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『果たして踏み越える 』
ラファル A ユーティライネンjb4620)&不知火あけびjc1857)&クフィル C ユーティライネンjb4962)&R.A.Yaa4136hero002)&不知火藤忠jc2194
「さて、コイン投げよーぜ?」
 すべてを奪われたあのホテルの跡地に立つラファル A ユーティライネンは、一枚のコインをクフィル C ユーティライネンへと放った。
 キャッチしたクフィルは神妙な顔でどちらが出たかを確かめる。
「裏や。って、どっち出たらラーちゃんの勝ちなん?」
「決まってんだろ」
 ラファルは手刀を為した右手を一気に自らの胸元へ突き入れて。
「勝つまでやりきれたら、そいつが勝ちの目だ」
 ぎちぎちぎちぎち、自らの心臓を――アウルリアクターを、引きずり出す。
 無数の血管型チューブに繋がれたそれは、造りものの体を繋ぐナノマシンを常時生成し、血流に乗せて全身へ巡らせる役割を担っている。まさしくラファルの生の源だ。
 今も自動的に鼓動を刻み続けるそれは、ラファル自身の右手に捕らえられ、そして。
「――っ!」
 強く握り込まれて動きを止めた。
「10、9、8、7――」
 ラファルを三方から囲む一角、不知火藤忠がカウントダウン。
 それを聞きながら、ラファルの正面に立つ不知火あけびが、右奥に立つ日暮仙寿之介が、腰を据えて佩剣の鯉口を切った。
「カウント終わったら一回下がって! 私たちの中で姫叔父がいちばん弱いんだからね!」
 妹分であるあけびからは真剣に命じられ。
「案ずるな、俺がかならず守る。“叔父姫”」
 親友である仙寿之介からは皮肉を投げかけられて。
「へーきやって。うちなんかちょー弱々やしー。さっきからもう、なにがなんでも守られたるわーって気合入りまくりやで?」
 クフィルからもよくわからない同情(?)を寄せられたりなんだり。
 藤忠は嘆息する。いや、俺だってそれなり以上の修羅場はくぐって来たんだけどな。
 彼はため息をつき、心を引き締めた。
 あと数秒で、これだけの面子をそろえなければならない敵と対することになるのだ。
 一秒でも長く五体満足を保ち、友のために戦い続ける。俺史上、最高の生き汚さを見せてやるさ。
「――3、2、1」
 停止。
 ラファルの手の内、未練がましく蠢いていたリアクターがナノマシンの生成を止め、ど、く、り……鼓動を止めた。
 1。あけびが抜き放った桜紋軍刀を正眼に構え、いつでも踏み出せるよう、ブーツで鎧われた右足の先に意識を集中。
 2。アウルの輝き失せたラファルの体を菩薩眼で捕らえ、仙寿之介はさらに腰を落として抜刀の構えをとる。
 3。一度大きく下がった藤忠が、スナイパーライフルCT-3で支援の体制に入ったクフィルをカバーする。
 果たして、どくり。
 前に折れたラファルの上体が大きく跳ねた。
 どくり、どくりどくり。どくりどくりどくりどくり。
「今度こそどこにも逃がさへんで――悪魔」
 スコープで強化されたクフィルの目が捕らえる。ラファルの胸の傷から這い出す、禍々しい影を。
「つれねーこと言うなよォォォ、おかンンン。だっこしてくれよォォォ、昔みてーにさァァァ」
 ラファルから引き抜いた機械部品を核にナノマシンを盛り、人型を成す。
 まさにラファルのすべてを養分として産まれ落ちた悪魔は、黒影のフードに隠した顔を大きく笑ませ、尖った舌を突き出した。
「あんたなんか生んだ憶えも拾ったった憶えもないわ! 橋の下で箱に詰まって泣いとき!!」
