『似た者同士 』

アーク・フォーサイス（ka6568）

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「留守？」


　春まだ遠き龍の園。
　寒空の下、龍騎士隊詰所を訪れたのはアーク・フォーサイス(ka6568)だった。
　戸口に現れたリブは、申し訳なさそうに頭を下げる。

「はい、駆け出しハンターさん達と一緒に竜討伐へ」
「……そっか」

　友人は常に忙しく、会う約束さえままならない。なので、会いたければこうして直接訪ねて来るよりないのだが、何せ突然なのでこういう事もある。

『また、いつでも遊びに来てくださいね。待っています』

　邪魔になってしまわないか、迷惑じゃないかと散々悩み、それでも以前彼が言ってくれた一言に背を押され、やっとの思いで訪ねて来たものの――
　会えない落胆と同時に、どこかホッとしている自分がいて、アークは内心苦笑する。

「なら日を改めるよ。ありがとう」

　踵を返したアークの腕を、リブががしっと掴まえた。

「冷たっ！　ずっとお外で待ってたんですか？　中で暖炉にあたってください！」

　アークはぎくりと頬を引きつらせる。言えない。待っていたのではなく、戸を叩く直前になってまた悩み、しばらく右往左往していたなんて。

「大丈夫だよ」
「じきに戻りますから中へ、ねっ？」
「そんな、悪いよ」

　戸口で押し問答していると、通りの向こうから賑やかな声が聞こえてきた。見れば、帰還してきたハンター達と、彼らに付き添うシャンカラ(kz0226)の姿が。
　アークの知らない話に花咲かせ、ハンターの言葉に微笑んで頷く彼。
　どうしてだか見ていられなくなり、アークは視線を外すと、鉛を飲んだように重くなる胸をそっと押さえた。

（元気そうな顔が見られて、嬉しいはずなのに……）

　ハンター達と別れ、彼がこちらへ歩いてくる。呼ばわるリブの横で会釈するアークを認めると、シャンカラの顔がぱぁっと明るくなる。主を見つけた飼い犬のように、まっしぐらに駆けて来た。

「アークさん！　僕を訪ねて来てくださったんですか？　嬉しいです、どうぞ中へ……わ、冷たっ！　まさかずっと外で待ってたんですか？　リブ、執務室まで熱いお茶をふたつお願い」

　彼はアークが口を挟む間もないほど一気にまくし立て、詰所の中へ誘った。

（いつも穏やかなシャンカラが、こんな風になるなんて珍しい。喜んでくれたと思っても……少しくらい自惚れてもいいの、かな）

　面映く感じつつ、案内されるまま広間を抜け、執務室へ。
　歴代の隊長達が使用してきた執務室は、今はシャンカラのものだ。彼はアークにソファを勧めてから、身を清めるため一旦部屋を出ていった。

　初めて入った執務室。
　床に敷き詰められた龍鉱石のお陰で、室内は意外なほど温かだ。落ち着いた風合いの調度品が並び、どことなく厳かな雰囲気が漂っている。
　机の上には書類や石板が雑然と積まれていて、アークは少し意外に思った。整理する暇もないくらい忙しいんだろうな、とも。また後ろめたくなってしまいそうで、

（――自分のことながら女々しいな。折角会えたんだから、後ろ向きな気持ちは出来るだけ排さないと）

　リブが淹れてくれたお茶で喉を湿しつつ、窓の外を眺めて待った。


●
「すみません、お待たせしました」

　戻ってきたシャンカラは、武装を解き、北方独特の衣服に身を包んでいた。見慣れない姿に束の間目を奪われたものの、髪が濡れたままなのに気づき、アークは思わず手を伸ばす。

「まだ濡れてるよ。きちんと乾かさないと」
「このくらいすぐ乾きますから」

　アークの指が髪に触れると、碧い目がくすぐったそうに細まる。風邪をひかないか心配しつつも、それだけ急いで戻ってきてくれたのかと思うと、胸のあたりがくすぐったくなる。
　言葉に詰まったアークは、思い出したように鞄を探った。

「そうだ、君に渡したい物があって」
「何でしょう？」

　向かいに腰を下ろしたシャンカラは、興味津々で身を乗り出す。取り出したのは、薄紅色の可憐な花――桜の押し花だ。

「わぁ……！　綺麗ですねぇ」
「桜の花だよ。枝を折ることはしたくないから、落花を押し花にしたものだけど……こちらでは珍しいかと思って」
「ええ、初めて見ました。これが『桜』……」

