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『竜を食む紫 』
ファルス・ティレイラ3733

(――きたみたいね!)
 響いた物音に、ファルス・ティレイラはバッと顔をあげる。音がしたのは、この館の奥……数々の魔法道具がしまってある倉庫だ。
 音の正体には見当がついている。最近、この館に保管されている魔法品を盗み荒らしている魔族だろう。何でも屋であるティレイラは、魔女からの依頼でその魔族から魔法の品を守るように言われていた。
(今日は何も盗ませやしないんだから。絶対に捕まえてやるわ)
 倉庫に入ったティレイラは、手近にあった魔法道具を手に取り構えながら盗人の姿を探す。
 案の定、そこには物を物色する怪しげな影があった。音を立てぬように、そっとティレイラはその影へと近づいて行く。少女の手が、ゆっくりと魔族に向かい伸ばされ――
「おっと! 見つかっちゃったみたいね?」
 ――だが、気配に気付いたのか魔族はすんでのところでその手を避けてしまった。
「あ! こら、待ちなさい! 逃がすもんですかっ!」
 逃げ出し始めた魔族を、すかさず少女は追いかける。普段は隠している竜の翼と尻尾を生やし飛翔したティレイラは、まっすぐに魔族の背中へと向かいそのまま体当たりを食らわせた。
 そして、バランスを崩し倒れ伏した魔族に、先程手に取った魔法道具を着ける。魔力を宿した淡い光が、その瞬間周囲を包み込むように照らした。
「な、何?」
 思わず目を瞑ってしまったティレイラが次に目を開いた時には、そこに魔族の姿はなかった。代わりとばかりに、その魔族とまるきり同じ形、同じサイズの巨大な宝石が少女の目の前には佇んでいる。
「わぁ……きれい……」
 思わず、そんな呟きが少女の唇からはこぼれ落ちた。無意識の内に、ティレイラの手が宝石の方へと伸ばされる。宝石に……否、魔法の宝石と化してしまった魔族に、もはやその手を避ける術はない。
 どうやら先程の魔法道具は、身につけた者を宝石にしてしまう力があったらしい。しかも、今まで見た事ない程、とびきりに美しい宝石に、だ。
「って、いけないけない。つい見惚れちゃった」
 何にせよ、盗人は捕まえたのだ。後は依頼主に報告するだけだろう。ひと仕事終えたティレイラは、ホッと一息吐く。
 驚異は去ったと油断していた彼女は、背後から忍び寄っていた影に気付かない。
 ……知らなかったのだ、盗みに入った魔族がまさか、一人ではなかっただなんて。
「呪い移しの魔法道具よ、効力をこの女に移せ!」
 不意に耳に届いた聞き覚えのない声。同時に響き渡るのは、意地の悪さを感じる楽しげな笑声だ。
 思わず振り返ったティレイラの身体に、今まで隠れていたもう一人の魔族はとある魔法道具を装着する。
「う、嘘……!? 体が……!」
 ティレイラの体は道具を装着された箇所から徐々に透き通り、紫色の石となり固まり始めた。
(違う、ただの石じゃない……! これは……宝石?)
 魔族がこれを着ける前に叫んでいた言葉を、ティレイラは思い出す。
『呪い移しの魔法道具』……その名前の通り、先程ティレイラが魔族につけた魔法道具の効果がそっくりそのままティレイラへと移ってしまったのだろう。宝石と化してしまっていた魔族も呪いから解放され、二人の魔族の視線が驚き慌てるティレイラに突き刺さる。
 必死に魔法道具を引き剥がそうとするが、侵食は止まらない。紫色はまるで彼女を食らうように広がっていく。
「ほらほらぁ、早くしないと〜!」
「宝石になっちゃうけど、いいのかしら?」
「う、うるさい! もうっ、どうして外れないの!?」
 二人の魔族達は、けらけらと笑いながらティレイラの事を囃し立てた。魔法道具は、外れない。
 ティレイラはもはや魔族達に構う余裕すらなく、必死にその魔法から逃れようともがく。しかし、無慈悲にも呪いは尻尾の先や翼にまで広がり、彼女の指先すらも美しい石に変えてしまった。
「や、やだ! 間に合わない、間に合わないよ! もう、ダメ〜!」
 そう泣き声をあげた瞬間、ティレイラの動きはぴたりと止まってしまう。紫はその涙すらも飲み込み、とうとうティレイラは全身が宝石になってしまったのだ。
「あーあ、ざーんねんでした!」
「もう少しで取れるかもしれなかったのに、惜しかったわね〜!」
 心にもない事をのたまい、魔族達は楽しげに動けぬ竜少女へと声をかける。
「本当に宝石になっちゃった! はは、冷たくて気持ちい〜!」
 もはや抵抗する術など持たぬティレイラ。そんな彼女に、魔族は抱きついたり触ったりと好き放題し始めた。
 体温を失くした彼女の質感や温度を楽しむように触れていた魔族達は、ふとある事に気付き目を輝かせる。
 ティレイラの肌は、竜族の魔力が溢れていた。その宝石の肌に触れていると、冷たいはずなのに心はホッと温かくなるような、そんな不思議な心地よさを感じるのだ。
 美しく、それでいて触り心地の良い宝石。そんなものを前にして、魔族達が我慢出来るわけがない。ベタベタと、二人は更に遠慮なしにティレイラの身体中を触れ回る。
 今まで盗んできたどの魔法道具よりも美しいその宝石から離れるのは惜しく、魔族達は宝石の感触を楽しみながらも彼女をここから盗み出す手順を相談し始めるのだった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました! ライターのしまだです。
美しい宝石と化してしまったティレイラさんのお話、このようになりましたがいかがでしたでしょうか。お楽しみいただけましたら幸いです。
それでは、またいつか機会がございましたらその時はよろしくお願いいたします!
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年03月27日

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