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『決着は雪山で 』
アリア・ジェラーティ8537

 寒い寒い冬の只中、暖房の効いた部屋でおこたでアイス、と言う贅沢な趣向が近頃ある。
 …そんな訳で、アイス屋さんは冬も結構忙しい。

 アリア・ジェラーティはそんな需要を見込んで、雪の降る中、今日はあやかし荘に行商に行く事にした。

 そして、あやかし荘管理人室。
 目論見通り、この場所の座敷童な嬉璃ちゃんはアイスに飛び付いた。管理人の因幡恵美――因幡ちゃんにねだって、即決。勿論因幡ちゃんの方にも抜け目無くアイスを勧めておく。皆で食べた方が美味しいから…と理屈を付けつつ、確り商売。
 で、自分も一緒におこたでアイス。…商売はしたけれど、嬉璃ちゃんも因幡ちゃんも友達でもある訳で。
 つけっぱなしなテレビの通販番組を背景に、まったりのんびり、話も弾む。
 と言うか、こんな真冬な陽気でアイスを食べる嬉璃を目の前にしていたら…何となく、思い出した名があった。

「…雪姫ぢゃと?」
「うん…前に…夏に出会って…こおりおに、したんだけど…」

 そういえば引き分けのまんまで、決着付けてなかった。と思って。

「嬉璃ちゃん、雪姫ちゃんによく似てるから…思い出した」
「…何ぢゃ。いつぞやの夏のあの異常気象は姉ぢゃだったのか。全く傍迷惑な」
「?」
「すごい偶然だね。雪姫さんって嬉璃のお姉さんなんだよ」
「! …そうなんだ…!」

 道理でよく似てる筈だ、とアリアはびっくりしつつも納得。
 …しているそこで、因幡ちゃんが――少々余計かもしれない事を思い出した。

「そういえば前に雪姫さんがこっちに来た時、今度の冬はこちらから行く、って話になってたよね」
「ああ、そんな事も言ったかのぅ…忘れておったわ」
「…それ、どこ?」
「? どうしたありあ」
「…決着付けに…行く」

 だから場所…教えてほしい。
 雪姫ちゃんの…居るところの。

「…え、今から?」
「…うん」

 そのつもりで訊いている。
 と――そこを見計らったようなタイミングで、すぱーんと管理人室の襖が開かれた。
 開かれたその向こう側に居たのは、勝負賭け事の類が大好きなあやかし荘住人、まだまだ子供な妖狐の柚葉ちゃん、である。

「話は聞かせて貰ったよ。決着…って何かの勝負の事だよね? ボクも行くっ!」
「待て柚葉煽るでない誰も今から行」
「ほら今から行くんでしょ! 置いてくなんて絶対ナシだよ!」
「…」



 ごおおおおおお、と風が唸り雪が吹き荒んでいる。

 結局あのままアリアと柚葉に押し切られる形で、あやかし荘管理人室周辺の一行は――極寒の冬山登山に挑む羽目になっている。進めば進む程強くなる豪雪――いや、これはもうただ豪雪と言うのも生温い。いっそ氷河期の再現とでも言った方が相応しかろう――何の対策も耐性も無ければ一瞬で凍り付きそうである。
 即ち、最早超常的妖怪的な何かの加護が殆ど必須なレベルの状況。となれば少なくともこのあやかし荘の面子では――雪女郎の妹な座敷童の嬉璃に妖狐な柚葉はともかく、何の異能力も無い属性・人間な因幡恵美は何か事前に対策を取らなければ即ヤバい。
 そんな訳で――因幡ちゃんに、と寒さへの耐性を付与する氷のアクセサリがアリアから事前に渡されている。元々ここまで出向くのを渋っていた嬉璃からのなけなしの脅し――もとい現場の前情報からして、まず必要だと見た為に取り急ぎ作成してあった。…結果、因幡恵美はこの凄まじい極寒地獄の中でもその場の他の面子と同程度の活動をする事が叶っている――ただそれでも寒い事だけは如何ともし難い。
 けれどその程度なら、まぁ妖力はあれど特別寒い地方のあやかし――と言う訳では無い柚葉辺りと感覚としては大差が無かったりもする。
 この凄まじい極寒環境の中でも取り敢えずまともに動けるようなら、まぁよし。
 と、誰ともなく思っていたところなのだが、たったひとり、それどころでは無い気合いの入り方をしている者が居た。

 アリア。

 なんと、この山の中でありながらいつものアイス屋台を黙々と引いていた。それも、足周りにスキー板を取り付け完全雪山仕様にした上で、である。商魂逞しいと言うか何と言うか――曰く、終わったらパーティするんだ、との事。つまり、雪姫との決着を付けると言ってもまぁ、『遊び』の、でもある。
 ともあれ、そんなアイス屋台を引く氷の女王の末裔を先頭に、一行は暫し雪姫の住処である雪山の道なき道を進んでいたのだが。

