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『サプライズと、約束の 』
蓮城 真緋呂jb6120)&米田 一機jb7387

 二月の終わり。米田一機は時計を見ながらそわそわしていた。
(そろそろだと思うんだけど‥‥)
 今日はとある医療系大学の合格発表予定日だった。久遠ヶ原に引き続き在学している一機はもちろん受験していない。じゃあ関係ないかというと、そんなことはない大ありである。
(うーん‥‥まだかな)
 授業中だが、内容が全く頭に入ってこない。机の影で端末を確認するも、音沙汰なし。
 もしかして不合格で、失意のあまり連絡できないとか──いやいや彼女に限ってそんなわけ、と不穏な想像が頭をよぎり始めたまさにそのとき、否定するかのように端末が鳴動した。
 チャットツールにメッセージが一つ。
 大急ぎで開くと──満面笑顔のスタンプが貼られていた。

「やっ‥‥た!」

 押し殺したはずの声が響いて、一機は周りの生徒たちに奇異の目で見られる羽目になった。

   *

 授業終わりのチャイムとほぼ同じタイミングで、電話がかかってきた。
『一樹君? 受かったよ』
「うん‥‥おめでとう、真緋呂」
 電話の相手、蓮城真緋呂の笑顔を想像しながら、一機は祝いの言葉を贈る。
『えへへ、やっぱり自分で言いたくて』
 真緋呂の照れたような声が聞こえると、一機はそれだけで嬉しくなった。
「うん。でも、俺は信じてたけどね」
 先ほどまでのそわそわはもちろん隠して、一機は得意げに言ってみせるのだった。

「たくさん応援してくれたものね、一樹君」
 耳に当てた端末を両手で包み込むようにして、真緋呂は言った。
 学園卒業後の進路として真緋呂が選んだのは、大学の看護学科への進学だった。彼女は学園島を離れ、東京の予備校に通って受験に備えていた。
 学園在籍時から準備は進めていたし、自信が無いわけではなかったが、それでも気持ちが落ち込むときはある。そんなとき、いつも背中を押してくれたのは、卒業直前に晴れて恋人となった一機の言葉だった。

 受験の緊張から解放され、その日の真緋呂はいつもよりちょっと饒舌におしゃべりした。
 でも、今日はそれで終わり。
 同じ学園に通っていたときのように気軽に顔を合わせることはできない。
「次に会えるのは‥‥」
 吐く息の白さに寂しさを募らせながら、真緋呂はスケジュールを確認した。



 果たしてその日は、三月十四日。
 二人が待ち合わせたのは学園島ではなく、本土。東京駅である。

「一樹君! 待った?」
「ぜーんぜん。ちょうど着いたとこ」
 なんてお決まりのやりとりをしつつ、久方ぶりに直接顔を合わせた二人は、ちょっとだけ気恥ずかしそうに笑い合った。
「それで、今日はどこに行くの?」
 尋ねたのは真緋呂の方だった。今日、待ち合わせを指定したのは一機だったが、具体的な予定は教えてもらっていない。
「ふっふっふ」
 眼鏡をくいと持ち上げてから、一機が取り出したのは二枚のチケット。
「これって‥‥」
 それは、某巨大テーマパークのワンデーパスポートだった。
「ホワイトデーと、あと合格祝いというか頑張ったご褒美に、今日は遊園地にご招待だ!」
「わーい、ありがとう一樹君! すごく嬉しい♪」
 よほど嬉しかったらしく、真緋呂は一機の腕に飛びついてきた。チケットを落とさないようにしながら、一機は彼女を受け止める。
(あ、いい匂い‥‥)
 ふわりと漂ってきたシャンプーの薫りと、彼女の感触と。しばらく遠ざかっていたリアルな存在感に、一機は早くも奮発して良かったという思いを噛みしめるのだった。

   *

 というわけで夢の国。

 開場間もない時間に到着した二人だったが、入場ゲートはすでに人でごった返していた。
「平日なのにすごいわね」
 感心したような真緋呂の声が漏れる。日にち柄か、一目見てカップルであろうと分かる組み合わせも多い。
 もっとも、自分たちもそうした中の一組であるのだが。そのことに気づいて、真緋呂はひっそりと頬を赤くした。

