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『●英雄とバンブーブレードと秋の空 』
龍華 狼ka4940

 紫 征四郎(aa0076)は一通りの剣道の鍛錬を終えると正座して小手を外し、面を取った。
 11月だというのに、今日は夏の終わりのような暑い日で、額には玉のような汗が浮かんでいる。

 その征四郎の目の前に突如、何もないハズの天井から人が降ってきた。

 酷く痛そうな音を立てて、うつ伏せのまま板張りの道場に叩き付けられた少年は、声も上げぬまま痛みに悶絶している。
「だ、大丈夫ですか……!?」
 その姿を見て、不審者かもしれないという思いよりも心配の方が先に立ってしまった征四郎は、少年が見慣れぬ具足姿に佩刀していることに気付いて息を呑んだ。
 暫くして痛みが引き身を起こした“少年”こと、龍華 狼(ka4940)は、自分を凝視する大きな金の瞳にようやく顔を向けた。
 目の前にいるのは剣道の武具を身につけた素足の少女。
(……なんだ、このガキは……)
 率直にそう思ったが、その言葉は心の裡に仕舞って決して外には出さないのが、狼の処世術の1つだ。

「もしかして……英雄、ですか……?」
 そう問われて、狼は即座に否定する。
「あー、いえ。僕はただのハンターです」
「ハンター? やはり異世界からの来訪者……」
 この世界で“現代にそぐわない”言動をしたり、衣装や武具を身につけ現れたりする者は、『英雄』であると征四郎は知っている。
 ただ、ちょっと気にかかるのは誓約前の『英雄』は思念体なので、幽霊のようだと言われるが、この『英雄』はまるで実体を伴っているような事だが、それはそれで“好都合”だ。
 一方、征四郎の“異世界”という呟きを耳にした狼は思いきって現状について問う事にした。
「あの、ところでここって何処……とか聞いてもいいでしょうか? 信じてもらえないかも知れませんが、僕、家の扉を開いた途端、ここに放り出されたような感じで……」
 狼の言葉に征四郎は合点がいった、というように大きく頷いた。

「やはり貴方は英雄なのです。わかりました! 征四郎が分かる範囲で貴方の質問に答えましょう。ですが、その前に勝負をしましょう」

「……はい?」
 意味が分からず聞き返す狼とは対照的に、にこにこと微笑む征四郎は帯刀していた竹刀を狼に見せ、そして狼の刀に目線を向けた。
「剣士なら、打った方が早いでしょう。いざ尋常に勝負、なのです!」

(何なんだこのガキ、全然会話通じねぇ!!)

 狼は心の中で盛大に舌打ちをした。
 しかし、勝負、ということは。
「……何を賭けます?」
「はい?」
「いや、勝負ということは、それ相応の賞金かそれに準ずる物が必要でしょう?」
 にっこりと狼に微笑まれ、征四郎はきょとんとその顔を見返す。
「……そう、ですね……貴方が勝ったら、貴方が欲しい情報を差し上げます。貴方が負けたら、土足で道場に上がった罰としてここの床掃除をしてもらう……ということでどうでしょう?」
「土足禁止ですか、それは失礼しました」
(そんなん知らねぇよ! ってか、それで素足なのか)
 狼は営業スマイルを崩さないまま足袋を脱ぎつつようやく周囲を見回した。言われてみれば、東方の剣術道場に似た雰囲気があるかもしれない。
 ただ、板床のツヤ具合やはめられているガラス窓、天井の造りなどから見て、文化レベルは遥かにこちらの方が上だと直感すると同時にここがクリムゾンウエストではないことを察する。
 その間に征四郎は隅に置いてあった竹刀袋から竹刀を1本取り出すと、狼に差し出した。
「流石に真剣で打ち合うのは危険なので、竹刀を使いましょう。使った事は?」
「見た事はあります」
 ギルドショップで売っているのを見た事はある。が、歪虚との戦いでは全く役に立たないので実戦で用いたことは無い。
「ではちょっと素振りをしてみて、具合を確かめてみて下さい。防具は……そのままで大丈夫そうですね」
 フルフェイスの兜に具足を身につけている狼を見て征四郎はひとり頷くと、面を身につけ、小手をはめた。
 彼は具足を装備しているが、竹刀は使った事がないという。
(『剣道』が無いのか、それともこの子が知らないだけなんでしょうか……)
 剣道の細かい礼儀について彼に強要するのは酷かも知れない。そう判断した征四郎は、自分は白線から二歩入ったところで礼をし、三歩進んで蹲踞し、立ち上がった。
「そういえば、お名前を伺ってもよろしいでしょうか? 私は紫征四郎と申します」
「龍華狼。狼でいいです」
「では狼、その白線のところまで来て頂けますか?」
 狼が征四郎の指す開始線の前まで来たところで、征四郎はルール確認をすることにした。

