『心入れ 』

シセベル（aa0340hero002）

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　ひと抱えほどもあるおにぎり型のぬいぐるみ。
　白は感謝。黒は謝罪。詰める綿は私の心。

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　シセベル(aa0340hero002)がその相談を受けたのは、「二位」と「もう一人の私」がそれぞれ左目と右目を失い、シセベルの下へと帰ってきてしばらく経ってのことだった。
　ごめんなさいを伝えたい。
　アリガトウを伝えタイ。
　そのために一番いい方法が。
　あるんダッタら教えテ欲しイ。
　シセベルは魔女である。シセベル・ノイシュタイナ。黄金魔女の妹。得意は作り造ること。工作裁縫おまかせあれ。
　シセベルは二人の相談を受け、ふむと視線を宙へと向けた。感謝と謝罪を伝える方法。あるはある。いくらでもある。簡単なのから複雑なのまで選び放題よりどりみどり。
　けれど気持ちは二人の手ずから贈らないと意味がないし、相手がそれを受け取ってくれなければ意義がない。シセベルはしばし時間を貰い、一晩たっぷり考え尽くし、翌朝さっぱりした顔で二位ともう一人の私へ告げた。
『それじゃあ《色の告白》、なんてどうかな』

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『ふむ、こんな所かな』
　買い物籠の中身を眺めシセベルは顎に手を当てた。白と黒の布については二位が準備の真っ最中。縫った後の綿詰めはもう一人の私の仕事。ぬいぐるみ作りと一言で表現するのは簡単だが、緻密かつ繊細な作業を要求される仕事である。
　例えば布選び。肌触りが悪い布はもちろんよろしいものではないし、簡単に裂けるような弱い布も好ましくない。綿にしたって少な過ぎれば触り心地が物足りないし、だからと言って多過ぎれば硬いものになってしまう。布は丈夫かつ気持ちいいもの、綿はふんわり均等に。ましてや今回の目的はごめんなさいとありがとう。気持ちを以って布を選び、心を込めて綿を詰めてを行わなければ価値がない。
　他にも布を裁断したり、針と糸で規則正しく見目美しく縫い合わせたり……相手のことを想いながらひとつひとつ丁寧に。気持ちを込め伝えるのにこれほどの手はないだろう。もっともシセベルが料理好きであったなら、本物のおにぎりをたくさん作らせていたかもしれないが。
　本当は買い物も二人に任せても良かったのだが、シセベルは自分から買い物を買って出た。手伝いはもちろんのこととして、自分の分の謝罪の意味も少なからず含んでいる。
　覚えていないとは言っても、二位を育てたのは自分であろうという自覚は確かにあるし、こちらに来てから「悪魔との取引方法」をもう一人の私に教えたのも自分だ。
　後悔しているかと問われれば後悔していないと言える。自分の話が二人を怯えさせたのを否定はしない。だが話は嘘ではないし、話を聞いたことを二人が後悔しているとも思わない。あの子らはシセベルの話を聞き、“友”を喰われたくないと怯え、自分達の願いのために己の目玉を賭けたのだ。二人がどんな想いを抱いていたかを知っている。二人がどんな決意と覚悟で選択したかを知っている。シセベルが話さなければ、その結果目玉の代わりに“友”を失うことになっていたら、それこそ二人は地獄のような後悔に焼かれたことだろう。
　だからシセベルはそのこと自体は悔いないし、『姉』として、『もう一人の自分』として、二人の覚悟と選択を肯定するだけである。
　ただ二人が謝りたいと思うなら、その責に関しては自分も背負うべきだろう。後悔はしない。謝罪はする。それはもしかしたら傲慢な考え方かもしれないが、それに対する謝罪も含めてあの子らのお手伝いだ。
　もっともお手伝いばかりではなく、「自分の新しい友」の為の贈り物の材料も合わせて購入。本来であれば女性陣に贈る色は赤が正しいが、自分の《赤》はひとりだけととっくの昔に決めている。故に男性陣も女性陣も皆一様に青にする。かつて馴染んだ《色の告白》の意からは少し外れるが、気持ちを込めれば平気平気。マジナイにしろノロイにしろ正しい手順は確かに大事。だがもっとも大事なのは込める思いの丈なのだから。
　魔道書の魔改造に必要な材料と、ごめんなさいのしるしに必要なものとを買い揃えて店を出る。二位は白と黒の布をきちんと準備し終えたかな。そこはやはり先人として、そして『姉』の矜持として、自分の方が腕は上だと謙遜せずに自負しておくが、二位も度々ぬいぐるみを作っているのは知っている。ただ作るだけではなく肌触りのいい生地を選び、寸法も触感も刺繍までもきっちりとこだわり抜いて。まったく一体どちらさまの教育が良かったのやら。
　とは言えここまではあくまで準備。帰ってからが本番本番。ひと抱えほどもあるぬいぐるみクッションを人数分、三人がかりでこなしても大仕事になるだろう。
　だかそれでこそ感謝と謝罪の証になるし、せっかく贈るのであればやはり喜んでもらいたい。二位ももう一人の私も異など唱えはしないだろうし、むしろ自ら積極的に尽力しようとするはずだ。
「……ん？　アンタ……」
　と、店から出て数歩の所で李永平(az0057)と花陣(az0057hero001)に出くわした。先日逢ったばかりの二人にシセベルはにこりと笑みを浮かべる。
『先日はイツキが世話になったらしいね。そうだ、ちょうどいい、今夜はホワイトシチューなんだ！　晩ごはんをご一緒にどうかな？』
　言って二人の返事を待たず即行家へ電話した。永平と花陣を連れて帰ることを告げ、スマホを押さえて改めて二人に向き直る。
『……ははっ。炒飯はまだ練習中だって』
「わざわざ練習してくれてんのか……」
『お呼ばれしようぜ永平。こんなに熱烈に誘われて断るのは失礼だろう』
　花陣の言葉に永平は後頭部をガリガリ掻き、シセベルに腕を差し出した。首を傾げるシセベルに永平は不愛想に告げる。
「荷物。飯代替わりに持ってやるよ」
『せっかくだから使ってくれよ。どうせこういう時しか役に立たねえんだからよ』
「うっせえぞテメエ」
　花陣に毒づきながらも永平は荷物を催促する。シセベルはふと笑い、永平に荷物を預けた。
『それじゃ、お願いしようかな』
　さてこの二人の来訪者に、二位ともう一人の私はどういう顔をするのかな。まるでいたずらっ子のように魔女の妹はかすかに笑う。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【シセベル(aa0340hero002)／外見性別：女性／外見年齢：２０歳／カオティックブレイド】
【李永平(az0057)／外見性別：男性／外見年齢：１９歳／能力者】
【花陣(az0057hero001)外見性別：？／外見年齢：１６歳／ドレッドノート】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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　こんにちは、雪虫です。永平と花陣をお夕飯に呼んで下さりありがとうございました。
　ご注文頂きました通りアドリブ多めとさせて頂きましたが、イメージ・口調等齟齬がございましたら、お手数ですがリテイクお願い致します。
　この度はご指名下さり、誠にありがとうございました。

シングルノベル

雪虫

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2018年04月11日