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『幸せへの一歩 』
荒木 拓海aa1049)&三ッ也 槻右aa1163

 3月のとある日。三ッ也 槻右はカレンダーを見つめ、考え込んでいた。
「槻右?」
 どうかした? と彼に声をかけたのは同居人でもあり、恋人でもある荒木 拓海。近くでペットであり家族である夜波と戯れていた拓海は戯れもそこそこに槻右に近づき、問いかけた。それに槻右は両親の墓参りのことを伝える。
「もし、槻右がよかったら、俺も一緒に行ってもいいかな」
「え?」
「あ、ダメならしょうがないんだけど」
 拓海の言葉に驚いた槻右にデリケートなところだからしょうがないと思いつつも、しょぼんと肩を落とす拓海。
「違うんだ。ちょっと、驚いただけだから。それに拓海が来てくれるときっと二人も喜ぶよ」
 落ち込む拓海に慌てて槻右は言葉を紡ぐ。槻右が驚いてしまったのは拓海からそんな提案があるとは思わなかったこと。そして、なにより、英雄以外では初めて一緒に墓参りに行くのが拓海であるということの喜びからだった。
「ここはやっぱりビシッと決めていったほうがいいかな」
「いつもの拓海で大丈夫だよ」

 墓参り当日。二人であれやって、これやってと仲睦まじく墓を綺麗にしていく。そして、綺麗にし終えると花を供え、眠る両親の冥福を祈り手を合わせた。
(この一年、色んな事があったんだよ)
 嬉しいことや拓海のことを心の中でそっと両親に報告する。
「お義父さんお義母さん初めまして。槻右さんと同居させて頂いてる荒木と申します。突然ではありますが、どうか……槻右さんをオレに下さい! オレ達の相性は最高と自負してます。槻右さんもオレに惚れてる筈で……必ず二人で幸せになります。……なので結婚を了承するようお二人からも口添えして下さい」
 突然、聞こえた声に驚いて目を開け、隣の拓海を見れば、拓海は手を合わせたまま、つらつらと思っていることを言葉にしていく。
「〜〜っ?!」
 不意打ちすぎるその言葉の数々に声ならぬ声を上げ、慌てて拓海の口を手で塞ぐ。口を塞がれた拓海はまだ言い足りないと目を向けるが、耳まで赤く染めた恋人にそれ以上は言えなかった。
「ほ、ほら、掃除も報告も終わったし、帰ろう」
 槻右の言葉に頷き、二人は帰路につく。
「槻右、OKしてよ? 俺としては人前でも二人で堂々と過ごしたいな〜。それにこんな優良物件他に無いぞ」
「……拓海の言いたいことは分かるんだ。でも、僕は二人でいられるだけで十分幸せなんだ。だから、今は……」
 待って欲しいという槻右。またも保留に落ち込み、拗ねる拓海。ただ、ここで終わってしまったら、いつまでたってもこのままだと思った拓海は理由を教えて欲しいと口にする。
「……拓海は人に認めてもらいたいというけど、僕は人目に触れる、が怖い。それに不釣り合いに思えるほどに自信もない」
 ぽつりぽつりと零す言葉。
 結婚をしたことを公言することにも勇気がいる。公言することによって何かが壊れるのではないかと槻右は酷く怯えていた。両親を失った時のように日常があっという間に壊れる様をよく知ってるからこそ、余計にだった。
「自信がない」
(自信はどうすれば付く? オレに最高の奴で日頃から頼ってると伝えてるが……第三者視線か)
「壊れるのが怖い」
(壊れるのが怖いなら壊さないよう……いや、それでは進まない、変わらない。なら壊れるより多く作れば良い……理屈上は)
 槻右の言葉一つ一つに拓海はどうするかと考えていたら、槻右の言葉を黙って聞いているだけになっていた。
「ごめん……拓海のことが嫌とかじゃなくて」
 黙ったままの拓海に申し訳なくなって、そう言うも重くなってしまった空気は軽くはなってくれなかった。

「よし、買い物に行こう」
 重くなった空気のまま帰ったら、皆に心配させてしまうし、それよりなによりも拓海が嫌だった。だから、空気を変えるために槻右をショッピングへと誘った。
 ホワイトデー特価の文字が至る所に掲げられ、終わりも近いことから急いているのか、呼び込みの声にも力が入っている中、二人は近くにあったブティックへ足を踏み入れる。
 小奇麗に陳列された服の数々。どれがいいかなと服を選ぶ拓海。ちらりと横目で同じように服を選ぶ槻右を見れば、どこか重たい。
(くっ! こんな思いさせたら意味が無いだろ! ご両親にだって幸せになるって宣言したんだから)
 でも、どうしたらこの空気を変えられる? と思考を巡らせる。
 一方の槻右は服を選ぶしぐさをしつつも、自分の中で何が大切なものなのかを考えていた。
(一緒にいたいのも、好きなのも本当。なら、克服するのは自分の弱さ)
 拓海を落ち込ませるのは本意じゃない。きちんとそれを伝えないといけない。
「……拓海」
「何か気にあるのあった?」
「えっと、そうじゃないんだけど、僕が弱いから拓海を待たせてるのは分かってる」
「うん」
「だから、その弱さを克服できるように頑張るし、少しずつ整理するからさ」
 20cmほど違う身長差のため、少し見えあげる形でそう気持ちを伝える槻右。
「だから、その……時間貰える?」
「どうだっ! この服似合うか?」
 拒否されたらという不安に揺れる目に拓海は手に持っていた上着をサッと羽織り、キリッとポーズを付けてみる。槻右の言葉に被さるように告げられた問いに目を見開いて驚いたが、すぐにそれが彼の優しさだと気づき、笑みを浮かべる。
「うん、よく似合ってる」
「やっぱり、槻右は笑ってる方がいいな。オレはその顔をずっと見ていたい」
 似合うと喜ぶ槻右は先程までの重い影はなく、自然な笑みを浮かべていた。それに拓海も自然と笑っていた。そして、今度は個々に服を選ぶのではなく、これはどうだろ、あれはどうだろうと服を選ぶ。
「折角だから、お揃いとか」
「……」
 どうだろうと声をかけると沈黙。選択肢を間違えたか、と思いつつも、いや、でも、ほら、好きな子とお揃いは一種の夢だしと言い訳を心の中で唱える。
「……一緒に着るのは家の中だけなら」
 拓海の服の裾を掴み、小さな声でそう言った槻右にわかった! と頷く拓海。それから、拓海はうきうきとどれが槻右に似合うだろうかと選び始める。
「槻右はどれがいい?」
「まだ寒いし、これとかどうかな」
 手にしたのは縄編みの白いセーター。それに拓海はそうしようと槻右と同じ編み方、同じ色のセーターを手にした。
「なんか、照れるね」
 照れ笑いを浮かべながらも二人で会計を済ませ、お揃いのセーターを手に帰路へと着いた。
 槻右は自身と向き合い、弱さを克服するための覚悟を持ち、拓海は家だけと言われたペア着で外出する野望を持ち、他愛のない会話を交わす。

 そして、この年の大晦日、槻右は入籍し、荒木規佑となる。
 ネバーギブアップ精神が功を奏し、愛しい人を手に入れた拓海。心の中で力強く槻右の両親に再び彼と幸せになることを誓うのだった。


 仲睦まじい二人の未来に幸が多からんことを。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1049 / 荒木 拓海 / 男性 / 27 / 比翼連理】
【aa1163 / 三ッ也 槻右 / 男性 / 22 / 比翼連理】

イベントノベル(パーティ) -
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2018年04月11日

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