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『【任説】アルゴスの場合 』
アルゴスaa1741hero001

 アルゴスは虫である。

 語弊があった。アルゴスの見た目は虫のようである。
 特殊メイクなのか手の込んだコスプレなのか鎧なのかかぶり物なのか本物なのかはわからないが、とにかくアルゴスは二足歩行で歩く巨大な人型の虫に見える。

 なのでよく変な人に絡まれる。

「出たな怪人め! 毎度毎度懲りずに出現しやがって!! オレの休日返せ!! ここしばらく代休すらとれてねぇんだぞ!!」
「…………」

 ギチギチ。
 日曜日の朝あたりによく見かけるようなコスチュームの青年が自分に向かってわめき立てるのを、アルゴスは傍目には動揺の欠片もないような出で立ちで見つめていた。
 ギチギチ。
 間接のこすれる音なのか口っぽい部分がこすれる音なのかなんなのかよくわからないが、微妙に弾力のある固い樹脂をこすり合わせたような音を立ててただ見つめていた。
 ギチギチギチ。

「うん? どうした? なぜなにも言わない? オレのブラック連勤ぶりに恐れをなしたか??」
「ギ」

 わめくだけわめいて首をかしげる赤いコスチュームの青年。
 つられたように首をかしげるアルゴス。
 そして見つめ合うこと数秒。

「よく見たらなんかいつもの怪人と違う気がする」

 アルゴスの顔を見つめていた青年がぽつりと呟いた。気がするも何も完全に青年の勘違いである。アルゴスはただ無言で頷いた。もしかしたらこの赤いコスチュームの人は連勤が過ぎて正常な判断ができなくなっているのかも知れない。青年に幸あれ。

「まぁいい!! つまり君は悪さをしないタイプの怪人なのだな!! 失礼した!! オレは休日に戻る!! ではな!!」

 ひとりでわめいてひとりで納得した青年はひとりで走り去っていった。嵐のようだった。

 なお一連のやりとりは真っ昼間の住宅街で行われている。
 つまり人目がそれなりにある。
 残されたアルゴスは一人歩道に佇んでいる。周囲の人々は露骨にアルゴスを避けて道を行く。
 赤い自転車がチリリンとベルを鳴らしながらアルゴスの隣を通り過ぎていった。

「……ギギ」

 青年が去り、障害がなくなったのでアルゴスは歩みを再開した。
 本日のアルゴスは軽装である。見た目は鎧みたいだがこれでも軽装なのである。軽装の上に携帯端末(電子決済機能付き)だけ所持したほぼ手ぶら状態で、アルゴスはお散歩の真っ最中なのである。
 お天気はぽかぽか陽気、風も適度に吹いて気温は快適。この上ないお散歩日和でアルゴスの足取りも軽い。気がする。

「見つけたわよアクーン!! 悪い子はあたしたちがゆるさないんだから!」
「わ、わるいことしちゃ、めっ! だよ」
「……」

 ただ、お散歩をしていると高確率でよくわからない人に絡まれるのだ。

 赤いコスチュームの青年が去って幾ばくもしない間に、やたらきらきらしくフリフリしている服を着たティーンエイジャーに絡まれるアルゴス。
 きらきらしい少女たちは、きらきらしいステッキを手に、きらきらしい正義感で以てアルゴスに対峙する。

 とんだ濡れ衣である。

「やっとみつけたヨイ!!」

 そんなこんなでアルゴスと少女たちが(一方的な)押し問答を繰り広げていると。
 マスコットキャラクター的な何かがファンタジーな力学で飛んできた。小動物的な何かを模したそれは、何らかの方法で中空に浮かんだまま少女たちと相対する。
 なお当たり前のようにアルゴスの存在は無視された。

「こんなところで油売って、なにやってるんだヨイ! 敵は待っちゃくれないんだヨイ!!」
「えっ、でもアクーンはそこに」
「その人は無関係の一般市民だヨイ!!」
「えっ」

