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『流氷ならぬ竜氷のお話 』
ファルス・ティレイラ3733


「お願いです、助けて下さい!」
 その日、私、ファルス・ティレイラ(3733)を呼んだのは、いかにも気の弱そうな白い肌のお姉さんだった。なんでも雪山の管理人さんで、それはもうとっても綺麗な樹氷が立ち並ぶ観光名所らしいんだけど。
「いつも観光客で賑わう頃合なのに、何処から来たのか氷の精霊や妖精達が沢山暴れ回ってるの。そのおかげで天気は大荒れ、入るのも危険な状態で……だからね、あなたの力で追い払って欲しいんだけど……」
 そう言ってちらちらと私を伺う管理人さん。さっき会ったばかりだけど、本当に困ってる! ってのは向かい合ってるだけでよくわかった。もし私が管理人でも同じ顔したと思うもの。だってお客さんが誰も来ない。自分ではどうしようもない。氷の精霊や妖精達が好き勝手に大暴れ。もし私のなんでも屋さんもお客さんが来なくなったら……!
「わかりましたおまかせ下さい! なんでも屋ファルス・ティレイラ、お客様のご要望には全力でお応えします!」
 とは言っても、私に出来る事なんて基本的に出来る範囲だし、メインは小物類の配達屋さんなんだけど、私を頼ってくれたお客様を見捨てるわけにはいかないわ! それにこんな困った顔のお姉さんをほっとくなんて出来ないわ!


「なんて言ってはみたけれど〜!!!」
 数分後、私の心は溶けかけたツララのように簡単に折れそうになっていた。だって! すごく!! 寒い!!! 雪山なんだから寒いのは当たり前、なんていう次元じゃなかった。骨身に染みるというか、鼻水まで凍りそうっていうか、本当にもうそんな感じ! 寒すぎて涙が出そうだけど、ここで涙なんて流したら顔全体が凍っちゃう!
「いや、このままここに立ってるだけで凍っちゃう……」
 魔力を張り巡らせてみると、どうやら氷の魔力が渦を巻いているみたい。多分実際に台風みたいに渦を巻いてると思うんだけど、全体的に猛吹雪みたいで目を開けるのもままならない。とにかくこのままじゃ長く持たないのは火を見るより明らかだから(この場合氷を見るより明らかかしら……?)私は竜の姿になった。普段は目立たないようキュートな女の子の姿だけど、その正体は紫色の翼を持った竜なのです!
「でも、竜の姿になってもさむい〜!」
 こうなったら! と私は勢いよく辺りに炎を撒き散らした。他の系統は絶賛修行中の身だけれど、火の系統の魔法は得意。このまま炎の魔力全開で雪山をアツアツにして、精霊も妖精も追い払ってやるんだから!
『わ、竜なんて珍しい』
『僕達と遊ぼうって言うの? いいよ、いっぱい遊ぼうよ!』
 と、周りから子供のような声が聞こえてきた。くすくす、うふふと声はどんどん増えていって、冷気が興味という名の意志を持って私一人に襲い掛かる!
「わ! さ、寒い……でも、負けられないんだから!」
 私は翼をばさりと広げ、吹雪の中に舞い上がった。精霊や妖精が何処にどれぐらいいるのかはわからない。でも氷を司る精霊や妖精は炎や熱に弱い。これは常識。だったら音を上げるまで、ひたすら炎で攻めるのみ!
 冷気の風が押し流し、氷のつぶてが砲弾のように襲い掛かってきたけれど、私はそれらをひらりと躱して次々炎をお見舞いする。
『なかなかやるね』
『でも、これならどうかな』
 そんな声が聞こえてきた、その時、一際大きな風が全身に叩きつけられた。叩きつけられたと言っても吹き飛ばされる程ではなく、今までと違って寒さもそれ程ではなかったけれど……。
「……え? な、なに、何これ!」
 パキパキ、と音を立てて、脚の先から、尻尾の先から、薄い氷が上ってくる。動かせばすぐに割れるけど、残った所からすぐにまた新しく氷が復活して……。
『さあさあ、どうにかしないと』
『あっというまに凍っちゃうよ?』
 精霊や妖精達の声にさあっと血の気が引く音がした。慌てて身体を動かして氷が薄いうちに割っていくけど、多分翼の動きがおろそかになっていたんだと思う。気が付くと翼が動かなくなって私は雪の上に落ち、身体を起こした時には尻尾も凍り付いていた。
「や、やだやだ、凍っちゃうなんて絶対いや!」
 人間の姿に戻る事も考えたけど、人間の姿じゃ耐えられないから竜の姿になったんだもん。戻ったらあっという間に凍っちゃう! とか考えてる内に前脚が凍ってきたから慌ててぶんぶん振り払ったら、その間に後脚が氷で覆い尽くされていた。そして顔にも氷が上ってくる感覚が……!
「や、やだやだ、早くどうにかしないと!」
 顔の氷を取り払おうと前脚を上げると、爪先にもあっという間に氷が這い上ってくる。すっかり固まった全身の感触に思わずうあぁ、と声を上げると、開いた口の中にまで氷が入ってきて……。
『僕達の勝ちだね』
『私達の勝ちだね』
 中まで氷で覆われていく感覚をゆるゆると味わいながら、私の意識はまるで冬眠するように閉ざされていった。


「おお、これは見事ですな」
 おじさんの声に目を開けると、そこにはたくさんの人達がいた。帽子を被ったおじさんもいるし、家族と一緒に来たらしい子供達の姿なんかも……。
(あ、お客さんだ。ということは精霊や妖精達の悪戯は終わったんだ……よかったー)
 ほっと息をついたのも束の間、なんで私はここにいるの? という疑問が頭を過ぎった。っていうか私どうしたんだっけ? 確かあんまり寒くて竜になって、そしたら精霊や妖精達が氷の魔力をぶつけてきて……。
「特にこの氷が素晴らしい」
「流氷ならぬ竜氷という所ですな」
「竜の氷なんてすごいねお父さん!」
 竜の氷? と視線を動かした所で、私は私の置かれている状況に気が付いた。
 竜のまま氷漬けになっている。
 そのまま樹氷に紛れている。
 そして私が生きた竜であることに誰も気付いていない。
 呆然とする私の傍でクスクス、うふふと声がした。どうやら精霊や妖精達は悪戯を止めたわけでも立ち去ったわけでもなく、新しい悪戯を思い付いただけみたい。
『面白いね、うふふふ』
『一体どれぐらいで気付いてもらえるか賭けようよ』
 精霊や妖精達の無邪気かつ残酷な声に涙が出そうになったけど、当然涙なんて出てきてくれるわけもない。
(ち、ちがうちがう、私氷なんかじゃない! だ、誰かたすけてぇ〜!!!)

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3733/ファルス・ティレイラ/女性/15歳/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。お久しぶりのご指名誠にありがとうございました。
 ティレイラさん視点の一人称ということで、氷に奮闘する様子を描きつつティレイラさんの可愛らしさを表現出来るよう頑張らせて頂きました。
 口調や雰囲気などイメージと齟齬があった場合は、お手数ですがリテイクお願い致します。またの機会がありましたらどうぞよろしくお願いします。
東京怪談ノベル(シングル) -
雪虫 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年05月17日

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