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『 暗き目覚め 』
煤原 燃衣aa2271)&世良 杏奈aa3447)&一ノ瀬 春翔aa3715)&大門寺 杏奈aa4314)&楪 アルトaa4349)&エミル・ハイドレンジアaa0425)&アイリスaa0124hero001)&藤咲 仁菜aa3237)&阪須賀 槇aa4862)&無明 威月aa3532

「やぁ、それにしても月奏さんとはなんだか昔から付き合いがあるみたいで落ちつきますね」
 そう『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』が告げると『月奏 鎖繰(NPC)』が振り返った。
「そう?」
「ええ、でもそれはきっと幼馴染に似てるんだと思います。優衣っていうですけど」
「ああ、そのことか」
 告げると鎖繰は空を一瞥してネイに向き直る。
「それは当たり前だ、私と彼女は幼馴染だから」
「へ?」
「幼いころは一緒に遊んでいた。姉妹の様な存在でな」
「え? ええええええええ!」
 混乱に包まれる燃衣。この時の驚きが尾を引いて悲劇を繰り返すことになるなんて、誰が思うだろうか。 
「ねぇねぇ隊長、あっちに大きめの建物が見えたよ」
 そうスルスルと木を下りて着地したのは『三船 春香(NPC)』
(ど、どういう事なんですか? そんな偶然ありますか? あったとして何で今まで黙っていたんですか、いったいこれはどういう)
 そんな燃衣の様子のおかしさは気に留めず春香は報告を始める。
「ここら辺を見てみたんだけどね、家がね」
  彼女は髪の毛に突き刺さった木の枝や葉っぱを払う。
「こんなところに民家? 異界っすよ? 人がすんでる可能性はないんじゃないかと」
 そう目を細めるのは『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』
「まぁだったら先住者を追いだして拠点にすればいいだけだお。まずそこを目指してみるといいと思うお隊長」 
 そう『阪須賀 槇(aa4862@WTZERO)』 は燃衣に告げつつ部隊全体に待ったをかける。
 先頭を歩いていた『大門寺 杏奈(aa4314@WTZERO )』と『エミル・ハイドレンジア(aa0425@WTZERO)』が振り返った。
「で、方角はどっちだお」
「ちょっと待ってて、目印とかも確認してくる」
 そう春香はスルスルと木を登っていく。普段の運動のたまものだろう。
「野性的な身軽さには驚いたな」
 告げたのは鎖繰。
 そんな鎖繰は一瞬耳をそばだたせるようにあたりを見渡すと言った。
「何かおかしい」
 次いでざわざわと木々を、草木をかき分けて何かが突き進んでくる音。
「下がって! 隊長!」
 そう前に出たのは『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』 。
「下がるのはVVもだお!!」
 槇もアサルトライフルを胸の前に構え防御姿勢を整える。次いで突撃してきたのは四足歩行の獣。
 それが弾丸のように突っ込んできてそして槇と仁菜を吹き飛ばした。
「阪須賀さん! 藤咲さん」
「てめぇ」
『一ノ瀬 春翔 (aa3715@WTZERO)』 は咄嗟に斧を振り上げる。するとその獣たちは深追いはせずにすぐ茂みの中に隠れてしまった。
 途端に森のあちこちから遠吠えが聞えてきた。
「俺らは獲物だってか、上等だ」
 そう煙草を森の中に捨てるとVVが叫ぶ。
「ここでは不利っす」
「けど春香さんが」
 燃衣が上を見あげる。
「いや隊長。ここは離れるべきだ。あたしの火力も生かせない」
