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『名残り雪の下のオウセ 』
邦衛 八宏aa0046


『突然の連絡失礼します。是非お会いしたいので待ち合わせをしませんか』
 邦衛 八宏(aa0046)がそんなメールを受け取ったのは、まだ冬が明けきらないとある昼のことだった。
 見も知らぬ着信から「待ち合わせ」を持ちかけられ、指定場所は京都の街。不審がりつつ、帰郷ついでに、名残り雪の残る京都の街を八宏は一人で訪れた。
 指定場所に一人立ち黒い傘を差して待つ。時刻は昼の少し前。雪が仄かに降っており、息を吐くとふう、と一瞬白を形作った。
「今日はえらい寒いですね」
 声を掛けられたような気がして八宏がふと首を向けると、学生服姿の少年が、明らかに八宏の顔を見て人懐っこく微笑んでいた。見覚えのない少年。見覚えのないはずの顔。だが、酷く心地の良くない既視感を覚え、八宏は訳もわからず困惑した。
 しかしそれは一瞬で、少年が漏らした一声に正体を伺い知る事になる。
「お久しぶりどす八宏はん。ほんまに来て下さったんですね」
 聞きかじって覚えたような音の狂った京言葉。癪に障る物言いに、該当するのは『一体』だけ。
「要件は」
 感情を表に出さず、硬さだけを込めたような低い声音で尋ねると、少年は八宏へ距離を詰めさらに笑顔を深めて見せた。
「観光、案内して欲しいなぁ、て思いまして。悪さしにきたんと思いましたか?」
 まるで八宏をからかうような呆気らかんとした答え。見てくれはどこにでもいる高校生の少年だが、悔しいかな八宏一人でどうこう出来る相手ではない。無論、野放しにしておくわけにもいかず。道中連絡を取ろうにも、行く先に人混みの多い中で、下手に騒ぎを起こすという選択を取る訳にも行かず。
 ここに来てしまった時点で、この少年の、愚神の、パンドラ(az0071)の、要求を呑むより他はないと諦める。それでも言葉少なな男は、せめてもの抵抗とばかりに声音に棘を滲ませて、言葉だけは道行き案内を買って出ると答えてやった。
「……では、何方へ参りましょうか」
「あなたが連れて行ってくれるなら、何方だってええですよ」


「どっちの色がええですか」
 まずは着物を着てみたい、という愚神の要望に、『二人』は着物の貸し出しをしている呉服店を訪れていた。男物の着物と言えば黒や紺が主流だが、パンドラは柄のある鮮やかな着物に手を伸ばす。
「そちらは女物ですが」
「でも、こっちの方が綺麗ですよ?」
 まさか愚神と店の者に説明する訳にもいかず、八宏は親戚の子の観光に付き合っている風を取った。見た目二十八歳の男と見た目十六歳の少年、友人関係を装うには年が離れ過ぎている。もっとも、八宏はそんな芸当どころか、他人とのコミュニケーションにさえ苦労するような人種であるが、それ以外の関係を疑われるのは精神衛生上悪い。
(親戚と思われるんも、胸のいい話ではないですが)
「八宏はん、どっちが似合うと思いますか」
 赤に蝶、紫に花を肩に掛けるパンドラに、八宏は一つ息を吐いて青い着物を指し示した。ごねられるかと思ったが「そっちの方がええんなら」とパンドラは素直に八宏に従う。
「女物がええんと違うんですか」
「確かに綺麗ですけれど、八宏はんが選んでくれたのが一番ええに決まってますよ」
 にこやかに言われた言葉に八宏は眉間の皺を深めた。決まったなら着付けが終わるまで待っていようかと思ったが、パンドラが袖を引き紺の着物を指し示す。
「八宏はんのお着物は僕が決めてあげますよ。せっかくのデートですから、二人とも着物で回りましょ?」
 誤解を招きそうな言動はわざとなのか違うのか。八宏は眉間を押さえつつハアと一つ溜息を吐き、さりげなく愚神の指を外して店員に紺の着物を頼んだ。


