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『兄弟、来る! 』
阪須賀 槇aa4862)&宮ヶ匁 蛍丸aa2951)&煤原 燃衣aa2271)&阪須賀 誄aa4862hero001)&無明 威月aa3532)&藤咲 仁菜aa3237

プロローグ
 穏やかな午後、温かい日差し。空気もからっと乾き埃が舞いやすいその季節。
 暁宿舎前にて、箒片手に落ち葉や砂利を集める少女がいた。
『無明 威月(aa3532@WTZERO )』
 彼女は鼻歌なぞ歌いながらこの束の間の平和を謳歌している。
 ただその時、何かが気になったのか茂みの中に視線を向ける。
 じっと何秒かたっぷり凝視したのち、威月は気のせいかと思い直してそして踵を返した。
 それと同時に茂みから姿を現す青年二人、その青年はカラーリングこそ違えど外見は全く同一と言っていいほどに似通っていた。
 それも当然、二人は兄弟である。
「兄者……隠れる必要はなかったんじゃ」
 そう告げたのは『阪須賀 誄(aa4862hero001@WTZEROHERO)』
「ばっか、弟者……。見つかったら捻られるかもしれないお。それにここは隠れるのがお約束だお」
 告げたのは『阪須賀 槇 (aa4862@WTZERO)』
 二人そろって阪須賀兄弟である。
「にしても、ここが暁か……」
 誄は宿舎を見あげてそうつぶやいた。
「ここならいろいろ教えてもらえるって聞いたお」
「そういえばさっきのあの子は受付嬢かなにかだろうか」
「それなりに大きい部隊みたいだから、いてもおかしくないおね」
 告げると槇は扉に手をかける。
「たのもー」
「兄者、それ道場破り」
 そんな逆光で黒く染め上げられた二人の影に、威月が刃を向けて、受付嬢ではないことを存分に示した……というお話もあるのだがそれはまた、別の機会に語ろう。

第一章 

「はぁ、なるほど、戦えるから戦ってみたい、と。総括するとそう言うことになりますかね?」
「いや、そんなカッコいいものじゃないよ。ただ……もろもろの事情があってお金を稼ぐ手段がこれしかないだけで……」
「いや、かっけーお。世界を守る唯一の戦力、それがリンカー。燃えるお。適性があってよかったお」
 扉一枚挟んだ向こう側で、男三人の声がする。
 それを聞いて『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』は立ち上がる。
 今日は新人を交えた訓練と聞いて隊長に誘われていたのだった。
 そんな蛍丸が振り返ると、視線を注がれた『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』はびくりと肩を震わせる。
「緊張する必要はないと思いますよ、変な人なら煤原さんが暁に入れないと思いますし」
「蛍丸さん、入りますよ」
 そんな蛍丸に声が投げられる。小さく蛍丸は『煤原 燃衣(aa2271@WTZERO)』の声に答えると、引き戸が開け放たれる。
「さぁ、中に」
 そう促されて入室したのは阪須賀兄弟。その後ろに燃衣、そして威月がつぐ。
「暁で一緒に訓練していくことになった阪須賀さん達です。では自己紹介をどうぞ」
「槇だお! この世界の事はよくわからないお、けどよろしくだお」
「この世界……」
 蛍丸はその言葉に首をかしげた。
「弟の誄……。よろしく」
 明るい兄に対して、不信感か警戒心からなのか弟の誄は少し大人しめに見えた。
 そんな二人に手を差し出す蛍丸。
「僕は黒金 蛍丸です、よろしくお願いします」
 それに習って仁菜、威月と挨拶を済ませていく。
「さっそくですが、僕らが戦うものに関しての説明から……はいったほうがいいんですよね」
「お願いしたいお。愚神とかさっぱりだお」
「愚神を知らない人がいるんですか?」
 そう仁菜が首をかしげた。
「なんかぶったおせばいいって、事しか知らないお。おっお」
「まぁ、一般の人たちもそれくらいの認識でしょう、そんな人たちのためにも、ビデオ資料とかありますから。まずは座学で、その後実際にAGWを使った訓練もしてみましょう」
 そう燃衣が慣れた手つきでプロジェクターの準備を進める最中。
 槇の隣に座った誄が耳打ちする。
「なぁ兄者俺ら……」
「ん? どうしたお?」
「俺らとんでもないところに来ちゃったんじゃ」
「そうかお?」
 映像が始まる、制作監修H.O.P.E.などロゴが流れては消えていった。
「怪物がいるこの世界は異常だよ。それに自分と歳の変わらない少年少女が戦う事も異常」
 愚神の説明、被害について、現存する愚神、対抗策、リンカーの特性。
 次々と説明されるこの世界の特異情報を槇はスルスルと受け入れていく。
 それは映画の設定を公開されていく視聴者のように、輝く顔で。
「彼らが平然と殺し合いに向かえる事は尚更異常」
 対して誄の表情には嫌悪感が浮かんでいた。
「愚神や従魔? ってのも特性を見るに何時襲われるか……」
「ん? ああ。そうだおね」
「はやく、元の世界に戻らないと」
「けど、それをするにも情報が必要だお、みれば、次元を超えるのがこの力の真髄……っぽいお。活動してるとなんとかなるかもしれないお」
 対してそんな二人を後ろから眺めている燃衣。
 目の前の映像が暁の戦闘記録に差し替わると二人にこう声をかけた。
「正直……明確に戦いたい理由がない限りは、傭兵稼業ってきついですよ」
 その言葉に兄弟は振り返る。燃衣の表情は逆光で見えない。
「けれど、この力は訓練も無しに放っておくのは危険です、それに不意にその力を『使いたく』なるかもしれない」
「あんたには、理由……あるの?」
 誄が問いかけると、槇が誄の頭をひっぱたいた。
「おまっ! その態度失礼だお」
 後頭部を撫でながら誄は燃衣に視線を送り続ける。
「そうですね。親しい人を殺された……でしょうか」
 直後テープが終わり室内は暗闇に満たされる、威月が遮光カーテンを開くと目もくらむ昼の陽気が兄弟の瞳をさす。
「次は実際どの武器に適性があるか見てみましょう。適性でだいぶ戦略が絞れます」
 告げると威月に鍵を手渡す燃衣。その鍵の番号を見て威月は頷き二人を手招きした。
 その後ろに仁菜も続く。燃衣は後片付けのために残った。
「煤原さん、笑ってましたよ」
「そうですか?」
「まるで、僕の祖父が僕らを見る時のようでした」
「そこまで歳はとってないんですけどね……」
 告げると、燃衣は立ち上がる、片づけを終えて、そして威月や槇を追った。

