▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『水妖封印−五行思想編 』
海原・みなも1252

「せっかくの"ひょうや"の羊羹だ、茶と一緒に楽しむとしようじゃないか」
 そう言って、碧摩・蓮はカウンターから腰を上げると海原・みなもに、もちろん付き合ってくれるんだろう? と、妖艶な視線を投げかける。
「待っている間が暇なら、店の品でも見ているといい。最近入れ替えたばかりでね、退屈はしないはずだ」
 ふふ、と小さく笑い、蓮は店の奥へと消えていった。

 みなもがアンティークショップ・レンを訪れたのはずいぶんと久しぶりのこと。
 店からして曰く付きのそこは、縁がなければたどり着けぬとまことしやかに囁かれる、都市伝説じみた場所。
 たまたま持ち合わせていた老舗"ひょうや"の羊羹を手に挨拶に入ったら、店主である蓮に茶飲み話に誘われたというわけである。
 湯を沸かして茶器を用意して、そう時間はかからないだろうが、みなもは少し間を持て余した。
「それでは、せっかくですし……」
 特に言葉を聞く相手も居なかったが、そう口にして店の中をゆるり回ることにした。
(それにしても、どれもお高そうなものばかりですよね……)
 そう広くもない店内だが、品は相当数が並んでおり、時間を潰すには事欠かないだろう。
 中に不思議な色合いを含んだ水晶玉。
 古めかしい、けれど丁寧に手入れのされた望遠鏡。
 綺麗に磨かれているのに、みなもが前に立っても彼女の姿を映さない鏡。
 どれも綺麗で不思議な物ばかりだ。
 そんな中、みなもは棚の端で埃を被っている布袋を見つけて、はてと首を傾げた。
(なんでこれだけ、埃を被っているんでしょう?)
 この曰く付きの店でそんなものを目にすれば、避けてもおかしくないというのに、みなもは誘われるように、あるいは何かが意識から抜け落ちたように、不用意にそれを手に取り袋の中身を取り出す。

 はたして――

 中から出てきたのは、手首に通せそうな大きさの草で編まれた輪であった。
 かさかさに乾いていて、少し力をいれて握ればそのまま砕けて残骸に成り果ててしまうような儚さを感じる。
(アンティーク……なのでしょうか?)
 棚に陳列されていたにしては状態がひどい気がする、そう思った矢先、腕を何かが這った感触があった。
 気づけば何かの蔓が手に絡まっている。
「えっ、なにこれっ?」
 とっさに空いた手でそれを取り除こうとすると、蔓は意思を持ったかのようにそちらへも絡み始め両手を拘束されてしまった。
 絡んだ手から徐々に力が抜けていくのを感じ、焦りばかりが強くなる。
 気づけばみなもの腕の先、蔦に絡まった部分から変質が始まっていた。
 みずみずしかった手は次第に乾きひび割れて小さく縮んでゆく。
「蓮さん! 蓮さああああん!」
 自分でどうすることもできないのでは助けを呼ぶしか無い、だがその間にも侵食は進み、腕が、首が、乾いてゆく。
 自分は一体どうなっているの、これは本当に危険はないの?
 不安と恐怖の中で混乱した思考は意味をなさない。
 感覚は曖昧になり、ころりと床の上に転がったことだけを理解した。