 引き金を引き絞るクフィル。BC弾――標的の体内で潰れ、その内臓を引き裂くブランクコア弾が悪魔の胸の中央に食いつき、潜り込んだが。
「弾よりィィィ、ママがァァァ食いてーなァァァ。活け作りィィィ!」
 悪魔の全身から黒きアウルが噴き、その体を覆い尽くす。ナノマシンをアウルで成形した機械鎧でだ。
 果たして現われたものは、ラファルの顔を映す黒金(くろがね)のサイボーグ。
「あけび!」
 仙寿之介に促されるより迅く、あけびは踏み出していた。
『ラルが帰ってくるまで繋ぐ! クフィルさん、お願いします!』
「霞声」でクフィルに言い置き、正面に在る悪魔へ肉声で告げる。
「わかった! 20、はキッツイかもやんな――30秒で戻るわ!」
 ライフルを放り出し、クフィルはリアクターを握ったまま停止するラファルへ全力で駆け寄っていく。
「――不知火あけび、推して参るよ!!」
 彼女の背より光の翼が伸びだし、優美に羽ばたいて消えた。
「邪魔すんなよォォォ! オレぁおかんにだっこしてもらうんだからよォォォ!」
 目を奪われ、咆吼をあげた悪魔の機械鎧に黒が泡立ち、バーニアとなった。
「おかんゥゥゥ待ってくれよォォォ!! オレ、ずぅっと後悔してたんだよォォォ! あんときぶっ殺してやれなくてゴメンよォォォ! 今度こそちぎるからァァァ手も足も耳も目も全部全部全部ゥゥゥ!!」
 一斉点火されたバーニアが悪魔を凄まじい勢いで前へぶっ飛ばす。
 その先にいたあけびは――いない。悪魔の機先を読み、その身を横へすべらせている。
「一瞬、こっち見てくれれば充分だから」
「そういうことだ」
 ラファルとクフィルへ続く軌道を断って立つ藤忠。その手から飛んだ5枚の符が五芒の星を描き、悪魔へ光弾を叩きつける。平和が訪れた後にひとり修行を重ね、習得した覇王の印だ。
「いつまでも姫のままではいられないからな」
 しかし。
「おかんンンン!!」
 確かに捕らえたはずの悪魔は止まらない。五芒の縛めを引きちぎり、さらに加速。
「っ!」
 下段に置いた薙刀を斬り上げた藤忠の迎撃は、彼の体ごと弾かれ、吹き飛ばされた。
「継ぐ」
 短く言い放った仙寿之介が、腰を据えたまま悪魔の軌道へにじり入り、佩剣を抜き打った。
 斜めに駆け昇った刃は悪魔の首へ吸い込まれ、そのまま斬り落とす――かに思われたが。
 甲に阻まれ、細い亀裂を刻むに留まった。
「……硬い」
 しかし悪魔は大きく上へ弾かれ、何度も回転したあげく、ようやく体勢を立てなおす。
「あはァ!」
 伸ばされた悪魔の舌先が閃き、その両眼が邪魔者たちへと巡らされた。
「ひとりの技で墜とせる敵ではない。ならば、三位一体で向かうまでだ」
 仙寿之介は背より伸ばした翼をはためかせ、先陣を切って跳んだ。
「お師匠様!」
 あけびと共連れることを誓ったときから封じていたはずの、天使の力。どれほどの思いをもって仙寿之介がそれをしたかを知るあけびは思わず声をあげたが。
「奴を越えなければ、俺とあけびが望む道は拓かれない。そう知っているからこそあいつは……!」
 藤忠の言葉で我に返る。
 ラファルを惨劇の影から解放し、同じ日に照らされし道を行く。それこそがあけびと藤忠が望む先。
「いっしょに拓く、私たちとラルの未来!!」


 始まっちまった。早く戻んねーと。
 霞む此岸を彼岸より見やり、ラファルはその間に横たわる大河へと足を踏み入れ――足をすくわれて石原へ転がった。
 なんだよ、なんで転ぶんだよ?
 どれほど焦って急いても、彼女の体は泥沼へ落とされたかのごとく、緩慢にしか動かない。
 そっか。俺の体、悪魔に喰われちまったから……
 今、此岸のラファルはどれほどの量残っている?
