▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『キョウエン劇の幕間に 』
日暮仙寿aa4519)&逢見仙也aa4472

●これまでのあらすじ
 リオ・ベルデでの混迷した戦局。半ば巻き込まれるような形で飛び込むことになった日暮 仙寿(aa4519)は、物憂げな顔をしたまま帰参した。
 結果だけ見れば、ケイゴがリオ・ベルデの国民を自らの実験台にしようとしていた事を明らかにして、誰一人の命も失う事無く戦場を切り抜ける事は出来た。しかし、仙寿にとっては己が未熟であることを痛感するきっかけになってしまったのだ。

(……誰一人死ななかったのは良かった。だが、自分には何も出来なかった)

 僅かな無力感に浸される事になった仙寿は、帰ってきてハイお休みとはいかなかった。少しでも自分なりにこの状況を見極めるべく、彼は一人で資料室へと向かったのである。

●ブルー&ブルー
「……ろくに見つからないな」
 己の周囲に資料の塔を幾つも立て、仙寿は溜め息をつく。がむしゃらになってエージェントとしての戦いに身を躍らせてきたが、エージェントとして活動を始めたのはそもそも卓戯事件以来の事。それ以前の事件についてはそれほど詳しくないのだ。
(ヴァルヴァラやパンドラは幾つも資料が出てくるし、アッシェグルートも神月の大きな事件に絡んでいる。だが……)
 仙寿は資料の文字を指で辿る。しかし、小一時間資料を漁ってみても、ヘイシズの名前は過去に全く見当たらない。盛んに彼我の協力を求めてくる黒獅子の姿が、資料から全く浮かび上がってこないのだ。
(これじゃ舞台の役者だ。自分の出番以外は、完全に舞台袖に引っ込んで……)
 考える程に、ヘイシズの人となりが無性に気にかかる。仙寿はスマートフォンを取り出すと、アドレス帳を開く。選んだ宛先は、何だかんだで付き合いのある逢見仙也(aa4472)。
[ヘイシズについて調べてるんだろう? わかってることがあったら教えてくれないか?]
 メールを送ると、仙寿は新たな資料の山へと手を伸ばそうとする。しかし、すぐにメールは帰ってきた。

――数分前――
「うーん。わかんないなー」
 戦闘シミュレーションルームから出て、仙也は伸びをする。ヴォジャッグのフォロワー愚神を討伐する依頼をこなしてからというもの、仙也はスキルへの関心をより強めていた。英雄の力をより引き出すようにして放った攻撃は、見た目こそ変わったものの出力までは変わらなかった。
(どうすれば英雄の力をもっと引き出していけるのかねえ)
 今あるモノの工夫だけでスキルを強化するのは難しいのか。だとすれば、それを阻むものは一体何なのか。考えを巡らせていると、視界の先に見覚えのある姿が。
『せいらーん、遊園地行こー』
「はいはい。また今度な」
 青藍(ゲストNPC)とその英雄だ。先日の依頼では散々な事になっていたが、今も振り回されているようである。ついでに携帯も鳴った。見れば、仙寿からメールが来ていた。ヘイシズについて云々と書いていたが、とりあえず仙也は画像を一枚送りつける事にした。