   *   *
 
 訓練場ではリンカーたちは実際に体を動かしての特訓が可能となっている。
 そこで威月の刀捌きを眺めて、槇は拍手を送っていた。
「どうですか? 剣とか刀はしっくりきます?」
 仁菜が盾にて威月の攻撃を受け流しつつ。刀を握った槇へ声をかけた。
「うーん、おもたいお。二の腕がだるい……ぱす」
「そ、そうですか」
 苦笑いの仁菜である。
「じゃあ、私みたいに盾は?」
「どうしたらいいか分からないお。盾ってタンクするためのものだおね?」
「タンク?」
――あー、誰かの攻撃を代わりにうけたり、敵の攻撃を遮ったりするための人って意味だよ。
 そう誄が解説をいれる。
 ちなみに二人は共鳴していた。最初は共鳴の仕方にも苦労していたが。
 二人に好きなものを連想させるというよくわからない方法で共鳴させていた。
「うーん、いてぇの嫌だお。仁菜たんもそんな辛いことやめたらいいお」
「仁菜たん!?」
 おどろきの声を上げるに仁菜に、少し吹きだす威月。
「もぉ! 笑わないでよ!」
 そう威月に真っ赤な顔で食って掛かる仁菜である。
「やっぱ、これだおね、男のロマンと言ったら銃だお」
 告げると、支給品のリボルバーをその手の中で弄ぶ槇。
「あ、危ないです」
 止めにかかる仁菜の目の前で槇は射撃姿勢を整えて、的に撃ちこんだ。
 しかし。
「おおう!」
 衝撃を殺し切れずに吹き飛ぶ槇、腕が円を描くように後ろに跳ね上がり。
「きゃ!」
 そのまま何かを巻き込み倒れる。
「いた……くない! リンカーすげーお」
 そう拳を握り、もう片手で地面を掴み起き上がろうとした槇。
 しかしその左手は何か柔らかいものに触れる。
 それは。
「は! この展開は」
 威月の。
「この感触は!!」
 お腹である。
 槇の手がお腹を撫でていた。服がめくれて、おへそが丸出しの……すべすべしたお腹を撫でていた。
「おおおおお! 何でだお! そこは……そこはもっと他にあるはずだお!」
「兄者!?」
 困惑する誄。
「俺の! 俺の主人公力がたりないせいかお!」
「…………ううん」
 呻く威月、悔しがる槇。
「OK兄者。おちつけ、素数を数えろ」
「高まれ! 俺の主人公力」
「…………」
 その光景に冷めた眼差しを送る仁菜である。
 やがて、威月が槇を鞘で殴る硬質な音が聞こえる。
 この時仁菜は初めて彼女を怖いと思ったそうな。
 そんな一行を尻目に蛍丸は的に歩み寄る。そして当った場所を確認した。
 三発の弾丸は全てブルをかすめている。最初にしては上出来である。
「なるほど、銃ですか」
 そこで現れたのは燃衣。その肩に担いだボストンバックから大量の銃を取り出す。
「槇さんの集中は深い代わりに短時間っぽいですね。ちなみに弟さんの方はどうでしたか?」
――誄……ね。 
「これは失敬……」
「俺も銃はいけそう」
 そう共鳴を反転、弟と外見を入れ替えつつもトリガーを引く。
 一発の弾丸が的確にブルへと命中した。
「すごいですね。あまり平常時と変わらない集中で射抜けるなら、普段から気をはることに長けているんでしょう。集中の持続時間が長い人間はスナイパー向きです」
 そして燃衣が手渡したのはアサルトライフル。そしてみんなが大好きフリーガーである。
「次は移動しながらの訓練です」
