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『とある日の相談窓口 』
佐倉 樹aa0340


「ねぇ、永平。少し相談……というか話をきいてもらえないかな」
 佐倉 樹(aa0340)が李永平(az0057)を呼び止めたのは、支部で偶然永平と顔を合わせた時だった。右目には包帯風の眼帯が掛けられており、残っている左目でじっと永平の顔を見つめる。「自販機の飲み物か軽食でも奢るから」という口上は、誘いをかけたと言うにはやや強引なものがあったが、永平は「いいぜ」と言ってくれた。樹は缶コーヒーを一本渡し、自分の分を弄びながらぽつりぽつりと声を零した。
「私は自分の大事な人がした大事な選択なら、それを尊重したり大事にしたいと思うから、アマゾンで護衛の依頼があった時、仲間にお願いはしたんだ。この右目は納得尽くで対価とした。対価の対象を受け取り既にそれを活用した。こちらから取引を持ち掛けてそれはきちんと成立している。取り引きで得たモノを返せないし返さない。
 だから私の右目を取り戻そうとはしないで。どうか私を強盗や卑怯者にさせないで。仲間にそう言ったんだ。
 けど、自分はその前から、何かを間違えているみたいなんだ。私が間違えていて悪いのなら謝りたいけど、何もわからないままただ謝るのは一番失礼かなって。
 永平は私が何を間違えているかわかる? 永平って大隊長殿だったじゃない? つまり結構それなりに部下がいて、色んな人を見ているわけで……。自分の血縁に相談することも考えたんだけど、私と似たりよったりの思考回路だから今回はかなりアテにならなくて……」
 「普通」の視点を学びたい、樹はそう思っていた。肩を落とす姿は普段の樹に似つかわしくなく、まるで迷子で途方に暮れる子供のようにも思われた。
「俺は、お前が間違っているとは思わない」
 掛けられた第一声は意外と言えるものだった。強く叱責される事を想定さえしていたが、永平は、優しくはないが、怒っているわけでもない瞳で樹へ視線を寄越していた。
「正確には『間違っていない』と言うより『お前の言い分はわかる』という所だが。詳しい状況は知らねえが、お前は必要だと思ったからその右目を差し出したんだろ。右目をぞんざいに扱ったわけじゃなく、どうでもいいものと投げ捨てたわけでもなく、どうしても手に入れたいものがあったから対価としてそいつを渡した――それがお前の考えに合っているかは知らねえが、お前の選択を一概に間違いだとは思わない。
 だが、お前は『欠けている』とは思う」
「欠けている?」
「他人の目にお前がどう映っているのか、他人が何を考えているのか、その視点が欠けている」
 樹は目をぱちぱちさせた。間違ってはいないが欠けている? 永平はコーヒーを一口飲み、溜息混じりに言葉を続ける。
「お前の言い分はわかる。お前は確かに納得してるし、取り引きは公正なものだったと思ってんだろ。それを否定するつもりはねえよ。
 だがそれは『お前の見方』であって『他の誰かの見方』じゃねえ。『お前の感情』であって『他の誰か』の感情じゃねえ。
 例えばだ、お前の仲間が同じように、ある日右目を失くして帰ってきたらどう思う。取り引きのために差し出したと、自分は納得しているから取り返そうとしないでくれと、言われたらお前はどう思う。ああそうだねと納得するのか。右目を失った仲間の姿を、よくやったと喜んでやるのか」
 樹は一瞬想像した。自分の仲間が、自分が悪いなら謝りたいと思っている人間が、右目を失くして帰ってきたら。本来右目がある場所に、ぽっかり穴が空いていたら。
「だからお前は、まず仲間と話し合うべきだ」
 樹は顔を上げて永平を見た。先程より厳しさを滲ませ、永平は樹を見ている。
「お前の仲間がどう考えているかは知らねえよ。俺に答えを求めたようだが、答えを出せるのは俺じゃねえ、お前の仲間だ。お前の間違いも欠けてる部分も、指摘する権利があるのはお前が謝りたい仲間だけだ。
 だからきちんと話し合え。わからないならわからないってちゃんと言え。泣かれようが殴られようがきちんと聞け。そうじゃなきゃお前の欲しい答えは絶対に手に入らねえよ」