 たとえ黄泉帰れたとして、悪魔に打ち込んでやれるだけの鋼があるのか?
 うるせーよ!
 ラファルは空の右手をにらみつけた。
 そこにあるはずのリアクターへ、再びアウルを点火する。そのために動かすのだ。指を、手を――しかし、どれほど力を込めても、右手はびくとも動かなくて。
 そりゃそうだよなぁ。だって俺、死んでんだもんな。でもよ、だからって死んでるわけにいかねーだろ。俺は生きるんだって決めたんだよ。俺だけじゃねぇ。あけびちゃんも、藤忠も、あけびちゃんの婿さんも……
 ど、くり。
 突然、右手に生じたかすかな鼓動。
 ど、く、り。ど、くり。どくり。どく、り。
 リアクターに再点火できるほどの強さはない。リズムもばらばらで、なんとも頼りない。でもやさしくてあたたかかった。
 ……クソ母かよ。ったく、そんな暇ねーだろうに。ま、今は弱ぇもんな。悪魔相手にしたらすぐ殺されちまうし、役割分担で俺のとこに来たってわけだ。
 どくりどくりどくり。
 なんか必死な感じ? そんな揉みかたされちゃ破けちまうよ。つーか、そんながんばんなくていいって。
 と。
 動かなかったはずの右手が今、拳を成した。
 ラファルは奥歯を噛み締めて石原に膝を立て、立ち上がる。
 覚悟を決めて川へ踏み込めば、またもや流れに足をすくわれかけたが、しかし。
 その背になにかが吹き寄せて彼女を支え、かき消えた。
 今の――そっか。
 慎重にもう一歩を踏み出し、拳を解いて、また握り込む。
 涙の再会にゃ早ぇーってことか。ま、俺だってそんな気ねーし、お互い気まずいよなーって気もすんだけど、なんつーか、その、助かったぜーってことで。
 ありがとな、クソ父。
 かくてラファルは死者を此岸と分かつ川へ一歩、また一歩進み入っていった。
 俺が空っぽになっちまったんなら、新しい俺で埋めてやらぁ。
 待ってろよ、悪魔。
 すぐそっちに行くからよ。
 待ってろよ、あけびちゃんたち……あと、しょうがねーからクソ母。
 すぐそっちに還るからよ。


 不知火の三者は悪魔を相手取って死闘を繰り広げている。
「ふっ!」
 翼を畳んで急降下した仙寿之介の清冽なアウルをまとわせた一閃。
「あはァ!」
 しかし、同じく空にある悪魔につかみ止められ、彼ごと投げ捨てられた。
「アウルを食われた……先の藤忠の技をちぎられたのも、練度不足ばかりではなかったか」
 中空で姿勢を立てなおした仙寿之介が口の端を歪める。
「お返しだァァァ!!」
 中空に浮かび、機械鎧を深紅の紋様で埋め尽くした悪魔が、無数の刃に換えたアウルを嵐のごとくに逆巻かせた。
「姫叔父!」
「ああ!」
 あけびと藤忠が忍法「高速機動」を同時発動、残像を引いて跳ぶ。
 防具を裂かれ、その下の体にも無数の傷を負うが、とにかく致命傷を食らわなければいい。
「青龍、白虎、朱雀、玄武」
 押し立てた右手の人差し指と中指とで破邪印を切った藤忠が四神結界を顕現し、悪魔を包み込んだ。
「痛くもかゆくもねェェェ!」
 掌底の一打で藤忠を地へ叩き落とす悪魔。しかし結界は消えず、その場に残される。
 その間に悪魔の眼前へ跳び込んだあけびが一文字に刃を薙ぎ。
 悪魔はそれを巻き取るように腕を巡らせ、あけびを打ち据えたが。
 あけびの像がかき消え、代わりに残された懐剣が折れ砕けた。藤忠の結界によって澄まされた空蝉による完全回避。