 ぎらつく瞳を仁菜に向ける燃衣。
「へ?」
「仁菜さんの特訓もここから始まりますよ」
 爆音が暁兵舎を揺らす。
「ええええ!」 
 仁菜は盾を持ったまま走り回っていた。その仁菜が走った軌跡をことごとく槇が爆撃していく。
「おお! これ爽快だお!」
「狙うコツとしては、相手の動きを予想することですよ」
 燃衣が告げつつ。蛍丸が仁菜に指示を出す。
「フリーガーの攻撃は派手に見えるかもしれませんけど、しっかり腰を落せば爆風にも負けないはずです」
「こうですか!」
 仁菜は呑み込みがはやい、反転すると即座に槇の攻撃を防ぐ。
「だったら! 中央突破だお」
 アサルトライフルに持ち替える槇。そのまま突撃しつつトリガを引き絞る。
――あ、兄者、その間合いだと俺に変わったほうが。
「ん? なんだお?」
「もう! セクハラはだめだよ!!」
 次の瞬間、仁菜が盾を構えたまま突進してきた。その跳躍で一気に距離を詰められ。そして槇はその顎を盾で殴られた。
「いってーーーーーーーお!」
 もだえ苦しむ槇。
「あ…………、回復実習」
 威月が仁菜を呼び寄せると、効果的な治療法を教える。
「じゃあ、次は実戦形式で、相手は誰がいいです?」
 そう燃衣が槇に問いかけると、槇はびしりと蛍丸を指さした。
「あの男の子がいいお」
 理由としては優しそうに見えるから……である。
 しかし。
「あ……、解りました。はい、蛍丸さん」
「はい、では行きましょうか」
 その後、その笑顔を絶やさない蛍丸に、ボコボコにされた槇である。
「世の中せちがらいお」
 全身の痛みに耐え。干された洗濯のように転がる槇。
「その人、バリバリの叩き上げですよ」
 そう燃衣から聞いた槇は共鳴を解いてガクブルと震えたという。
 その後少しの休憩タイム。
 誄が自動販売機で飲物を買っていると仁菜が背後から現れた。
「今日、ずっと暗い顔してますね」
 その言葉に一度だけ視線を送ると。自嘲気味に笑って誄は背を向ける。
「いや、ごめん。みんなが悪いわけじゃないんだ」
 告げると誄は拳を握りしめる。
「……家族が、姉と妹が居る……正直、帰りたい」
 けど、帰る手段は無い。そのことが誄の心に重石を乗せる。
「もう兄者だけなんだ、たった一人の兄貴なんだ」
 だがその兄は戦場に出ると言ってる。
「……暁は戸籍の無い俺らを迎え入れてくれた。けど、この世界はクソだよ」
「英雄さんなのに普通な事言うんですね?」
 そう首をかしげる仁菜、驚きで振り返る誄。
 そして、仁菜の表情を見た。仁菜は今まで誄が見たことのない種類の表情をしていた。それがどんな感情を表すのか。誄にはまだ分からない。
「こんな世界だからこそ、私のような子供でも命を使った取引が出来るんですよ」
 意味深なことを子供らしくない顔で告げる仁菜。
「戦場で成果をあげれば、この命の価値があがります。命の価値を上げればより多くの代償を取引相手から引き出せますよ?」
「取引相手?」
「阪須賀さん達が家族のもとに戻りたいと願うなら、その情報を得られる可能性が一番高いのは。エージェントとして戦うことでしょう」
「わかってる。けどそれって……」
 その言葉の先に頷くように仁菜は笑みを返して、トテテと走り去っていく。
 ただ一人誄は廊下に取り残された。
 