 そうガトリングを取り出して『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』 が告げる。
「このまま無事に森を抜けられると思わない。騒ぎを聞きつけて彼女も合流するだろう」
 鎖繰が転んだ二人をたたせると走り出す。
「殿は任せろ!」
 アルトがガトリングをぶっ放しながら走り出すと、森はいよいよ殺気に満たされた。
『無明 威月(aa3532@WTZERO)』が戦闘向きではないVVの左を走り『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』 が魔本を片手に右をはしる、周囲の木々は生い茂り、その深い緑はリンカーたちの侵攻を拒むように行く手を遮った。
 速度が出ない。
 周囲の物陰を揺らす音。
 奴らが迫っている
「ははは、ではうってでるか」
 直後『アイリス(aa0124hero001@WTZEROHERO)』が反転。
「アイリスさん!」
 燃衣が叫ぶ。
「いや、肩ならしもしたいしね」
 そうアイリスは微笑むとその三重結界の姿を変えさせた。
「黄金の祝福の慣らしだ……、把握しきれない力をラグストーカーにそのままぶつけるつもりはないのだよ」
 告げると木々の隙間から飛びかかってきた何者かがアイリスに牙を突き立てようと。
「あまい」
 迫るも、アイリスはその顎を正確にとらえて盾で打ち上げた。
 さらには逆サイドから迫る猛獣がアイリスに牙を突き立てても。
「どうしたのかな? たんと味わうがいい、めったに食べられないだろう? 妖精なんて」
 その頭を撫でるかと思いきや力強く押し込んだ。
 バキリと音が聞こえて顎が砕け牙がポロポロと落ちる。
 地面でもんどりうつ生物をみてアイリスは思った。
「狼。いや骨格は人間。狼男か?」
 次いで迫る狼を回し蹴りで吹き飛ばし、前方をふさいだ巨大な個体へは盾を前に突き出す、そして突進でふきとばした。
 上空からの奇襲。それは。
「蝙蝠男……動物と人間のキメラだろうか? それとも呪いの類。不浄の地……か」
 その蝙蝠男はアイリスの体を軽々と持ち上げると首筋に牙を突き立てようとするが何度噛んでも鋭い歯が突き刺さることはなかった。
「残念だったね」
 告げるとアイリスは両手で撫でるように蝙蝠男の首を360度回転。ねじ切り落下。
 着地地点付近にいた獣たちを吹き飛ばすために盾で地面を強く打つと、割れた地面が反作用で突き立って、周囲の獣たちを吹き飛ばした。
「ふむ……」
 黄金の闘気を纏うアイリスは手を開いたり閉じたりして調子をうかがう。
「想定よりも強化が弱いな……まぁ、無制限無尽蔵だった全盛期と比べるほうが無粋か」
 それはアイリスのこの状態が無制限の力でないことを示している。
「槇さん!」
「うっす」
 燃衣の言葉に反応した槇、燃衣の視線は遥か後方のアイリスに注がれている。
「いくらアイリスさんが強いと言ってもおいていけません。槇さんは威月さんと世良さん。そしてVVさんを連れて戦いに適した場所を探してください」
「全員で倒したほうがいいんじゃないかお?」
「嫌な予感がするんです。だからなるべく周囲の情報が欲しい」
「わかったお、隊長は……」
「アイリスさんと春香ちゃんを救出します」
 その号令で前に立ったのはエミル、そして大門寺。
「……ん。ひとかりいこー」
 エミルは大剣と片手斧を両手に装備。何の気兼ねなしに敵陣中央に突っ込んでいく。
 当然のごとく迎撃を始める獣たち。
 その突撃を大剣刃で止め胴を斧で切り上げて。斧を投擲、敵を木に縫いつけた後に大剣を円状に振り回して敵を舞い上げる。そのまま大剣で木に縫いつけた敵を切り払うと。
 斧と大剣をクロスさせ突貫。
 一体の敵を十字に切り捨てた。