 悪魔は目線を巡らせ、本物のあけびの行方を探る。
「視線と意識が届かないからこその、死角だよ」
 冷ややかなあけびの声が悪魔の意識をさらい。
 声とは逆からすべりこんだ刃が悪魔のバーニアのひとつを斬り落とし、さらにその傷口を抉った。
「闇遁・闇影陣変型(へんけい)、日暮流“羽断ち”――体の端ならアウル喰いの力も行き渡らないでしょ?」
 姿勢を崩した悪魔に、再び仙寿之介が迫る。
 彼が抜き打った刃が再び鞘に収まるまでは、まさに刹那。
 その閃光が消えるよりも早く、悪魔のバーニアがもうひとつ、ずるりと落ちた。
 地へと落ちながら悪魔が吠える。
「殺すゥゥ! 殺してやんよォォ!」


 一方、クフィルはラファルの右手を両手で包み、一心にリアクターへ鼓動を刻ませ続けていた。
 悪魔の範囲攻撃が流れ飛んでくることにもかまわず――いや、たとえかまったとしてもどうせよけられはしない。長い闘病生活は彼女からかつての強さと速さを奪い去っていたし、なによりここから動けばラファルを危険に晒すこととなる。
 だから、動かない。
「ラーちゃん還ってくるまでうちが守るからなぁ……傷もんになんかさせへんから」
 背に突き立った刃がクフィルの言葉を濁らせた。動くたびに揺れ、内臓をかき回す。
 痛い。痛いなぁ。でも。
 こんなん、ラーちゃん生んだときに比べたらぜんぜん痛いわ――ウソつかれへんって、めっさ痛いし!
 胸中でわめきながら、それでもリアクターへ刺激を与え続ける。
 ラファルはいつも言っていた。
 敵の望む展開を見せつけてやれた方が勝つ。
 だからきっと今もラファルはそれを実行している最中で。
 それを補佐してやれるのは、クフィルしかいないから。
「でもラーちゃん、ちょおゆっくりしすぎなんちゃうん……?」
 指先に力が入らない。寒くて、冷たくて……やばいなぁ。血ぃ足らんくなってる。悪魔、なんでうちに取り憑かんかったんや! そしたら不知火んちのみんなに世話かけんでもすんだし、ラーちゃんがこないに苦しまんですんだやないか!
 うちが全部持ってったげたかった。
 ラーちゃんが抱え込んでる痛いのも苦しいのも腹立つのも全部、うちが。
 こないな体んなったラーちゃんに、生きとってくれたらいいなんて言えへんけど。それでもうちはラーちゃんに笑ろうて生きたってほしいんや。だから。
「――いつまで死んでんねん!! 親より先に死んだらあかんやろ! 代わりにうちが死んだる! 命なんか全部ラーちゃんにあげるよ! 閉店セールの大安売りや! お代は孫三人くらいで」
 う、るせぇ、よ。閉店詐欺、かましてんじゃ、ねー。
 どくり。クフィルの手の内で、リアクターが跳ねた。
「ラ、ラーちゃん?」
 手、どけろ。うまく、握れねー。
 どくりどくり。クフィルの手を弾くようにリアクターが強く跳ね、さらに強く跳ねた。それを為すのは、リアクターを握るラファルの右手。ゆるめ、握る。繰り返す内、彼女の指は確かな強さを増していく。
 何回も溺れかけて、どこ行ったらいいかわかんなくなったけどよ。わめき声が、こっちだって教えてくれたぜ。
 どくり。
「――泣いてんじゃねーよ。まだなんにも終わってねーぜ、母ちゃん」
 再起動したリアクターを胸の内へ押し込み、ラファルが口の端を吊り上げた。
「そら泣くわ! ラーちゃんぜんぜん予定どおり還ってこぉへんし、普通儚むやろがい――母ちゃん? クソ母やのぉて?」
