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『年の初めの戦とて 』
ウィンター ニックスaa1482hero002)&スノー ヴェイツaa1482hero001)&笹山平介aa0342)&柳京香aa0342hero001)&ゼム ロバートaa0342hero002)&齶田 米衛門aa1482


 正月といっても、元旦・二日を過ぎれば『気分』も解消されてくる。
 元旦は特に『家族で過ごすもの』というイメージが強くて、友人知人の家を訪ねることも遠慮しがちだけれど。


「なあ、平介」
 朝から、テレビでは退屈な特番ばかり。
 かといって外出や何がしかの提案を自分からはしにくい。
 暇を持て余したゼム ロバートは考えも無く笹山平介の名を呼ぶも、彼は部屋の片隅でスマホの画面に集中している。
 重要な連絡事項でも届いたのだろうか。この時期に?
「お茶、2人とも飲むでしょ。こういうノンビリも良いんじゃない? お正月だもの」
 ゼムの様子に気づきながら、柳京香はテーブルに3人分のカップを並べる。そこでようやく平介が顔を上げ、戻ってきた。
「いやあ、平穏ですね♪」
「……嫌いじゃないけどな」
 緑茶の香りを鼻先で楽しみ、ゼムはカップに口をつける。
 ほのぼのとした家族の風景。
 まあ、……悪くはない。
 ――が。

「ゼームー殿ー! 力を貸してくれないかー!」
 『野球しようぜ!』と同じノリの大声で、正月の平穏は唐突に崩された。

「!? あの声は……」
 ひとしきり咽こんでから、ゼムは玄関へ向かう。誰何するまでもない、乱暴にドアを開ける。
「叫ぶな……ここにあるだろ……」
 コレを鳴らして話せ、大声を出すな。暗にインターフォンを指し示すも、相手には全く通じていない。
「おお! ゼム殿!」
 晴れ晴れとした空と同じ明るい笑顔を浮かべ、ウィンター ニックスは両腕を広げて喜びを表現しているらしい。
「いらっしゃいませ♪」
 そこへ、ゼムの後ろから平介が顔を出す。
「これは平介殿! 京香殿は新年を迎えてますます美しくなられたな! 明けましておめでとうだ!!」
「明けましておめでとう、ウィンターさん。嬉しい言葉をありがとう。今日はどうしてこちらへ?」
「そ、そうだ。何で家を知ってるんだ……まさか平介が……?」
 ウィンターの『あいさつ』へ、京香が涼やかに切り返す。投じられた疑問に、ゼムがハッとして平介を振り返った。
「連絡網がありますので♪」
「連絡網……」
 そうか、所属小隊の。
 先ほど平介がスマホを確認していたのも、何か連絡事項があったのかもしれない。
「今日はゼム殿へ折り入って頼みがあって来たのだ」
「……俺に頼みだと?」
「ウィンターさん1人だけかしら? 玄関先で立ち話も冷えるし、上がっていって。いいでしょ、平介?」
 京香の気遣いへ、もちろん平介は笑顔で頷いた。




 『福袋』を御存じであろうか。
 それは新春のお楽しみ。
 衣類に始まり装飾品や食料品、さまざまな業界が正月に商戦を仕掛けている。
 商戦――そう、『戦』である。そこは戦場だ。狙った獲物を、客もまた命を賭して手をのばすのだ。
「――と聞いた。事情により参戦できぬお姉さまたちに代わり某が戦場へ向かうと約束をしたのだが、ひとりでは荷が勝ちすぎる。そこでゼム殿に協力を頼みたいのだ」
「……その女達に報酬は用意させてあるんだろうな?」
 お人よしに付け込まれていないか? そうゼムは訊ねる。
「友として頼みたいのだが……うむ、依頼とするならば家で正月料理などはどうだろうか?」
「俺のことはどうだっていい。……いや、それもそうか。女達からの報酬は色男、あんたが全部受け取れ。あんたからは俺が頂く」
 女どもからの何がしかを、ゼムが分け与えられたところで対応に困るだろう。
 ウィンターが対価を正しく受け取っているならそれでいい話だ。
「それでは、ゼムはウィンターさんとおでかけですか♪」
「あ、ああ……そうなる、か」
 今から行けば百貨店の開店前に間に合うだろう。
(友人と2人で……。ウィンターさんのおかげで、ゼムも『人らしさ』が表に出るようになりましたね)
 家族の変化を見守る平介の表情は、普段に増して優しい。
 2人を玄関先で見送る段になり、平介のスマホが鳴動した。
「おや、齶田さんからです」
 齶田 米衛門は、ウィンターの契約相手である。ウィンターとゼムは足を止め、何事かと様子を伺った。
「はい、……はい。ええ、ちょうど出かけるところですよ♪」
 漏れ聞こえる音声で、なにやら米衛門が焦っていることだけは伝わる。

