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『キャンペーンはメイドの白くま 』
アリア・ジェラーティ8537
「きゃんぺーん?」
 ほとり。アリア・ジェラーティは小首を傾げてぽんやりと訊き返す。
「そうなんですクマよお嬢様! 東京ローカルチャンネル単独放映って名目の極々限られた好事家のご主人様どもに円盤買えゴラお願いですから的宣伝アニメのタイアップキャンペーン権、うちがもぎとって来たんですクマーっ!!」
 一気に言い終えたクマ耳メイドさんがごぶぁべへおぇえっ! すごいむせた。
 ここは先日アリアが悪徳雇用主から解放した、本物の獣娘が働く獣耳喫茶“けもみみ”。メイドさんはこの店の元バイトで、今はハウスキーパー(女性使用人と台所のすべてを取り仕切る長)兼ヘッドハウスメイド(メイド長)を務める月の輪熊人である。
「あにめ……けもみみ?」、アリアは反対側に小首をかくり。
「けもみみでメイドですクマ」、クマメイドさんは深々とこくり。
 アリアはんーと考えて。
「ありがちな、やつ……」
「まあ、そうなんですけどクマね」
 ちょっと落ち着いて、クマメイドさんがあらためて口を開いた。
「ま、そういうわけで、キャンペーンしないとだめなんですクマ。でもウチには生憎ロリ枠がいなくて……」
 まあ、それはそうだろう。ロリ年代の女史は普通、バイトなんてできないし。
「で、そういうわけなんですクマよ」
「?」

「やー、だー……世が世なら、私、お姫様……じゃよ? 控え、おろー」
 じたじた暴れるアリアをメイドさん総出で抑え込み、クマメイドさんは“説得”にかかる。
「お嬢様にロリ枠担当メイドやってくれないと困りますクマ! ――この店の安泰三ヶ月分のために! アイスもコラボでぼったくれるクマよ!?」
「……ぼったくり、だけ、乗っかりたい」
「そんなうまい話あるもんかいクマー! ゼニのためならご主人様に魂売る! それが商売メイドってもんクマよ!」
「私、メイドさんじゃ、ないしー」
 かぶりを振るアリアに迫る特注メイド服。男性向け深夜アニメの衣装だけに、やたらと丈が短くてフリフリで、なんだかスケスケ。
 こんなものをやんごとなき身の上(だったはず)のアリアが着てしまったら、ご先祖様(未確認)に申し訳がたたぬぅ!
「無礼、もの……」
 氷雪魔法でメイドさんたちをひやっとさせてその手をゆるめさせ、うごうごと抜け出したアリアは一目散に逃げ出した。
「早く追うクマー!」


 いっしょうけんめい走って、走って、走って。アリアは駅裏にある石畳の公園までたどりついた。
 春の陽気にあたためられた体が火照って、少し喉が渇いている。
「アイス、食べたい」
 近くのお店で買おうか、ジュースを凍らせてシャーベットにしてしまおうか。考えながらコンビニや自販機の位置を確認すべく顔を上げたアリアだったが。
 公園のステージのまわりに人だかりができているのが目に入る。どうやらステージ上でパフォーマンスが行われているらしい。
 と、ちょっとした好奇心でステージに近づけば。
「アリアさん――」
 魔物の顎を象った大鎌を振るい、魔物と闘いを演じていたスノーと目を合わせることになった。
「……スノーちゃん、元気、だった?」
「今のところ」
『ちょお! ぼさーってアイサツとかしてる場合じゃないやろがい!』
 無表情を向け合って片手を上げるふたりに大鎌がツッコみ。
『カンベンやけど手伝ってんか!? コイツごっさめんどくさいねや!』
 見れば、スノーが相手取る魔物はイフリート。しかも実体がなく、焔自体に魂を宿したタイプの精霊だった。
 もちろん、ダークハンターたるスノーが後れを取るような相手ではないが、問題はここが公園で、ショーかなにかだと勘違いした一般人が集まっていること。
『オレらの魔法やと勢いありすぎてバクハツされてまう。お客さんにケガさしちゃマズイしやぁ』
「お願いします」
 鎌に続いてアリアに頼んだスノーが鎌をアッパースイング、あいまいな人型を保つイフリートの股間から頭頂部までを引き裂いた。
 が、実体なきイフリートは焔を噴き上げただけで、さほどのダメージを負った様子はなかった。
「……よきに、はからう」
 ステージへよじ登ったアリアはイフリートの撃ちだした火球を展開した氷の盾で相殺し、だだーっと距離を詰める。
 対してイフリートは、アリアの踏み出す足を狙ってファイアブレスを放射した。たとえ凍らせられるとしても、この突進さえ止めればいいという攻撃。
「合わせます」
 ブレス目がけ、スノーが氷雪をまとわせた鎌をフルスイングし、一瞬、かき消した。
 その間にイフリートの眼前まで到達したアリアは「ひかえおろー……」、最大出力の氷雪魔法を乗せた掌で、そのつま先をぺしり。
 果たしてイフリートは噴いたブレスごと凍りつき、氷像と成り果てたのだった。


