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『『肩の傷』 』
アレスディア・ヴォルフリート8879

 仕事を終えて自室に戻り、入浴を済ませたアレスディア・ヴォルフリートは、髪を拭きながら鏡に映る自分の姿に。肩に、目を留めた。
 手の中にあり、傷と共に映る銀色の髪。
 肩にこの爆ぜた傷跡が無かった頃。この髪は銀ではなく、黒かった。
 ディラ・ビラジスの知りたいという思いに応え、アレスディアは彼に己の過去を語った。この傷のことまでは触れてはいないが。
 それでもアレスディアがあの時、心と体に深い傷を負ったことくらいは、解っているだろう。

 アレスディアは一人、鏡の前で過去を振り返る。
 故郷の、大切な仲間たち。
 その終焉。人々の想い。
 自分の想い。癒えない傷。受けた言葉――。

 アレスディアの父親は、故郷のまとめ役のような立場にあった。
 父が徴兵された際に、アレスディアは代わりとして故郷に残った。

 しばらくして戦場から1人、傷だらけの姿で故郷に戻った男性。
 その口から伝えられた真実。大切な人たちの最期。
 自分を抑えられず、アレスディアは政府の軍人に詰め寄った。
 刃を向けるも容易くいなされて、肩に軍人の掌が触れた瞬間。
 小さな爆発音と共に、世界が赤くなった。
 肉が爆ぜ、血が飛び散っていた。
 何が起こったのかわからないまま、理解できぬままアレスディアは崩れ落ちて、起き上がることもできない。
 痛みに襲われるより早く、理解したのは、死。自分は死ぬのだと。
 赤い世界に、自分を見下ろす兵士たちの姿があった。
 アレスディアが死を覚悟した、次の瞬間――。
 駆ける音、衝突音。声、沢山の、護るべき人々の声が響いていく。
 女性、子供、老人に至るまで、兵士たちの前に立ち塞がっていた。アレスディアを背に。
 だけれど彼女たちには、武器はおろか、身を護る防具の一つもない。
 長く使ってきた擦り切れた服。繕われた薄い服と靴。着の身着のまま、その細い身体は兵士たちに、いとも容易く斬り裂かれ、貫かれ、怒号と、悲鳴が響き渡る。
 アレスディアの脳裏に、その時の音が呼び起される。
 鏡に映る傷跡が、赤く染まっていく。記憶が現実のように、視界に見えていく。
 今見えるそれは幻。だがそれは、過去実際に起きた過去の映像。
 眉間に皺を寄せて首を振り、急ぎ服を着ると、アレスディアは鏡の前から去った。

 ベッドに腰かけて、長い銀色の髪を。濡れた冷たい髪を、タオルで拭き続ける。
 あの時。
 薄れゆく意識の中で、護るべき人々が、護りたかった人々が次々に、凶刃に倒れ伏す姿をはっきりと見た。今でも脳裏に残っている。
「あのとき、あの一撃で私が事切れていたら、誰も死なずに済んだのではないか……」
 それは、意識が戻ってから何度も、幾度となく、口にした言葉。巡っていた思い。
 生きていたから、人々はアレスディアを護ろうとした。
 護るために、立ち塞がり、命を落としていった。
 だから、死んでいれば。肩ではなく、心臓に受けていれば。
 自分の身に起きたことを理解することもなく、死を覚悟することもなく、アレスディアは逝っていただろう。
「私が、私だけが死ねば」
 そんなふうに、自分を責め続けるアレスディアを、
『……自分を責める日々を送らせたくて護ったわけではない』
 そう、叱責してきた人がいた。
『護りたい気持ちはお前だけのものか』
 とも。
 その者の姿と声が、鮮明に呼び起される。
「そうだ。私は、私を護ってくれた人々の想いに背を向けて生きてきた」
 髪を拭く手を止めて、アレスディアは肩に、傷跡の上に手を当てた。
「もう背を向けない。護られたこの命と、護ってくれたその想いと向き合って生きる」
 そう決めたのだ。
「……でも、私は私の過ちを忘れはしない」
 この傷跡は、命ある限り消えない。
 アレスディアの脳裏に刻まれた音も、護るべく人たちの最期の姿も。
 アレスディアと共に、ずっと在り続ける。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/外見年齢/職業】
【8879/アレスディア・ヴォルフリート/女/21/フリーランサー】

NPC
【5500/ディラ・ビラジス/男/21/剣士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ライターの川岸満里亜です。
肩の傷に関しましてのご依頼、ありがとうございました。
後半のアレスディアさんの決意の部分ですが、過去の決意を振り返る描写か、現在の決意として書くべきかで少々迷いましたため曖昧になっております。
矛盾点などありましたら、申し訳ございません!
東京怪談ノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年05月07日

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