 双方着物に着替えた後は京の街を歩いて回る。八宏の差した黒い傘に愚神が無断で入り込み、向けられる棘を含んだ視線にパンドラはにこりと笑う。
「僕、傘持ってないんで入れて下さい。せっかくのお着物濡らしたらあきませんでしょう? それに相合傘ですっけ? 僕、一度してみたいなと思うてたんです」
 相合傘はともかくとして、「着物を濡らしてはいけない」という理由に反論することは出来ない。八宏は再度溜息を吐き、仕方なしを隠しもせずに愚神を傘に入れてやる。
「あ、あの小鳥さん可愛いですね。このお花お菓子なんですか? 八ツ橋言うのが有名やって聞いたんですけど……八宏はん、あれ食べてもええですか?」
 パンドラは興味深げにきょろきょろ視線をさ迷わせ、あれが食べたいこれを買いたいと何度も袖を引っ張った。見た目以上に子供の素振り。店の人は微笑まし気に子供の様子を眺めていたが、八宏の目から険しさが消え失せることはない。
「八宏はん、お寺を案内してくれません? 京都のお寺は綺麗やって聞いたんです。僕はようわかりませんので、八宏はんが一等綺麗やって思う所に連れていって欲しいどす」
 パンドラにせがまれるままあちらこちらを歩き回り、気付けば京の街の空は濃紺に染まりつつあった。赤灯篭の連なる石段を二人並んで昇りつつ、八宏は消えることのない敵意をしかと言葉に変える。
「なんで僕を呼んだんですか」
「最初にお会いした時、言うてくれましたよね。『直接呼んでくだされば、いつでも“お迎え”に、伺いますので』。その時連絡先も下さりましたよね」
 言ってパンドラはよれた紙を差し出した。すっかり皺にまみれているが、それは確かに、八宏がいつかパンドラに渡した連絡先の紙。
「だから、連絡してみたんです。ほんまはもっと早くお会いしたかったんですけど、実は僕、人間の機械がどうも苦手で……おかげで頂いた連絡先、こんなにボロボロになってしまいました」
 パンドラは目を細め、紙を手品のように消す。そして八宏の方へぐいと顔を近付けた。赤灯篭の仄かな灯りに晒されても、底の見えない愚神の瞳が八宏の顔を覗き込む。
「最初にお会いした時、『お顔、見してくれまへんか』って言うてましたやろ? これが僕の顔ですけど、どうです? よく見えますか?」
 八宏は懐に隠していたものをパンドラに向けようとした。が、その手を愚神がぐっと握った。スマホを掴む八宏の手を止めながら、パンドラはにこりと微笑む。
「遺影の準備とやらはまたの機会に」
 愚神の指は離れていった。どこかでポーンと音がした。八宏は何度目かの息を吐き、慇懃に言葉を紡ぐ。
「そろそろ着物を返しに行きませんと。本日の所はここまでで」
「あれ、もう終わりですか。随分名残り惜しいですが……まあええどす。また“遊び”ましょうね八宏はん」
 八宏は黙して歩き出し、パンドラもそれに習う。傘を差し共に歩く『二人』。否、共に歩いてなどいない。ただすれ違っただけだ。
 八宏は静かに目を伏せた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【邦衛 八宏(aa0046)/外見性別:男/外見年齢:28/職業:葬儀屋】
【パンドラ(az0071)/外見性別:男/外見年齢:16/種別:愚神】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。この度はご指名&パンドラとのお話をご注文下さり誠にありがとうございました。素敵な方との素敵なデート、渾身を込めて書かせて頂いた次第です。
 アドリブ多めとなっておりますので、口調・イメージ等差異がございましたら、お手数ですがリテイクお願い致します。
 今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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2018年03月19日

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