 ぐしぐしと涙をぬぐうクフィルの手が思わず止まる。
 ラファルはそれにかまわず、生成されるナノマシンに最低限の補助を命じた。血が足りない。肉が足りない。なによりも頼りの機械が足りない。それでも乾いた両目をしばたたき、気合を入れる。
「ユーティライネン家の因縁、ここでケリつけるぜ」
「ってラーちゃん、ケリつける方法、考えてるんか?」
「コインの裏表、どっちだった?」
「表……やけど」
「じゃ、表が当たりだぜ」
 不敵な笑みでクフィルに応えたラファルが踏み出す。
「どうしようもねーくらい勝つ!!」


 あけび、藤忠、仙寿之介。三者は起点を換えて悪魔を攻め続け、その包囲を保っていた。
「……そろそろまずいかな」
 藤忠が青ざめた顔に苦笑を刻み、龍姫の石突を地に突き立てる。構えなどではもちろんない、倒れてしまわないよう己を支えるためにだ。
 あけびと藤忠をカバーし続ける仙寿之介もまた、いつになく荒い息をついていた。その彼があけびに短く問う。
「何秒保つ?」
「全力なら、あと10秒くらい、です」
 そうだな。俺も藤忠もそんなものだろう。ならばその10秒、なんとか有効に使い潰したいものだが……
 ふと、朽ちかけていた三者のアウルに熱がくべられた。火へかけられた鍛鉄がごとくに硬く熱い意志が。
「だったらその10秒で道案内頼むぜ」
 返り見るまでもなかった。だから。
「先陣は俺が承る」
 藤忠がまっすぐ悪魔へと駆け込んだ。上段に構えた龍姫を鋭く斬り下ろし、地を叩く瞬間、体を返して斬り上げる。
 しかし悪魔はさらりと体をかわし、薙刀を振りきって硬直した藤忠の胸元へ拳を突き立てた。
「――当然、最短距離で突いてくる、だろう?」
 息を奪われてあえぎながら、それでも藤忠が笑み。
 その背から跳びだしたあけびが上段から斬りかかる。完全なる不意打ちだったが。
「あはァ!!」
 悪魔の拳はそれにすらも追いすがり、打ち抜いた。
「それも、わかってた――!」
 拳に腹を抉られながら、あけびが刃を振り落とす。最初から狙っていたのだ。肉を切らせて骨を断つための機を。
 肩口に食い込んだ刃を振るい落とした悪魔の脇腹に、仙寿之介の一閃が食いついた。
「がァ!!」
 悪魔の拳が踊り、仙寿之介を打ち、打ち、打つ。
 凄絶な荒死に打ち据えられながら仙寿之介は笑み。
「いいのか――? 真打は、俺ではないぞ」
 果たして。
「ウォォォォォォオオオオオオオ!!」
 足りない血に忌み嫌ってきた悪魔の血を注ぎ込み、「悪魔共にウォーウォー唸るKAKA偽装解除」を発動させたラファルが、自らを鋼でコーティングしたフルメタルジャケット砲弾となって突っ込んだ。
 硬直中の悪魔はかわせない。もろに食らって、ラファルごと弾け飛ぶ。
「っ、は、ァッ!?」
 両者は絡み合って飛び、地に落ちて跳ね、また落ちて跳ねる。
「死んでんじゃねェノカヨォ!!」
 悠長に死んでられねーんだよ。友だちが、母ちゃんが、待ってんだからなぁ。
 悪魔が膝を突き上げ、肘を突き下ろし、ラファルを剥がしにかかるが、その攻めはアウルの加護なきただの打撃に過ぎず、ラファルの機械鎧の表面を鳴らすばかり。
「なんだよォ!? なんでオレの――」
 悪魔は拳を振り回し、次々とスキルを発動するが、その手にアウルが宿ることはなかった。
 当たり前だろ。おまえが使ってる体、誰んだと思ってんだよ?