 スノーの手を借り、イフリートの像を自宅の地下にしつらえたコレクションルームへ運び込んだアリアはようやく息をついた。
「ちょうど、かっこいいのが、欲しかった……」
 一年中氷点下を保つ氷室でありながら“冷たさ”を感じないのは、氷鏡でやわらかく散らした灯と、綺麗に飾られた凍れるぬいぐるみや氷花のファンシーな賑やかさによるものなのだろう。
「なにが……あったの?」
 少し悩みながら、ぬいぐるみたちをイフリートのまわりに配置しつつ、アリアが問う。
「魔物が現われたので退治を」
 すすめられた椅子に腰かけ、アイスティーをいただきながら、スノーが答えた。
「そっか……」
「はい」
『そんで終わりかいー!?』
 鎌のツッコミは完全無視。スノーがアリアに頭を下げた。
「アリアさんのおかげで誰も傷つけずにすみました。ありがとうございます」
「面を、上げー」
 ぱたぱた手を振り、アリアはスノーの顔を上げさせて――彼女の顔と体を見回し、ちょっと左上を向いて考え込んだ。
「……?」
『なんか思い出してんのとちゃうんか? あ、むふーとか鼻息吹いてんやんか。自分といっしょでわかりにくいけどなぁ、ありゃ「いける!」っちゅう顔やでぇ』
 こしょこしょささやきかける鎌をぐいーっと横に押し退け、アリアはその奥で疑問符を飛ばしていたスノーへその無表情を近づけて。
「お礼は、体で、してもらう……のじゃ」


「お帰りなさいませ、ご主人様」
「よきにはからえご主人様」
 クールで無口な羆耳ロリメイドさんことスノーがそつなく、なんとも偉そうな白熊耳ロリメイドさんことアリアが鷹揚に客を店内へ誘った。
「ちょっとアリアさん!? メイドさんなんだからちゃんとおもてなししてくださいクマ!」
「はん。氷の女王の末裔たる妾にもてなされようなど百年早い」
 商売モードに入ったアリアはよどみなく高慢を綴るが……クマメイドさんは作り笑いを傾げ。
「お母様に言いつけるクマよ?」
「……それは、ごかんべん、をー」
 へへー。一瞬で素に戻り、かしこまるアリア。
 スノーを自分の代わりにメイド喫茶で働かせることを企んだアリアだったが、クマメイドさんとアリアの母との間で取り交わされた条約――キャンペーンが終わったらそのまま衣装をもらい受ける――により、結局強制労働へと駆り出されている。
 いつもはやさしい母だが、商売が絡んだ瞬間、アリア以上にスイッチが入る。その冷酷さはもう、すさまじい。
「アリアちゃん“白くま”!」
 お客さんの要求に、アリアはあわてて九州の名物氷菓“白くま”を持って駆けつける。
「もえ、もえ、きゅん。きゅん。おいしくなぁれ……」
 私がなんでこんなことー。
 嘆くアリアだったが、そのメイド生活はまだ始まったばかりだ!


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【アリア・ジェラーティ(8537) / 女性 / 13歳 / アイス屋さん】
【スノウ(NPCA032) / 女性 / 不明 / ダークハンター】
【クンネチュプ・アベノワ / 女性 / 23歳 / クマメイドさん】
東京怪談ノベル(シングル) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年04月16日

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