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『選んだ道の先に―― 』
芦屋 乙女aa4588)&ガラードaa4847hero001

 さてどうしたものか――ガラードは聊か困った状況に置かれていた。
 バイト先のカフェバーの店長から任されたとあるレストランのバレンタインディナーの調査。
 そのディナーの条件がカップル限定なのだ。
 憂いを含んだ横顔に見惚れる女性もいるというのに、ガラード本人は誘える女性に心当たりがない。
 そんな時見つけた、かつての上司の契約者たる少女。
 これはもう天の助けと言わんばかりにガラードは後を追いかけた。

 天気は快晴、頬に当たる風は冷たいけど心地良い。
 図書館を出た乙女は自分を呼ぶ声に視線を巡らせる。
 駆けてくるのは――。
「が、が……ガラード卿?」
「実はお願いしたいことが……」
 子供の頃から憧れた円卓の騎士物語――と不思議なほどに重なる世界からやってきた騎士の一人、ガラードの真剣な眼差しに「わ、私で力になれることなら」と頷く。
「……え、えぇ?」
 とはいえ話を聞いた乙女は驚きと戸惑いを隠すことはできなかった。
 尊敬する騎士に協力を求められたことは素直に嬉しい。勿論全力で応えたい。
 でも……。
 聖杯を得た騎士が……。
 円卓で一番尊く穢れなき騎士が……。
 調査のためとはいえ私と一緒にディナー?
 彼の隣に背が高いという以外これといった特徴がない私が――?
 これがカフェバーの掃除などであれば一も二もなく快諾した。
「やはり難しいでしょうか?」
 ハの字に寄せられる眉に乙女は「ち、違います。大丈夫だけど……」と慌てる。
「けど……?」
 小さく首を傾げるガラードの背で髪が揺れる。冬の陽光に煌めく白銀の清廉さ――現実逃避しかけた自分の心を無理矢理引き戻す。
「私で……良いんですか?」
 「本当に」の意を込めて尋ねる。
「はい、乙女さん僕と一緒に来てくださいませんか?」
「……は、はい」
 ダンスを誘うかのように差し伸べられた手。躊躇いがちにそろりと自分の手を重ねた。すらりと整った手、だが掌は固く。騎士の手だと思う。
 少しうれしいような恥ずかしいようなこの気持ちは自身も物語の登場人物になったような気がするからだろうか……。
「ではドレスを選びに行きましょう」
「ど、ど……ドレス? あ、あの。私、せ、制服があります、から……」
 学生の正装は制服。4月から大学生だが今は2月12日。まだぎりぎり大丈夫。
「ドレスは経費で落ちますから気にしないでください」
 それもだけど、それだけじゃない――回れ右しようとした乙女の手をガラードはしっかりと握りなおした。

