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『先日 side M 』
メグルaa0657hero001


 昔のメグル(aa0657hero001)とって彼女はそれだけの存在だった。誓約者であり、能力者であり、自分を生かす為の人。出逢ったばかりのメグルにとって彼女はそれだけの存在だった。
 ここで生きていくつもりはなかった。この世界を訪れた、来てしまった最初の頃は。来たくて来たわけではなかった。無理矢理来させられたと言ってよかった。いつか帰れるだろうと思っていた。いつになるかは分からないけど、いつか帰れるだろうと思っていた。
 ここは自分の場所ではないと、強く、強く思っていた。
 だからいざとなれば破られるよう、面倒な誓約にした。
【何があっても折れない】こと。メグルは彼女にそう言った。もう嫌だとか、もう戦いたくないだとか、そういうことを絶対に言わない。思わない。この先ずっと。
 貴方がそれを守れるなら、僕は貴方の武器として貴方に力を貸しましょう。
 六歳の少女にも分かるようにと出来るだけ言葉は噛み砕いたが、親切心からではなかった。情けなど微塵も浮かばなかった。いつか破られるだろうと思っていた。だからそういう誓約にした。
 こんな幼い少女が挫折しないはずもない。
 何も知らない彼女が挫けないはずがない。
 いつか泣き出して、喚き出して、もう嫌だと声を上げて、それで仮初の関係は簡単に終わると思っていた。
 独りでこんな所にいる少女を見下ろしてそう思った。
 けれど、そう思いながら、十年以上経ってしまった。十年以上もの間、彼女の傍に居続けた。
 彼女はずっと笑っていた。泣くことも確かにあったけど、折れることは一度も無かった。もう嫌だなんて言わなかった。
 真実を話した時も、泣いて、それでも受け止めて、彼女は決して折れなかった。


『僕だって……昔はそう思っていたんですよ』
 メグルはそこで言葉を切ると、目を腫らして自分を見る能力者へと微笑みかけた。今のメグルにとって彼女は、大切な人で、家族で、相棒。そんな人にこんな顔をさせているのは自分自身。
 強い人だと思った。本当にずっと笑っていて、何があっても前向きで、絶対に諦めなくて。見立て違いをしたと思った。絶対に挫けない。絶対に折れたりしない。この人は最初からそういう人だったんだと、向日葵のような笑顔を見ていつのまにか思っていた。
 そう思って、思い込んでいたことに気が付いて、今までの自分がとても恥ずかしくなった。僕は何をしてきたんだろう。彼女の何を見てきたというんだろう。傷付いていないはずがないのに、痛がっていないはずがないのに、それでも笑って隠してしまう彼女の何を知っているというんだろう。 
 十年以上も傍にいて、僕は一体、今まで、何をしていたのだろう。
『すみません。逃げ続けていたのは僕の方だ。もうとっくに帰るつもりなど無かったのに、貴方に嫌われることが怖かった』
 今までどうしても口に出せなかった言葉。言った瞬間、彼女の目からぼろぼろと涙が零れて落ちた。今まで以上に大粒の涙を、彼女は慌てて袖で拭う。メグルは椅子から立ち上がり、目を必死で擦ろうとする能力者の腕を取る。
『泣きたい時に泣いても、誓約は反故になりませんよ』
 かつて真実を告げた時、その時共に述べた言葉。少女はメグルに視線を向け、メグルは少女を見つめ返す。
『僕は貴方の隣で、共に歩くと決めたんです。貴方がどんな人間でも、僕は貴方を嫌いにならない。決して貴方から離れていかない。
 それとも貴方は、僕を嫌いになりましたか? もう、僕と一緒にいるのは嫌ですか?』
 メグルの言葉に彼女はぶんぶんと首を振った。そんなわけない。貴方を嫌いになるわけない。泣きながら言う少女へと、メグルは優しく微笑する。
『僕だって、そうですよ。僕のこと……信頼してくれますか?』
 少女の細い腕が伸びて、ぎゅうっとメグルを抱き締めた。信じてる。信頼していないわけがない。貴方のこと、きっと誰より、私は誰より信じてる。
 そして少女は抱き付いたままさらに大声で泣き出した。ごめんね、ごめんねと、今まで溜め込んでいた全てを吐き出すように泣きじゃくる。
 メグルは微笑みを浮かべながら、少女を力強く抱き寄せた。今まで受け止めてこなかった全てを抱き留めるように。

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【メグル(aa0657hero001)/外見性別:?/外見年齢:24/ソフィスビショップ】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 タイトルの「先日」は辞書的には「過ぎた日」「前日」という意味ですが、今回は『お二人が出逢った頃の話』、そして『お互いに向き合い、改めて共に歩いていく、その前日の話』という意味で付けさせて頂きました。
 とても大切なお話をお任せ下さり、本当にありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い致します。
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2018年04月25日

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