「……ん?」
 帰ってきたメールには、イエスもノーも無く、共鳴してサイバーコスになった青藍の写真が載っていた。片脚を上げて、まるでアイドルのような写り方をしている。しかし、仙寿のフォルダには同じ写真が保存されていた。
[これ前も貰わなかったか?]
[目の前にいたんだよ]
 その返事が来て間もなく、仙也が資料室にやってくる。その後には、真っ赤な顔をした青藍までついてきた。
「ホント……良いじゃないですか、もう」
「別にそんな恥ずかしがることないじゃん?」
 会話しながら、二人で仙寿の前に腰を下ろす。仙寿は首を傾げた。
「何の話だ?」
「あの写真の話! この人いつまで経っても消してくれないんだよ!」
 青藍は矢も楯も堪らず仙寿に噛みつく。しかし当の仙也は飄々としていた。
「だって可愛いじゃん?」
「これだよこれ! そんな風におだてましてもねえ……」
 テンパって声を上ずらせる青藍と、そんな彼女をいつも通りへらへらして眺めている仙也。相変わらずだとも思ったが、仙寿も人の事は言えない。
「青藍。悪いが俺も保存してる」
「お前もか! いいのかお前。逢見さんはともかくお前はいいのか」
 仙寿とその英雄は好き同士。それは最早公然の秘密ともなりつつあった。反撃で黙り込みそうになった仙寿だったが、仙也がさらっと助け舟を出す。
「しょうがないじゃん。それくらい自分が可愛いんだって思っとけば?」
「ぐぅ……」
 青藍はぐうの音だけ出しつつ仙也と仙寿を見比べる。常に仲良くしているという風ではないものの、今のように何だかんだで息が合っている時もある。頬杖ついて、彼女は尋ねた。
「そもそも、お二人はどういった関係で?」
 問われ、仙寿と仙也は顔を見合わせる。仙也は肩を竦めて何も分からんと言いたげにしたが、仙寿はふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「仙也は俺の命の恩人だ。敵集団のど真ん中で俺の持っている刀が折られた時に、代わりをくれたんだ。その刀……雷切はトールと戦う時にも使う事にもなったな」
「あったっけ? そんな事」
 当の仙也はとぼける。仙寿にとっては重要な転機でも、彼にとっては無数の戦いの内のワンシーン、大して覚えていなかった。
「あった。また忘れたっていうのか?」
「別に覚えてなくても生きていけるし」
 能天気に答える仙也を見て、仙寿はどこか寂しそうな色を目に浮かべる。
「……クリスマスのグロリア社の特別企画の件は覚えてるよな?」
「ん? あー、鎖の話?」
 仙也は報告書の山に手を付けつつ、ちらりと仙寿に眼を向けた。仙寿は何度も頷く。
「そうだ。グロリア社で、俺達のアイディアを商品化するってイベントがあっただろう?」
「そういえば。私もアイディア出そうかなと思ったんだけど、アイツにすげー目で睨まれたからやめたんだよね」
「そんな事が……ともかく、その時は俺達がお互いに使えるような武器案を申請したんだが、これがどっちもすんなり通ったんだ。アジ・ダハーカの鎖と、霊刀「木花咲耶」だ」
 仙寿は幻想蝶から一振りの刀を取り出す。青藍は白塗りの柄を持つその刀を恭しく手に取り、じっと眺める。それを見ながら、仙寿は僅かに声を弾ませた。
「魔法を操る刀だからまだ使う機会は少ないんだが、いつか使いこなしたいと思っている」
「色々改造してみたりもしたけど、今使ってる装備の関係で中々鎖は使う機会無いかなー。役に立つ時が来れば使うんだろうけどさ」
 仙也は適当に相槌を打つ。彼自身は他にも指輪とか爪牙やら冠やら、有用な品物を幾つか贈与した憶えもあり、そこまで特別な事とは思っていなかった。
「他にも道具は色々貰ったな。ありがたく使わせてもらっている」
 仙寿も仙寿で憶えていたようだ。青藍は刀を仙寿に返しながら尋ねる。
「何だかんだで接点あるって感じ?」
「ま、腐れ縁って言えば言えるんかね」

●安らかなひと時
「へえ……和洋折衷って感じなんですね」
 仙寿の住まう、大正時代から存在する由緒正しいお屋敷。それを眺めて青藍は嘆息した。ヘイシズについての仙也の所感やら、これまでの報告書には全く姿を見せていない事を確かめたりなど、それなりに有意義な時間を過ごした一行は、ディナーでもどうかという仙寿の誘いで日暮邸へとやってきたのである。
「俺は食後のスイーツでも作ろうかと思ってる。仙也、何か作ってくれないか?」
「客にそれを言うかね? まあ、作れってんなら作るけど」
 仙也を見上げる仙寿。渋々というわけでもなく、あくまでマイペースに仙也は応えた。二人を見渡し、青藍も小さく手を挙げる。
「え……じゃあ、私達も……」

「へぇー……」
 青藍は仙也の料理する様子に目を見張る。圧力鍋で角煮を煮込む横で、具材を素早く切って小鍋の中へ流し込む。背後で電子レンジが鳴ると、仙也はその中から湯気を立てた茶碗蒸しを取り出した。更にタッパ詰めにしていた南蛮漬けを、皿の上に盛り付けていく。それが終われば、熱したフライパンで茹でた小松菜やベーコンを一緒に炒め始めた。その動きには一切の澱みが無い。
「単にお浸しでもいいんだけどさ。もう少しボリュームあっても良いかなって」
 そう言いながら、出汁で溶いた味噌を小鍋へと流し込む。その眼は、戦場に立っている時のように輝いていた。