 試着室の鏡に映る見慣れない姿。乙女は助けを求め誰もいない空間を見渡した。
 袖が軽く広がったボレロに胸の下で切り替えた入ったワンピースは背の高い乙女に合わせたセミオーダー。動きに合わせ淡い菫と紫を重ねたスカートの裾が柔らかく揺れる。
「本当に経費で落ちるのかな……」
 少しだけ心配になった。
 ドレスの次は問答無用にメイク。
 柔らかい桜色のチーク、唇には色よりも艶と輝きを足して。髪にはミモザを象った髪飾り。
 すべて終えてガラードの元へ。
「お、お待たせしました」
「おかえりなさい、乙女さん」
 長い時間待たせただろうに嫌な顔一つせずスーツに身を包んだガラードが出迎えてくれる。
 彼の髪が良く映えるダークカラーのジャケット、瞳より少しだけ暗い青いネクタイがアクセント。
 外見だけならば乙女もガラードも同じくらい。だけどそうとは思えないほどにガラードの姿は堂に入っている。
「春を呼ぶ菫の妖精のようですね、とてもよくお似合いです」
 気負った様子もなく紡がれる言葉。恥ずかしさのあまり自分の長い耳に手をやった。
 「ガラード卿もとても素敵です」と伝えるタイミングを逸してしまったことに気付いたのは後になってから。
 高くて細いヒール、慣れない靴で歩く乙女をガラードはさりげなく支えてくれる。
 歩調も乙女に合わせてゆっくりと。あくまでバレンタインに浮かれる街を見ながら行くのが楽しいといった風に。
 店の前で乙女の足がぴたりと止まった。
 とても有名な店だ。乙女はまだ早い。
 私が失敗したらガラード卿に恥ずかしい思いをさせてしまう。頭の中ぐるぐる回るテーブルマナー。緊張で汗が滲む掌をぎゅっと握る。
「あそこに手形をつけたい気持ちに駆られませんか?」
「へ?」
 レストランの硝子のドアを指さしガラードが浮かべるのは外見相応の悪戯を思いついた少年のような笑み。
「そ、そんなことしたら怒られちゃいますよ」
「確かに。それで任務が失敗になったら大変です。では大人しく任務を遂行することにしましょう」
 背中に添えられたガラードの手から伝わる温もりに押されるよう乙女は一歩踏み出した。
 少し落とした照明、流れる静かな曲。大きな観葉植物が目隠し代わりになっている窓際の席へと案内される。
 オーダーを受けたスタッフが去ったのを確認して乙女は大きく息を吐いた。
「ぁ……あ……の、ごめんなさい。そ、その緊張してしまって」
「わかります。僕も城にいるより外にいる方が気楽でしたから」
「……そ、それって……!」
 テーブルに手をつく。衝撃でカトラリーが僅かな音を立てた。気恥ずかしさに膝の上に手を戻す。
 だがちらっと盗み見たガラードは呆れた様子はなく、口元に柔らかい笑みを浮かべている。
「き、今日は誘って下さってありがとう、ございます」
「僕こそ無理を聞いて下さり感謝しております。実は……」
 いきなり真顔になったガラードから「乙女さんがいなかったら一人で来ようかと」告げられた。
「ぇ……え? 一人でですか?」
 テーブルの上で揺れる蝋燭に照らされ二人だけの世界を作っているカップルの中にただ一人。流石数々の試練を潜り抜けて来た騎士――というところなのだろうか? 乙女の困惑に「冗談です」と笑み交じりの声。
「か、揶揄わないでください」
「乙女さんが良い反応をしてくださるので」
「ガラード卿……。す、こし……あの人っぽいです」
 シレっと返す相手にちょっとだけ恨みがましい目。「ではお詫びに一つ良い事を」ガラードが内緒話をするように口元に手を当てた。乙女もそれに倣い耳を近づける。
 あの人とはかつてガラードの上司であり今は乙女の騎士となった人物。
「あの方は不機嫌な時に蜂蜜を少し溶かし温めて酒精を飛ばしたワインを出すところっと機嫌が治るのですよ」
 それはもう面白いまでに。
「ほ、本当ですか? 今度、試してみます」
「僕からだということは内緒にしてくださいね」
 前に置かれた前菜を口に運ぶ。コンソメジュレに濃厚なウニの香りが口の中に広がって――
「――っ!」
 美味しい、と乙女は口を押えた。ふとラーメンのスープをジュレ仕立てにし夏用メニューにできないかと……。
 正面から「ふっ……」と笑いをこらえる気配。
「ガ、ガラード卿?」
「くるくると変わる表情がとてもチャーミングです」
「ちゃ……」
 ガラードの言葉に嘘はなく、他意もない。だからこそ照れてしまう。どんな顔をすればいいのか、握りしめた華奢なグラスの脚を凝視するしかできなかった。
 話題は専ら乙女の契約英雄について。
 ガラードの口から語られるその人は乙女の良く知る彼であったり、全く知らぬ彼であったりとても興味深く時折食べるのを忘れてしまうほど夢中になって耳を傾けた。
 デザートが運ばれてくるころ、乙女は意を決して幼い頃騎士物語を読んで以来ずっと聞きたかったことを口にした。
「あ、あの……」
 スプーンを握る手に力が篭る。「はい」――落ち着いた声。
 落ちる沈黙。急かすような真似を彼はしない。乙女の言葉を待っていてくれる。
「聖杯をとるのは怖くなかったんですか……?」
 聖杯を手に入れれば彼は死ぬと分かっていたのにどうして――……。
「死が怖くなかったといえば嘘になりますが……」
 乙女はガラードの話を聞くためスプーンを置いて背筋を正す。
「当時はそれが自分の産まれた意味で、正しい行いと信じていましたので、そう苦しいものではありませんでした」
「あ。あの人に言ったら、殴ってでも絶対止めましたよ、名誉より大事なものがあるって……幸せになる人もならないって」
 乙女の騎士ならばそうしただろう。
 彼は国を担う騎士と将来を期待され……いやそのような期待云々以前に仲間と認めた者が名誉と引き換えに死地に向かうのをよしとする人物ではない。
 「名誉なんて食えないものは捨ててしまえ」くらい言いそうだ。
「ええ、きっと皆悲しんだ。望んだものは皆の笑顔だったのに、逆に――」
 悲しませる事をしてしまった――ガラードの唇に浮かんだ苦い笑みに乙女は触れてはならないことに踏み入ってしまったのかもしれないと言葉を失う。
 その気配に気付いたのかガラードが「ジェラード溶けちゃいますよ」打って変わった砕けた口調で言う。
「は、はい……」
 もぐ、っと一口。チョコレートのジェラードが溶けていく。口の中に広がる甘さと苦み……。
 人に未来を見通せる力などなく。己が選択した道が正しいかなんて後になってみなければわからない。そも正しい道があるのかすらも――。
 これこそ我が使命、そう信じていてさえも後悔は生まれる。
「正しいかわからなくても自分で選んでいくしかない……」
 乙女の手が止まる。
 乙女の脳裏に過るのは「西洋騎士物語の研究」のために進学先を選んだ時の周囲の反応。
 「就職どうするの?」「そんな潰しの利かない学問なんて」――皆が言う事もわかる。
 本当にこれで良かったのか――今でも不安を感じることがあるのだから。
「……生きるのはすごく勇気が必要なことですね」
 零れた独白に近い言葉は心の底からのもの。
「せめて、――卿にだけでも相談すれば良かった――そんな事に気付いたのすら、此処に召喚された後でした」
 顔を上げた乙女にガラードは優しい笑みを返してくれる。
「だから今……ともに生きて、笑える――そう在れるよう、頑張ろうと思います。たとえ過去は取り戻せなくても、今が蜃気楼のようなものでも……」
 ガラードの手が何かを握る仕草をした。
「ガラード卿……」
「この時間は無為ではない……。そう信じさせてくれたのは乙女さんたち契約者の皆様です」
 乙女たちの選択が積み重なった道の上に彼等英雄との出会いがある。乙女たちの選択が決して無為ではなかったのだろうか……。
 乙女はあの温かい手で再び背を押された気持ちになった。
「あ、ありがとうございます」
「おや、僕は今何かしましたか?」
 惚けるガラードに乙女は「な、内緒です」と唇の前に人差し指を立てる。

