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『一握の綺麗な気持ち 』
ジェーン・ドゥ8901)&ジャン・デュポン(8910)

「僕がなんて言ったのか覚えてるよね。ねぇ、ジェーン」

 しんとした教会、冷え切った月明かりが暗い礼拝堂に差し込んでいる。

「はい。申し訳ありません」

 聖職者の服を纏い嗜虐的な笑顔を浮かべたジャン・デュポン(8910)の足元に跪いたジェーン・ドゥ(8901)が深く深く、床に額を擦り付けるかのごとく頭を下げながら、詫びの言葉を述べる。
 自らの失敗の代償として彼女は自分の主人である彼から罰を受けているのだ。

 だが、彼女の心はここにはなく、こうなった発端である一人の少年を思い出していた。

『あの子はどうして泣いていたのかしら』

  ***

「子供の感情ってキラキラしてキレイだよね」

 ある日、ジャンがそういったのが始まりだった。
 彼の視線の先には、一人の少年。
 感情のない瞳でジェーンもその少年へと視線を向ける。

「それが壊れる瞬間はもっと。儚くて芸術的でもある」

 そう思わないか?ジャンはそう続け、口元を笑みでゆがめた。

「ねぇジェーン、あの子供を『摘んで』きてよ。ボクのために」

 彼女の主であるジャンはあらゆる生物の感情を自らの糧にして生きる異界の者である。
 昼は人、聖職者として町へ溶け込み人々から情報を得、夜はジェーンをはじめとする僕を放ち質の良い食材を手に入れるべく策略を巡らせる。
 今回はあの少年が主人の糧に選ばれた。いつもと変わらない、ただそれだけのこと。

「かしこまりました」

 紅に藍が深く混ざる夕暮れの中、主人の望みを叶えるための道具として、今回もいつも通りにジェーンは恭しく頭を下げた。

  ***

「あ、ジェニーちゃん!」

標的の少年に接近して数日。ジェーンはすっかり少年と打ち解けていた。

「今日もご両親はいないのね」

「……。へ、平気だよ。ジェニーちゃんがいるもん」
 少年の両親は理由こそ分からないが夜、家を空けることが多いようだった。
 一人家で帰りを待つ少年に、お友達になりたい。と声をかけたのが始まり。
 最初こそ警戒した少年だったがいまでは毎日来てほしいといわれるほどの仲になっていた。

「ねえ、ジェニーちゃんはどうして起きるといないの?」

「朝、私がいたらお父さんとお母さんがびっくりしちゃうわ」

「じゃあパパやママが帰って来た時、僕が説明して……ねぇ……僕が悪い子だからパパもママも帰ってこないの?」

 こぼれた言葉の後を追って少年の瞳から涙があふれだす。

「それな……そんなことないわ。悪い子だから帰ってこないわけじゃないわ」

 言いようのない衝動に突き動かされるままに少年を抱きしめたジェーンは、彼が眠るまでずっと髪を撫でた。
 そして、少年が目覚めた時、寂しくないようにと、ジェーンにとって唯一の[オトモダチ]である木偶人形を置き二度と彼の元へ行くことはなかった。

  ***

「キミは他の家畜どもとは違うと思っていたのになぁ」

 ジャンの言葉と共に加えられる罰は徐々に苛烈になっていき体中に痛々しい傷が出来ている。

「申し訳ありません」

「ボクが手ずから摘んでもいいんだけど、それをボクがしない理由も知ってるだろ?」

 ジェーンの主人であるこの青年は人が壊れていくのを『見る』のが好きだということをジェーンは十分すぎるほどに知っている。
 その為に今回の様に僕を対象へと近づけ、親密な関係にさせ、目の前に連れてこさせる。
『摘む』と彼が呼ぶその行為を彼自身が行うことはない。
 大切なものを目の前で奪う。
 その時の怒りと悲しみに満ちた表情を見るのが好きなのだ。
 その上で、真実を明かす。
 お前は騙されていたのだ、と。お前が信頼した、愛したそれは元から自分のものだった、お前のこと等何とも思っていないのだと。
 騙されていたことを知った時の苦渋に満ちた声。絶望に叩き落されたような表情。どす黒い感情に染められたその感情こそが彼にとっては甘美なスイーツになる。
 だが、彼はあくまで食すものであり、食材の確保や調理をするものではない。
 そういった事は僕のすることだと彼は考えているようだった。

「はい。存じております」

「じゃあ、どうして出来なかったのかな?ねぇ?」

 ジェーンからの答えはない。
 答えられない。というのが正確だろう。
 何度考えても、どれだけ考えても。彼女の中に答えが出てこないのだから。
 あの少年に初めて会った時感じた違和感が、会えば会うほど増していくのをジェーン自身理解していたが、それを気にすることはなかった。
 あの時、少年の涙を見た時、今連れて行くのが最適だと考え口にしようともした。
 だが、その時、黒い感情に覆われ、そこにあらゆる恐怖のトッピングをされ食べられていく少年のビジョンが脳裏に浮かび、気が付くと違う言葉が口をついていた。

『あの子はどうして泣いていたのかしら。私はどうしてあの時……』

 急に責め苦の手が緩められ、ジェーンは不思議そうな表情を浮かべる。

「ふん。そういうことか」

 感情をジャンに食べられた者は空いた場所に核を植え付けられ彼にだけ忠誠を誓う僕へと変えられる。
 核はジャンと繋がっているため、彼はすべてではないが僕の感情や考えを読むことが出来るのだ。
 昔、そうして僕と変えた彼女の胸中を読みジャンは少し考えてから、にやっと笑った。

「キミにまだそんな感情が残っていたなんてね。でも、それもこれでおしまい。全部塗り替えてあげるよ。キミにはそんな綺麗な感情いらないんだから」

 そう笑うジャンの表情は狂気に満ちていた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8901 / ジェーン・ドゥ / 女性 /20歳(外見年齢)/ 一握の慈悲 】

【 8910 / ジャン・デュポン / 男性 /523歳/ 感情喰らい 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初めまして。今回はご依頼ありがとうございました。

 最後、少し意味深な終わりになってしまったような気も致しますが特に他意はございません。どのように塗りつぶされてしまったのかはご想像にお任せいたします。

 お気に召されましたら幸いですが、もしお気に召さない部分がありましたら何なりとお申し付けください。

 今回はご縁を頂き本当にありがとうございました。
 またお会いできる事を心からお待ちしております。
東京怪談ノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年03月26日

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