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『誉桜の舞う道を 』
芦屋 乙女aa4588)&ガレシュテインaa4663hero001

 ──……心地よさに身を委ねて……のんびりと……
 ぼんやりした脳に響いてくるのは低いモーター音。
 単調なそれもまた思考を蕩かすのに一役買って、芦屋 乙女はどんどんと全身の力を脱力させていく。
 ぐるぐると肩のあたりを巡っていた絶妙な圧が、今度は左右から背骨に沿ってぐーっと上から下へと降りていく。
「ああー……」
 思わず漏れ出た声は。
 結構耳に響いた。
「!?」
 大声出た!?
 今結構大声出た!?
 というか。
「……はっ! こんなことしてる場合じゃないよ……っ!」
 彼女はそこで、今自分が何をしに来ているのか思い出して、がばりと上半身を上げる。
 閉じていた眼を急に開いたせいで、煌々と白く照らされる店内が眩しい。
 店内。
 そう、店内。ここは家電量販店である。
 何気なく興味本位で座ってみたマッサージチェアに、そのまま虜にされるところだった。
 慌てて起き上がったことで丁度良く背もたれから身体が離れて、彼女はようやく誘惑から我に返った。
 わたわたとリモコンを探して停止させる……と。
「もう宜しいのですか?」
 傍らから、声をかけられた。
 今日の買い物に同行してもらったガレシュテインである。
 彼女がチェアに座る間横に立っていた彼の存在を自覚し直すと、乙女は益々顔を赤らめる。
「う、ううう、うん。ご、ごめんね、待たせて。ちょ、ちょっとのつもりで……」
「ええ。まだほんの少しですよ。僕は大丈夫ですから、気持ちよかったのでしたらもう少しそのままお休みになられても」
 ガレスの提案に、乙女はぶんぶんと首を振る。
 慌てふためく彼女の態度が本当にわからなくて、ガレスは小首をかしげた。
「如何なさいました? そのように慌てなくても、と思うのですが……」
「だ、だって、あ、あああたし今、変な声……、ていうか、顔っ……」
 言いながら、そうだ、絶対ふにゃふにゃ変な顔してた、彼の横で、と気がついて、乙女は思わず両手で頬をペタペタと触った。
 ああ、と、ガレスは静かに呟く。
「変なこと、など。見ているこちらも癒されるような、愛らしいご様子でしたよ?」
「……う、嘘ぉ……」
 そう言うガレスに、確かに笑うような様子は一切見受けられないが。
 緩みきっていた自覚があるだけに、乙女はまだ半信半疑だった。
「嘘など申しません。──騎士の誇りに誓って」
 乙女を納得させるためだろう。不意に、表情と姿勢を気真面目に正してガレスが言うと、乙女は一度目を丸く見開いて。
 それから、落ち着いて、一呼吸。
「そうですね。……恥ずかしいところを見せても、ガレス卿はそれを笑ったりなんてしませんよね」
 そう納得して、乙女はガレスを見た。
 こうして改めて見ると、愛らしい、というなら彼も大概だろう、と思ってしまう。
 もっとも、真摯に騎士を目指している彼はそう言われるのは不本意だろうというのも分かっているけど。
 ……うん。彼は騎士。
 礼儀正しく心優しい、尊敬する騎士の一人。
 つい、弟に対するような親しみを感じてしまう事はあるけれど。
 気持ちを、言葉遣いを正して、今度こそ彼女はきちんと立ち上がった。
「お気遣い、ありがとうございます。……でも、本当に、もうこうしてる場合じゃないです」
 苦笑しながら乙女が言うと、ガレスもそうですね、と頷いた。
 ……ただのんびりウィンドウショッピング、というわけでは無いのだ。今日の買い物には、明確に目的がある。
 大学に合格した幼馴染二人への、贈り物を買いに。
 男子の好むものの参考に……とガレスに同行を願ったら、彼は快く応じてくれて。
 そうして二人歩くショッピングモールはことのほか楽しくて……思った以上に、脱線もしてしまったけど。
 スーツや洋服をガレスに合わせてみてきゃっきゃと楽しんでいたうちはまだよかった。けど、ふと家電量販店に入ってみたのは完全に不味かった──だって、最新家電の機能たるや、色々凄いんですもの。目的そっちのけで興味津々にもなるじゃないですか。
 内心で言い訳して、兎に角にもとこの店を出る。目的のものは多分ここでは見つからないだろう。色々な意味で重いし。
 そうしてやや速足で自動ドアから外に出るなり、ふわり、風を感じた。
 すっかり、暖かい風。ついこないだまで、三寒四温とばかりに、寒くなる日もまだまだあると思っていたけど、やっぱりお彼岸あたりを境に、厳しい日はすっかり鳴りを潜めて。
 ああ本当、季節は慌ただしく巡っていく。
 今日は見つからなくても……なんてやってたら、そのままずるずると合格祝が合格祝じゃなくなってしまうに違いない。

