『恋衣 』

シセベル（aa0340hero002）

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『んんん〜』
　シセベル(aa0340hero002)は大きく伸びをして、両腕をゆっくり脇へと下ろした。あてがわれた自室にはたくさんのカボチャが積まれており、その内の一つ……ジャックオーランタンは優しいオレンジ色の光でシセベルの手元を照らしている。手元には裁縫道具。黒と白の布と綿。「もう一人の私」と「二位」が贈る謝罪と感謝の気持ちのおにぎりクッション。シセベルは現在そのミニサイズを試作中だ。
　実際のサイズはひと抱えを予定しているが、そこまで大きなものとなると色々調整が必要となる。縦横の長さはどうするか。厚みはどの程度にするか。縫い目はどのようにするか。入れる綿は。黒と白の割合は。おにぎりクッションを贈る理由は謝罪と感謝を伝えるため。ならば謝罪と感謝の割合は……謝罪の黒と感謝の白の割合は全く同じが望ましい。もっとも大事なのは込める思いの丈ではあるが、だからこそ気持ちを込めて細部まで丁寧に拘って。そんなあれこれを踏まえつつ黒と白に視線を落とす。
『せっかくいい布を準備してくれたんだしね』
　肌触りの良さを確かめるように二色の布を指で撫でる。これを準備した二位の、『妹』の、記憶をシセベルは有していない。だから名前で呼び掛けることはない。
　だが親愛の情はある。あの子らのお手伝いは勿論として、二位の仕事ぶりに応えるためにも、そして『姉』としてもここは一肌脱いでやらねば。
　とは言え、ずっと煮詰まり続けるのもよろしくはない。下手な考え休むに似たり。気分を切り替えたら別の視点が浮かぶこともあるだろう。というわけで一度おにぎりの件は脇に置き、「自分の新しい友」に贈る魔法書制作に取り掛かることにした。
　ベースには星の書を使う。縦２３ｃｍ、横１８ｃｍ、厚さ６ｃｍ程度、星に冠する数多の知識を記したこの魔法書を、シセベル手ずから魔改造してプレゼントする予定でいる。一つ一つの作業に《青》の想いを込めて丁寧にしっかりと。魔法書としての機能を損なわないようにはしつつ、だがしかしそれぞれただ一つの特別になるように。
『（多分ないとは思うけど、けれどもし万が一）』
　もし万が一君たちが「森」へ迷い込んだ時、「私」の「友」であることを証明するための魔法文様を中表紙の片面にみっちりと。もう片面には一人一人違う文様と言の葉を。
　他種の特位にこんな特別なモノを作った事が知られれば怒られてしまうだろうけど、まぁその時は甘んじて叱られよう。叱られて反省するかどうかは別として。
　くすり、と小さく笑みを零し、贈る一冊の片面に文様を描いていく。一つ書き終わった所でまた大きく伸びをして、おにぎりクッションの試作品を一個仕上げることにする。どうせ試作後に他二人の意見を取り入れ、本命サイズでもう一度試作する予定なのだ。後で何か思い付いたら改めて試作してもいいし、アイディア出しを二人に任せても別に問題はない。
　ちくちくと手際良く白の布を縫っていき、玉結びをしてハサミを取ろうとした……所で、ふと胸の間に下がるネクタイが目に入った。シセベルは表情を和らげて、ネクタイを指ですくい上げる。
　このネクタイは元々はシセベルのものではない。存在しない記憶も多いがネクタイについては断言出来る。贈った石はセレスタイト。そらを切り取ったかのような青い石。しかし、加熱するとそれは鮮やかな紅色に変わるから、自分はその石を《赤》として贈ったのだ。
　そして、その想いを受けてその人は私がねだったネクタイをくれた。
　これはおそらくその時のネクタイそのものではないのであろう。けれども、紛れもなく、私が「恋」した証である。だから私はこのネクタイを持ち続けるし、その人以外に《赤》は贈らない。そしてその人が呼んでくれた名前を別の誰かに呼ばせはしない。
　時が経っても世界を越えても忘れることのない想い。
　ネクタイに触れながら目を閉じてしばし想いにふけた後、シセベルはハサミを取って糸をショキリと切り落とした。そしてまた魔法書の方を中央に置き、友への想いを込めながら文様を描いていく。
　閉じたカーテンの向こうは色濃い闇に沈んでいる。手作りのジャックオーランタンは変わらぬ笑みを湛えたまま、変わらずシセベルの目と手元を照らしてくれる。とりあえずクッションの試作は完成させて、休むのはあの子らの審議中でもいいだろう。文様を描き終わったら再び針と糸を手に取る。キリのいい所まで縫ったら今度は魔法書を開く。

　魔女の夜はまだまだ長い。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【シセベル(aa0340hero002)／外見性別：女性／外見年齢：２０歳／カオティックブレイド】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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　こんにちは、雪虫です。
　ご注文頂きました通りアドリブ多めとさせて頂きましたが、イメージ・口調等齟齬がございましたら、お手数ですがリテイクお願い致します。
　この度はご指名下さり、誠にありがとうございました。

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雪虫

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2018年05月02日