 おおよそ10m四方のコート内での試合。
 勝負は3本勝負。2本先取で勝ち確。
 有効部位は面、胴、小手として、突きは無し。
 反則は2回で1本。コート外に出ること、竹刀を落とすことが主な反則となる。

「本来なら審判号令で試合開始ですが……最初は征四郎が号令を出してもいいですか?」
「いいですよ」
 軽く答えて、狼は右手1つで柄を持ち、剣先を征四郎へと向けた。
 その妙な構えに征四郎は少し苦く笑みを浮かべ、すっと息を吸って構えると集中力を高めた。

「では、勝負、始め!」


 「始め」の声が聞こえた一拍後、狼の耳を襲ったのは征四郎の「やああああ!」というかけ声だ。
 その小さな体躯からは想像が出来ない大声で気勢を示すと、床が揺れる程の踏み込みで一気に狼との距離を縮めてくる。
「!?」
 狼が慌てて両手で柄を握り直し、「めぇん」というかけ声と共に振り下ろされる一撃を受け止め逸らす。
 しかし、征四郎は踏み込んだ勢いのままに鍔迫り合いへと持ち込んだ。小手と篭手が何度もぶつかり合う。
「……っ!」
 兜、面どころか首筋にも何度も竹刀の刃が当たる。
(これ、真剣でフルフェイスじゃなかったら血だらけだぞ今頃……!!)
 細かいルールは分からないが、こうやって当たる分には“1本”にはならないらしいと察した狼は、征四郎を撥ね除けようと踏み込む足に力を入れ――そのタイミングで、征四郎が大きく後ろに引いた。
(しまった!)
「めぇん!!」
 狼の頭部に衝撃が走った。

「まずは、1本頂きました! 仕切り直しです、狼」
 竹刀を振り上げた状態のまま、征四郎は後ろ歩きで開始線まで戻り正眼に構える。それを見て狼もまた開始線へと戻るが、その心中は穏やかでは無い。
(このガキ……いきなり勝負とか言い出すだけあって、強い)
 初手の一撃は予想以上に重たく、外側に剣先を弾くつもりが弾ききれなかった。思わず冷や汗が背筋を伝う。
 一方で征四郎も、初手の面をかわされたことで、狼の実力が侮れない物であることに気付いていた。
 あの時。咄嗟に鍔迫り合いに持ち込まなければ、外側に弾かれ、開いた胴に一撃を貰っていてもおかしくなかったのだ。
「あの一撃を初見でかわされたのは久しぶりです。狼はおいくつなんですか?」
「11歳です」
「では、征四郎と2つ違いですね。年上とはいえ、征四郎より小さいのにこんなにお強いなんて! すごいのです。いったいどんな特訓を……?」
 嬉しくて仕方が無いというように無邪気に問いかける征四郎だが、狼は「あ゛ぁ?」と低く唸った。

