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『王子様と白馬なあたし 』
海原・みなも1252

 海原・みなもはふと足を止め、強い風にスカートのすそを押さえる。
「こういう日は色々飛んでくるので気をつけないと駄目です」
 看板が降ってきたとか、瓦が飛んだとかニュースになることもある。そのようなものに当たれば怪我するし、下手すると命を落としかねない。
 そんな中、風に乗っているある物体を見つける。
「轡でしょうか?」
 馬の口にはめるもの。
 重さはそれなりにあるはずで、風で飛ぶわけはない。
 警戒し始めたとき、強い風が吹く。埃も巻き上げられ、目も開けられない。
「うっ、痛いです……絶対おかし、うぐっ」
 ピシピシと小石が当たった後、口にバシッと強烈な痛みがあった。
 外さないといけないと思ったときには、手が地面についていた。その上、視界が高くなり、視野が変わった。

「ひひーん(これは何か巻き込まれています!)」
『はいはーい! 見つけた、用意した、白馬さま!』
 妖精らしい妖精がパタパタとみなも馬の顔の前に現れた。
「ひーん(どういうことですか!)」
『いやー、ちょうどいいところに、適当な人間が来て幸いだったよー』
「ひひーん(答えになっていない上ひどいです!)」
『いやー、知り合いがさ、この辺りにこっちに相性いい人間いるっていったんだ。その上、いい奴だっていってたし!』
 みなもは妖精のネットワークで自分がどういわれているのか不安になる。
『王子、これでいい?』
「ひ?(王子? 待ってください、『これでいい』ってどういう意味ですか)」
 妖精に抗議するがその言葉は妖精に馬耳東風。いや、妖精はみなもにウインクをして「ごめーん」という感じだ。
「おお、私のブラン! ……ブラン?」
 みなもの首を抱きしめるのは金髪碧眼、細面で優しげで端整な顔立ちの青年だ。青年つまり王子は一瞬、馬を見て何か違和感を覚えたらしい。
「ブランだね?」
「ヒヒン(違います)」
「うーん、でも白馬だ」
「ブルル(自分の姿が見えていませんけれど、ヒト違いです)」
「ああ、妖精よ、ありがとう」
 王子が礼を述べたときには、すでに妖精は姿を消していた。
(え、これ、非常に厄介なことに巻き込まれていますよね)
 王子は日本語を話している。それならば会話は可能だろうと考えた直後、みなもは問題に気づいた。
(王子の言葉をあたしが理解できているだけで、馬語は伝わっていません!)
 みなもは困るしかなかった。

 みなもの困惑を知らない王子は話しかける。
「新しい住まいを見つけたんだ。さあ、行こうブラン!」
 手綱を握り、女性をエスコートするように引っ張る。
「どうしたんだい? 私が君を置いて行ったと思って、すねているのかい?」
 王子はみなもの頬を両手で包むようにして目を覗き込む。
「ひ、ひーん」
 恥ずかしいため、逃れようとした。
「そんなに怒らないでくれ。すまなかった」
 王子はみなもの後頭部に片手を回し、彼女の顎を肩に載せ抱きしめる。
「ひ、ひーん(あ、う、えええと! ブランさんじゃないですし、それに、それにー)」
 ここで首を横に振れば王子を顔で殴るため、みなもは恥ずかしさをその場で耐える。
「良かった、機嫌は直してくれたんだね」
 みなもを抱きしめるのをやめ、王子は顔を覗き込む。
「ひー」
 王子の憂いを帯びていた瞳に安堵の色が浮かぶ。そして、口元には白い歯がきらりと覗く笑み。そんな王子の姿はどこかなまめかしくもあり、好き嫌いは別として、大抵の老若男女に何かしらの影響を与えるだろう。
 かっこいい、と思わず見とれてしまうみなも。
(違います、違います! どうしたらいいのです?)
 みなもは声にならない悲鳴を上げ、困惑を示すように前足で地面を掻く。
「さあ、行こう。ブランのために素敵な飼い葉も用意してある」
「ぶひひ(それはすごいです。ブランさんのことを本気で想っています)」
「この都会では探すのが大変だそうだ。しかし、君といる為に……必要だからね」
 東京で馬を飼うとなると確かに必要なものをそろえるのは難しそうだ。
「ブラン、新しい家に帰ろう……ただ、馬屋くらいの広さしかないの。しかし、看病のために君のところで一緒に寝たこともある……全く問題ないと気づいたよ。君と一緒にいられるのだからね」
 王子は真剣な表情でみなもを正面から見つめる。
 みなもの心臓はバクバクと激しく鳴っている。鳴らないわけがないのが王子の美しさ、かっこよさ、カリスマ性。
 穏やかな時間。
 素敵な時間。
 優しい王子様。
「馬小屋で暮らすとはいえ、この日本というのは住みやすいとも聞く。探す物は大変かもしれないが、苦にはならないよ、独りではないからね」
 みなもを見つめる王子。

