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『探偵と犬と 』
海原・みなも1252

●避難場所
 声だけの存在は立ち去ったようだった。
(呪具は外れたのに! 元に戻れません)
 海原・みなもは焦った。呪いが抜けず、犬のままである。
(あたし自身は犬のままでも良いのです)
 いずれ元に戻るだろうからその点は焦っていない。現在街中にいて、保健所に連れていかれる可能性があるのだ。
 こういう時に頼りにできる人物を思い出す。
(鞄はありました! 電話番号は……メモ帳に)
 アナログの方は活躍する。ちょっと見づらいけれどもどうにかなった。
 人目が少ない公衆電話に駆け込み、受話器を外し、お金を入れる。
(チワワとかミニチュアダックスフンドだったら届きませんでした)
 ほっとして電話をする。
 数コール――。

 ――はい、草間興信所……

 けだるげな男の声がする。

「ワン!」
「あー? いたずらか」
 みなもは何とか人間の声を出さないとならないととっさに考える。水を操る能力から唾液を用いて音を作る仕掛けをとっさに考えた。

『草間さん、助けてください。場所は――』

 みなもが場所を告げた直後、お金が無くなり電話が切れた。

●鼻と紫煙
 みなもは隠れて待っていると、くたびれた雰囲気の青年がやってきた。
「おい、電話したの、いるんだろう」
「ワン!」
 みなもは鞄をくわえて飛び出す。
 鞄を置いた後、みなもは「あたしです!」と声を出した。
「……犬」
『海原・みなもです!』
「……」
 草間・武彦は頭を掻いた。ポケットから煙草を取り出すとくわえ、火をつけようとした。
『この格好になると、たばこのにおいがよくわかります』
「……ぐ」
 武彦はなんとなく煙草をしまった。
「で、なんで、そんな格好をしているのか? どう助けるのかという話だが……」
『かくまってください! このままでは、保健所に連れていかれてしまいます』
「ひとまず、それは問題ない。俺が『この犬、落ちていたんです』と言わない限りな」
『ひ、ひどい!』
 みなもは安堵しかかった直後、崖から突き落とされるようなことを言われる。
「手綱がいるな」
『手綱!?』
「違う、リードだ、リード。犬はそのままじゃ歩けない」
『……』
「そんな顔するな。そこに車があるから乗れ」
 武彦は指さした。そこには年季の入った乗用車が一台。
「行くぞ」
 みなもは仏頂面の自称ハードボイルド探偵が天の御使いの様に神々しく見えた。

