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『響きは返る事なく 』
アルヴィン = オールドリッチka2378

 2月14日、自分の誕生日であるこの日に、他の人たちとお祭りの一日を過ごす。
 気持ちのやり取りに心躍らせる他人を眺め、ある時は受け取り、向けられる好意に笑い合う。
 有り難い、本当にそう思っている。この瞬間を喜ばしく思い、……後から振り返ると、時々どうしようもなく滲んで見える。

 友人たちと別れ、一人になる。
 途中、店に立ち寄って花束と、人参と、小粒のチョコレートを幾つか買った。
 それらを抱えて、実家に足を向ける。形式的な挨拶をやり過ごし、墓所へと赴いた。

「――ヤァ」
 墓に声をかけるなんて、変な人間だと思われるだろう。
 でも、そんなのは今更だ、元から変人だと思われてるだろうし、亡き人たちに出来る事なんてこれくらいだった。

 ここに来るようになったきっかけは、チョコをもらった事だと思う。
 奇しくもバレンタインという日はアルヴィンの誕生日と同じ日で、それを知ってか知らずか、その日に友人たちからチョコレートのおすそ分けを貰った。
 ハンターになるまで、誕生日とは義務を遂行する日という認識だった。社交という名の腹の探り合い、誰が利益になるか、誰が弱みを抱えているか、利益になる事が正義であり、友人とはその基準で選ぶものだった。
 誕生日、情報交換の夜会を開くには素晴らしい名目である。
 信条がどうのこうのという話にはなり得ない、隙を見せ、貴族社会から蹴落とされれば自分についた一派がまとめて路頭に迷うのだ。
 生まれた日などどう利用するかばかりで、感謝や歓びなど久しく忘れていた。

 …………。

 だから、最初にチョコを貰った時、思わず数度聞き返した。これは自分宛、なのかと。
 当たり前じゃないと言って相手はさっさと次を渡しにいってしまう、誕生日、だなんて向こうは知るよしもないだろうが、打算の絡まない贈り物は、酷く特別に思えた。
 胸を打つ感情の事はよく理解できなかったけど、それはいつもの『楽しい』とは違った気がして、それをどこで消化するべきか迷った挙げ句、実家にある私有墓地の前に来ていた。

 此処に眠るのは、母親と、従者と、ペットだった兎。
 嫌いではなかったと思う、きっと大切だった、そうじゃなければいい子のまま義務を果たそうとしなかった。
 家族で、身内だった、胸の内を明かすなら彼らだと思った。彼らに今の自分が思った事、見てきた事と、感じた事を聞いて欲しかったから、無意味だとわかっていても、口に出すようにしていた。
 彼らがどう思うかはわからない、もう聞けない。想像するしかなくて、色々考えながら行う独り言は、アルヴィンの感傷に満ちている。

「裏のナイ贈り物ッテ、アンナに特別なんだネ」
 今までの誕生日は、利益が祝福より優先される。寂しさを覚えなかった訳ではない、ただそういうものだと割り切るべきと自分で判断した。
 毎年毎年、思うだけで何も口にしなかった。それが根付いて、だから何気ないだけのチョコを受け取った時、人間に戻してもらった気がして、とても心が動いた。

「……ココまで心が動くノハ稀だけどネ、他にも楽しいコトはあったンダヨ」
 ハンター達に紛れてサンタ大作戦をした。
 雪山に興味を示して、友達を引っ張っていったら見事に遭難した。
 リアルブルーという異世界に行ったけど、仕事だったから観光の余裕はなくすぐに戻る羽目になった。少し残念だったけれど、戻って来れた事はそれで悪くないと思っている。

 今回は、試しに自分もチョコレートを用意して見たのだ、ピーターにチョコはどうかと思ったから人参を。
 自分が貰った時のように、或いは何か感じるものがあるかと思ったけれど、墓所は静かで、チョコを供えても感傷だけが滲む。
 だって、自分は生きていて、彼らは死んでいた。死人が返せるものはない、自分から一方的に伝える事は出来るけど、戻ってくるのは壁にあたったような自分の気持ちだけだ。
 せめて悲しいとでも思えたら、きっと楽だっただろうに。

「今年はネ、楽しかったと思うンダ」
 一緒に逝きたかったと、そう思う時間はそんなに多くなかった。
 時々振り返る、きっかけがあれば引っ張られてしまうかも知れない。それでも今は楽しかった、心は透明な壁に覆われたままだけど、それでも外からの輝きに魅せられる。
 他人が見せてくれる気持ちがとても魅力的だから、アルヴィンは踏みとどまる事が出来ていた。

「チョコをネ……いっぱい貰えたンダ」
 誕生日だと認識していない相手の方が多いと思う、でも、沢山の祝いのように思えるから、アルヴィンはそれだけで嬉しかった。
「来年もコンナ一年だといいナァ」
 沢山笑って、輝きを見て、共感は出来ないけど、壁の向こうで寄り添う事は出来る。
 まだ一緒に行けない我儘を許して欲しい、今はもう少し、彼らを見ていたいのだ。

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【ka2378/アルヴィン = オールドリッチ/男性/26/聖導士(クルセイダー)】
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2018年04月16日

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