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『ススキ野に水の門はつながりし 』
海原・みなも1252

 夕日が差す中、海原 みなもは同級生と学校から帰っていた。
「でね……」
 彼女の話を聞きながら、みなもは何か引っかかりを覚えていた。話題が別段おかしいことがあるわけではない。部活動の今やっていることや学校の先生のことなど幅広いが日常の会話である。

 サササササ……。
 ザザアアあああ――。

 音がするような気がした。風が強いからだろうと考える。

「どうしたの?」
「え? なんでもありません」
「ほんと?」
「はい!」
 じっと見る彼女の顔は真剣そのものであるが、目は笑っている。
「あるといえばあります! 風が強いです」
 みなもはまじめな顔をして言い、笑う。
「そうだね……ほんと、強いよ」
 彼女も風を見るように視線をそらした。

 ザザザーーー、ザアアアアー。

 音が大きくなったその瞬間、みなもは同級生と「別れていた」。その上、ススキの野原を見た気がする。
「……あれ?」
 別れたのだ、先ほどの角で。
「おかしくはありませんね」
 違う、と脳内で警鐘が鳴り響く。心臓の音が耳に届くが、血液も水の流れととらえ落ち着けるように努力した。
 彼女とは駅まで一緒であり、別れる理由が一つもない。
「見事なススキを見ましたね……秋に……違いますっ!」
 ススキと言えばその季節であるが、違うと直感する。
「彼女は異界に落ちた……」
 なんとしてでも彷徨える異界「すすきがはら」をとらえ、彼女を連れ戻しに行かないとならない。

「以前、どうやって戻ってきたかも重要です」
 思い出そうとするがよくわからない。ただ、みなもの血筋とかかわりの深い「水」の効果があったに違いないと感じる。
「あの場所にキツネがおりました。ススキもたくさん生えています。水はどこかにあるはずです。だから、あたしはそこを接点として戻ってこられたはずです」
 連想のように推測をしていく。ススキがあるならば水もあるだろう。水があるならば、こちらの法則の一部も引きずっているだろう。法則があるからこそ、どこか重なり合い、人が消える。
「どの方向に行ったのでしょうか?」
 みなもは異界を感じようと意識を拡大させる。彷徨っているとはいえ、転移する物ではないと信じる。
「落ち着くのです、あたし」
 彷徨う異界がみなもの近くにいるとき、必ず音がしていた。
 先ほどもかすかに聞こえていた。
 一度、目を閉じた。
 目を閉じると、五感の一つが消えることで耳や肌で感じるものが強くなった。
 風が強いと友人は言った。その風は先ほどより感じられない。
 音はかすかに聞こえる気がした。
 みなもは目を開けると、彼女と一度足を止めた角に急いだ。
 風が強い気がした。目を閉じて、風と音を確かめる。
 音はその道から聞こえる。風はそちらから吹いている。
「こちらです!」
 みなもは走る。
 人気のないビルの片隅に、せせらぎがついている池がある。

 ザザザ……ザ、ザ……ざ……。

 音が遠くなる。
 焦らない。
 水の流れに意識を集中させる。水に触れると流れが見えた。それは下水に入るのではなく、みなもの意思に従い、異界に入り込む。異界に入ると別の気配も強くなる。

 ザアアア……。

 水がススキの穂が揺れる音を伝えてきた。
「そこです……」
 みなもは勢いよく糸を手繰り寄せるようなしぐさをした。水面に白と黒の世界に見える「すすきがはら」らしい姿が写る。
 それは一瞬明確に映るが、徐々に滲み始める。彷徨うためか映し出した姿の固定が難しいようだ。
「これは……まだつながっています……躊躇はできません」
 みなもは水に飛び込んだ。濡れる感覚もなく、そのまま写っていた陸地に立っていた。
 空は白く明るい。ススキは陰影が強く、黒くも見える。水墨画のようにも見える。これが本当に存在する物か、脳に直接働きかけて浮かぶイメージか判断はつかない。
 時折、キツネがススキの間に見える。どこかに走り去る。
「……彼女がキツネにされている危険性……あたしも危険」
 どういう経緯でなるかはわからない。特定の存在に認知されると変化が起こるのかもしれない。この世界の優劣でキツネよりみなもは弱いのは確実。抗うことは不可能だろう。
 気づかれないようにしないとならない。
「化けるよりも……水を操って……それらしく見せる方がいいですね」
 池の水を引き付けると、キツネを作り、隠れる。
「ならば、かがんで移動するしかないですね」
 身をかがめて動くのは辛いが、この程度では音を上げることはない。
「水があれば、匂いもごまかせるかもしれません?」
 前向きに考えると周囲を見渡した。
 友人を探すには地理がわからない。遠くにはいない気もする。

『おやあ、こんなところに人間の小娘がおるのぉ』
 感情の起伏が薄いが、どこか小ばかにしたような女性の声がした。みなもの近くにいないため、見つけられたのは同級生か巻き込まれた別の人であろう。
 相手に認知されると、自分も危険な可能性がある。気をそらしたうえで近づかないとならない。
 みなもは水を操り、キツネを作り、その声の主がいるあたりを走らせた。
『おや? 何やら面妖なものがおるのぉ』
 ちらりと見たその姿は白い花魁のような物だった。美しいが恐ろしい。
 みなもは走った。そこには探していた彼女が倒れている。気絶しているのは良いが、運ぶのが困る。
 みなもは彼女を背負う。
『おやあ、これはこれは……人間であり、我らに近い匂いもするのう』
 みなもは肝を冷やす。力が動いているためか、みなもの血のおかげか人間以外も感じ取ってくれているようだ。
「あたしは、水の眷属です。この地の高貴な方……ご迷惑をおかけするつもりはありません」
 みなもは何かを演じることにした。切り抜けるならば度胸でどうにかするしかない。
『この地に何の用かえ?』
「彷徨う異界には畏敬の念があります。我が下僕が紛れ込んだため、こうして回収に参ったのです」
『ふむ』
「高貴なお方……お目汚しして申し訳ありません。そうそうに立ち去る許可を頂きたいです」
 みなもは心臓が早鐘を打つのを聞く。緊張から喉がカラカラになりそうでもある。
『しかたがあるまいなぁ、今回は見逃そう』
「ありがとうございます」
 みなもはキツネに見つめられたまま立ち去る。背中に感じる視線が冷たいし、気が変わるかと思うと怖かった。
 友人の腕を見た瞬間、みなもは焦る。帰っていいと言ったが、キツネにしていないとは言っていないのだ。
「待ってくださいね!」
 彼女に話しかけた。
 みなもは同級生を背負ったまま、池に飛び込んだ。水に接すれば自分の領域となる。

 空は真っ暗になっていた。
 時間がどれだけ経ったかわからない。
 異界に接したときの人工池の側にいる。背負っていた友人は地面に倒れている。生きているか、手はどうなっているかを確認をする。
 ほっとみなもは息を吐いて、空を見上げた。
 ビルにある時計が見えた瞬間、みなもは顔色が青くなった。
「う、深夜の二時ですか!?」
 この後、どうするか悩んだ。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご指名ありがとうございます。
 みなもさんの活躍に携われて光栄です。
 日常生活かと思いきや、やはり異界にかかわる宿命なのですね。
 さて、内容はいかがでしたでしょうか?
 演劇部にも所属しているそうなので、キツネと思われる存在との会話は演技ぽくしてみました。演劇で時代劇みたいなのするか否かは……そういう学校もありますね!
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年03月14日

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