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『 英雄の根源 』
ヴァン=デラーaa0035hero001)&ユエリャン・李aa0076hero002

 ヴァン=デラー(aa0035hero001)には、過去の記憶がない。
 自らを召還した少女が与えてくれるまで、この世界にて名乗るべき名を見つけることすら出来なかった。

 それ故か、好奇心は非常に旺盛だった。
 今や失われてしまった記憶の中にあった筈の知識。それと相応の物事を、本を通じて学ぶことなどから彼はこの世界を識り、楽しんでいる。
 けれども、知を求める理由はもう一つある。
 何気ない自らの動作や、思い起こされた日常への違和感。
 そういったところから、過去の自分を掘り起こそうとアプローチを試みているのだ。
 自らのルーツを辿る為にも、本を通じて得る知識は重要なものと言えるだろうと彼は思っていた。

 ところで、本好きな英雄は何も彼一人ではない。

 動物本のコーナーの横を通りがかったヴァンは、そのコーナーに見知った顔を見かけた。
「ユエリャンさんじゃないか」
「……おや」
 ユエリャン・李(aa0076hero002)は、コーナーの棚に置かれていた本の表紙を見つめていたものの、声をかけられたことでヴァンの存在に気付いたようで顔を上げた。
 ちらりと視線を落としたヴァンは、ユエリャンが表紙の猫を見ていたのだと気付いた。かの英雄が若干動物に弱いのはヴァンも知るところで、賢き者だと認識しているユエリャンの愛嬌とも言える部分だと捉えている。
「これほどにも望むものに恵まれるとは、偶には大きな書店も来てみるものだな」
 そう言うユエリャンは既に、手に提げたカゴに相当数の雑誌や書籍を突っ込んでいる。AGW雑誌や、恐らくこのコーナーで手にしたのであろう動物本の表紙が見えた。
 表紙を見つめていたのは、流石にかなり買い込んだ為これ以上の購入を躊躇ったのだろうか。ヴァンは一瞬そう思ったけれど、どうもそうではないらしくユエリャンは結局その雑誌を手に取った。ネコ科動物の写真集のようだ。
「ネコ科は美しくそれでいて強い。しなやかな筋肉のひとつとっても芸術の域である」
 単にその芸術性に見とれていただけのようだ。ユエリャンは迷うことなく、写真集をカゴへと入れた。

 その後は二人連れ立って、歴史や文化に関する書籍が並ぶコーナーへとやってきた。
 今度はヴァンが何冊か、棚から本を取り出して軽く中身を見定め、これは、と思ったものをカゴへと入れていく。
 カゴに入っていく書籍の表紙を見ていたユエリャンは、ヴァンの本選びにある程度意図があることを察したのか目を細めた。
「和嬢の守りの剣。前線を駆るもの。美しい騎士の構え。
 そうであるな、あなたがどのような英雄であるのか、興味は尽きぬ」
 棚にある別の本にかけていた手を止め、ヴァンは、「俺だってそうだ」と苦笑する。
「そうだな……恐らくだが中世期――15世紀ほどか。そこら辺の『習慣』や『日常』と言った雰囲気の事をしている、様な気がする」
「欧州文化に近いのであるかな。なるほど、激動の時代だ」
 更に興味を抱いたのか、ユエリャンはヴァンのカゴの中の一冊に手を伸ばした。
 今日買い漁っていたのも、中世欧州の文化風俗関連のものだ。
 本から得た知識が、そのまま過去の自分を掘り起こすことに繋がるのは奇跡的な確率の話になってしまうだろう。けれども、一つの小さな足がかりとしてならそんなに難しい話ではないのかもしれない。
 事実、先程口にしたことも、これまでに得た知識から出てきた一つの推測なのだから。
 今日購入した本で得られる知識は、また何かの立脚点になったりするのだろうか。
 そういったある種の手探り感をも、今のヴァンは楽しんでいた。