『ディンブラだね。最近は安物ばかりだったから、こういうちゃんとしたのは久しぶりだよ』
「香りだけでわかるのか」
 一方、仙寿は青藍の第一英雄であるウォルター(ゲストNPC)と共にスイーツづくりに取り組んでいた。割烹着を着てメレンゲを掻き混ぜるその姿には、普段のどこか張り詰めた雰囲気がない。
「あの時、看病してくれてありがとな。御蔭で早めに復帰できた」
『私は何もしていないよ、君の彼女さんがつきっきりで、私には出る幕が無かった』
 ウォルターはくすりと笑う。その揶揄うような表情を見て、仙寿は思わずボウルを取り落としそうになる。ムキになってチョコとメレンゲをかき混ぜながら、仙寿は唸る。
「別にあいつはそんなんじゃ……」
『そうなのか……』
「やめてくれ、その残念そうな眼」

 一時間後、一行はテーブルを囲んでいた。豚の角煮に舌鼓をうち、仙寿はほろりと誉め言葉を洩らす。青藍も向かいで何度も頷いていた。
「さすがだな。煮込み具合が丁度いい」
「南蛮漬けも美味しいです」
 その時、幻想蝶からひょっこりとアンドロイド型の英雄が飛び出してきた。
『私も食べるー!』
「おい、ちょっと――」
 言うなり、英雄は青藍と共鳴してしまう。そこに現れたのは、メタリックホワイトに身を包んだ青藍の姿。バイザーを脱ぎ捨てると、彼女はいきなりがっつき始める。
『おいしー! やっぱりタンパク質の身体って素敵』
「やめろ馬鹿! がっつきすぎ……あぶ」
 青藍が文句を言おうとするが、英雄は構わずに食べ進める。普段は見せない満面の笑みだ。料理を素直に褒められれば、仙也も悪い気はしない。笑みを浮かべてみせた。
「太る事気にしてんの? 別に太ってても可愛ければ可愛いと思うけどね、俺は。今日は太るからねーとか言ってた奴も居るし」
「余計なお世話です! でも、そんな食べないんで、いきな……食べると胃がもたれ……」
 青藍が話そうとしている隙にも英雄はどんどん料理を口へ運んでいく。そんな光景を眺めていた仙寿は、青藍の前に置いていた洒落たスイーツを下げようとする。
「そうか……じゃあこれはいらないか? 折角デザートにと思って抹茶のガトーショコラを作ってみたんだが」
「ほー。中々美味いの作るじゃん」
 料理にうるさくなりつつある仙也も、ここは素直に褒めた。青藍は無理矢理主導権を取り返すと、仙寿の方へと必死に手を伸ばした。
「待って、それは食べる」
 皿をひったくると、青藍はナイフとフォークをせわしなく動かしてケーキを口へと放り込む。どうにも子供っぽい振る舞いを見て、仙寿は思わず声を上げて笑ってしまった。
「……最近重たい空気ばかり吸って来たから、こういった時間はある意味新鮮だな」
「そうだな。リオ・ベルデでしくったって言ってる時からずっと凹んでるっぽかったし?」
 仙也がちらりと仙寿を見遣ると、僅かに笑みを曇らせ、仙寿は小さく頷く。
「否定はしない。フィオナは感謝してるって言ってくれてるが……むしろ辛かった」
「政治が云々なんて俺達が考える仕事じゃないっしょ。そういうのは会長達に任せとけばいいの。俺達は戦いたいように戦って、守りたいように守る。それ以上を望んだって面倒に巻き込まれるだけさね」
 気楽にも聞こえる仙也の言葉。しかし、仙寿の愁眉を開かせるには丁度良かった。
「守りたいように守る、か。……そうだな。少し難しく考え過ぎていたかもしれない」
「何が正しくて何が間違ってるとか、そういう事ばっかになったら足元掬われてお終いってね。そうなったら、それこそあのライオン丸の思う壺だろーな」
「あくまで大事なのは、自分がどうしたいかって事ですよね」
 青藍の言葉に仙寿は納得して頷く。そして気になるのは、獅子の本心。
「ヘイシズ……アルター社をわざわざ俺達に疑わせたり、何がしたいんだろうな」
「さあ? ライオン丸さん、次はどう出るかなー」
 楽しいといいけどな。心の奥で、仙也はぽつりと呟くのだった。

 数日後、ヘイシズとケイゴが激突するとの報が入る。善性愚神にまつわる事の真偽を確かめる為、仙寿と仙也はアルター社へと向かうのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

日暮仙寿(aa4519)
逢見仙也(aa4472)
青藍(ゲストNPC)
ウォルター(ゲストNPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
影絵 企我です。この度は発注いただきありがとうございました。
こう……単純な仲良しじゃないって感じのを上手く出せていたら嬉しいです。
字数やらなんやらで色々苦労している部分もあるので問題があるかもしれません。
場合によってはリテイクお願いします。

本編でもノベルでも、これからまたよろしくお願いします。

カゲエキガ

パーティノベル この商品を注文する
影絵 企我 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2018年05月01日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.