 レストランからの帰り道。間もなく乙女の自宅というところで二人は足を止めた。
「本当に助かりました。後日ちゃんとお礼をさせてください」
「い、いいえ。私のほうこそご飯は美味しかったですし、ドレスまで……」
 ぶんぶんと振られる頭に、ガラードは目が回らないかちょっとだけ心配になる。
 乙女は饒舌ではない分、表情が豊だ。
「お、おやすみなさい」
 ちょこんと頭を下げて走って行く乙女をガラードは呼び止めた。
「……乙女さん、貴方に感謝を」
 深々と頭を下げるガラードに乙女は「き、気にしないでください」恐縮した様子だ。
 頼りなくも見える小さな背中。それでも迷っても不安を抱いても自身の望みのために道を選び歩んでいく。
 そのような少女だからこそ、騎士たるあの人は現れたのだろう。
 あの人と自分、互いに良い関係だったと思う。上司と部下として、同じ円卓の騎士として。
 無事に帰って来い――それに応えることができないのを知っていた。目的を果たせば己は死ぬのだから。
 故に何も言わずに旅立った……。
 聖杯を受けること、今でもそれは自身の使命だったと思う。
 だが己の失敗……いや今も胸に一つ刺さる後悔。
 だからこの時間がとても愛しい。
 再び離れていく乙女の慣れない靴のせいでよたよたと危なっかしい背にガラードは心の中で繰り返し感謝を告げる。

「――卿を呼び寄せて下さり、本当にありがとうございます……」

 次に会った時にまた話せるように上司の様々なエピソードを記憶の底から引っ張り上げようとガラードは帰途に着いた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa4588 / 芦屋 乙女 】
【aa4847hero001 / ガラード 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございます、桐崎です。
PCの故障に関し、手数をおかけし申し訳ございませんでした。

ところどころ乙女ゲーのスチルを想像しつつ執筆してみましたがいかがだったでしょうか?
乙女様からみたガラード様の魅力が少しでも伝われば嬉しく思います。

気になる点がございましたらお気軽にリテイクを申し付け下さい。
それでは失礼させて頂きます(礼)。
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2018年04月03日

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