『心配なんで、ちっと買い物さ付き合ってくださいッスよ!』

 はっきりと聞こえた嘆願の言葉。
 一同は顔を見合わせ、ウィンターはきまり悪そうに頬をかき、ゼムは嘆息し、京香と平介が笑いをこぼした。




 百貨店最寄り駅で、米衛門とスノー ヴェイツが待っていた。
「こりゃまた何してんスか兄さん」
「はあ……。『福袋買ってくる』だけで伝わるかよ」
 スノーは、呆れ顔でウィンターの胸元を小突く。
 ウィンターから連絡を受けたスノーが心配し、米衛門へ伝え、米衛門から平介へ連絡が入った、という流れだ。
「大勢で買い物も賑やかで楽しいな!!」
「懲りろ!!」
 ズドッ
 先ほどウィンターを小突いたスノーの小さな拳が、今度はみぞおちに入る。迷いない動作に、ゼムは少しばかり引いた。
「ここまで来たんだ、つまみ食いされた分のおやつ補充していくか」
「……すまない、俺が悪かっ……テーブルの上にあったので、つい……」
 おやつ予算をウィンターから受け取ったスノーは『だけど』と視線を平介一行へ向ける。
「京香」
 こうして居合わせるのも何かの縁。
「ゼムが一緒ならウィンターは放って大丈夫だろ。前の『約束』、行かないか?」
「!! 嬉しい!」
 スノーの提案に、京香は二つ返事で応じる。
 ゼムにはウィンターがいるし、平介には米衛門がいる。
(これなら、今日は女の子らしい遊びをしてもいいんじゃないかしら……?)
 人目を気にせず、自分の興味のあることができる。とてもドキドキする!
「――という話の流れでして」
「なるほど、御礼に正月料理ッスか。福袋は……それだけでエネルギーさ持っていかれますし、料理はオイが受け持つッス」
 米衛門は福袋に関してちょっとした恐い思い出がある。
 兄弟の助けをしてやりたい気持ちはあるが、そこはゼムへ託そう。
「たはー、正月ってとおせちだと思うんスけど、お雑煮にするッスよ!」
「人数も多いですし、そちらの方が楽しめそうですね♪」
 おせちは、年末から仕込みをして備える料理だ。手間暇を考えても、シンプルに体の温まる雑煮が良いだろう。
「弟よ、アレだ、伊達巻ってのを食いてェな」
「ぬぬ……伊達巻……ばっさまさ聞くがなぁ」
 スノーのリクエストを受け、米衛門は頭を抱えた。
「伊達巻でしたら、私もお手伝いできますよ♪」
「ほんとッスか!? はー、笹山さんは頼りになるなぁ……」
 連絡してよかった。しみじみ頷いてから、米衛門は一行を振り返る。
「そいじゃ、3組に分かれて別行動ってことでいいッスか ……誰も居ねェ……」
「私たちも行きましょうか」
 英雄たちに振り回されっぱなしの状況に、平介がクスクス笑った。




「おまえ、それ……」
「某の角は、人混みの中では危ないからな。万が一にもお嬢さんやお姉さまたちを傷物にはできぬよ」
 鹿のように立派な角を隠すため、ウィンターは布を巻きつけて福袋販売会場の列に並んでいる。
 珍妙な姿に思えたゼムが掛ける言葉を探す間に答えられ、『あんたも大変だな』とポツリとこぼした。
「それにしても圧巻だ。ゼム殿! 乱戦時の動きの訓練にピッタリだな!」
「っ、……そうだな」
 その発想はなかった。
 周囲は若い女性が多く、いかに傷を負わせず立ち回ればいいやら考えていたゼムだったが、『乱戦』……敵も味方も入り混じり、斬るもの斬らぬもの避けるものを瞬時に判断せねばならぬ場。
 そう考えれば、たしかに良い訓練になるだろう。
「それで……どういうモノを取ってくればいい……」
 少しばかり、ゼムの意欲が増した。
「うむ。『食品詰め合わせ』を頼まれたのだ。お二方からの頼みゆえ、某とゼム殿が1つずつ入手できれば良い!」
(……? 若い女が好きそうなモノじゃないな?)
「滅多に安売りをしない、高級輸入食材店の代物らしい」
「……そうか」
 たとえば料理が好きな女ならば、食いつくのかもしれない。
(その割に……)
 一度は納得したものの、周囲の年齢層が、やはり違うように思う。高い。
 いや、女性相手に失礼か。京香へ話そうものなら叱られそうである。