 ゲートを抜ける、美しく整えられた広場に一歩足を踏み入れればそこはもう非日常の空間だ。正面には巨大な西洋風のお城が、来場者を歓迎するようにそびえ立っていた。
「さて、どれから行こうか?」
 一機が尋ねた。真緋呂はパンフレットを広げながら、人気どころのアトラクションを二、三あげる。
「でも、どれも結構並ぶわよね‥‥」
 眉根を寄せる真緋呂に、一機はちっちっちと指を振った。
「玄人は先にパスを取るのさ」
「あ、そっか」
 時間帯指定のパスを取っておけば、人気のアトラクションも最低限の待ち時間で乗ることができる。一日でより多くの種類を楽しみたいなら、並ぶよりも先にこっちだ。
「もしかして、結構下調べしてる?」
「いやあ、こんなの常識だよ」
 一機としてはもちろん、今日の流れは百を越えるパターンを事前に想定済みだがそんなことはおくびにも出さない。
(これも撃退士としての戦いの日々のおかげかもな)
 なんて思ってみたりして。

 二人で発券所に向かい、無事人気のパスをゲット。
「時間までちょっとあるけど、どうしようか」
「うーん‥‥」
 つと考えた真緋呂は、売店を見つけると「ちょっと待ってて」と向かっていった。さっとなにやら買って、戻ってくる。
「はいこれ」
 真緋呂が手にしていたのは、このパークのマスコットの耳がついたヘアバンドだった。
「‥‥俺も?」
「いや?」
 真緋呂がちょっと不安そうに首を傾げた。それを見た一機は──
「もちろんつけるさ!」
 しゃきーん、装着。
「あはは、似合うよ一機君」
 ぱっと笑いながら、真緋呂もヘアバンドをつけた。
(周りからどう見られたって関係ないもんな)
 大事なのは彼女が幸せかどうか、それだけだ。

 そのためにも、今日はめいっぱい遊んで、めいっぱい笑おう。

「じゃあ行こう、真緋呂」
 一機は右手を差し出した。
「うん」
 真緋呂がその手を取った。見た目よりたくましくて、温かい手。
 二人は連れだって、パークを歩き出した。

   *

「一機君、左から来てる!」
「任せろ! 真緋呂は後方警戒、頼む!」

 真緋呂を守るように前に立った一機が引き金を引くと、連続で飛び出した光弾が襲い来る亡霊を的確に撃ち散らす。
「さすがね。私はこっちを‥‥きゃ!?」
 反対側から寄ってくる亡霊を迎え撃とうとした真緋呂だったが、隠れていたらしき亡霊が突然下から飛び上がってきた。同時に二人が乗っていたトロッコががたんと揺れた。
 バランスを崩した真緋呂を、一機が受け止める。
「だ、大丈夫か?」
 彼女の顔がすぐ近くに来て内心どぎまぎしながら声をかけたが、真緋呂はまだ正面を見ていた。
「そのまま‥‥!」
 一機に支えられたまま照準を合わせて引き金を引く。不意打ちで現れた巨大亡霊がその一撃で消し飛んだ。
「えへへ、ありがとう一機君」
 敵の襲来が一段落したところで、ようやく真緋呂は一機から離れた。わずかに頬が上気している。
 つかの間視線を交わしていると、通路の雰囲気が変わり、トロッコがゆっくりと停止した。
「おっ、ボス戦かな?」
「撃退士カップルの力を見せつけてあげないとね」
 二人は正面を向いて光線銃を構えた。


「あー、楽しかった!」
「結構ハードだったよな。アウル能力者向けに調整されてるのかな」
 子供たちを怖がらせすぎないようにか、CGの亡霊はファンシーなデザインだったが、ゲームはなかなか歯ごたえがあるものだった。
 アトラクションから出てきて、真緋呂はうーんと伸びをする。道の向こうに小さく人だかりがあった。
「ねえ、見て!」
 どうやら、このパークのマスコットキャラクターがいるらしい。遠くからでも目立つ団扇のような大きな耳を揺らしながら、手を振ったり、お客さんと握手をしたりハグしたり、いちいち大げさな仕草で来場者を楽しませていた。
 どうやら、一緒に写真も撮ってもらえるらしい。人だかりはその順番待ちのようだ。
「撮ってもらう?」
「もちろん! 行きましょ」
 真緋呂はにっこり笑うと、一機の手を引いて人だかりへと駆けだした。

「カップルですか? それじゃあ、もっとくっつかないと!」
 マスコットの前に立った一機たちに、撮影係がにこやかに要求する。
「もっと‥‥? こう、ですか?」
 すでに肩がくっつくほど近いのだけれど。真緋呂は一機のことをちらと見上げてから、もう一歩、身体を寄せる。
 それを見て、大きな耳のマスコットが囃し立てるように一機の頬を突っついた。
 周囲からのやっかむような視線も感じて、一機は──
「なんの‥‥まだまだァ!」
「えっ、‥‥きゃ!?」
 むしろ見せつける方向で! と言わんばかりに真緋呂をお姫様抱っこした。
 どや顔の一機に、周囲は参りましたとばかりに拍手を送る。
「いいですね! はい、そのまま‥‥!」
 撮影係が二人とマスコットをファインダーに収めた。