「覚悟出来てんだろうなぁ!」
 そう叫ぶと同時に征四郎へと踏み込む。

「え!?」
 号令も無い特攻に征四郎は驚きつつも、ステップを踏むように軽やかな足裁きでかわし、すぐに向き直る。と、反射的に剣先を下に向け狼の放った胴への攻撃を防いだ。
 そのまま手首を返し、狼の竹刀を上へと巻き上げるように繰るが、剣道の小手がミトンのような形状になっているのと違い、具足の篭手は指の動きを制限しない。その上、狼にとって『武器を手放す=死』の式が出来上がっている事もあって竹刀は宙を舞うこと無く、二度三度と剣先を打ち合わせて2人は同時に一歩ずつ後退すると間合いを取る。
 狼は舌打ちを隠そうともせず、征四郎を睨み付ける。
 触れてはいけない点に触れた征四郎を覚醒して一気に打ち負かしてやろうと思ったのに、それが叶わなかった。つまり、精霊の加護が届かない地ということだと知る。
(でも言葉は通じる。どういうことだ……?)
「どおおお!!」
 征四郎の鼓膜に直撃するようなかけ声に、狼は思考を一時中断し、反射的に横に飛んで一撃をかわし、背後からの一撃を与えようと剣を横薙ぎに振るうが、直ぐ様体勢を整えた征四郎にそれは阻まれた――が、重心を低く取って全力で体当たりをかました。
「!?」
 右腕を挟まれるような形になったために、竹刀の動きを制限された征四郎は思わずたたらを踏み、その隙に足を払われて床へと転がされてしまった。
 そこに「ハイ取った」という言葉と共に面を叩かれた。

 ぽかんと見上げれば、得意げな顔の狼がいて、剣道からみれば完全に反則だが、あまりにも当たり前過ぎて今回のルールに体術禁止と出すのを忘れていたことを征四郎は思い出した。
「あと1本だろ? さっさとやるぞ」
「あ、いえ、もう良いです」
 狼が怪訝そうな顔で征四郎を見る。征四郎はその銀色の瞳を見つめ返して微笑んだ。
「狼の勝ちです」



 お腹が空いたという狼のために、征四郎は自分用に買っておいたコンビニ弁当を差し出した。
「何コレ、すっげぇ美味い!」
 弁当容器に感動し、内容に感動し、味に感動している狼を見て、征四郎は小さく笑う。
 そして約束通り、この世界の話しを始めた。

 紫征四郎は非常に負けず嫌いである。そして今の試合も『剣道』に則った試合なら征四郎は負けなかった。その自信は揺るがない。
 だが、狼の戦い方は実戦の中で得た物で、型が無い。だから反則技と言われても「勝てば良い」が先に来るし、そういう者を無理矢理型にはめて試合をしたところで、型に囚われてその実力を見る事は出来なくなる。
 それは征四郎の望む所では無い。だから“勝ちを譲る”ことで狼と再戦を取り付けることにしたのだ。

 一方でそんな征四郎の思いを知らない狼は、初めて食べたDX牛カルビ弁当を頬張りながら征四郎の話を聞き、どうやらここがリアルブルーに似た違う世界だという検討を付けた。
「……しかし、だとすればどうやったら帰れるんだ……?」
「とりあえず、征四郎の家に来ますか? 1人英雄が増えたところで問題ないと思いますし」
 征四郎の勧めに、狼は「そうだな」と頷いた。
「飯と情報引き替えでいつでも稽古付けてやるぜ」
 試合中から口調が変わってしまった狼だが、そこをあえて問う事はせずに征四郎は「お願いします」と頭を下げた。

 そして、征四郎が顔を上げると――もう、狼の姿はそこになく、空になった弁当容器だけが残されていた。

「狼……? 狼!?」
 征四郎は狼の姿を探して小一時間ほど周囲を探したが、狼の姿どころか痕跡1つ見つけることが出来なかった。
 空になった弁当容器を手に取り柳眉を下げた征四郎は、高く青く晴れた空を見上げて小さく呟いた。
「……次、お逢いした時には再戦してくださいね?」
 そして次こそ絶対に勝つし、その時はまたDX牛カルビ弁当を奢ってあげようと心に誓った征四郎だった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4940/龍華 狼/男/外見年齢11歳/舞刀士/身長129cm】
【aa0076/紫 征四郎/女/外見年齢9歳/人間/身長135cm】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 大変お待たせしてしまって申し訳ありません。
 試合描写多めでというご注文でしたが……字数の壁に阻まれましてこのような形になりました。
 ……いかがだったでしょうか?
 狼君の転移前後とかも書いてみたんですけどね……当然全カットになりました……
 コンビニに連れて行ってあげたかったんですけどね……全カットに(以下略)

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またファナティックブラッドの世界で、もしくはOMCでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。
■イベントシチュエーションノベル■ -
葉槻 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2018年05月08日

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