第二章 

「兄者!」
 暁生活三日目。
「兄者起きろって!!」
 目覚めは爽やかな朝とは言えず、この世界のフリーMMOゲームになじんでしまった槇の目蓋強度は一級品。
 そんな兄を揺すって、今すぐ聞いてもらいたい発見と戸惑いをその握力の強さに込める弟である。
「兄者!」
「うーん、なんだお……あ! 大規模狩猟の時間……」
 ちなみにゲームの相手は燃衣である。
「それより大変なことがわかったんだって!!」
 それは自分たちの在り処について。
 この世界は自分たちがいた世界に酷似している、だからもしかしたら自分の家もあるのではないかと思った。
 けれど、なかった。二人の家があるはずの場所には別の人が住んでいたのだ。

   *   *

 そのことが信じられなくて、兄弟はその住所まで走った。
 道中の事は全く覚えていない。
 けれど、自分たちがすんでいた家と全く同じものに、自分たちとは違う姓の札がかかっていた時のショックは計り知れなかった。
 本当にこの世界に居場所はないんだと思った。
「兄者……」
「なんだお?」
 放心状態の槇。その肩を強く揺らしたのは誄。
「兄者。聞こえるか?」
「なに……が」
 その時槇は見てしまった。薄く開かれたカーテンの隙間。その先に赤い色彩と、投げ出された白い四肢。
 次の瞬間槇は走り出していた次いで、槇はガラス窓をぶち破る。
 そこにいたのは『愚神』ペンタグラム。
 無数の三角形が組み合わさって構成された銀色の愚神、それが。
 槇が知らない誰かをむさぼっている。
 思わず吐気を催す槇。
 その隙を狙って愚神は、体表を構成する手のひら大の三角形を射出した。
「兄者!」
 その体を庇うように共鳴する誄。
 しかし、槇は動けず攻撃をまともに受ける。
「血が!!」
 槇は肩口から吹きだす赤い液体に息を荒くする。激痛が身を焦がす。
 しかし、その傷は塞がりつつあった。
「え?」
 槇の背後から駆けだす二人。
 燃衣と蛍丸である。
 二人が全ての攻撃を捌いてくれる。
「あ、たいちょ……ほた……」
「逃げてください!!」
 蛍丸が叫んだ。
「けど、俺……戦わないと」
 ふたりは振り返って微笑む。
「怖くて当たり前、僕だって怖かった」
 次いで燃衣は槇に背を見せ。両手に炎を宿す。
「僕は敵を殺してやるという意志があって戦っているが貴方は違う、普通の優しい人だ。
 その普通を大切に、優しいまま兄弟で生きて欲しい。だから、怖いは怖いでいいんです」
「僕もです。護りたい人、悲しませたくない人。いっぱいいます」
 告げる蛍丸。
「それでいいと思います、だから今は……」
 槇はその蛍丸の言葉を最後まで聞けなかった。
 駆けだす槇。このこびりついた血のにおいの渦から早く脱したかった。
 そんな槇と仁菜がすれ違う。
 槇と誄はそんな彼女の表情をみた。
 仁菜は槇を見ていなかった。
 振り返ることなく仁菜は敵の眼前に立ち、最前戦で盾を構えて見せる。
「威月さん。御願いします彼を安全なところに」
 その言葉に頷いて威月は槇の背に手を当てて走り出す。
「おれ……逃げたお」
 その言葉に、威月は首を振る。
「あんな、女の子が戦いに行ったのに、俺……」
――兄者!
 恐怖と、自分への怒りで震える槇に誄は告げる。
――違う。違う、兄者。あの人たちも言ってたじゃないか! 怖くて普通だ。それに兄者が戦う必要なんてない!
 その時、背中の手がふっとはなれ、それに槇は振り返る。
 威月は表情で物語っていた。私は戻らなくてはと。
 次いで威月は紙を取り出し、それに何か書き込むとそれを手渡す。
 そこにはこう、書かれていた。
『お二人はずっと頑張ってきたから、こんな私でも戦えたから、今がその時だから』
 その時町を揺らすような轟音が響く。それと連鎖して二人の頭によぎる光景があった。
 血まみれの、ズタズタの。暁の面々たち。
