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『桜の祝福 』
カートゥル(ワイバーン)ka5819unit005)&鞍馬 真ka5819

 春の空の色は、カートゥル(ka5819unit005)の体の色によく似ていた。すこし霞がかっている、優しい青。帯のように遠くまで続いている雲の白。だから、その空を飛ぶカートゥルはまるで空にとけてゆくように見えた。
「本当にとけてしまったら困るけどなあ」
 のんびりとそんなことを言うのは、鞍馬 真(ka5819)だ。眼下に広がる、見事な満開の桜の花よりも、カートゥルの春の空色の体に見惚れている。桜の精がいたとして、これを知ったならどんなにか嘆くことだろう。
 ぽかぽかとあたたかく、明るい光に満ちた春の日だ。数日前からほころぶように咲き始めていた桜は、一気に満開となった。こんな気持ちの良い日を逃す手はない、お花見だ、と、真とカートゥルは外へ飛び出したのだった。
 桜。毎年、毎年、こんなにも開花を待ち望まれ、人々の気持ちを浮き立たせる花もないだろうと思う。
 広い野原の、桜の木ばかりが立つエリアの上空を飛ぶと、幻想世界へ紛れ込んだかのように錯覚するほどの光景が広がっていた。
 青空、桜、美しい相棒の姿。真はうっとりとした気分になる。
「あ、あのあたりがよさそうだね、降りようか」
 夢の中へ引き込まれそうな顔をしていた真だが、地上の様子にもちゃんと気を配っていたらしい。大きくて古そうな桜の木が枝を揺らす方を指さした。カートゥルは短く声を出して了解の意を伝えると、優美な動きで旋回し、地面へと降り立つ。
 と。
「わあ! すごーい!」
「え、なあに、竜?」
「大きいねえ!」
 無邪気な歓声が沸き起こった。どうやら、すでに先客がいるエリアだったらしい。子ども連れの家族が何組か、レジャーシートを敷いて花見の準備をしているところだった。
「ああ、すみません、驚かせてしまいましたか」
 真が慌てて、目を白黒させている大人たちに頭を下げた。驚かせはしたものの、悪い印象を与えたわけではなかったようで、彼らはすぐ笑顔になって首を横に振った。
「いいえ、大丈夫ですよ。気にしないでください。今日はお花見日和のとってもいい日ですもの、空はさぞかし気持ちが良かったでしょう?」
「はい、とても。ね、カートゥル」
 真が微笑みかけると、カートゥルは首を大きく動かして頷くようにした。その様子に、子どもたちの目がまた輝く。
「ねえ、ねえ! もっと近くで見てもいい?」
「うん、どうぞ」
 真がにこにこと手招くと、子どもたちは嬉しそうにカートゥルに近付いた。カートゥルが愛想よく姿勢を低くして挨拶するような仕草を見せると、歓声をあげて喜ぶ。大きいねえ、綺麗だねえ、という褒め言葉に、カートゥルも嬉しそうだったし、真も得意げにならずにはいられなかった。なんといったって、自慢の相棒だ。
「このこは、竜? なの?」
「ワイバーンだよ」
「へええ! 女の子? 男の子?」
「女の子だよ。カートゥルって名前なんだ」
「そうなんだ! だと思った! だってとっても美人さんだもの!」
 美人、と言われてカートゥルは嬉しそうに、しかし照れるように首をなめらかに動かし、真は鼻高々に満足げな表情を隠そうともしない。
 ほどなくして、子どもたちの保護者らが声をかけてきた。
「みんなー、お弁当の準備、できたよー!」
「わーい!」
 子どもたちが飛び上がって、レジャーシートの上に広げられた色とりどりのお弁当の方へ駆けてゆく。
「よろしければ、ご一緒にいかがですか」
 母親のひとりに、にこやかにそう勧められたが、真は丁重に辞退した。
「もう少し、奥の方へ行ってみようと思いますから」
「そうですか。ここから先の野原も桜が綺麗ですし、ここよりも静かで穏やかだと思いますよ」
 そう教えてくれた母親に礼を言って、真はカートゥルとともに移動を開始した。
「ばいばーい!」
 真とカートゥルを見送って手を振る子どもたちは、おむすびや卵焼きを頬張りながらふと、首を傾げた。
「そういえば……、ワイバーンのカートゥルさんは女の子だって言ってたけど、あのメガネの人は女の人だったのかな、男の人だったのかな?」