●事情と現状
 草間興信所に入って一歩目、みなもの頭が紙の束に当たる。バサバサと床に散らばる紙をみなもは何とか戻そうとする。
「そのままでいいぞ」
『すみません』
 以前より片付いているほうだというが、劇的にすべてが変わるのはなかなか難しい。
「適当に座ってくれ」
『はい』
 足の踏み場がないという状況で腰を下ろせない。
 事務所の中には武彦とみなも以外いないようだ。
 壁に「怪奇ノ類 禁止!!」という張り紙があり、みなもの目は泳いだ。
(探偵は小説でも怪奇現象と切っては切れない仲の方もあるのです)
 みなもは内心でうなずく。
「腹減ってるのか?」
『特には……』
 グーとおなかが鳴る。学校帰りの時間ということもあり、おやつでも食べていない限り空腹はまぬかれない。
「ドックフードはねぇな」
『なっ!』
「人間が食べてもいいというが」
『ないです。お構いなく』
 みなもは慌てる。
 たしかにドックフードをはじめとしたペット用の食料は人間が食べても問題ないという。むしろ、人間が食べられる問題ないものを与えよという意識もあるのだ。
「コップで水を出すと、キツネとツルの話になっちまうな」
 武彦は苦笑しつつ、深めの皿に水を入れてみなもの前に置いた。
「飲めるのかわからんが」
『努力します』
 舌を使って飲めるはずであり、駄目なら駄目で口を付けてすすればいいと考える。むしろ、能力を使うというのも一つの手。
「パンでいいか」
 独り言とともに、皿に一袋十個入でいくらのパンの乗った皿がみなもの前に置かれた。
『ありがとうございます』
 みなもはパンは困らず食べられた。空腹が収まると息をほっと息をつく。
『えっと……』
「で、その格好。怪奇事件は嫌だと言っているだろうに」
 紫煙をくゆらせ武彦は言う。
『でも、頼れるのは草間さんしかいません』
「うっ」
 武彦は何も言えなくなった。
「で、その格好、なんで尾のない犬なんだ」
『はい……あたし、妖精と思われるものに呪具を刺されたようなのです……え? 尾のない?』
 みなもは自分の尻尾を見ようと体をくねらせる。一回転する。
 武彦はじっとみなもを見える範囲で確認する。
「ないぞ」
『そうですね、呪いの品が尻尾の形していたみたいなのです』
「外れたなら、治るだろう?」
 呪具は外れたのだから尾はなくなっているのだ。
『呪いの気配が体内に残っているみたいなのです』
「そういうことかぁ……時間経過で戻るってことか」
 みなもはうなずいた。
 武彦は名残惜しそうに灰皿にたばこの火を押し付けた。
「水で呪いは流れるか? 妖精見つけてぶちのめす?」
 もともと流れる水というのは、境界であり、神聖なもので悪も流す力があるとされる。
『攻撃する前に、草間さんも犬になります』
「見えないとあれか」
 怪奇現象はお断りと言いながらも勘は働く。
「首輪に名前を住所を書いてやればいいな」
 現状をどうするか考えてくれたが、犬の扱いだった。犬だけど。
『治るまでここにいさせてください』
「やっぱりそうなるか」
 武彦はため息の後、立ち上がる。
「確かこの辺に毛布あったな……で、寝床はそこでいいな?」
 みなもはうなずいた。
「で、朝食はドッグフードだな」
『ドッグ……』
「冗談だ。本当の犬なわけじゃないし、パンでいいだろう」
 パン一択。それでも十分嬉しい対応だ。
 武彦は毛布を広げ、適度にたたむ。寝床を作ってくれた。
『草間さん』
 人間ならばうるうるした目で見つめているだろう声音。
「ったく……あー、まずあれだ、流水で呪いが流れるか、試すべきだな」
 武彦は事務所の奥を指す。そこにあるのは流しなはずだ。
「入るだろう」
『え? えええ?』
 どう考えても流しは入れなくはないが、身を縮めて入ったとして、水を出した瞬間に周囲に飛び散るだろう。
 水道が流れる水という判断でいいのかも不明だが、みなもが持つ力も考えると無意味でもないかもしれない。
「さ、やろう」
『水浸しになります』
「拭けばいい」
 その通りある。
『でも、毛むくじゃらで、水飛ばしたら、乾している食器とかに影響が』
「放っておけば乾くし、死ぬもんじゃない。それに明日も学校もあるだろう」
 結構重要なことを言った。
 みなもは武彦の優しさ、おおざっぱさに乗っかることにした。流しに上がると水の下で栓全開の水を浴びる。流れる水を意識し、呪いを外に出すことを考える。
 水の冷たさもあり、頭から難しいこと、気にしていることなどがスーと抜けていくようだった。
 助けてくれる人がいるありがたさ、が残る。
「……あー」
 武彦が何とも言えない声を出した。
 みなもは驚いた拍子に蛇口で頭を打った。
 武彦は水を止め、みなもを指さす。
「……戻れました!」
 純粋に嬉しく、笑顔になるみなも。
「制服がずぶぬれだな」
「このくらいは可愛いことだと思いました」
 武彦は「違いない」とニッと笑った。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生もしくは犬
NPCA001/草間・武彦/男/30/草間興信所所長、探偵

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご指名いただきありがとうございます。
 草間さんとみなもさんが出会うまでの間はインターバルのように記載しました。発注文見つつ「むしろ、公衆電話で電話する犬の方が重要」と思ったりしました(ごめんなさい)。
 名前で記入する主義なのですが、音がいいから「草間」さんとしたかったです。とはいえ、統一しないのもとうんうんうなりました。
 さて、いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年05月01日

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