「エミル!」
 そのがら空きの背後を大門寺が盾で守った。
「一人で前に出過ぎ……その足!」
 見れば切り落とした獣の頭が這いずってエミルの足に食らいついていた。
 しかしエミルはまったく痛みを感じてない。
「ん……問題ない」
 そう言って実際に跳躍して見せた。ぱたたっとあたりに血が飛び散る。
 そんな中、獣一体を燃衣がその拳で吹き飛ばすと同時に足元が崩れた。
「う、うわ!」
 燃衣はそのまま落下する。
「燃衣!」
 鎖繰が手を伸ばすも案外穴は深くなく燃衣の落下の衝撃は痛い程度で済んだのだ。 
「いたたた、ここは……」
 そこは暗い洞窟。しかし壁際にはえたクリスタルが淡く輝きを放ちそれが燃衣を照らしている。
「あ! アイリスさん! あれ、目的の物じゃないですか! これがあれば」
 その声を聴いてアイリスは洞窟の様子を見に行こうと動くも獣に邪魔された。
 アイリスの翼が震える、嫌な予感が全身を貫く。
「燃衣さん! それはまずい、見つけたはいいんだが触ってはいけない。いいか絶対にだ」
 しかしその声は燃衣には聞こえない。
「これさえあればあとは敵の布陣を突破するだけですね。中央突破は得意中の得意ですよ任せてください」
「聞いているのかな!?」
 聞こえていないというのが正しいのだろう。
 燃衣はそのクリスタルをもぎ取ると。
 断面から溢れた紫色の雲に飲まれた。
「燃衣!」
 駆け寄る鎖繰。降りてきた獣たち。
 そいつらはにやにやと燃衣の様子を観察している。
「あっが……何かが流れ込んでくる……」
 頭を押さえる燃衣。胸をかきむしる燃衣!
「あああああああああああああああああ!」
「どうした! しっかりしろ!」
「あがっ、鎖繰さんにげて」
「なに? どうした。一体どうしたと……」
「来ます、大きな脅威が。そして。ここは敵の胃袋の中です」
「ここ? どういうことだ、どこまでがここなんだ?」
「ぐっ、ああああああああああああああ!」
「大丈夫か?」
 そう洞窟の中に降り立ったのは春翔。
 その斧で左右の敵を瞬時に殺戮すると鎖繰に視線を向ける。
「燃衣が倒れたんだ、連れて帰りたいが敵が多い」
「仕方ねぇな」
 そう春翔は告げると鎖繰に燃衣を抱えるように指示。
「お前がへばってる間に。全部倒しちまうぞ」
 告げるとその姿を白く変えた。
 群がる獣、その眼前に無数の斧を複製。鉄格子のように設置されたそれに獣たちはたたらを踏んだ。
「たすかる」
 その隙に鎖繰は跳躍岩壁の出っ張ったところに手をかけて、今度は腕の力だけでさらに飛んだ。
 片手だけで壁を登っていくつもりらしい。
 その間に集まってしまった獣の数は13。
「まさか、無限か?」
 告げると春翔は地面に突き刺さった斧を抜いた。
 それをきっかけに全ての斧が空中を漂った。
「上等だ。消えろ」
 次いで嵐のように振るわれた暴虐はミキサーのように獣たちをズタズタにしていく。
 しかしその嵐を受け止める硬い個体もいる。カニとゴリラを足して作り上げたような化け物が腕で斧の束を受け止めていた。
 それに対して春翔は指を鳴らし、地面から刃を生成。ゴリラを串刺しにしてその死体に足をかけて飛んだ。
 そして上空から武器を射出。追っ手を全て切り裂いて森の中に帰還する。
 着地する春翔。
 その春翔を守るために仁菜が前に出て狼の爪を受け止める。
「隊長が時間が無いって」
「みたいだな」
 煙草を吹かすと春翔は無造作に斧を振って狼を仕留める。
「兄者さんから連絡がありました。開けた地点を見つけたそうです、いったんそこまで退避しましょう」
「それなら数を減らさねぇと」
「それなら考えがあります」
 仁菜は戦場を見渡した。
 頼りになる仲間たち。
