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『帰るに当たり余計な手間を食わされた後の話。 』
黒・冥月2778

 帰り着いた時には、もう日付が切り替わっていた。
 …つまり、それくらい予想外に時間が経っていた訳である。まぁ、『本題』であるノインと話す為の儀式――に当たっての最低限の準備自体は疾うに終わってはいるのだが、後の事を考えるとさすがに少々慌ただしい。
 件の『博士』――と言うか『蝙蝠の親子』に当たってみた結果、嫌がらせ染みた余計な手間を食わされて、こうである。…事前に決行の日を日曜に遅らせておいて正解だった。

 同行していた暁闇のバーテンダーと別れ一人になって後、黒冥月は深々と嘆息する。…それはまぁ、『蝙蝠の親子』に当たってみる事自体が元々駄目元の話。つまり無駄足の覚悟はしていた訳で、いつまでも恨み言を抱えていても詮無い事ではある。
 頭を切り替えて『本題』に戻る事にした。…むしろその方が気分転換になる。



 …そして『本題』に関わる関係者間の最終調整や確認、(思い付き含めた)諸々の雑事も完璧に済ませ、日曜当日。
 約束の時間。

 必要な関係者全員を、決行場所である件の公園に呼ぶ。…と言っても普通に集合場所を決めて普通に集まってしまうとその時点で外部にそれなりの情報が行ってしまう懸念がどうしてもある為、当の場所を一応伝えそのつもりで居て貰った上で、それぞれを冥月の方で見付けて拾う事にした。
 即ち、影でそれなりの広さを備えた儀式用の亜空間を予め作っておき、そこに関係者を個別に招く形にした訳だ。草間零周辺は義兄共々事前に準備した荷物(主にいつぞや買い捲った本とか)も多くなる為、草間興信所から直接拾う。儀式の執行を頼む湖藍灰とその弟子…の面倒な親子については、草間興信所の近所でもある弟子の方の自宅マンションで拾った。エヴァ・ペルマネントだけは立場上「自然な接触」と考えれば考える程面倒臭くなる為、公園に向かう途中の身柄を適当に攫う形にする――その際に本人から色々と抗議をされたが、こうした方が「何かの加減で影内で私と戦り合う事になった」等、「らしい」言い訳も付け易かろう、と押し切った。

 そんなこんなで影内に全員を集め、儀式の準備を整える。
 と言っても、湖藍灰らを見る限り、所謂オカルトな降霊術らしい手順を取ろうとする様子はどうも無い。弟子と二人で何やら事務的に話し込んでいる事が殆どで、「らしい」事と言えば道教形式の符――霊鬼兵だったノインの素体、の血縁者から入手した毛髪を焼き、その灰を混ぜた墨で書き精製したと言う例のあれだ――が用意されている事くらいが精々になる。
 ノインに縁あるものとして思い付く限り用意した様々の物品も、捧げる祭壇等が用意されている訳でも無く、ただ手に取り見易いように広げられているだけである。…何と言うか、見た感じとしては引っ越しの準備中――それも脱線気味、の半分散らかっている感じに近い。
 こんなので本当に大丈夫なのかとも思ったが、まぁ、その筋の専門家がやる事である。ここまで手数を掛けて御膳立てをした以上、信じる以外の選択肢は無い。
 と、思っていたら――不意に異音がした。人が倒れるような――見れば、湖藍灰の腕の中に先程まで話し込んでいた弟子が倒れ込んでいる。恐らく、意識が無い。何か不測の事態が起きたのかと思えば――やっと観念してくれたよーとか何とかあっけらかんと湖藍灰。
 曰く、何をしたのかは知らないが――これで憑坐の準備は整った、と言う事らしい。…そういえばこの弟子、自分は憑坐向きじゃないと信じ込んでいると言う話だったか。先程から話し込んでいたのはその辺についての説得か何かだったのかもしれない。

 まぁ、準備は整ったとの事なので、取り敢えず今居るこの影空間から件の公園に通じる隙間を作る。…後は、ノインが気付いて影内に入って来るかどうか。
 この試みが成功になるか失敗になるか、そこが一番の問題になるらしい。