「おふたりともきっと喜ばれると思いますよ」
 ガレスの言葉に、乙女は頷く。
 あの後、幾つかの店を巡って、最終的には贈り物は幼馴染三人揃いで実用的に使える高級ボールペンに決まった。値段的にも、これくらいがいい折り合いだろう。
 納得して、満足して。焦る必要もなくなった道行きを、今は普段よりゆっくりとした足取りで歩く。
 帰り路からは少し外れた場所。
 寄り道していきましょう、とガレスが導いてくれたのは、今がちょうど見ごろの桜並木の通りだった。
 少し視線を上に、見惚れながら歩く。
「……今日は本当に助かりました。ありがとうございます」
「こちらこそ。誘っていただき光栄です。お役に立てたなら、嬉しいです」
 ほころぶ気持ちのままに乙女が言うと、ガレスが答える。
 お世辞なんかじゃない。今日彼が来てくれて本当に良かったと、乙女は思う。
 お願いした通り、贈り物の相談に、適切に提案したり吟味してくれたりしただけじゃない。
 率先して荷物を持とうとしてくれたり、さり気ない気遣いを随所に見せてエスコートしてくれた。
 そう。それはきっと彼が……──
「ガレス卿はどうして騎士になったんですか?」
 ふと、疑問がそのまま口をついて出た。
「僕は憧れの方のような騎士になりたいんです」
 突然の問いに、迷うそぶりもなくガレスは答えた。
 そのまま彼は、その、憧れの騎士という人についていかに優れた人かを武勲含め滔々と語り始めた。
 急に饒舌になった彼に、乙女は少し圧倒されながらもうん、と適度に相槌を打ちながら聞いている。
 キラキラと輝く目で、熱っぽく語る彼は、やっぱりどこか弟っぽいなあ、などと改めて思ってしまったりなんかもして。
 こうして、機会あらば溢れてしまうほど、その想いは深く、尊いのだろう。
 そこまで思って──ふと、考えてしまう。別に、比べたりするつもりじゃないんだけど……。
「はっ! あ、ああ、すみません。つい長々とっ!」
 何か少し、変化を感じたのか。ガレスが慌てて言葉を止めて、詫びる。
「ああいえ、違うんです。とても興味深い話で、ガレス卿は本当にその方が大好きなんだろうなあ、と思ったんですけど……」
 乙女は、苦笑する。決して彼の語りに何か不快を感じたわけでは無いのだけど。
「あのひととはとはあんまり仲が良くないの? って、ちょっと、思って」
 その言葉に、ガレスは少し顔を曇らせる。
 あのひと、というのは、乙女の第一英雄の事だ。
 時折ガレス卿に対して叱ったり冷たくしているのを見かけるので、つい心配して聞いていた。
「あの方とは仲が悪いというか……」
 若干、歯切れの悪い感じでガレスは答える。
 かの人とは、過去の世界では上司だった。
 尊敬する騎士の一人……では、ある。
 ただ、彼の方から不満を言うならば。
「ボーマン、と呼ばれるのは、未熟者と言われているようで好きではありません」
 それは、フランス語で『美しい手』を意味する。
 男にしては綺麗な白い手を指しての事だろうが、苦労知らずの証拠だとも言われていて。
「一人前の騎士として彼に認められれば名前で呼んでもらえると思うんです」
 少しため息交じりにガレスは言う。
 なぜそのように言われるのか。嫌われているのか。ガレス自身は、よく分かっていない。
 何故も何も、騎士になるのをその人が邪魔してきたときに刺した、その事件が原因なのだが。
 向こうは、「面倒を見てやったのに脇腹を刺されて、恩を仇で返された」という認識である。
 自分の英雄とガレスのすれ違いに、ちょっと呆れ顔になる乙女だった。
「き、きっといつか認めてもらえますよ!」
 そう言いながら、あのひと、頑固だからなあ……。そんな未来もあるかな? と、不安交じりに乙女は将来に想いを馳せる。
「乙女さんは優しい方ですね」
 彼女の心配とフォローに、ガレスは曇らせていた表情を、柔らかい微笑に変えた。
 つられるように、乙女も笑う。
「……少なくとも、今日のガレス卿は、あたしにとって立派な騎士だったと、そう思います」
 また、今日という日を思い返しながら、乙女は告げる。
 その言葉に、ガレス卿は少し驚いた顔をして……それから、今日一番の笑顔を浮かべた。

 二人、笑って歩く帰り路は、満開の桜並木。
 時折、優しい春の風がふわりと吹いて、花びらを舞い散らせていく。
 彼があるく道を彩るみたいだ、と乙女は思った。
 そう、これはきっと祝福なんだ。
 ──今日一日、立派な騎士を勤め上げた彼への、名誉の花吹雪。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa4588 / 芦屋 乙女 】
【aa4663hero001 / ガレシュテイン 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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この度はご発注、ありがとうございました。
リンクブレイブの執筆はこれが初めてとなります。そのため、確認に少々お時間頂いてしまいました。
のんびり春デート。私としては非常にほのぼのと、楽しく書かせていただきましたが、お気に召すでしょうか。
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凪池 シリル クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年04月04日

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