 それを信頼して仁菜は盾を幻想蝶にしまった。
「私も攻撃に回ります」
 低く四つん這いの姿勢。仁菜の纏う柔らかなオーラが冷たく研ぎ澄まされていく。
「今の私は刃」
 次いで地面を駆けた時、仁菜はその身体能力を遺憾なく発揮。森の中だというのにスピードを落とさず木々の隙間を縫って。
 そしてアルトへ群がる獣人たち、その一体の首を刈った。
 空中でアルトと目が合う。それは森の中の少ない光を受け止めて、らんらんと輝いていた。
「いつもと違う戦法をとります。あんまり長くは持ちませんので、あとはよろしくお願いしますね」
「お、おう」
 仁菜は素早く気を上る、枝にぶら下がって一体の首を刈る。
(回復は威月さんがいる。防御は杏奈ちゃんもアイリスさんもいる。脱出ルートも兄者さんがいれば大丈夫)
 四つん這いで着地、その肌が赤く染まるのは鮮血ではなく全身に刻まれたベルセルクパターン。
 獲物は焔の薙刀。
「あああああああ!」
 仁菜の咆哮が殺意をもって獣たちに突き刺さる。
 不意に現れた伏兵に場は一気に混乱した。
 その隙に仁菜は敵を刈る。
「アイリスさん、合流してください!」
「それはいいが、その傷は大丈夫なのかい」
 アイリスが指摘する仁菜の体の生傷、今はこの程度ですんでいるがあのように無茶な戦いを続ければやがて大きな傷もおうだろう。しかし。
「大丈夫です。それより、時間がないみたい……」
 その時仁菜は反射的に振り返った。茂みから伸び上がる巨躯。見上げるような熊のシルエット。
 それをアイリスが怯ませ、背後に回った仁菜が脊髄をなぞるように、上から下まで切り裂いた。
(まだ、まだ大丈夫)
 しかし敵は強力な個体が増えてきている、このままではまずいかもしれない。
(たとえこの体が壊れようとも、皆を守るの!)
 そう薙刀を一振りすると森の木々が燃えたつ。
 そのまま突貫。邪魔な木々を切り倒して次の敵の首を狙う。
 しかし仁菜の無茶のおかげで殿部隊がまとまり始めたのも事実。
 あとは先発部隊に合流するだけなのだが、あちらにも当然追っ手はかかる。
「隊長が倒れた?」
 そこは灰色の岩場。学校のグラウンド程度の広さがあり、硫黄が噴出してはいるが森の中よりも戦いやすい。そして間近に春香の確認した民家も見える。ここで迎撃できれば、そう槇は殿部隊に合流を指示したのだが。
「VVたん!」
「うわああああ、やべえええっす」
 見ればいつの間にかVVが攫われていた。オラウータンの様な獣人。あわてて槇はスコープを覗くも、同じような獣人が複数現れてVVをパスしながら進み始めた。
「甘いお」
 確かに連携がとれている動きだが。パターンが存在する。 
 そのパターンを読み切った槇はまずパス先の獣人をヘッドショット。次にVVを担いだ獣人をヘッドショット。
「伏せるお!」
 次いでライフルに付属されているグレネード発射装置に指をかける。ぽんっと軽快な音共に発射されたそれはVVに迫ろうとした敵をまとめて大爆発。
 めらめらと燃えたつ炎。その向こうにバリアをはったVVが蹲っているのが見えた。
「死ぬかと思ったッス」
「強度に問題はないみたいだおね」
 あれは槇がVVに預けたバリア発生装置。大門寺やイリスの『輝き』を取り入れた使い捨ての防御アイテム。
「VVたん、追撃があると思うお、隠れてるお」
 そう槇は武装をチェンジしながらVVに指示をする。するとVVは新たに球体を取り出してそれを作動させた。
 それは未完成ではあるがホログラム発生装置。
 それにプラスして光学迷彩装置で姿を完全に隠匿する。
「さて、ここからはガンシューだお」
 適度な岩の影から顔だけ出すと銃を固定。
 ライブスソナーゴーグルをかければ森からこちらに向かってくる敵が見えた。
