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『白兎の独白 』
ファリンaa3137)&ヤン・シーズィaa3137hero001)&ダイ・ゾンaa3137hero002
1.ファリン
 わたくしは考えていた。
 世界を救う唯一論は「最大多数の最大幸福」であると。
 人命はすべからく等しいものであり、価値を計るに善悪、貧富、貴賎、性別、年齢等、あらゆる条件が加味されることはない。それを前提とするがゆえ、最大多数を不幸とする少数を殺することで世界の幸福は保たれる――
 そしてこの世界において、少数とは愚神であり、ヴィランである。
 疑問はなかった。世界を幸いで満たすがために犠牲が必要なのだとしても、不幸を振りまくものを贄と捧げてしまえば問題すら起こりえないのだから。
 しかし。
 人の天敵たる愚神に、人でありながら人道を外れたヴィランに、好意や同情を寄せるエージェントがいる。そしてここに来て、善性愚神の登場だ。
 激震はしるH.O.P.E.のただ中、わたくしは突きつけられた。
 わたくしたちが定めたはずの“悪”は、ほんのわずかな“疑問”で容易く揺らぐのだと。
 わたくしが定めたはずの“悪”は、ほんの少し立ち位置を変えるだけで容易く純度を減じるのだと。
 いや、言葉を飾ることはやめよう。わたくしは思い知ってしまったのだ。あなたがたが共に生きようと笑みかける人外、その足元に積まれた骸の数を知りながらなお手を拡げて歩み寄ろうというのですか!? どれほど言を尽くしても、どれほど声を張り上げても、わたくしの正義は情なる盾を割り砕くことかなわず、盾持つ人々の心を揺らすこともまたかなわないのだと。
 正義こそがわたくしの芯だった。
 正義であることこそがわたくしの真だった。
「そのはずなのに」
 わたくしは迷ってしまった。他者が掲げる、わたくしの芯であり真であった正義とはけして相容れぬ正義に。
 わたくしは知ってしまった。わたくしの正義は、けして他者にとっての正義ではありえないのだという当然を。
 悪は絶対ならず、ゆえにこそわたくしという正もまた絶対ならぬなにかと成り果て――この手に握り込んでいたはずの義は、砂のごとくに流れ落ちていった。
 わたくしを見失ったわたくしはすべてを捨てた。大事にしていたはずの家具を。思い出が詰まっていたはずのアクセサリを。わたくしを体現していたはずの衣服を。全部。全部全部全部。
 自らが壊れぬがため、新たな誓約を掲げて駆けてきたはずなのに、一歩ごとにわたくしは欠けてこぼれて……空になった。
 心とそろいの空虚と化した自室に閉じこもり、わたくしは窓を透かして外をながめやる。わたくしの定義が、意義が、正義が届かない鮮やかな世界を独り、ガラス玉さながらの瞳で。
「……わたくしが見ているこの世界はいったい、誰の世界なのでしょうか?」

2.ヤン・シーズィ
 宇宙というものはどうやら、俺の知る“道(タオ)”の二元に連なるものでもなければ、仏道に語られる三千世界ともちがうらしい。
 ただただ広大な空間、それこそが宇宙であり、その内に在るはずの小千世界は、この俺の目をもってすら観測することかなわぬ那由多の彼方に散っているということだ。
 この世界で大学という学び舎へ身を寄せた俺にとっては、すべての学びが刮目に足るものではあったが……物質の有り様については一種の諦念を覚えずにいられなかった。
 人が死すれば魂は天へ飛び、魄は地へ帰する。在るべき場所へ還ることを拒むのならば、尸解をもって何処かの世界で蘇ればいい。
 悠久に座し、万物万象を見据えてきた仙者たる俺はそう考えていたし、契約主たるファリンへも語ったものだ。
『死ねば尸解仙、晴れて我々の仲間だ。なんの問題もない』
 問題がない? これほどに広く、散りばめられた小世界に焦点を合わせるこそすらままならぬ宇宙の内で、果たして死したファリンは蘇るべき場へ迷うことなくたどりつけるのか?