「さっきはびっくりしたな‥‥一機君、急にするんだもの」
 写真をもらった二人は、売店でソフトクリームを買い、ベンチで休憩。真緋呂はちょっぴり唇をとがらせた後、クリームを口に含んだ。火照った身体に冷たさが心地いい。
「もしかして、嫌だった?」
 思わず一機が尋ねると、真緋呂はんー、とちょっと考える素振りを見せて。
「一機君の、一口頂戴!」
 突然の不意打ち。一機が食べていたソフトクリームに飛びつくようにして口を付けた。
「ん‥‥美味しい♪」
 自分の唇に付いたクリームを舌で舐め取って、真緋呂はいたずらっぽく笑った。それから改めて顔を寄せ、小声でささやく。
「嫌なんかじゃないよ、もちろん」
「なら良かった‥‥」
「私のも食べる? はい、あーん」
 ドキドキしている一機に、容赦ない真緋呂の追撃である。

 その後も、二人は──
 コースターで思いっきり絶叫したり。
 隠しマスコットを見つけてはしゃいだり。
 (真緋呂が)売店のポップコーンとチュロスとケバブサンドを全種類制覇しちゃったり。

 と、そんな感じでめいっぱいデートを楽しんだのだった。



 楽しい一日は飛ぶように過ぎて、いつしか日もすっかり落ちた。
 一機が締めくくりに、と誘ったのは、パーク外周に設置されている巨大観覧車だった。
 もちろんカップルを中心に人気が集中するスポットなので、狙った時間に乗るのは実は大変だ。一機の周到な準備あってのことであった。
 籠の中で向かい合って座り、係員が扉を閉めると、後はもう二人の世界。
 ゆっくりと時間をかけて、籠が上がっていく。それとともに、パークの喧噪も遠ざかっていった。

「わ‥‥東京湾が見えるよ」
 真緋呂は窓の外を見てはしゃいだ声をあげたが、一機がじっとこちらを見つめていることに気が付いて、改めて座り直した。
「えっと‥‥改めて合格おめでとう、真緋呂」
 居住まいを正して、一機が告げる。真緋呂も「今日はありがとう」と礼を言った。
「楽しかった?」
「うん、とっても。こんなに笑ったの久しぶり」
 なら良かった、と一機も微笑む。
 真緋呂が学園島を離れた後ももちろん会う機会はあったし、彼女は一見いつも通りだった。でもそれは頑張ってそう装っていただけで、恋人と離れ、受験のために頑張る日々は決して楽なものではなかっただろう。
「これから四年間は、また少しだけ道が離れるけど‥‥」
 四年間──助産師としての資格を得るために真緋呂が学ぶ期間だ。
 その後は──。
「必ず、また一つになるから」
 自分に出来るだけの、はっきりとした確信を込めた。
 真緋呂はただ頷く。一機はポケットに手を入れた。
「これは、その約束」
 取り出して、見せたのは、指輪だった。飾り気のないシンプルなもの。
 四年後、婚約する──そのための、約束の指輪。
 一機には、誓いと言ってもいい。

 真緋呂は、もう一度頷いた。

「手、出して」
 差し出された手を取って、一機が指輪を嵌めた。
「四年後、私が助産師になったら、プロポーズ待ってるね」
「そん時になったら、ちゃんと迎えに行くよ」

 目を赤くして微笑む真緋呂に、もう一度自信たっぷりの表情で。
(‥‥あと婚約と結婚と‥‥二ついるのか)
 その日のために、頑張って稼がないとな。一機は決意を固くした。

 観覧車はいつしか頂点に近づいていた。二人を待っていたかのように、ドンという音と光が届く。

「花火だ」
「きれい‥‥」

 間近で開く光の華に、二人はうっとりと目を奪われた。
 いつしかその手が重なって、指が絡められて──そして。

 沢山の光と音に祝福されながら、二人はそっと口づけを交わした。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb6120/蓮城 真緋呂/女/17(外見年齢)/祝☆合格!】
【jb7387/米田 一機/男/17(外見年齢)/支える決意】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました! ホワイトデー・デートの様子をお届けいたします。
いちゃらぶ具合はいかがでしょう‥‥二人の距離感も含めて、イメージに沿うとよいのですが。
お楽しみいただければ幸いです。
イベントノベル(パーティ) -
嶋本圭太郎 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2018年04月19日

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