 それを一体一体撃ち殺していく。
「加勢するわ」
 そう世良が魔本を開いた。そこから放たれる黒いサンダーランスが一直線に獣人たちを焼いた。
 その極光の先に槇のゴーグルが味方の反応を捕える。
 殿部隊が合流してきたのだ。
 それを支援するために槇はロケットランチャーにて獣人たちを薙ぎ払う。前方の敵を倒すと同時に方向を示すための狼煙とするためだ。
「アルトたん、出番だお」
「おう、任せとけ!」
 告げるとアルトが一際高い岩石の上に姿を現した。
 腕を組んだ仁王立ち。アルト立ちである。
 アルトの眼前にはお互いを庇いながら逃げ帰ってくる仲間たち。その背後に波のように押し寄せる敵獣人。
「殲滅戦ってんなら、あたしの十八番だ!!」
 開かれる弾薬庫。
 その肩には担ぎ型のミサイル。プラズマカノン砲。
 カチューシャも全砲門を開き、両腕にはガトリング砲。
 隣に突き刺さるのは二丁のインドラそして太ももに括り付けられているのはブレイジングソウル。
 背に背負っているのは和弓である。
「バーゲンセールだ! うけとりなぁ!」
 放たれる弾丸、カチューシャが殿部隊の後方に着弾した、爆風で背中を押される殿部隊。断末魔の悲鳴がその耳に届いた。
「おらおらおらおらおら!!」
 ガトリングを一つ捨てインドラに持ち帰ると、素早い個体に狙いを澄ませてうち放つ。ミサイルを発射。
 大爆発の中央を抜けてきた個体めがけてガトリングの弾丸を集める。
「それだけじゃねえぞ!」
 次弾装填。撃ち放たれたカチューシャが空中で分裂。
 空を覆うほどのミサイルの雨に獣人たちは一瞬歩みを止めたという。
「ひゃは!」
 さらに武装を複製、大型個体を弓で仕留めると直上方向にジャンプ、五門作成されたプラズマカノンにて焼き払うと地下のガスに引火したのだろうが。炎が壁のように立ち上った。
「おらおらおらおら! まだまだ続くぞ!」
「うわああああ! アルトたん! やりすぎだお! VVが!」
「あたしのハーモニーを……聴きやがれえぇ!!」 
 トランス状態のアルト。そんな彼女には槇の声は届いていない。
「ここにいるっすよ!」
 そう姿を現したVV。
「お? 光学迷彩は動くととけるはずだお?」
「少し機械工学の心得があるっす。待機時間の間に改造させてもらったッス」
「はえ〜」
 呆けている槇。そんな槇の元に仲間たちが到着する。
「あ……、たい……ちょ」 
 威月が燃衣に駆け寄った。
「このクリスタルのせいね」
 告げると世良は燃衣が抱えるクリスタルに手をかけようとする。しかし。
「触るな!」
 燃衣がどすのきいた低い声で告げて、そして世良を突き飛ばす。
 燃衣は荒く息を月ながら世良をじっと見つめた。
「どうしたの?」
「早くこの森を抜けてください、あの家まで走って」
「おおお! そんなことしてる場合じゃねぇお、くるお」
 だが背後にまだまだ敵は控えていて。
 アルトは二丁拳銃に持ち替えてそれを迎撃していた。
 さらには弓にミサイルをつがえて撃つ始末。
 火焔の柱が立ち上り、それに獣人たちが巻き込まれていた。
「ちっ! きりがねぇ、何なんだあの連中はよ!」
 アルトが叫んだ。その矢先である。
 地面が揺れる。
 震源地は森の奥深くそこから何かが来る。
 森が腐っていく、形を変えていく、そして。
 顔を出したのは狼。
 先ほどから相対しているようなサイズではない。
 見上げるような、頭だけでも大型トラック一台分はありそうな巨体の狼。
 だがその全身は腐っていた。
 ぎょろりと一瞬、全身の目が開く。
 索敵が終了したのだろう。濁った遠吠えを響かせて魔犬がこちらに走ってきた。
「見るお!」
 その背後で森が崩れていく。比喩ではない。とけるように落ちて行ってそして。消えていく、何かに飲み込まれていく。