 彼らは自分たちに笑顔を向けてくれた。けれどそれをもう見られることはないのかもしれない。
――兄者。無理なものは無理だ。俺達が行っても足手まといだ。
 そう誄は淡々と槇に告げる。動揺する兄に引っ張られてはいけない。最優先する物を間違えてはいけない。そう何度も自分を戒めながら。
「お。おおおおおおお!」
 けれど次いで槇が発したのは言葉でなく咆哮。
「動けお! なんで! 何で震えてるんだお。俺が、俺が本当にやりたいのは逃げることじゃないんだお」
 そう地面に手をついて涙を含ませた声を震わせる。
「たた……かえる?」
 その時、槇は初めて威月の声を聴いた。か細い。絞り出すような声。
 だがその声を彼女がどれだけの力を振り絞り発しているのかはわかった。
「たいちょ……たぶん、かてない」
 普段の作戦はあのメンバーの倍の人数で決行される。たった三人ではデクリオ級は狩れない。
「おねが……」
 力を貸してほしい。そう威月は槇の手を取った。
『貴方がいれば皆を守れるから、私達が貴方を守るから』
 そう槇の手のひらに指で文字をかく威月。
「もう……これ以上、優しい誰かが傷付くのは嫌だから」
 威月の手は震えていた。
 その震える手に槇は勇気をもらったのだ。
「みんな、同じ気持ちだお、誰かのために、誰かの勇気をもらって。誰かと一緒に立ち上がる。みんな言ってたお。みんな怖いって。けどそれってきっと。戦うことも怖いけど、失うことも怖いんだお!!」
 マンガみたいなセリフ。小説みたいなセリフ。
 槇は思う。
 あこがれていた。それを実際に口に出せる主人公。
 カッコいい背中、立ち姿。
 それを最初は意識していた。思っていた。狙っていた。
 初めて銃を握った時それになれた気がした。
 けれど。それは幻だったのだ。
 槇は直感した。愚神を見たときに。自分は主人公になれない。
「誰かを助けることは俺にはもう、できないかもしれないお」
 槇は思い出していた。隊長の戦う理由。
 殺されたから、親しい人が殺されたから。
 もしあの時。家にいたのが自分の家族で、殺されたのが自分の家族なら。そう想像することも槇にとっては難しい。
 それも理解している。
「けど、助けようとしてる人を、助かろうとしてる人を、少し手伝うことはできるお」
――それで死んだらどうする?
 誄が無情に突きつける。絶対的結果、その名は死。
「一人なら絶対不安だけど、弟者が居るから二人で一緒だから何の心配もないお!!」
 その言葉に槇は無理やり笑みを浮かべて見せる。
「いくお。戻るお。戦いに」
 誄はそんな兄をみて思うのだ。これはいつもの、自分の話など聞かない兄だと。
――全く、兄者はバカだなぁ。
 誄は思う、こうなればもう。自分が死なせないようにするしか、ないと。
「倒せなくていいお。時間が稼げれば、逃げられれば何とかなるかもしれないお。そう言うこすっからい感じで行くしかねぇお」
 何とも恰好がつかないが、それが自分流のやり方である。そうアサルトライフルとフリーガーを具現化する槇。
「あ……ごめんなさい」
 威月がそう肩を落として告げた。どれだけ怖いか自分も知っているのに、自分だって一人じゃ決して戦えないのにと。
「謝る必要なんてねぇお。いくお」
 駆けだす槇。戦場にはすぐに戻ることができた。
 死屍累々。
 燃衣は床に転がり、仁菜と蛍丸がお互いを治癒しながらかろうじて戦えている状態だった。
「戻ってきたんですか!」
 蛍丸が驚きの声を上げる。
 その彼の体を銀色の三角形をした鱗のようなものが殺到し。蛍丸を削るように攻撃する。
「あああああ!」
 その鱗のようなものは愚神の元に戻るとその体表を再び覆った。まるでその体の中に一つだけ浮かぶ核を守るように。
「あれを壊せばよさそうだお?」
「それはもう、狙ったんです」
 仁菜が答える。
 仁菜曰く、どれだけあの核に攻撃しようとしても、体を構成する三角形が攻撃をガードするし、反撃に攻撃してくるし、硬いしで、ちっとも核に触れられないらしい。