 ■

「そこなカフェにでも寄らないか」
 それぞれの買い物を済ませ本屋を出た後、ユエリャンはそうヴァンを誘う。ユエリャンの視線の先には、煉瓦造りのカフェがあった。

 テラス席に腰を落ち着けた二人はメニューを確認する。
「お、ふむ……なるほど。新作のこの……桜ラテを頂こうかな」
「我輩はブラックコーヒーを頂こうか」
 平日の昼間、それほど客足も多くなかったからか、さほど時間を置かずに二人の目の前に注文したものが出された。
 それまでの間にも、二人はそれぞれに購入した書籍や雑誌に目を通し始めている。
 ふと、ある箇所でページを捲る手を止めたヴァンに気づき、ユエリャンは自身の猫雑誌に向けていた視線を少しだけ上げる。
 ヴァンはいつもよりも若干、険しい表情を浮かべていた。
「どうされたのかな?」
「いや……」
 何かを言い淀んでいる様子のヴァンの視線の先には、中世の戦争のイメージ画が載っていた。書籍自体のテーマは文化史のようだけれども、記載されている内容的に必要な画だったようだ。
 ヴァンはその画を見つめながら、少し経って口を開いた。
「……戦うときにふと『人と戦う』と言う気分にならないから――恐らくは、俺は異形と戦う者だったのだろう」
 ふ、と表情を緩め、ヴァンは口元に苦い笑みを浮かべる。
 戦う相手が人ではない存在だったであろうということは、『人が人の尊厳を失う』ことを嫌うヴァンにとってはいっそ救いなのかもしれなかった。
 『戦うことで、護る』という信念にも、己の意識を集中できるのだから。
 尊厳云々の考えは置いておくにしても、その『護る』という武人としての精神の在り方に、ユエリャンは尊敬の念を抱いていた。
 ――その尊敬は、単に相手を敬うだけでなく、自らの過去を自嘲する意味も含めているけれど。

(こんな使い手もいるのだと、生前に知ることが出来たならなぁ)
 『万死の母』として、数々の兵器を生み出した生前の自分。
 戦場にて悪用された、『子』。
 それらを処分してから絶った、自らの生命。
 ――もしもの話として。
 あの頃に目の前の武人のような存在に出会えていたのであれば、自分は、『子』は、あのような末路を辿らなかったのではなかろうか?
 そんな風に、考えてしまうのだ。

 ■

(…………)
 ユエリャンの視線が動かない。
 だからヴァンは気付いた。ユエリャンは、ここではないどこかを見ているような目で何かを考えているようだ。
 いや、実際はちゃんと目の前の光景を見ているのだろう。
 ただ――『ユエリャンは自分に対して引け目を感じているのではないか』という、うっすら感じていたことが、今ふいに改めて頭をもたげた。

「どうした?」
 何となくその疑念を口に出すのは憚られて、ヴァンはあくまで視線を気にした風にユエリャンに声をかけてから、桜ラテを啜った。ほのかな桜の香りが鼻孔を擽る。
 ユエリャンはそこで一度思考を止めたらしく、小さく頭を振った。
「先程あなたが見ていたページの画に、色々思うところがあったものでな」
「まさかこの時のことを知ってるのか?」
「そういうわけではない」
 僅かに驚いたヴァンに、ユエリャンはそう微笑を浮かべて答える。
 そうか、と小さく呟いてから、ヴァンは再び書籍に目を落とす。

 ラテの表面に浮かんだ桜の花弁が、季節を告げる。
 人も、召還された英雄も、この世界では等しく時を巡る。
 その末に、望んだ答えが見つかるのかどうか。
 それは誰にも、分からないまま。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ヴァン=デラー(aa0035hero001)/男/47歳/英雄】
【ユエリャン・李(aa0076hero002)/?/28歳/英雄】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 津山佑弥です。
 リンクブレイブの英雄は初めて描かせて頂きましたが、それぞれに能力者では出来ないルーツがあって描写のしがいがありますね。
 時間がかかってしまいましたが、お楽しみ頂ければ幸いです。

 口調違い等リテイク要素がございましたら、遠慮なくお申し付けください。
 この度はご発注、ありがとうございました。
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リンクブレイブ
2018年04月11日

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