「あれが何なのか、今は判別できない」
 鎖繰が武装を構えた。
「しかし、あの犬っころを切らぬことには何も始まらない!」
 逃走してもおってくるだろう、森の崩壊があの腐蝕の化け物と関連があるとすればここで倒さねばいつまでも逃げ続けることになる。
「ぐ……あが!」
 そんな中でも燃衣の症状は進行していく。今や彼の体には赤黒い紋章が浮かび上がるほどになっていて。
 それを手に取ろうとした威月は弾かれて地面を転がった。
「……なん、で」
「威月さん、これは」
 燃衣がにたりと笑みを浮かべた。脂汗塗れの顔で、威月を見すえて。
「これは僕にしか持てないんですよ」
 燃衣は卑屈な笑い声を漏らしながら告げる。
「だって、僕はけがれてるから。あいつらとおなじだから」
「そんなことありません!」
 威月は燃衣を抱きしめながらその体力の消耗を抑えるべく癒す。
「気を……強く、もってください。……まけちゃ、いやです」
「聞こえる! 聞こえるんですよ! 殺せって、誰かのこえが! 全部壊しちまえって誰かの声が!!」
 その燃衣の方向に魔犬の声が重なった。
 その突撃を押さえつけるのはアイリスと大門寺。
 しかし。
「ぬ、これは」
「き、気持ち悪い、くさい」
 その突撃は今まで受けた攻撃とは少し違っていた。まるでひき肉を押し付けられたような感触、突撃力はかなりの物であり、二人の足も地面にめり込んだが。それ以上にあちらへのダメージがあるのが、魔犬は激痛に悶えるような悲鳴をあげた。
 その皮膚から膿や、黒々とした何かが飛び散って二人に降りかかる。
「……ん、杏奈いじめる、許さない」
「はあああ!」
 エミルと仁菜が走った。
 エミルは上空からの攻撃、仁菜は背後からの奇襲である。
 エミルはその背に刃を突き立てるも手ごたえがなく、むしろずぶずぶと沈む感触があったので慌てて離脱、転がりながら体勢を立て直し腹部を切り上げる。
 その傷の向こうに肋骨が見えた。
 あと、人の顔。顔が見えた気がした。無数にエミルを覗いている。
「……ん、こんにちわ」
 それにひるむことなくエミルは返す刃で斬撃。
 仁菜が魔犬の足を切ったのだろう体勢が崩れた。
 エミルは心臓を突き刺すべく刺突。
 それを防ごうと魔犬は身をよじらせて、ろっ骨を発射した。
 眉をひそめるエミルは衝撃で吹き飛ばされる、追撃にうち放たれた肋骨を春翔がカバー。両手の斧を投擲するとエミルに歩み寄った。
「おまえ……」
 次に眉をしかめるのは春翔の番だった。
 放たれた杭の様な骨はエミルの体に突き刺さり、肌に黒い筋を何本も浮かび上がらせている。
 しかしエミルはそれを気にしない。
「うで……動くのか」
「問題ない」
 そう両手に刃を装備、エミルは再び敵に肉薄した。
「なんだお! あれ!」
 そのおぞましさに鳥肌をたてながら槇と世良、そしてアルトは援護射撃を続けている。
「とっておきの退魔の魔法弾だお!」
 それを三点バーストでばらまいていたのだが、突如がちんっと音がして、弾が出なくなった。
 見れば。
「じゃむってるぅ!!」
 そんな槇に降り注ぐ骨の杭。
 それを杏奈が戻ってきて防ぐが。第二波は燃衣の元に。
 威月が盾に入るも地面ごと舞い上げられる二人。
「隊長!!」
 転がる燃衣。呻く燃衣。
 その体が黒く染まっている。
 次いで狼が動いた。
「はははは、私でも止められないとは大したものだ」
 はじかれるアイリス。涎をまき散らしながら燃衣に突貫する魔犬。
 その鼻っ面を盾で殴って杏奈が止めた。
「く! 長くは、持たない」
 魔犬の持つ力のせいだろうか。リンカーたちの出力が落ちている。
「だったらよ!」
 アルトがミサイルを複製。
「これでどうだ!」