「うーん、難敵だお……そもそも俺ら動くものに当てるの。まだ苦手だお」
「動かない的なら当てられるんですね?」
 燃衣がぱちりと目をあけ立ち上がる。
「作戦会議の時間をください、二人とも、お願いできますか?」
 威月が籠手を装着、刀を握りしめて仁菜とならんだ。
「「はい」」 
 二人の重たい声に頷くと燃衣は蛍丸を呼び寄せて三人で炎になる。
「で? あてられますか?」
――たぶん。
 誄が答えた。
「けど、あの三角形、個々がバラバラに動けるから、全ての三角形の動きを止めるのは難しいですよ」
「それなら策は有るお」
 槇が告げる。
「それは?」
「あの三角形、攻撃に対して、必要だと思われる量を防御に裂いているみたいだお。だから、純粋に防御を突破されるかもしれないって攻撃力があれば、かなりの三角形を使わせられるはずだお」
――あとはこっちの狙撃力次第か……。
「わかりました、それで行きましょう」
 告げると燃衣は振り返る。
 刀で360度から襲いくる三角形を叩き落とす威月と、それを癒す仁菜。その姿を一瞥すると走った。
「蛍丸さん。僕が回り込みます」
 そう言ってステップを踏んで燃衣は素早く敵の背後に。
「煤原さん! 行きますよ」
「はい! タイミングはこちらで合わせます」
 蛍丸はその籠手に霊力を込める。そして。
「貫通」
「連拳」
 表裏。挟み込むように拳を打ち出す。
「「咢!!」」
 その攻撃を止めるために分厚い盾のように三角形を配分する愚神。
 その隙を狙って槇が駆け寄りながらアサルトライフルをばらまく。
 その弾丸を弾くためになけなしの三角形を回す愚神。
 次いで槇は誄に共鳴をシフト。
「仁菜さん!!」
 誄が叫ぶと、仁菜はその盾を上に構えた。
 足場に誄が飛ぶと、武装はすでに狙撃銃に持ち替えられている。
 上空真上の一点からその中心核を狙う。
 そして。
「チェックメイト」
 打ち出した弾丸は吸い込まれるように核へ。
 その核を穿つと愚神は悲鳴を上げ。その体をバラバラに飛び散らせた。

エピローグ。

 阪須賀兄弟は犠牲になった家族に手を合わせると燃衣に向き直る。
「戦う理由、見つけましたか?」
 その言葉に頷く、槇。そして槇は燃衣に歩み寄った。
「聞かせてほしいお。隊長の戦う本当の理由」
「あまり面白くない話ですよ」
 それでもいいと二人は首を縦に振った。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『阪須賀 槇 (aa4862@WTZERO)』
『黒金 蛍丸(aa2951@WTZERO)』
『煤原 燃衣(aa2271@WTZERO)』
『阪須賀 誄(aa4862hero001@WTZEROHERO)』
『無明 威月(aa3532@WTZERO )』
『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』
『愚神』
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 皆さまいつもお世話になっております鳴海でございます。
 今回は阪須賀兄弟のビギニングシナリオということで二人の心情メインで書かせていただきましたが。
 他の方のらしさ。を演出することも頑張ってみました。
 さて、次はおそらくガデンツァのシナリオでお会いすると思います。
 暁ノベルもそのうちに、それではまたよろしくお願いします。
 鳴海でした。OMCご注文ありがとうございました。
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2018年03月29日

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