 不意に、ごうっと一際激しい巻風が俄かに沸き起こる。一行の前方、目を引いたその巻風が解けたかと思うと――その中から年の頃十程の白い童が軽やかに降り立った。纏う色や風体を除けば、嬉璃とよく似ているその容姿――彼女がその場に降り立つと同時に、辺りを席巻していた吹雪が、弱くなる。
 現れた彼女の視線が向いた先は、まず、嬉璃だった。

「ふん、漸く観念してここまで来おったか、待ちくたびれたぞ我が妹よ」
「…何ぢゃ。忘れておらんかったのか姉ぢゃ」
「当たり前であろう。妹との約束を忘れる訳が無い――うん?」

 と。

 そこで初めて白い童――雪姫は、嬉璃と同行していたアイス屋台の引き手が誰か、にも気付く。
 殆ど反射的に、目を輝かせた。

「おお! 久しいな。達者であったかアリア・ジェラーティ!」

 何故ここに居る。と喜びと驚きが混じった声で問う雪姫。決着…付けに来たのと即答するアリア――ここの場所は嬉璃に案内して貰った旨、そして折角だからたまたま一緒に居たあやかし荘のみんなも連れて来た旨も続いて説明。それらを聞く雪姫の方も、うんうんと尤もらしく頷いて――委細承知した、とにやりと笑う。

 ならば今度こそ決着を付けねばなるまいて、存分に腕を奮い合おうぞ、と。



 そして決まった今回の対決手段は――場所柄や面子も考え、雪合戦、となる。アリア側はあやかし荘の面子も含めての、雪姫側は冬の妖怪を率いてのチーム戦。雪玉に当たったら即負けではなく、互いにトロフィーを作って、それを奪い合う形にする。…即ち、トロフィーとしておっきな雪像を互いの陣地の後方に造っておき、それを奪られた方が――崩された方が負け。
 つまり、まずやるべき事は雪像建造。…どうする?との嬉璃からの相談に、十メートルぐらいの造る…とアリアはあっさり。それなら確かに易々とは崩れまい――だが、相手も相手である。雪姫ならば同じ程度の事は当たり前にして来ると見ていい。
 雪像完成後は、いよいよ本格的に雪合戦開始。その号令が掛かった途端に――アリアは辺り一帯に影を落とす程の超巨大雪玉を宙に浮かせて作り出し、相手チームの陣地へと放り落とした。ずしぃんと容赦無い地響き――途端に当たり前のように雪崩が発生する――が、その雪崩も巨大な氷の壁を作り出しあっさりと堰き止め、次――と見たら、相手チームの側も、雪姫ちゃんの造る吹雪の小竜巻でガードされてて無事だった。…勿論、雪像も。

 確かにまだまだ、序盤戦の挨拶代わり。こんな程度で決着が付く訳が無い。思いつつアリアは次の手を考える。出来る事はたくさん。空中に氷の足場を作って、何もないように見える上からの攻撃をしてもいいし…雪合戦の雪玉に石は仕込んじゃだめだけど、冷気なら仕込んでもいいんじゃないかな、とも思う。

 何にしても多分、雪姫ちゃんとの勝負は拮抗するから、他の皆が勝利の鍵だろう。
 そう、氷雪の加護を受けし乙女二人の対決は――まだまだ、これからである。

【続】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【8537/アリア・ジェラーティ/女/13歳/アイス屋さん】

■NPC
【-(公式イベント・雪姫の戯れNPC)/雪姫/女/外見10歳/雪女郎】

【NPCA011/嬉璃(基本)/女/999歳/座敷わらし】
【NPCA033/因幡・恵美(21歳)/女/21歳/あやかし荘の管理人】
【NPCA012/柚葉・−/女/14歳/子供の妖狐】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。…お手数をお掛けしましたが、無事発注出来たようで、何よりです。
 そして今回もまた結局、期間いっぱいまで使ってしまってお待たせしております。

 内容ですが、御言葉に甘えて続き前提とさせて頂きました。と言うより雪合戦が始まった途端にバッサリ「続く」になってしまった感じもありますが…文章配分が御希望に添えていなかったとしたら申し訳ありません。
 続きは初っ端から全開の雪合戦で行けるかと思います。

 また、NPCですが、発注文章内で直接名前が出されていたNPCだけを登場させました。最終的には纏めて「あやかし荘の面々」と言う御指定だったので今回実際登場した以外のNPCも出そうと思えば出せなくも無い気はしましたが…一応ここを線引きにさせて頂こうと思っていまして。
 続き時に他のあやかし荘関連NPCも具体的に登場の御希望ありましたら、その時は名前も併記して頂ければと。改めての指定をしなくとも、文章都合内で自然に出る形の名前だけで全然構いませんので。

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次に「続き」の機会を頂ける事を願いまして、そろそろ失礼させて頂こうと。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年03月19日

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