「モテモテだったね、カートゥル。少し妬けてしまったよ」
 冗談めかして真が言うと、カートゥルはそんな真を宥めるように喉を鳴らした。そんな様子も愛らしくて、真はくすくすと笑う。
 家族連れと別れて奥へと進みながら、真とカートゥルはようやく、桜の花をじっくりと眺めた。休日ということもあり、真は長い髪をおろし、伊達メガネをかけたスタイルで、子どもたちが首を傾げたのも頷ける容貌だ。いっそ儚げにも見えるその姿に、薄紅色の桜の花はよく似合った。彼がひとたび敵を前にすれば、儚いなどという印象は風の前の塵のごとく消え失せるのだが。
「綺麗だね」
 桜の木を見上げ、ぐるりと見回して、真はしみじみとつぶやいた。さきほどの、家族連れのようにわいわい桜を楽しむのもいいけれど、静寂の中でこそ感じられる美しさというものもある。今、真は、心から信頼を寄せている相棒・カートゥルとともにそれを味わっていた。
「あのあたりで、腰を落ち着けようか」
 しばらく歩きまわり、輝く満開の桜を眺めてから、真は居心地の良さそうな根を持った一本の木を示してカートゥルに言った。カートゥルは真より早くその木の根元にて体を休めると、どこか期待しているようなまなざしを向けてくる。
「はいはい。私も待ち遠しかったよ」
 真はまたくすくすと笑いながらカートゥルに寄り添って、その体を撫でた。カートゥルは嬉しそうに、真の胸や腹に頭をすり寄せ、喉を鳴らす。真もすり寄せられた頭の感触がくすぐったくて声をたてて笑った。その光景はまるで「やっとふたりきりになれた」とじゃれ合う恋人同士だ。
 ひとしきりじゃれ合ったあと、真は横笛を取り出して見せた。とたんに、カートゥルの両目が輝く。カートゥルは音楽が好きで、ことに真の奏でる横笛をいつも楽しみにしているようなのだ。真はそんなカートゥルに微笑みかけて、横笛をかまえた。
 最初は、細く静かに。そこから、クレッシェンドをかけつつレガート。
 真は、この春の日にふさわしい、穏やかであたたかな曲を演奏しだした。旋律自体は、安心を誘うようなそんな響きなのに、目の前の満開の桜の所為だろうか、どこか不安定な印象も生まれているから不思議だ。
 カートゥルは目を細め、笛の音色に聴き入っていた。その幸せそうな表情に、真の心も満たされてゆく。もう少し、長く吹いていよう、と真が再び同じ旋律を繰り返したとき。

 はらり はらはら
 はらはらり
 さくや この花 このときに
 さくや この花 つかのまに

 かすかに、かすかにではあったけれど、歌声が聞こえてきた。真は驚いて笛の演奏をやめる。と、歌声も消えた。思わずカートゥルを見ると、カートゥルも驚いているらしく、細めていた両目を見開いている。
「聞こえたかい?」
 しかし、周囲には誰の姿もない。ただ、薄紅色の桜の花が咲き乱れているのみ、だ。
「まさか……、桜の精、かな」
 ほつり、とつぶやく真に、カートゥルがまた、すり寄ってきた。真はふふふ、と笑いながら、その頭を撫でる。
「そうだね、歓迎してくれているのかもね」
 真はもう一度、同じ曲を演奏したが、さきほどの歌声は、もう二度と聞こえてはこなかった。少し残念ではあったけれど、たった一度の奇跡を耳にしたのだと思えばなんだか得をしたような気持ちになって、真とカートゥルはふわふわとあたたかな喜びを胸に感じた。
「もう少し、こうしていようか」
 桜の木の幹に背中をあずけ、真は花を見上げた。ひとひらの花びらが、メガネのレンズの上に落ちて、視界を白く染める。そっと指でつまみ上げると、カートゥルが穏やかな顔で真を見下ろしていた。今度は、その顔に手を伸ばす。
 そうやって、身を寄せ合う真とカートゥルは、桜の花さえ恥じらってさらに紅色に染まってしまいそうなほど、甘やかで幸せそうに見えた。

 はらり はらはら
 はらはらり
 さくや この花 このときに
 さくや この花 つかのまに

 これはきっと、祝福の歌。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka5819unit005/カートゥル(ワイバーン)】
【ka5819/鞍馬 真/男性/22/闇狩人(エンフォーサー)】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ごきげんいかがでございましょうか。
紺堂カヤでございます。この度はご用命を賜り、誠にありがとうございました。
すこしでも桜の時期の記憶が鮮明なうちに、と思い、書かせていただきました。
桜の中での甘いひととき、書いていて私も心が浮き立つような気持ちがいたしました。
大切な春の日のできごとをお任せくださり、ありがとうございました。光栄でございました。
良き思い出つくりのお役にたっていましたなら、幸いでございます。
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2018年04月09日

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