 少しして、意識が落ち着いてからみなもは、視界に映る乾いた木の棒のような腕が、自身のものなのだと知って愕然とした。
 自身の手で触ってみるも、触覚がない。
 自分の体が自分のものではないような不思議な感覚だった。
(一体、なにが起こったの……? あたし、どうなったの?)
 見上げれば店の店がビルのように高い、ということは自分が縮んでしまったのだろう。
 体を起こせるかと力を入れてみると、なんとか上体を起こすことはできた。
 窓に映る自分の姿に、どうやら自分が人形のようにされたのだと理解するまでに少々。
 やがて、みなもの声を聞きつけて戻ってきた蓮は、人形にされてしまったみなもを見て一言。
「……くずだね」
 と言い放った。
「ちょっ! ひどくないですか!?」
「ん? ……ああ、違う……そういう意味ではなくてね」
 ひょい、と人形となったみなもを拾い上げ、テーブルへと蓮はつれてゆく。
 みなもはといえば、普段と同じぐらいの視界の高さにもかかわらず、それがビルの高層階から眼下を望むような感じがして生きた心地がしなかった。
 どうやら自身の大きさが変わったことで体感も変わっているらしい。
 高価そうなソファにそっと置かれたものの、今の状況ではテーブルは高いしその先にあるだろうお茶にも手が届かない。かろうじて蓮さんの顔が見えるぐらいだ。
 そう言えば、匂いも感じないような気がする。
「とりあえず話ができるのは僥倖だ。葛湯とか、葛餅とか葛きり、今の子は食べるかい?」
「は? ええ、まぁ」
「その葛、植物だね。それを触媒とした封印具だろう」
 観察するように、細く鋭くなった蓮の瞳がみなもを射抜く。
 普段、そのように見られることなど無いのだが、いざ自分が見られる側になって、その瞳の美しさの中に底冷えするようなものを感じてとても居心地が悪い。
 自分が見定められる立場になると、この人の目はこんなにも怖くなるのか……。
「封印具としては大したものじゃないが、見事なものではある。触媒の関係かは知らないが、水妖ぐらいにしか効果はないだろう。けど、その目標にそれと認識させない呪いが施されてるようだね、私が仕舞い忘れたのも、あんたが不用心に触ってしまったのも、それが原因だろう」
「……戻れます、よね?」
 まさかずっとこのまま、なんてことにはならないだろうか。
 そんな不安から出た言葉を、蓮は小さく笑って否定する。
「封印具としては大したものじゃないと言っただろう? 当人が解除するには骨が折れるだろうが、外部からの干渉は容易だよ」
「じゃ、じゃあ早く解除してください!」
「いいのかい? 人形になるなんて不思議な体験、めったにできるものじゃないよ?」
「そんな事言われても、楽しめるものじゃないですよ……」
 小さな木彫り細工に鳴ったかのような自分の両手、足は人魚であるため上手く歩くこともできず、何よりほとんど力も入らない。
 第三者によって簡単に壊されてしまうのではないか、という想像が何処かにちらつき消えることがないというのは、凄まじい恐怖だった。
 もしも一人きりだったのなら心が折れてしまうかも知れないというほどに。
「まあ、それもそうか。客に何かあったとなっちゃ、店の沽券にもかかわるしね。どれ……今解除するからじっとしてな」
 すっと視界に近づくパイプの先、こつんとあたった音に意識がふっと飲み込まれたような気がした。


 はっ、と気がついたときにはいつもの視界、変わらぬ高さに蓮の顔があった。
 自身の両手はいつもどおり、そっと体を触ってみるけれども、先程までの硬い感触は何処にもない。
 眼の前には、散ってしまったとおもわれる封印具のかけらが遺されていた。
 蓮はそれを手で片してゴミ箱へと捨ててしまう。
「……よかったんですか?」
 店の品だったはずのその残骸を躊躇なく捨ててしまう蓮に、みなもはなんとなくそんなことを聞く。
「認識のできないアンティークなんて、価値はないさ。さて、少し冷めてしまったけどもお茶にしようじゃないか」
 言われて、お茶の香りが鼻腔をくすぐった事に気づく。
 利かなくなっていた嗅覚が戻っているようだ。
 そっとティーカップを手に取り、一口含む。
 豊かな香りと、少しほろ苦いお茶の味、カップ越しに伝わる温度。
 戻った五感を一つずつ確認し、みなもはようやく人心地つくのだった。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【1252/海原・みなも/女性/13/女学生】
【NPCA009/碧摩・蓮/女性/26/アンティークショップ・レンの店主】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
この度はご指名いただきありがとうございます。
どんなもので封印しようかと考えた結果、こうした形になりました。
発想はほんのり五行思想がはいっていますが、詳細を語ると長くなるのと少し五行とはズレているので、そこは封印具を作った術者の個性ということでお願いします。

リテイクなどありましたらお気軽にお申し付けください。
この度はご依頼ありがとうございました。
――紫月紫織
東京怪談ノベル(シングル) -
紫月紫織 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年05月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.