 そう。悪魔の体を構築するナノマシンはラファルのリアクターが生み出したものであり、命令の優先権はラファルにある。
 それを吸い取り、アウルを巡らせることで擬似的な新陳代謝を繰り返してきた悪魔の体はつまり。
 俺の人形ってことなんだよ。
 ぶちかましの衝撃によって自らの帰還を悪魔の体を成すナノマシンへ知らしめた。
 覚醒したナノマシンは今、一時的にその活性を抑え、待機状態にある。
 悪魔の血を鎮め、平静を取り戻したラファルはぎちりと口の端を吊り上げた。あとはそう、告げるだけだ。
「喰らい合え」
 命令を受領したナノマシンたちが互いを喰らい合い、滅していく。
「ああ、あ、ああああああアアアアアア!!」
 悪魔が鋼の守りを失いゆき、皮を、肉を、血を失いゆく。
 残るはそう、黒を剥き出した悪魔そのもののみ。
「コロス、コロ、ス!」
「死ぬんは自分やタコ」
 クフィルの狙撃弾が悪魔の靄めく眉間へねじり込まれて。
「ラーちゃん、行ったれぇぇぇ!!」
 だからうるせーっての。
 ラファルの戦闘用義体の四肢が撃ち出されて四体のラファルを成し、本体と共に零距離から最大化力を叩き込んだ。
「六神分離合体「ゴッドラファル」見参ってな!」
「五体しかいてへんし、うちのヘッドショットぜんぜん生かしてないし!」
 クフィルのツッコミを背で聞きながらラファルは薄笑む。泣かれるよかそっちのがぜんぜんいいや。
「なら、六神めは俺が務めようか」
 藤忠が悪魔の脛を薙ぎ。
「せっかくだ、一神増やしてやろう」
 仙寿之介が体勢を崩した悪魔の左腕を斬り飛ばし。
「私が八神め?」
 悪魔の背後に忍び寄ったあけびがその右肩へ刃を突き込み。
 防御と回避を封じられた悪魔の眉間へ、ラファルが天狼牙突の切っ先を突きつけて。
「最期は」
 クフィルの弾ごと、一気に貫いた。
「ボロ雑巾みてーに捨ててやる」

「あ、あ――」
 悪魔であったはずの黒が砕けて散り落ちる。
 この世界に存在を繋ぎ止めていたアウルが解け、悪魔は世界ならぬ虚空へと落ちていく。ただ、ラファルから奪った機械部品だけを道連れにして。
「ち、消えるんなら盗ったもん全部返してけってんだ。稼ぐアテもねーのにカネかかんじゃねーかよ」
「だったら不知火においでよ。お給料出すよー」
 舌打ちしたラファルの肩にあけびの手が触れた。
「なんだよ、番犬役でもさせてくれんのか?」
「会社作ろうと思ってるんだ。警備会社と義体系の医療メーカー。警備は姫叔父にやってもらうつもりなんだけど、メーカーのほうをラルに任せたいなって」
 今後も妹分にこき使われることが確定しているらしい藤忠が肩をすくめて苦笑し、仙寿之介は息をついて親友の背を叩く。
「ラーちゃんの将来はラーちゃんが決めたらええ。好きに生きぃ」
 クフィルはすっかり母親の顔である。
「考えとくよ」
 ラファルは空を仰いだ。
 果てなく広がる、青。これから自分がどこに行くとも、この青の下で生きていくことは確かだから。
「俺、行くよ」
“これまで”を全部ここに置き去って、一歩先へと進むのだ。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ラファル A ユーティライネン(jb4620) / 女性 / 16歳 / ペンギン帽子の】
【クフィル C ユーティライネン(jb4962) / 女性 / 22歳 / 舌先三寸】
【不知火あけび(jc1857) / 女性 / 16歳 / 明ける陽の花】
【不知火藤忠(jc2194) / 男性 / 22歳 / 月紐に想ひ結びて】
【R.A.Y(aa4136hero002) / 女性 / 18歳 /悪の暗黒頭巾】
【日暮仙寿之介(NPC) / 男性 / ?歳 / 天使】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 果たして踏み越える。
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2018年04月02日

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