『それではただいまより――』

 販売開始のアナウンス。終わるか否かのタイミングで、群衆が動き出した!!
「なっ……!?」
 一瞬前まで、全員がおとなしく列に並んでいたはずだった。
 それが、一斉に乱れ押すな押すなの乱闘状態だ。
「くっ」
 人波をかき分けようとしたらしい拳が振り回され、ゼムは小さく首を捻って避ける。
「どいてどいて、買い逃すわけにはいかないのよー!!」
 血走った眼で、非常に楽しそうに女性たちは先へ進む。
(こいつら本当に人間か……? 普段知っている一般人の動きではないぞ)
 ゼムは、約束を交わした相手以外に手出しや言い返す事はない。
 驚きは表情にだけ表し、理不尽な攻撃は徹底して回避する。回避した先に一般人がいないかどうかも確認しながら。
「これは……たしかに、単純な乱戦ですらねえ……」
 グングン五感が研ぎ澄まされてゆく。
「なるほど、これが主婦の底力か!」
 一方、ウィンターは大きな体格を利用して、ゆっくりとだが確実に前進している。多少ぶつかられても気にしない。

『えー、残りわずかとなりました。残りわずかとなりました。お並び頂いたお客様には申し訳ありませんが、商品はなくなり次第――』

「……肩を貸せ、色男」
「うむ?」
 戦果を得ずに引き下がれるか。
 遅々として進まぬ前線に舌打ちをし、ゼムはやや前方を行くウィンターへ呼びかけた。
「よしきた! 某に任せてくれ、ゼム殿!!」
 床を強く蹴りつけ、ゼムが集団から逃れるように跳躍する。着地点はウィンターの肩。
 考えを察知したウィンターは、ゼムの両足を掴み、それから最前線に向けて力強く放った!!
「……あのワゴンだな」
 高い所からは良く見える。
 ゼムは空中で体を捻り、彼の登場にどよめいて空いたスペースへと着地してみせた。
「……おい!」
「うむ、確かに受け取った!!」
 無造作に袋を3つ掴んでは、ウィンターへ放った。
「1つは俺たちの戦利品でいいだろう? 苦労したんだ……正月料理に使ってもらえ」
 レジへ向かうウィンターの背に、不器用なゼムの言葉。
「流石はゼム殿。心遣い、感謝するぞ!!」




 スノーと京香が交わした約束とは、お菓子作りの道具選び。
 キッチン用具を置いているフロアへ向かいながら、スノーは何を買おうか思案する。
「正月料理は米衛門たちが受け持ってくれるんだよな。それじゃ、オレたちはお菓子を作ろうか」
「……うん、お願い!」
 道具の買い物だけかと思っていたら、スノーの指南付でお菓子作りまで!
 京香は瞳を輝かせ、コクコクと頷く。
「京香と作るんならクッキーとかなら出来っかなァ……流石に失敗しないだろ。ってなると、型か」
 オレそんなに料理出来ねェけどよ、ちみっこが食えるもんなら何故か作れんだよな。
 前にいた『世界』と関係があるのかはわからない。ぼやけた記憶は、京香も同じくするところだろう。
 曖昧な部分を抱え、今の『世界』を楽しんでいる。
 なんとなく話したくなっただけだが、京香は静かに聞き入っていた。
「私はね……大切な人のために、ちょっとずつでも女の子らしくなりたいなって思ってて。誰だって子供の時代があるもの、子供が好きなものはみんなが好きなはずよ」
 だから、スノーと一緒に作れて嬉しい。素直に伝える。
 曖昧な過去も、確かな『今』に生きている。
「うーんと、クッキーね……。型……型は……、ハートとか……ネコ型とか……あるかしら」
「最近は、たくさん種類が出てるはずだゼ。ネコかー、かわいいよな」
 ネコなら、生地もプレーンだけではなくアレンジが楽しそうだ。
 ハートならトッピングでバリエーションを付けられるだろう。
 京香の希望に対し、スノーが指折り数えて提案していく。
(すごいわ)
 自分は料理本を手にしていないと浮かばないアイディアを、スノーはポンポン挙げる。京香は感激してしまう。今から楽しみで仕方がない!
「あれ? こっちでも福袋やってるのか」
 売り場へ近づくにつれ、喧騒が伝わってきた。
「キッチン用具の福袋ですって。料理と、お菓子と……。楽しそうね。……スノー?」
 ピンポイントで目的の商品があるから、自分たちは無縁だろう。そう眺めて通り過ぎようとした京香だが、スノーが足を止めている。
「こういうお祭り騒ぎって、好きなんだよなー!」
 おそらく服飾系に比べればおとなしい方だろう。料理好きの若い奥様たちが、楽しそうに見えない袋の上から品定めをしている。
「……スノー?」
「待ってろ京香、ちょっと行ってくらァ!!」
 邪魔にならないよう尻尾を体に巻き付け、姿勢を低くしてスノーが突貫していった!