 少女の片割れが「このナリで一般市民……?」とでも言いたげな顔でアルゴスを見ている。
 どうも、妙な輩によく絡まれる一般市民です。とでも思っていそうなほど平常に佇むアルゴス。実際は何も考えていないのかも知れない。

「えっ、あっ、その……! ご、ごめんなさい!!」
「あっ、ごめんなさい……!!」

 マスコット的な何かにぷんすこされて、自分の非を認めた元気っ娘があわあわとしながらアルゴスに頭を下げる。元気っ娘に続く形でぺこっと頭を下げる気弱っ娘。ごめんなさいをちゃんと言えるいい子たちである。願わくはもう少し落ち着きを持って行動してほしい。

「いいから早く行くんだヨイ!」
「う、うん!」
「わかった!」

 ぷりぷり怒るマスコットに急かされて、少女たちが走り去る。走り去るというか、屋根伝いに駈けていった。とんでもない身体能力である。
 アルゴスのことは当然のように放置。いっそすがすがしいほどに放置だった。

「まったく……」

 残ったマスコット的な何かは渋面でため息をついている。ファンシーな見目からはかけ離れた所帯じみた仕草である。
 そうして放置されたままぼーっとしているアルゴスに向かい合い――わかりやすく宙返りしてその外見を異世界情緒溢れる二十歳そこそこの青年のものへと変えた。
 いろいろと突っ込みが追いつかない。

「すまない、君には迷惑をかけた」

 そしてマスコット形態ガン無視の口調で話しかけてくる。突っ込みが追いつかない。

「……お詫びと言っては何だが、これを貰ってくれないか」
「?」

 無言で首を横に振ったアルゴスに、青年が差し出したのは二枚のチケットらしきもの。

「では、私は先を急ぐ。縁があればまた会おう!」

 そう言って、青年は颯爽と走り去っていった。
 またまた取り残されたアルゴスは、手元に残されたチケットを見て。

「……――ありがとうございました〜!」

 チケットは有名アイス店の割引券だった。
 とりあえず買った。

 そんなことをしていれば、いつの間にか散歩に出てからかなりの時間が過ぎていて。
 保冷剤を入れて貰ったとはいえアイスは溶けやすい。時間も時間であるし、アルゴスは帰路につく。

「あ、総帥! おかえりなさいませ!!」

 そして帰宅すれば出迎えてくれる美少女。家事でもしていたのかエプロン姿で輝かんばかりの笑顔である。
 ちなみに、アルゴスはこの子に「総帥」などと呼ばれている。アルゴスの本意では無いことは今までの状況からして確定的に明らか。

「そーすい! 今日はどんな世界征服に向けた活動をなされていたのですか?」
「ギチ……」

 キラキラした表情でえげつないことを訊いてくる少女。少女の様子からしてこれが日常であることが伝わってきて尚のことつらい。
 戦闘部隊の壊滅ですか? 魔法戦力の排斥ですか? 等と微妙に今日の出来事と合致する不穏なことを言っている少女に、アルゴスは無言で手に持っていた手提げの袋を渡した。

「あっ! アイス!!」

 これで気を逸らせたのだから、今日の出来事もあながち悪いものではなかったのかも知れない。
 アルゴスがそう思ったのかどうかは不明だが、ルンルンとスキップしながら食卓へと向かう少女の背を追う。

「そうだ。総帥、お帰りになったのなら戦闘服をお脱ぎになってはいかがですか?」

 アルゴスの前にアイスとスプーンを置いて、少女はこてりと首をかしげる。
 その言葉に、アルゴスはちょっと小首をかしげて見せ、そうして己の頭に手を――…………。



 そこで目が覚めた。
 まだ太陽も顔を出していない薄暗い早朝。遠くにバイクの走る音が聞こえる中、アルゴスはおもむろにベッドの上に起き上がって。

「……ギギギ」

 小さくそう呟いて、食べ損ねたアイスを買いに行くために財布を探すのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa1741hero001/アルゴス/性別不詳/30歳/英雄/ジャックポット】
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2018年05月16日

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