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『はじめてのはつもうで 』
シエル・ユークレースka6648


「あけましておめでとーっ、玲く……わわっ!?」
「……ふぁーい、どなたぁ……って、ふえぁ!?」

 明けまして新年。
 新しい年を迎えためでたき日に、開けました玄関扉の外と内。
 ほぼ同じ歳のふたりは、顔を見合わすなり固まった。

 片や、新春に相応しい、鮮やかな正絹総絞りの振袖を着こなし、金糸髪を一筋の乱れもなく結い上げた晴着姿。
 片や、寝癖だらけの髪と、外から帰ってそのまま寝たのだろうシワだらけの服。さながら徹夜明けの企業戦士。
 ふたりはたっぷり15秒ほど無言で見つめ合ってから、

「どうしたのその格好」

 異口同音に発した。


 シエル・ユークレース(ka6648)と、香藤 玲(kz0220)である。


 シエルは思い出したようにメモを取り出した。

「え、えっと、突然来ちゃってごめんねっ。玲くんいるかなーって思って辺境のハンターオフィスに行ったら、今日はお休みだって言われて、眼鏡のおねえさんが住所教えてくれて、それでっ……」
「あーモリスさんか。全然良いよー、ってかこんな格好でごめんねぇ」

 ごめんと言うそばから盛大なあくびを零す玲に、シエルは思わず懐中時計を確認する。

「今まで寝てたの? もうお昼過ぎだよ玲くん。夕べ遅くまでお仕事だったの?」
「うんー……ほら、聖輝節とか年越しは、家族や恋人がいる職員サンは皆休みたいじゃない? だからぼっちな僕は出ずっぱりで……ふあぁ」

 玲はもうひとつあくびをしてから、しげしげとシエルを眺める。金髪碧眼、白磁の肌。すんなりとよく伸びた手足。和装を合わせるには一見難しそうな特徴を備えているにもかかわらず、華やかなかんばせのシエルは見事にしゃんと着こなしていた。

「はー……これで僕と同じ性別とかさ、ホントどうなってるんだろう」
「え、なぁに?」
「んーん、何でもない」

 玲がもしゃもしゃと寝癖頭を掻いて誤魔化すと、シエルはしょぼんと頬に手を当てた。瑞々しい唇から零れる吐息は、それすら甘そうで。

「そっかぁ……初詣のお誘いに来たんだけど、それじゃあ玲くんお疲れだよね」
「初詣?」

『寒い・眠い・面倒くさい』の三拍子をありあり顔に浮かべた玲に、シエルはいよいよ残念そうに肩を落とす。揺れる袂がいじらしい。

「ボク、初詣ってまだ行ったことなくって。大好きな一番のともだちだから、一番最初は玲くんとがいいなって思ったんだけど」
「うっ!?」

 俯きがちに上目遣いで見つめられ、玲の脳内天秤が激しく揺らぐ。そうとは知らないシエルはにへっと笑った。

「でも無理させたくないもんねっ。またの機会にするよー」
「え、っと、他に一緒に行く人いないの?」

 慌てる玲に、シエルは小さく首を横に振る。

「お兄ちゃんはもう行っちゃったんだよね。だからボクも無理に行かなくてもいいかなー、なんて」

 起こしちゃってごめんね、ゆっくり寝てね。そう言って踵を返したシエルの肩を、玲の両手がむんずと掴んだ。

「行くっ、行くからっ! 40秒で支度するからお願いだから待っててっ!!」



 辺境から東方へ。遥かに離れた距離でも、覚醒者のふたりなら転移門であっという間だ。
 辺境よりもずっと南にある東方だが、路肩には数日前に降ったらしい雪がこんもり残っていた。
 シエルが調べてきた大きな神社へ向かうと、仲見世通りの両側には出店が連なり、たくさんの人々で賑わっていた。

「見て見て玲くんっ、出店がいっぱいだよっ♪ 甘い物も売ってるかなー? あっ、その前に神様のお社へごあいさつだよねっ!」

 シエルは出店に気を取られそうになったものの、手水舎を見つけるとそちらへ向け方向転換。慣れぬ草履で転ばないよう、とてとてと慎重に。

「えらいねぇシエル、西方には神社とかないのに。ちゃんと勉強したんだ?」

 蒼界は日本出身で、社寺仏閣に親しんできた玲に対し、シエルは紅界・西方出身。馴染みがなくて当然なのにと驚く玲に、シエルは照れたように目を細める。

「えへへー、お兄ちゃんに教えてもらったんだよっ♪ 東方のお作法は、玲くんがいた場所のと近いんでしょ? 恥ずかしくないようにしないとって思ってー」

 着付けも髪のセットもお兄ちゃんが手伝ってくれたと話すシエルは、それはそれは嬉しそうで。その場でくるりと回ってみせ、豪華な羽根結びに結った帯や、こだわって選んだと言う簪を見せた。けれど、途端にそわそわと落ち着きがなくなる。周囲にいる着物姿の女性を見、次いでこちらを見ている男性を見、