「……それは」
 樹は目を泳がせた。それが出来れば苦労しないと言わんばかりに。永平は缶を持ったまま樹の顔をじっと見据える。
「『何が悪いのかわからない』、なんて言ったら怒られそうか? 仕方ねえだろ。他人の気持ちなんてわからねえ。それが『普通』っつーもんだ。俺だってお前の気持ちはわからねえ。お前の仲間の気持ちもわからねえ。それが『普通』だ。それでも知りたいと思うなら本人に聞くしかねえさ。
 あとはそうだな、お前さっき言ったよな。『自分の大事な人がした大事な選択なら、それを尊重したり大事にしたいと思う』って」
「うん」
「だったら、仲間がお前の目玉を取り返したいって言ったら、それを尊重してやるんだな」
 樹はバッと顔を向け、色々と物言いたげな目付きで永平の顔を見つめた。
 永平は樹の噛み付くような視線を受けつつ、どこ吹く風でコーヒーを飲んだ。
「言っておくが、お前の言い分や選択を引き下げろって意味じゃねえぞ。お前はお前でお前のやりたいようにやればいい。目玉を取り返して欲しくねえならそう言い続けていればいい。
 だが、仲間がその上で目玉を取り返したいと言ってきたら、それは認めろ。『尊重する』ってのはそういう事だろ? 『尊重し合う』っていうのは自分の望みを互いに噛み潰し合う事じゃねえ、相反する望みだろうと、互いに好きにやる事を認め合うって事だろう?
 もっとも、お前がそいつを大事だと思っていなかったり、『私はこうしたいのであなたは諦めて下さい』と言うのを『尊重』と呼んでるなら、そりゃあ話は別だがな」
 最後の発音は意地悪だった。樹はむうと眉を寄せ、意地の悪い表情をする永平をじっと睨む。
「ひどいこと言うね」
「俺は何か間違ってるか? とは言え聞くか聞かねえかはお前の自由だ。俺はお前の大隊長じゃねえし、お前が謝りたい仲間でもねえ。
 ただ謝りたい程大事なら、ちゃんと話し合ってこい。ろくに話し合ってねえんだろ? じゃなきゃ何が間違っているかなんて俺に聞くはずがねえ。相手が上手く言えなかろうが、泣かれようが怒鳴られようが、話し合え。お前が仲間を大事にしたいと思っているなら尚更な」
 永平は一瞬だけ優しいような顔をしたが、気のせいだったのかもしれない。立ち上がって背伸びをし、缶をゴミ箱へ放り投げる。
「説教なんざするもんじゃねえな。すっかり首が凝っちまった。缶コーヒー一本程度じゃ足りねえな」
「大隊長殿なのにこういうことは慣れてないの?」
「うちの野郎共はそこまでセンチじゃねえんでな。大体両方殴れば仕舞いだ」
「単細胞なんだ」
「うっせえよ。……ま、もし話が拗れそうなら俺を呼んだっていい。関係ないヤツにしか言えない事もあるだろうよ。
 その場合、コーヒーより高くつくが」
 にっと歯を見せる永平に、樹は柔らかく微笑んだ。そして嬉しそうな表情に、いつもの悪戯っ子の笑みを含める。
「もしもの時はよろしく、大隊長殿」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【佐倉 樹(aa0340)/外見性別:女/外見年齢:19/能力者】
【李永平(az0057)/外見性別:男/外見年齢:19/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。まずは謝罪させて下さい。非常に説教臭くて申し訳ありません……(平謝り)。ただ頂いた相談には、永平なりに真摯に答えさせて頂いた次第です。
 とは言えあくまで永平という一個人の一意見、一助程度になれていれば嬉しいですが、どのように捉えるかは樹様の自由です。
 口調・イメージ等、差異がありましたらお手数ですがリテイクお願い致します。
 この度はご指名下さり、誠にありがとうございました。
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2018年03月22日

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