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『ブリキさんのとある一日 』
ラクス・コスミオン1963

 からから、からから、かちん。
 おはようございます。
 一日のはじまり、わたしのネジが今日も巻かれます。


 わたしはブリキのロボットである。名前は別にどうでもいい。
 元々は人間だったっぽいんですが、何らかの――認識してはいけない――手段によってこんな形になりました。
 宝石の瞳に心臓を持ち、ゼンマイと歯車で動くアナクロマジカル。一挙手一投足にかちこちかちこち効果音。
 正直職場に対してちょっとうるさいんじゃないかと思いましたが、

 ――それは機能美というやつです。誇っていいと思います。

 ご主人様がそう言うのならオールオッケー。わたし自身も嫌いじゃないのでこの件については全部棚上げ。

 ……そういえばスピーカーというか発声機能を搭載してもらってない割に意思疎通が出来ているのは何故でしょう。
 不思議ですね。
 でもそんなのは些細なことです。

 ――それじゃあ、今日は『 』の書庫の整理をお願いできますか?

 イエス、マム。
 だってわたしのご主人様は、美人の顔に豊満な胸、そして腰から下はライオンに鷲の翼。
 いわゆる一つのスフィンクスで、どうやら魔法使いとしても一流の模様。
 わたしのような存在を作り上げておいて、むしろテレパシーくらい出来なくてどうしますか。いえ、魔法とか魔術とかさっぱりなのでフィーリングの話ですが。

 それに、そんなことでいちいち驚いていては身が持たないのです。いくら心臓が宝石でも、砕けるときは多分あっさりです。
 今日のお仕事は、なんていうかこう――


 本、本、本。
 ずらっと並ぶ本の群れ。天高い本棚が視界の果てまで隙間なく立ち並ぶ様は壮観と言えましょう。
 さながらラビュリンス。牛頭の怪物とか出てきそうで、糸玉は残念ながら持ち合わせがありません。

 いえ、出口はちゃんと分かっていますし、実のところそれほど広いというわけでもないと思います。
 イメージの問題です。

 だって、ほら。

 【――ボク ヲ アケテヨ】などとめっちゃ全力でアピールしてくる■の皮っぽい装丁の本だとか、現在進行形でわたしの身体をどろどろ溶かそうとしているその隣の本由来の結界とか(機械の身体には無力のようなのでご安心)、めっちゃがしがしと身体を噛んでくる本とか。
 ご覧の通り目に見えて危険度MAXです。レトロゲーのランダムエンカウントもかくやといったところ。
 それでも「こうやってアピールしてくるだけ可愛いもの」らしいですが。
 ならば開いていない本にいったい何が収まっているのか――ほんと考えたくないですね。

 ともあれ、そんなやんちゃ本(ボーイ)たちを回収しては元の場所に戻すのが今日のお仕事です。
 はーいボクたち、ハウスですよー。
 多分まっとうな人間の肉体と精神だったら耐えきれないかもですが、そこは魔法機械なわたしなので問題なし。
 曰く付きの魔法の本を、逃げたペット感覚で追いかけるこの状況がむしろ楽しかったりして。

 かち、かち、かちん。
 一通り片付けて、なんとなく肩とか回してみたり。意味は全くないのですが、なんかこう魂に染みついた習い性。
 ゼンマイの音が図書館に響いて、やっぱりちょっとうるさくないかなー? とかなんとか。
 まあ、機能美、機能美。



 ――まあ。思った以上にお早い仕事ですね。

 報告に向かうとご主人様は嬉しそうに手を口元に当てました。
 へへ、褒められちゃったぜ。

 ――もしよろしければ、定期的に見回りをお願いしてもいいですか?

 もちのロンです。安いものです。

 ――その……どうしてもあそこの整理は続く方が少なくて。も、もちろん、辛くなったら言ってくれればいいですから!

 そんな注意を入れる理由が分かるような気もするけれども敢えてスルー。
 今はご主人様に気に入られる方が優先なので、二つ返事で了承するわたしなのでした。
 現金とでも言うがいい。そして大体オチは見えていて、


 ……翌日、うっかり本を落とした(曰く、魔本がわざとそうなるように仕向けたとのこと。小賢しい……)わたしは、ちょっとしたデスゲームめいた異世界にぶっ飛ばされたりしたのですが、それはまた別のお話。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【1963/ラクス・コスミオン/女/240/スフィンクス】
東京怪談ノベル(シングル) -
むらさきぐりこ クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年04月23日

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