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『ひとりあるき 』
御代 つくしaa0657


 電灯だけの夜の道を、俯き加減で御代 つくし(aa0657)はたった一人で歩いていた。
 女の子の一人歩きなど物騒極まりないことだが、つくしは自らそれを望み英雄と道を別った。
「大丈夫だよ」
「心配ないよ」
「急がないと遅刻しちゃう」
「それじゃあ、また、明日ね」
 そう、振り返って笑顔を浮かべ、つくしは一人で歩き出した。ちゃんと笑顔でいられたか。声は震えていなかったか。そんなことも、つくしだけでは確認することも出来ないが、英雄が何かを告げる前に背中を向けてその場を去った。
(立ち止まれば、泣いてしまいそうだったから)
 一人で歩く夜道は寂しい。先程までにぎやかな遊園地にいたからなおのこと。楽しいばかりのアトラクションも、華々しいパレードも、今は全て寂しさを際立たせるだけの小道具。
 それでもつくしは一人で歩く。自分で「帰ろう」と言いながら結局家には帰らずに。隣を歩くと言ってくれた英雄を、道の途中で置き去りにして。
「依頼があったの忘れてた」
「このまま行った方が早いから」
 そんなのただの言い訳だ。二人で一緒に家に帰って、慌ただしく支度をして、「じゃあ、行ってくるね」と笑顔で手を振ることだって出来た。そして「いってらっしゃい」と見送ってもらうことだって出来た。いつも通りに。いつも通りに。そんな風にだって出来た。
 そうせずに別れたのは隣にいたくなかったから。いつも通りの笑顔を、浮かべる自信がなかったから。
 偽りがないなんて分かってる。私を気遣ってくれているのも知っている。『その誓いに偽りはありません』なんて、そんな必死そうな声で言われなくても知ってるよ。
 隣を歩くと言ってくれて、そうしようとしてくれているのも、どうにかしようとしてくれているのも全部全部分かってる。
 それでも、言えない事がある。
 信頼しているから、大好きだから、どうしたって言えない事。
 だって弱いところを見せたら、貴方は私を嫌わない?
 そんなことを考えていたのかと呆れたりしない?
 私はそれが怖い。
 本当はこんな人だったんだと貴方に知られるのが怖い。
 好意が少しでも損なわれるのが怖い。
 大好きで、信頼していて、傍に居て欲しいから、
 私は貴方に近付かれたくない。
 こんな顔を見られたくない。
 本当は泣きそうだった、今にも爆発しそうだった。
 それでも私は、笑顔で、一緒に帰りたかった。
 一緒に、家に、帰りたかった。
 笑いながら、家に帰りたかった。

 胸に渦を巻く言葉は喉を通した音にはならず、代わりに目からぼろぼろと水滴が零れて落ちる。
 誰も見てなどいやしないが、つくしは袖で瞼を拭う。泣いちゃダメだってわかってる。泣いたら、それがくせになってしまう。いつかきっと泣き出してしまう。弱い私を見せてしまう。笑顔で隠せなくなってしまう。
 私は泣きたいわけじゃない。弱音を吐きたいわけじゃない。笑顔でいたい。いつも通りの笑顔でいたい。ずっと楽しくて、笑ってて、向日葵みたいな。私はそんな人間でありたい。そんな私で過ごしたい。弱い私でいたくない。弱い姿は見せたくない。だって弱い姿を見せて、嫌われたらどうしよう。呆れられたらどうしよう。離れていかれたらどうしよう。嫌わないで。呆れないで。どうか離れていかないで。誰も私を置いてなんていかないで。私をひとりぼっちにしないで。
 誰も離れていかないなら、大切な人達が私の傍にいてくれるなら、私は私が傷付くことなんて全然平気なんだから。

 でも現実は私の大切な人を傷付けて、私はそれを遠くから見ていることしか出来ないの。

 別れた時の英雄の顔を思い出す。「依頼があるから」「このまま行くね」と、つくしがそう言った時に彼がつくしに向けた顔。眉を顰めて、何か言おうと口を開いて、でも、何も言わなかった。実は一度だけ振り返った。去っていくその背中に思わず手を伸ばし掛けた。うなだれるようなその背中に、けれど手は伸ばせなかった。
 
 あんなよわねをいったから、あんなことをいったから
 やっぱり、わたしのこと、きらいになったのかな
 だから『信頼出来ませんか』なんて、そんなことをいったのかな

 信頼してないわけ、ないのに
 貴方のこと、きっと誰より、私は誰より信じているのに

「ダメだね、私、弱い……弱いよ……もっと強くなりたいのに。
 何もなくさなくて済むように、もっと……強くなりたいのに」

 つくしは頬をぱちんと叩き、顔を笑みの形に作ろうとした。泣いたらダメ。悲しそうな顔をしたらダメ。心配させたら絶対にダメ。だから笑顔でいなくっちゃ。
 だから黙って。弱い私。だから泣きやんで。泣き虫な私。だから笑って。嘘吐きな私。どうか私に、いつも通りの笑みを作らせて。
 いつも元気で明るくめげない、そんな私に戻らせて。

 とぼとぼと歩きながら顔だけでなんとか笑みを浮かべる。頬を濡らす水滴は拭って気付かぬふりをする。私、ちゃんと笑えているかな。いつも通りに笑えているかな。楽しそうに笑えているかな。なんでもないように笑えているかな。
 誰もいない空間に、にっと笑って歩き続ける。その背中を照らすのは道に並んだ電灯だけ。

 太陽はまだ遠い。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【御代 つくし(aa0657)/外見性別:女性/外見年齢:18歳/能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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2018年03月28日

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