『先日 』

御代　つくし（aa0657）

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　昔の御代　つくし(aa0657)にとって彼はそういう存在だった。武器で、自分に価値を与える存在で、拠り所。六歳のつくしにとって『彼』はそういう存在だった。
　怖い人だと思った。彼に初めて逢った時には。冷たい顔で、冷たい瞳で、床に座り込んでいるつくしを立ったまま見下ろしていた。つくしはまだ幼かったが、いや幼かったからこそ、その瞳の奥の気持ちに敏感だったのかもしれない。
　私にはきっと興味が無いんだろう。彼を見上げてそう思った。
　だって紫の瞳の中に、つくしの姿は見えなかった。
　まるでそこにあるだけの、心の底からどうでもいいモノを見ているような瞳だった。
　――ああ、そういうことですか。どうやら僕はこの世界に飛ばされてしまったようですね。
　――あなた、別の所から来たの？
　――貴方には関係ないことです。いえ、ある意味貴方は関係者になるのでしょうか。
　――僕と誓約して下さい。
　――誓約を結んでくれるなら、僕は貴方の武器になる。
　彼の述べた言葉の意味が全て分かったわけではない。わざとではなかったとしても、まだ幼いつくしには分からない言葉もあった。
　だが、分かることもあった。この人は別の場所から来て、別の場所に帰っていくんだ。私の知らない場所から来て、知らない場所に帰っていくんだ。それがいつかは分からない。けれどきっと、その日はきっと、この人が現れた今この時よりも、あっけなくも簡単に訪れてしまうのだろう。
　私はその時が来るまでの、一時だけの『何か』でしかない。
　それを理解していながら、しかしつくしはこうも思った。でもこの人がいたら、その日が来るまで、私にはきっと『価値』がある。その日が来てしまうまで、この人が私の『武器』になる。
　いつかいなくなるその日まで、私とこの人は『誓約』を結んでいる。
　なら、誓約を、利用すればいい。
　誓約は【何があっても折れない】こと。彼は私にそう言った。それを守り続けるのはきっと難しいことだろう。でも、これを破らなければ、貴方はずっと私のそばにいてくれる。
　破らなければ、折れなければ、貴方はずっとどこにも行かず私のそばにいてくれる。
　なら、私は、ずっと笑っていよう。
　折れたりなんてしてないよって、ずっと笑顔でい続けよう。
　何を言われても平気。何をされても傷付かない。泣いたりしない。弱さは見せない。私はこんなに強いよって、ずっと貴方に示し続ける。
　家族に捨てられ、ひとりぼっちで、私には行く場所なんてどこにもない。貴方と違って私には、帰る場所なんてない。
　貴方と生きていくしかない。だから笑顔でい続けよう。
　そしてつくしは笑顔を浮かべ、英雄へ、『武器』へ、埃で汚れた手を伸ばした。

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「昔はね……そう思っていたんだよ」
　つくしはそこで言葉を切ると、くしゃりと歪んだ笑顔のまま机の上に視線を落とした。机を挟んだ向かい側には英雄が座っている。話を聞いて欲しいと言われた。たくさん我慢をさせたから、その謝罪をさせて欲しいと。
　だからつくしも言ったのだ。私も聞いて欲しいことがあるの。貴方に謝られる前に、私が先に謝りたいの。
「酷いことを……考えていたよね。自分のことばっかりで、貴方と向き合うことなんて、全然考えていなかった……！」
　今のつくしにとって英雄は、仲間で、家族で、大切な人。武器なんかじゃない。私の価値のためなんかに存在しているわけじゃない。今なら言える。今なら分かる。昔の私がどんなに酷いことを考えていたのかよく分かる。今更だけどそう思う。今更そんなことを思う。
　独りになりたくなくて、ずっとずっと、誓約で縛りつけていた。
「……貴方が、こんな誓約すぐに破れるだろうって思っていたのも、知ってるよ。早く元の世界に帰りたかったのも、知ってる。……それを、分からない振りをしたんだ、私は……ずっと目を背けていたんだ」
　踏み込ませはしなかった。それ以上に踏み込もうとしなかった。逃げていた。傍にいてくれるだけで良かった。傍にいてくれる存在だけを貴方に求めて押し付けていた。
「……ごめん、ごめんね、ごめんなさい」
　目から水滴がぼろぼろ落ちて、つくしの頬や膝を濡らした。もう歪んだ笑顔も保てない。声の震えを止められない。
　怒られるかもしれないとつくしは身を硬くした。いや、怒られて当然だ。怒鳴られて当然だ。失望されても、嫌われても、文句など言えるはずもない。
　ふうと溜息が聞こえてきて、つくしはびくりと肩を揺らした。けれど次に聞こえたのは、とてもやわらかい声だった。
　今度は僕の話を聞いて下さい。彼は、そう、優しく言った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【御代　つくし(aa0657)／性別：女性／外見年齢：１８／能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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2018年04月25日