 戦利品は、タルト型やオーブンミトンなど可愛らしいお菓子作り道具詰め合わせ。
「ミトンか……そうだ。京香京香……エプロン買って行こうゼ!」
 百貨店なら、品ぞろえも良いだろう。
「そうだなー。丈夫で洗いやすそうで……京香なら、色が落ち着いたものが似合うかな?」
「スノーはどういうエプロンを持ってるの……?」
「オレは割烹着だな」
 意外だった。
「私、割烹着もみてみたい」
 エプロンなら普段使いを持っているが、割烹着は持っていないので逆に欲しい。
「なるほど。たしかに便利だしな」
 売り場には、馴染み深い和装に合うオーソドックスなモノから、カジュアルなデザインまで豊富に揃っていた。
 中でも京香の目を引いたのは、洋装にも合わせやすい造りの白の割烹着。ほどよく軽いデザインで、野暮ったくならない。
「何だか……奥様って感じよね……。わ、私も欲しいかも……」
「おー。髪も結ってひとつにまとめるか?」
 男性陣の目があったなら、出来なかった会話。
 女子同士の、楽しいお話。
 色んな『もしも』に花を咲かせながら、京香は気に入った1点を手にした。




 その頃、平介と米衛門は地下の食品売り場にいた。
 こちらはさすがに福袋はないものの、新年を売りにした縁起物や珍しい高級食材が売り出されている。
「新年早々、どちらも賑やかですね♪」
 カートを押しながら、平介は楽しげな表情の客たちを眺める。幸せそうな姿は、見ている方も幸せな気持ちになる。
「昔は、三が日は家で過ごすもんだと思ってたッス」
 三が日はおせちとお雑煮を食べて家族でゆっくり過ごすものだとばかり。
 それが今では――都会では、新年早々、バトルが展開されている。
「オイはこっち来るまでは、ばあちゃんとじいちゃんと過ごしてたッスよ」
「齶田さんは祖父母と一緒に暮らしていたんですか?」
 良いですね。平介は穏やかな笑顔で言う。伸び伸びと育った彼の姿が目に浮かぶようで。
「笹山さんは、正月ってどう過ごしてたッスか?」
 昔を懐かしみ、米衛門は他意なく訊ねる。
「私ですか……」
 卵を1パック手に取り、伝えていいのか思案しながら平介は言葉を探した。
「普通の家族は……どういうモノなんでしょうかね……」
 ――お父さん、はやく来てよ。おいてっちゃうよ。
 ――お母さん、待って。あたしも手伝う!
 ――ずるい、おねえちゃんばっかり!
 賑やかな家族の声が、2人の後ろを通り過ぎていく。
「普通の家族はやっぱり……護りあうんでしょうか」
「『普通』、ッスか」
 平介がこだわる意図を汲み取れず、米衛門がオウム返しに呟いた。
「私はずっと施設育ちでしたので……家族というモノが良くわからなくて」
 漠然としたイメージはある。それが自分に当てはまるかと言えば、違うと思う。
「両親がいた事は分かるのですが……」
 言葉を挟めずにいる米衛門へ、平介は簡単に事情を打ち明ける。
 施設育ちでありながら、12歳までは毎年誕生日プレゼントが届いていたのだ。
 それが……13歳で、パタリと止まった。
 この世に居なくなったのか。もう充分だろうと判断したのか、あるいは……。――前者だろうと、平介は考えているが。
 いずれにしても、中途半端な愛情だと、思う。
 施設へ預けるくらいなら、片鱗など見せないでほしかった。期待などさせないでほしい。
「嫌いになれたら……楽だったんですけどね……」
 米衛門には届かない声で、平介が呟いた。
 12歳までは、少なからずの愛情は注がれていたのだろうと思えば憎むこともできない。
「…………」
 口元に笑みをたたえたままの平介へ、米衛門は掛ける言葉が見当たらない。
(ああ……なんとなぐ、笹山さんとは似てるような気ぃがしてたのは……)
 それでも、不思議に感じていたことについてストンと腑に落ちた。
「そうなんスか……ちっと踏み入ったこと聞いちまったッスね」
 首の後ろをポリポリとかきながら、米衛門は視線を落とす。
「詫びにはならねけんど、独り言ッス」
「……?」
 普段と声のトーンが違う。平介は振り向きかけ――『独り言』なのだと思い直し、卵をそっとカゴへ入れた。
「オイの家族は祖父母ッス。両親はオイがちっちぇ頃に空に行っちまったッス……こっちゃ来てこんたの話したの初めてッスなぁ」
 米衛門と平介が知り合って、それなりの時間を重ねているのに、しっかりと話し合うことはなかったように思う。
 米衛門は胸をトンと叩き、気持ちを切り替えるようにニッと笑った。
「だどん、家族じゃなくても護りたいと思ったらそれを護るんじゃないんスかね!」
 米衛門にとって、スノーやウィンターが居るように。
 平介には、京香やゼムが居るように。