 待つ、と言うのは長く感じるものである。
 ついでに言えば今こそ「ノインを喚んでいる」と言う意思表示をするべき時でもある訳で――取り敢えず。

 ちょっとした弄りがてら、零とエヴァに振ってみた。

「愛妻弁当は美味く出来たか」
「…。…って、はぁっ!? 〜〜〜っ、あああ、あいさ、い、って何言ってっ」
「え、えっと…美味しく出来た…とは思うんですけど…」
 愛妻弁当じゃないです。
「…おい冥月」
「うるさい草間。話の腰を折るな」
「お前こそ何を言わせてるんだ。誰が愛妻弁当だ、まだ早いだろうがっ」
「ああ、早いと言う事は時間を掛ければいいと言う事だな。成長したな花嫁の父」
「〜〜〜っ、だから誰が花嫁の父だ!」
「そ、そっちで勝手に盛り上がってるんじゃないわよっ」
「そ、そうです。エヴァにもノインさんにも悪いです…!」
「ふむ。では零自身は満更でも無いと言う事だな?」
「っ…えと、あの…そんな事は…!」
「ラブレターの方はどうだ?」
 ちゃんと書けたか。
「ってら、らぶれたーってそんなはっきり…!」
「そっ、そそうよ! ユーはホントにデリカシーの欠片も無いんだからっ」
「読み上げた方が彼を喚び易いぞ?」
 にやり。
「!」
「っ…てっ、適当言ってんじゃないわよっ! っ…そこ! バカ正直に手紙開こうとしないっ!」
「で、でも、読み上げた方が…ちゃんと語り掛けた方がって…それもそうかなって…」
「…っ、ユーがしたってわたしは絶対しないわよっ!」
「ああ、それで零を止めた訳か」

 軽く腑に落ちて、エヴァの持つ手紙――封筒内を影で走査する。…少々ルール違反だろうが、まぁ、御愛嬌と思ってくれ。今のやり取りからして却って気になってしまった。
 読み取れた内容は――強さに拘るエヴァらしく何だかラブレターと言うより果たし状な気はしたが、エヴァにしてみれば「そのつもり」で書いたものなのだろう。もう少し何とかならないか、と嘆息しつつ肩を叩いてみるが、肝心のエヴァの方は、何よ、とばかりに睨み付けてくるだけでこちらの意図は通じない。
 と言っても、恐らくはノインの方ではそんなエヴァを承知だろうとも思う。なら、横から矯正する事も無いか――とも思う。彼らの間では、充分に通じるのだろう。

 どちらにしても、なかなか楽しい。
 さて、今のノインは――この状況に気付いてくれるか、どうか。



 来たよ、と声がする。

 …影内に響いたその一言で、皆は一気に静まり返る。代わりのように期待と不安が入り混じった気配が場に膨れ上がった。…響いたのは湖藍灰の声。「何となく」程度らしいが、この場で唯一ノインの魂――存在を素で感知出来るらしい、のが彼になる。
 その彼の声を聞いたところで、私は影の隙間を閉じた。今居るこの亜空間を、外界と完全に遮断する。

 ノインが本当に来たのであるならば、後はコンタクトを取る手段の方。
 湖藍灰とその弟子の方を、固唾を飲んで見守る事になる――いや。
 長々と見守るまでもなく、意識が無かった弟子の方が、億劫そうに自ら身体を起こしていた。頭が重いのか額を押さえて、何やら難しそうな貌をしている――己の中で思案を重ねているらしい様子のその貌。その様はどうも、意識を失う前の元々の彼とは違って見えた。
 やがて、次第に難しそうな表情の強張りも解け始め、茫洋としていた視線の焦点が定まる。
 今度こそ、その姿に重なって視えたのは――場に居る皆それぞれ、覚えのある気配。

 ノイン。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【2778/黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)/女/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】

■NPC
【NPC5488(旧登録NPC)/ノイン/男/?/虚無の境界構成員(元)】

【NPCA016/草間・零/女/-歳/草間興信所の探偵見習い】
【NPCA017/エヴァ・ペルマネント/女/不明/虚無の境界製・最新型霊鬼兵】

【NPCA001/草間・武彦/男/30歳/草間興信所所長、探偵】
【NPC0479、480(旧登録NPC)/鬼・湖藍灰/男/576歳/仙人、虚無の境界構成員】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 いつもお世話になっております。
 今回も発注有難う御座いました。お手紙でのお気遣いも有難う御座います。
 そして今回もまた結局期間いっぱいまで使ってしまってお待たせしております。

 内容ですが、御言葉に甘えて以前に近い形になるよう、のびのびやらせて頂く事に致しました。
 結果として今回は、ノインとコンタクトが取れそうな状態になって早々、続く、となってしまっています。残りのプレイング部分は、出来ましたら次回以降に反映させて頂きたいと思います。
 また、公園集合の絡みを少し弄らせて頂きました。…当の儀式自体の情報は漏れなくとも、そこに至るまでの人の動きでまた情報漏れかねないかもとふと思いまして。
 零とエヴァをはじめその筋だと目立つ人ばかりが関係者ですから、注意してし過ぎと言う事も無いかも、と。

 前回お伺いした選択肢についても承りました。…そうだCも有り得ますねと思いつつ(提示時にこちらの頭があまり回っていなかったようです。強いて言うならそのC、大枠としてBに含めていい気もしますが)

 と、今回はこんなところになりますが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルで。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年05月11日

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