中適性
浅水 優乃(aa3983)/女/19歳/防御適性
玖渚 湊(aa3000)/男/17歳/命中適性
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2018年03月13日

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