「家族より大事なモノが……出来た……」

「え?」
「いいえ。何でもないです」
 ――肉親には、もしかしたら。
 米衛門の言葉尻をとるような意地の悪い考えは、平介が恐れる答えの一つだった。
 思わず口にしていまい、相手に聞こえなかったことに安心し笑顔でかき消す。
(お互いさま……ですね)
 自分だって、家族に対して真剣ではなかったのだろう。その気になれば、今からだって探すことはできるだろうから。
「さてと、帰りましょうか。材料は整いましたしね」
 平介の笑顔が、どことなく悲しげに見えるのは米衛門の気のせいだろうか。
「戻ってからが本番ッスから。楽しいって思う事をいっぱいやって行くんが一番ッスよ!」
 そう。今年の家族たちと過ごす正月は、まだまだ終わっていないのだから。




 連絡を取り合い、戦利品を手に正面玄関へ集合。
「ウィンター、目当てのモンは手に入ったンか?」
「うむ! 戦果を心配してくださるのか! 流石だな!」
「いや心配はしてねェよ……楽しんだみてェだな」
 お高そうな福袋を提げ、ウィンターは満面の笑みだ。スノーに気に懸けてもらったことで、嬉しさが増している模様。
「ゼム、いつもコイツと付き合ってくれてありがとうな」
「……いや、俺は別に……」
(こいつを1人で歩かせるのも心配だしな……)
 とは、口にしないけれど。
「そっちはどうだ……?」
 ウィンターに食べられたおやつの補充、と言っていたが。
「ふふふ」
 それには、京香が秘密の笑みを浮かべる。
「拳以外の解決法もあるのよ」
「あるのか」
 真顔の応酬に、見守っていた平介はいつもの温和な笑い声を漏らす。
「平介たちは、心配不要かしらね」
 水を向けられ、2人は静かに頷いた。
(……こいつの笑顔は、平介とは違う)
 ゼムは、そう感じている。
 繊細な部分まではわからないが、その『違い』が良い影響となるだろうか。
 思えば女性陣2人も、似ているようで違う。拳で解決は共通だが。


 それぞれが『2人だけの結束』を高めたところで新春初売りという名の戦場を後にした。
 その後に待つのは宴の準備。
 長く楽しい一日の後半戦に向け、一行は歩きだした。




【年の初めの戦とて 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1482hero002/ウィンター ニックス/ 男 / 27歳 / 福袋争奪戦  】
【aa0342hero002/  ゼム ロバート  / 男 / 26歳 / 福袋争奪戦  】
【aa1482hero001/ スノー ヴェイツ / 女 / 20歳 / 女子力下準備 】
【aa0342hero001/    柳京香   / 女 / 24歳 / 女子力下準備 】
【aa1482    /   齶田 米衛門  / 男 / 21歳 / 正月料理買出 】
【aa0342    /   笹山平介    / 男 / 25歳 / 正月料理買出 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
明けましておめでとうございます!
大変大変おそくなりまして、申し訳ありません……。お待ちいただき、ありがとうございました!
楽しく賑やかなお正月をお届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年03月26日

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