　彼は押し花を顔の前に翳すと、しげしげ見つめ首を捻った。

「この花、前に見せてくださった、刀の鞘の装飾と同じですか？」
「よく覚えてるね。あれは桜花をモチーフにした一振りだよ」

　驚きつつ頷くと、シャンカラは一層嬉しそうに、押し花を胸に押し抱く。

「アークさんの刀と同じ花……ありがとうございます、大切にしますね」
「そんなに大したものじゃ」
「わざわざ取っておいてくれたんでしょう？　僕にとっては宝物です。それに、枝を手折れなかったことも、何だかアークさんらしくて微笑ましくて」

　大喜びする彼を見てアークも嬉しくなったが、先程些細なことでもやもやした自分が酷く狭量に思えてきて。知らず溜息を零すと、彼が心配そうに覗き込んでくる。苦笑して金色の瞳を伏せ、逡巡してから口にした。

「さっき、ハンター達と一緒にいたよね？　それを見た時に思ったんだ。君が人に好かれていて、とても安心する。……けど、ちょっとさみしい」

　碧い双眸が大きく見開かれる。アークは急ぎ、

「なんて、もう子どもじゃないのにね」

　と付け加えた。シャンカラは返す言葉を探しているようだったが、やがて俯き、何かを考え始めてしまった。
　じわり、と後悔が胸に広がる。

（困らせてしまったかな……それはそうか。こんな風に言われても困るよね……呆れられてしまった、かも）

　沈黙が居たたまれなくて、ぬるまったお茶を啜る。それでも彼は、アークのカップが空になってしまってもまだ黙りこくっていた。
　いよいよ気まずくなり、躊躇いがちに声をかける。考えに没頭していたのか、彼は弾かれたように顔を上げた。

「ごめん。困らせてしまって……」
「いえ、そうじゃないんです」

　彼は黙り込んでしまったことを詫びると、困ったような顔で笑う。

「もし逆の立場だったらって、想像していたんです」

　アークが沢山の友人に囲まれているのを見たらどう思うか。自分には知り得ない話で盛り上がり、楽しそうにしている様子を目にしたらどう思うか……――シャンカラは押し花に目を落とし、呟く。

「アークさんが楽しいなら、僕も嬉しい。それは本心です。でも、」

　そこで言葉を切り、すまなさそうにアークを見つめた。

「同じくらい哀しくなってしまって。アークさんが手の届かない所へ行ってしまうようで……まして僕は、自分からアークさんに会いに行くことができませんから。西方で親しい友人が沢山できたら、いつか僕は忘れられてしまう……ついそんなことまで考えて、堪らなくて」

　女々しいですね。そう自嘲するシャンカラを、アークは意外な気持ちで眺めた。誰からも好かれているように見える彼だが、隊長という重責ゆえか、芯の部分では案外孤独なのかもしれない。その一端に触れられた気がして、アークは迷わず彼の手をとる。

「それを言ったら俺だって同じだよ。それに俺は、君を忘れたりしない。……何度だって会いに来るから」

　迷惑じゃなければ、だけど。そう言い添えたアークを、シャンカラはしばし呆けたように見つめ――それから、手を強く握り返し、今日一番の笑顔を見せた。


　暖かな部屋の中、ゆっくりと会話が紡がれていく。西方で咲いた花のこと、今日倒した竜のこと、不意に目にした美しい景色や、出会った人々――会えずにいた時間を埋めるよう、ふたりの話はいつまでも続いた。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka6568／アーク・フォーサイス／男性／17歳／龍騎士隊隊長の友人】
ゲストNPC
【kz0226／シャンカラ／男性／25歳／龍騎士隊隊長】
【リブ／女性／15歳／少女龍騎士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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龍騎士隊詰所を訪れたアークさんのお話、お届けします。
前回シャンカラがお邪魔したノベルをお届けした後も、シナリオで縁を重ねていただいておりますので、
以前よりもふたりの距離が近づいた感じが出せればいいなと書かせていただきました。
おまけノベルの方では、直近のリプレイに関することも反映させていただきました。隊長殿がすみません。
イメージと違う等ありましたら、お気軽にリテイクをお申し付けください。

この度はご用命下さりありがとうございました！

シングルノベル

鮎川　渓

ファナティックブラッド

2018年04月24日