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『何処かの博士に会いに来て、交渉決裂したと思しき後の話。 』
黒・冥月2778

 面倒だ。と嘆息する。

 黒冥月にしてみれば――結局こうなるか、と言う思いも無いでも無い。まぁ、まともに話せる相手で無い可能性は前評判として承知しているし、元々駄目元、のつもりではあった。
 …が、それでも面倒なものは面倒である。

 不意打ち――のつもりだったのだろう凛の振るう白刃を当たり前に避けつつ、さてどうするかと次の一手を思案する。今見る限りはこの二人――不意に仕掛けてきた速水凛とその背後の速水博士――を力尽くで確保し沈黙させるのは容易そうだが…何か仕込んでいる気もする。…狙いは私の力量を見る事か、偶然を装い私の髪を切断し確保する事か、はたまた何かの罠への布石か時間稼ぎか――さて。
 まずは手早く髪を纏めて結い上げる。…攻撃に至る前、直接言われた要望は髪を一筋くれないかと言う一事。ならばこう出られた以上、例え毛先でも渡すまいと努めるに決まっている――切られぬよう重々注意する。

 それから、私は自分を中心に能力を以って影のドームを広げた。まずは直接的な行動に出るより有利な場を作る方が先。影のドームの内側には自分と御言と凛、そして速水博士だけを残し――こちらで認識出来るだけの凛の武装こと邪妖精を全て影外へ強制排除する。同じ影の操作の中で、ここまで出向くに当たり建物内に落ちていた自分の髪の毛も全て影を使い回収した。
 ここまで、殆ど間を置いていない。何度か私の影内を体験している凛ならまだともかく、速水博士の方は何が起きたかすらわかっていなくて当たり前である筈だ。…いや、だが相手は底の知れぬ『博士』でもあったか。ならば、何をどう分析し答えを弾き出すかわかったものじゃない。

 事実、長らく大前提だと思われていた前情報の幾つかが間違いだった事は彼女を目の当たりにしただけでわかっている――そう、速水博士は『彼女』なのだ。その時点で『父親』では無いだろう。…まぁ、何らかの事情で本当に『父親』扱いである可能性は無いとは言えないが、この場では面倒な機微はどうでもいい。
 まぁ、何処かの誰かからの示唆もあったし、死亡したとされている速水博士の『周辺の人物』情報の中にも恐らく彼女と同一人物だろうと思しき目立たない女性は居た。が、それにしても印象が随分と違い過ぎる――彼女の場合、目立たないどころか眼力がもうこれでもかと己を主張している。そして言葉遣いは凛と殆ど同じ。…いや、凛の言葉遣いが彼女と殆ど同じ、と言うべきなのかもしれないが。

「全く。面倒掛けさせないでくれ」
「…おいおい、凛の今のだけでこれかい。随分余裕無ェ態度取ってくれんじゃねぇの?」
「面倒が嫌いなだけだ。…何故襲った」
「単に、踏ん切りが付かねぇみてぇだから後押ししてやろうと思っただけなんだがねぇ」

 それこそ全く余裕の態度で速水博士――と思しき女はそこまで口に出してくる。本当に“わかっている”のか疑問にも思える態度。“何の感覚も無い”訳は無いのだが、全く“そんな素振り”も見せない。





 ――――――今、「面倒掛けさせないでくれ」と伝えた直前の時点で、私は凛と速水博士の心臓を影を使って鷲掴みにし、軽く握ってまでいる。





 ここまでするに当たり、異能封じの罠等あるのではとも疑い慎重に動きもしたが、そう言った罠の類は一切感知出来ず、今のところ実際に発動もしていない。
 つまりは――こちらの思惑通りに一連の行動も間違いなく行えている筈なのだが。

 事実、凛の方は私が「そう」した時点でぴたっと動きを止めてしまっている。邪妖精を剥がした時点で発火能力の方を使おうとも考えたようだったが、実際の動きの方ではそこまで行っていない。それどころか今は口を開く余裕すら無いらしいと見て取れた。
 反面、速水博士の方は――凛のような当たり前の反応が、無い。

「なら拙速だったな。僅かな思案も待てないか」
「ったって今の白梟の横槍からすりゃ断られる方に流れるだろ」
「…襲われたら余計にそう流れるとは思わんか」
「ま、どさくさで手に入る可能性も上がると思ったんだが…はー、話にゃ聞いちゃいたが、ここまでやっちまうだけの力がマジであんのなぁ。…影…っつぅよりここまで内外が峻別出来るとなると次元操作に近いのか?」
「答える義理があると思っているのか。呆れるな」

 返しながら、速水博士の方だけ心臓を握る影の力をやや強める――と、今度こそほんの僅か顔を顰めた。…やはり、何も感じていない訳ではないらしい。
 が、その割に速水博士は止まるどころか平気で動き始めて、内心で少々焦る。勿論微塵も表には出していないが、心臓を握られたままでそんな真似をされては予期せず死にかねない――

「死にたいのか」
「て事は気付いてねぇんだなぁ。ちょうどいいサンプルが目の前にあるってのに」

 ?