(……ブランさん好きなのに、違う可能性があると気づいたわりには、スルーしましたよね。あっ! 優しいのです。そのため、ブランさんが少し離れた間に何かあって、容貌や様子が変わってしまった、というのをあえて問わないのかもしれません)
 みなもは考えた結果一つの結論を見出すが、その優しさが辛い。

「まさかここにきて君を見た警邏の者が文句を言うなど思わなかったな」
 王子の独白でみなもは凍り付く。
(それって、警察に捕まりかかったのです?)
 みなもは日常的に馬が道路を歩いていいのかわからない。何かイベントがあれば、馬が道路を歩いているがそれは別だろう。
「彼らに説明をしようとしたとき、君を連れて行こうとしたんだ。その手から逃れるために君は戦った。そして、私は悠長に説明をしている場合ではないと、君を救うために戦い、追いかけたのだが……」
 人間の足と馬の足とではスピードが違う。
(あれ? 警察の人と戦ったのですか! それ公務執行妨害とかになるんじゃないですか!)
 みなもは焦る。しかし、王子はただ微笑んでみなもを見つめるだけ。
「さあ、そろそろ夜になる、家に帰ろう」
 王子が促した。

『王子!』
 先ほどの妖精と見知らぬ白い馬がやってきた。馬はみなもをにらみつけている。
「なんだい、妖精よ」
 王子はのんびりとしている。
『いやー手違いで、違う馬渡しちゃったんだよ!』
 妖精は頭を掻きながら連れてきた馬を見せる。
「ブランが二頭?」
 みなもが首を横に振り、本当のブランが怒りのため地面を前足で激しく叩いた。
「……違うとは思ったのだ。少し離れた間にひどい目に遭って、記憶もなくしたのではないかと心配はした」
 王子は手綱をみなもからブランに変える。
「ああ、ブラン!」
「ひひーん」
 王子はブランの顔を抱きしめる。馬は頬ずりをして王子と愛を確かめるようだった。
(絵になります)
 みなもはうっとりとその光景を眺めたが、先ほどこれをしてもらったことを思い出した。
「ひ、ひーん」
 恥ずかしさで顔が火を噴く。
「妖精よ、さらばだ! 妖精も馬と仲良くするのだぞ」
 王子は颯爽とブランに乗ると立ち去った。

 残されたみなもは彼らを見送ると現実に戻ってくる。
『はー、やれやれ、これで万事オッケーだね』
「ひひーん(説明を要求します!)」
『はははー』
 妖精は笑ながら、みなもの周囲を回った。
 みなもは自分の後ろに妖精が来た瞬間、後ろ足を蹴り上げた。
『あああああああああああああああああああ』
 声が遠くなる妖精。
「ひ、ひひーーーん」
 悲鳴を上げるみなも。
 みなもは妖精が消えた方に走り出した。

 なお、一筆付け加えると、みなもは翌日に登校してい――。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生もしくは白馬
???/王子/男/20歳くらい?/王子
???/妖精/?/?/親切な妖精
???/ブラン/メス/?/白馬

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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発注ありがとうございます。
コメディな色合いが強くなりました。多分、コメディ。みなもさん。ひどい目に遭っているけれどコメディ。
王子の文武両道っぷりは薄いですが、容姿端麗?の方はアピールしました。
いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年04月02日

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