 それを弓につがえ発射。
 魔犬の額に突き刺さったそれは大爆発を引き起こす。
「あいつらの為にもよぉ…一刻も早くぶっ倒れやがれぇ!!」
 告げると魔犬の上空から二丁のクロスボウで矢の雨を降らせるアルト。
「では、私も本気を出すとしよう」
 それより高く舞い上がったアイリス。
 アイリスは盾を構えると翼を光に、光を熱量に変えて加速。
 上空から十字盾を構え、それを爆発的な加速度で投擲した。
「レディケイオス、CODE:000」
 黄金の輝き纏う盾はやすやすと魔犬を貫き、あたりに金色の光を舞わせる。
「レイフォールメテオライト」
 そしてその衝撃は魔犬だけでなくあたりを粉砕。
 悪しき生命を塵へと返した。

   *   *

「春香ちゃんを置いてきてしまった。僕は隊長失格です」
 そう項垂れながら道を歩く燃衣。
 その体を支えながら威月と鎖繰は燃衣を励ましていた。
「そんなことはない。あの場ではああ判断するしかなかった。それに彼女が死んだと決まったわけではない」
 そう戦いで傷ついた一行は安息の地を求めてその屋敷にたどり着いた。
 その屋敷は近くで見れば近代的で、この異界に似つかわしくない、そんな印象を受ける。
「中に人の気配があるわね」
 世良が告げた。
「どうしましょう、インターフォンは有るんでしょうか」
 燃衣がつぶやくと世良が手をあげた。
「任せて、ちょっと覗いてくるから」
 告げると背後にずっと控えていた父に視線だけで命じる。
 その父の幽霊はスーッと壁を抜けて中に入るといきなりガッと頭を掴まれて外に放り投げられてしまった。
「ちぇー、気付かれたか……」
(ちょっとくらい良いじゃねーか、ケチだなあ)
 そうブーイングする父であったが。一つだけ有益な情報を持ち帰ってきた。
「中に入ってみて、ひとつ嬉しいお知らせがあるから」
 世良に促されるままに大門寺がドアをノックする。
 すると中から現れたのは初老の男だった。
「ふむ、話は聞いているはいりたまえ」
「え?」
 首をひねる大門寺に世良はにやにや顔である。
「入れば全部わかるわよ」
 初老の男に導かれ、そして今に通されるとそこには。
「あ! みんなおかえり!」
 全身傷だらけの春香が紅茶を啜っていた。
「春香ちゃん! よかった」
 燃衣が喜びの声をあげたその時。
 燃衣の体がピクリとも動かなくなった。
 そしてそのまま見えない力で引っ張られ壁に拘束される。
「う」
「何を!」
 威月と鎖繰が刃を構える。それをなだめたのは春香。
「ま! まって、理由があるの、燃衣さんを拘束していないとまずいんだよ!!」
「もしこの待遇で納得できないのであれば出て行ってもらおう、納得できるのであれば、傷の手当は受けおおう、その後小休止し、ここから立ち去るがいい」
 そう給仕の子供たちが目を丸くして燃衣を見ているのを見つけ、初老の男は子供たちをテーブルにうながした。
「ここにはあまり危険を呼び込みたくはないのだ、あとはそこの御嬢さん」
「え?」
 棚の資料を物色しようとしていた世良の動きも止められる、なんと信じがたいことに父霊の動きも縛られた。
「ふむ、その手からクリスタルは離れるかね?」
 そう告げると初老の男は燃衣を上から下までくまなく観察する。
「実はくっついたみたいにもう、離れなくて」
 息が荒い燃衣。
 侵食が進んでいた、悪意の囁きは先ほどより強く。左目が赤黒く明滅し始めた。
「正気を保っていられるのは『隊長でなけらばならい』という意志をお前たちが呼び起こしているからだろうな。強靭な意志力だ。もうすでに飲み込まれていてもおかしくない」
 憎悪に引き込まれては仲間の声で正気にを繰り返すそれを繰り返している。