 また、何か思わせぶりな事を言い出した。が――律儀に付き合ってやる義理も無い。

「話する気がないのなら構わない」

 身一つで今すぐここから立ち去るといい――そう告げて、影を用いて服や持ち物を一気に剥ぎ取りつつ、自然な形を装って心臓も放す。…こちらが圧されて力を緩めたと思わせないよう、細心の注意を払ってそこまでをし、仕上げとばかりに影の鞭で二人纏めて叩き飛ばした。叩き付けられた際の落下の衝撃音や、小さな呻きの類も聞こえたが碌に確認する気にもならない。ただ影のドームを解き、元居た場所へとそのまま戻る。

 と。

 冥月さん、とやや鋭い御言の声がした。何かと思う――示されたのは先程の音がした方。即ち、速水博士と凛の二人を叩き飛ばした先――の、筈だったが。
 もうそこには、誰も居なかった。…まるで一連の成り行きが予定通りだったと言わんばかりの鮮やか過ぎる消え方。俄かに頭に来るが――まぁ、どうやったんだとか追及する気にもならない。答えが出そうに無い事を考えていても仕方が無い。
 結局時間の無駄だったなと嘆息しつつ、場の建物自体を丸ごと影に取り込み確保する――その際も既に二人の姿が全く感知出来なかった以上、少なくとも真っ当に歩いて去った訳でも無いらしい。…ひとまずこの建物については後日物色の上IO2にでも売ろうと考える。
 建物を確保してから、御言に博士の影の形は覚えた旨も伝えておく――探したい時は協力するから言ってくれ、とも。…但し、本人ならだがとの注釈付きではあるが――その辺りはまぁ、御言の方も承知だろう。

 それから御言を連れ、来た道を戻る形で、来た時同様、影を介して帰宅する――つもり、だったが。
 少々面倒な事態に陥った。
 はっきり言ってしまうと迷ったのである。…何故なら影を介しての移動の、影と影の間の目印にしていた場所がもう罠だった。いちいち同じ距離間で、異様によく似た別の場所が複数あったのである。往路の案内人が居た時はそれらダミーは初めから除外されており、正解の道だけを辿っていた為完全に認識の外だった。つまり帰る時になって初めてダミーの存在に気が付き、迷路に嵌っていたと言う訳である。…影を介していた事で経路が飛び地になった結果、地図感覚・方向感覚を頼ってどの経路が正しいかを探るのも少々難しい。
 …それはこの程度の罠であるなら試行錯誤を繰り返せばいつかは正しい道へは戻れる。戻れるが…はっきり言って面倒臭い事この上無い。

 どんな嫌がらせだ。全く。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

■NPC
【-(旧異界内表記のみNPC)/速水博士/虚無の境界構成員(元)】

【NPC0463(旧登録NPC)/真咲・御言(白梟)/男/32歳/バーテンダー】
【NPC5487(旧登録NPC)/速水・凛/女/14歳/虚無の境界構成員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。
 そして今回もまた結局期間いっぱいまで使ってしまってお待たせしております。

 内容についてですが…まずはすみません(汗)、要望については前回時点で速水博士側に伝えているつもりでした。あの辺りのやり取りは裏で相談していたり頭の中で考えていただけではなく、「水を向け」たり「持ち込」んだ時点で、具体的な内容に関しては対峙した目の前でだいたい口に出していたつもりでして。わかり難い書き方になってしまっていて申し訳ありません(文字数の都合で駆け足にしてしまったからもある気がします)
 と言う訳で、PC様的には要望は伝えるだけ伝えたがその反応が凛の攻撃以上は碌に無しのまま有耶無耶、と言う感じでプレイングと擦り合わせて書かせて頂きました。
 ですが実はPL様的には今回の交渉(?)の結果は二択になりまして、次回以降にでもどちらがいいかお伝え頂ければ、その結果にさせて頂きたいと思います。

 A★プレイング通り毛先すら渡さずに済む
  →今回の件はただの時間の無駄、ちょっとした脱線で済ます事になります。特に大きな問題も起きません。
  →冥月様の実力に傷も付きません。

 B★いつの間にか髪の毛が一本持って行かれていた
  →日曜予定の依頼本題の誰かさんの身体用に適した木偶が、後になって興信所に勝手に送られて来ます。
  →冥月様の双子の弟か妹が後で登場するかもしれません(後に機会が頂ければですが)
  →博士側が冥月様を出し抜いた事になり、冥月様の実力に若干の傷が付いた事になってしまいます。

 以上、「無難な路線」と「ハイリスクかつハイリターンな路線」のどちらかになるのですが…どうしましょう?
 ちなみに、今回のオチで出てきた最後の「迷路」は時間を掛ければ普通に突破出来ます(なおBを選ばれた場合、この過程の何処かで髪の毛持って行かれた事になるかもしれません)

 と、今回はこんなところになりますが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次に機会を頂ける事がありましたら、その時は。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
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東京怪談
2018年03月19日

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