「ボク、どっかおかしなとこある……?」

 もじもじと草履の爪先を摺り合わせるシエルに、玲は苦笑して頭を振った。

「違うよ、可愛いから目立っちゃってんの」
「なぁんだそっか☆ ボク可愛いから仕方ないねっ♪ ……って、ちょっと待って、何か凄く恥ずかしっ……!」

 普段と違う格好のせいか、真っ赤になった顔を両手で覆うシエル。玲はその右手をやんわりとった。

「着物だと歩きづらいよね、窮屈だし。それに色んな意味で心配だから、手、繋いどこっか」
「えっ、良いの?」
「わかるもん、僕も七五三の時何度転びそうになったか」
「『しちごさん』? 誰だれー?」
「えーっとね」

 そんな話をしながら、ふたりで手水舎で身を清め、参拝の長い列へ並ぶ。
 日本出身の玲だから、分かる。
 玲はそれこそ40秒で支度できるような普段着だが、シエルが着ている振袖の着付けにはどれほど時間がかかるか。その華やかな髪型に整えるのに、どれだけ手間がかかるか。歩きなれない草履での移動がどんなに大変か、そんな中単身辺境くんだりまで訪ねて来るのがどれくらい心細かったろう、とか。
 それだけの苦労をして来てくれたにもかかわらず、『無理させたくない』の一言であっさりふいにしてしまおうとしたシエルの横顔を、玲は横目でじっと見据える。

「はー……堪ンないよねぇ」
「ホント堪らないよねー、この行列!」
「そうだねー堪ンないねぇ。参拝終えたらあったかい甘酒飲みに行こうよ」
「さーんせいっ♪」

 堪らないと口では言いつつも、気心知れたともだちと待つ時間は、瞬く間に過ぎていき。
 辿り着いた拝殿前で、ふたり揃って柏手打って、静かに静かに手を合わす。玲はさっさと終えてしまったけれど、シエルは随分長い事熱心に、目を閉じて祈っていた。最後には後ろの人に押されるようにして、拝殿の前を離れた。
 人波にはぐれないよう、どちらからともなくもう一度手を繋ぎ直してから、玲がシエルに尋ねる。

「あんな一生懸命、何をお願いしてたの?」
「えっ、言うの!? 言っちゃったら叶わないんじゃないんだっけ?」
「それは初夢じゃなかったっけ?」

 ふたりともうろ覚えな情報に首を捻りつつ、まあいっかとシエルは朗らかに笑う。

「『みんなとの縁が切れませんように!』って。もちろん、玲くんとも!」

 玲、きょとん。

「それをあんなに熱心に……? ちょっともうヤメてよ、僕を泣かす気?」

 からの、涙目。独り紅界に転移してきて、ぼっちと公言してはばからない玲には、沁みすぎる一言だったのだ。本当に潤み始めてしまった玲の瞳に、シエルはおろおろわたわた。

「えっ、泣くとこ!? そんなつもりじゃ……! あっ、玲くん! 甘酒の出店あった!」
「飲む!」
「飲も!」
「行く!」
「行こ♪」

 シエルは半ベソの玲の手を強く握って、早足で歩き出す。
 新春の空に、ともだち同士が鳴らす足音が高らかに響いた。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6648/シエル・ユークレース/男性/15/はじめての『ともだち』】
ゲストNPC
【kz0220/香藤 玲/男性/14/はじめての『ともだち』】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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はじめての初詣に行くシエルさんの物語、お届けします。
梅の花が満開の時期のお届けとなってしまい本当にすみません!
シエルさんの振袖姿、きっと可愛らしいんだろうなぁなんて想像しながら楽しく書かせていただきました。
はじめてのともだちと、紅界初の初詣を楽しむことができ、玲も喜んでいる事と思います。お招きありがとうございました。
イメージと違う等ございましたら、お気軽にリテイクをお申し付け下さい。

この度はご用命くださり誠にありがとうございました!
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2018年03月19日

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