 そんな子供たちから紅茶とクッキーを受け取ると槇はそよそよと手を振ってそれを見送った。子供たちは槇に親しげな笑みを返す。
「どうしたんっすか?」
 VVがそんな槇に問いかける。
「……なんでもないお、なんだかこういうことが前にあった気がしただけだお」
「……ん? ひょっとしてろりこん?」
 エミルがクッキーを早々に胃袋へとおさめ告げた。
 そんなエミルと槇をみて、男が表情を曇らせたのを春翔は見逃さなかった。
 常に壁際で入り口を抑え、どんな状況にも対応できるようにしていたのだが、それが役立つ場面が来そうな気がする。
 そう春翔は気を引き締めた。
(成功って何だ?)
 春翔は男が口ずさんだ言葉を聞き逃さなかった。
 その言葉の意味を春翔が知るのは先になるだろう。
 それは”この世界の槇”に関する言葉。
 それにエミルに至っては視線を返したような気もした。
 一瞬エミルの纏う気が冷たく変わった気も。
 その答えは実は、先ほど世良が指をかけた資料にあった。
 とある非検体の記録。
 彼女は実験の代償として自我を損失した。今でも動き続けているのは過去の記憶を模造しているに過ぎない。
 感覚等が無いのはこの為で、生物学的にも人間とは言い難くどちらかと言えば英雄に近い、そんな誰かさんの記憶が。
 男は内心焦っていた。
 これほどまでに特異点と呼べる人物がここに集まるなど。
 何かの不幸な前触れである気がしてならないのだ。
 だがその予感はすぐに的中することになる。
 直上からの砲撃、いや、突入か。爆炎が今を包む。
 混乱と悲鳴、舞い散る爆炎の向こうで何者かのシルエットが業火を纏っている。
 それに対して男は驚きの声をあげた。
「ラグ・ストーカー」
「知っているんですか!!」
「我々にはもう、危害は加えないという話だったが」
 そんな初老の男に燃衣は懇願する。
「お願いします、あなたの知っていることを全部、教えてください」
「言っている場合かこやつは!」
 朱雀はにたりと笑うと暁メンバーに視線を向ける。
「そうか、そう言う事か」
 全員が武装を構えた、その直後。
 爆発するような霊力があたり一帯を吹き飛ばした。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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『煤原 燃衣 (aa2271@WTZERO)』
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『藤咲 仁菜 (aa3237@WTZERO)』
『世良 杏奈 (aa3447@WTZERO)』
『楪 アルト(aa4349@WTZERO)』
『三船 春香(NPC)』
『月奏 鎖繰(NPC)』
『ヴァレリア・ヴァーミリオン(NPC)』
『初老の男(NPC)』

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 皆さんいつもお世話になっております、鳴海です。
 この度はOMCご注文ありがとうございました。
 突然ですが鳴海は伏線を積み立てるのが好きです。
 物語の美味しさはやはり伏線の積み立てという下ごしらえで決まってくるとおもいます。
 これが爆発する時に皆さんに感動を与えられるように頑張っていきたいと思います。
 今回も気に入っていただければ嬉しいです。それではまたお会いしましょう。
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2018年04月18日

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