 いや、それを気にしたところでどうにもなるまい。
 俺は広げていた書を畳み、図書館の内に視線を巡らせた。
 大学という場にはさまざまな者がいる。陽の気を振りまく者、陰の気に沈む者、どちらともつかず、陰陽の間を行き来する者。様はどうあれ、歳若き彼らは死した後の行き先など考えもしないのだろう。その無邪気が、障る。
 俺にとって他者とはすべからく事物の現象であり、観るばかりのものだった。それはファリンとて例外ならず、ゆえにあいつがどれほどの危機に陥ろうともその内で演じる生き様をながめやり、死するとも「問題ない」と言い切れた。
 そのはずだった。
 ――自らの正義を砕かれたファリンが掲げた新たな誓約「殺仏殺祖」。自縄自縛をもたらす虚像を滅して解脱することを指す禅語だが、あいつは自ら信じた最善を為すためにこの言葉を選んだらしい。もっとも俺は一方的に押しつけられただけなので、「らしい」と言うよりないのだが。
 ともあれファリンは盲いた目で闇雲に駆けずり回り、自らの言葉に足をすくわれ、打ち据えられ、追い撃たれている。
 このまま肉に、魂魄に傷を負い続ければ、遠からずファリンは死ぬだろう。
 そのときまでを見届けるが使命と心得ていながら、俺の心はどうやら泡立っている。おかしな話だ。観察対象でしかないはずの他者の行方が俺を揺らがせるとは。
 いや、それほど美しい話でもないな。
 なにせ死したファリンがこの宇宙のどこに流れゆくか知れないのだ。それを追うのは、まさに刻苦というものだろうから。
 俺は思わず苦笑する。
 今考えてみたことすらも言い訳なのだと、誰よりも知っていたがゆえに。

3.ダイ・ゾン
「またまためんどくせえことになってんな」
 思わず漏れ出しちまった言葉をわざとらしく引っ込めて、俺は新聞を折りたたんでテーブルに放る。問題はないぜ? 見たい記事はちゃんと表に持ってきてあるんでな。
「悪いね。お礼におじさん一杯奢っちゃうよ? ここの店のは飲み飽きてるだろうし、店変えてさ」
 コーヒーを持ってきてくれたカフェのお姉ちゃんにかるくかましておいて――ウインクできねえのはご愛敬だがな――ここからが本題。
 三ページめの社会面に載せられた善性愚神の記事だ。
 事のでかさからして一面に持ってくるべきもんのはずが、紙二枚分隠された。ようするに世界だか世間ってのは真実を剥き出しにはしたくないわけだ。
「なかったことにできねえあたり、どっち側にも覚悟足りてねえんじゃねえのか?」
 善性愚神が安全安心な代物だろうとそうでなかろうと、そいつを決めるのは世界やら世間をコントロールしたい極少数じゃあない。内側に詰まってる大多数だ。それがわかってるからこそごまかしたいんだろうが、脅威がゼロじゃない限り、どっちつかずは最終的に悪手だぜ?
 ま、その大多数にしても、信じたいものしか取り合ってくれないし、極少数も自分たちが信じたいものこそ真実だと叫んでなけりゃ、不安で押し潰されちまうわけだがな。逆の立場から考えりゃ、だからこその煽動工作だったりするんだが。
 それにしてもだ……“信じる”ってのは“信じたい”とは比べものにならんほど難しい。
 ついでに言や、“信じる”ってのは“信じたい”とは比べものにならんほど厄介だ。
 うちのお嬢ちゃんもな、見た目はアレだが中身は歳相応……いや、多分、齢よりずいぶん若いってことなんだろう。あれで歳のほうが四十五十なら「いやいやお若いですねえ」で済むんだが、十八だからなあ。
 っと、たまにはマジメに考察しとこうか。
 ファリンちゃんの心は停滞してる。そいつは家督争いに興じてたお姉ちゃん方を少しでも止めたくて、それで子どもを演じてたせいもあるのかもしれない。少なくとも、ファリンちゃんそのままじゃない「邪気なんざカケラもない無邪気な妹」でいなくちゃならなかったはずだ。
 だからなんだろうかね。揺らがない正義を求めちまったのは。
 俺にとって正義は信仰だ。
 信仰ってやつは弱い心を護る鎧で、てめぇのセキニンってやつを天やら神仏に丸投げして「だから俺はやらなきゃならん」と言い張るための方便でしかない。俺の誓約が「替天行道」なのもそういうこと。俺はあくまで天に替わって道を行うだけのもんなのさ。
 が、ファリンちゃんは方便でなきゃならんはずの正義にすがっちまった。自分が思い定めた正義こそが唯一絶対の真理だと思い定めちまったんだ。
 そういう奴をなんて言う? いや、焦らすほどの答じゃない。狂信者だよ。
 ほんとなら兄様やってるヤンあたりがフォローするとこなんだろうが、あいつはあいつで放任主義みたいだしな。天仙ってのはそういうもんなのかもしれんが、俺みたいな一介の道士にゃわからんね。
 ……そういや今、ファリンちゃんはヤンと「殺仏殺祖」の誓約、結びなおしたんだっけな。
 でも、結局それじゃ変わらんよ。自分の最善ってのは絶対正義と同じで唯一だ。自分で決めて自分で為す――自分しかいないんじゃ、逃げ場も余裕もありゃしないわな。だからこそファリンちゃんは自分で自分を追い詰めて、ああなっちまってるわけだ。
 ま、それはファリンちゃんに限ったことじゃあないんだが。
 エージェントの大半は若い。能力に目覚めたってだけでろくな訓練も教育も受けずに戦場送りだ。よすがは誰かにもらった希望とてめぇの信じたい正義だけ。
 同じだよ。同じ。
 結局はガキなんだ。ファリンちゃんもエージェントも。そりゃあ考えるより信じるほうが楽だが、信じたいもんを信じるために耳目を塞ぐなんてのは、笑えない我儘だぜ。
 で、そんなガキどもがてめぇの我儘を力尽くで押しつけあってるのが、今の善性愚神騒動なわけさ。
 元の世界で俺は革命を見た。極少数の都合が詰め込まれた耳障りのいいお告げを盲信して踊った大多数が、残酷な現実に追いつかれて血肉をぶちまける悲劇をな。
 現状でって話になるが、愚神ってやつは共生できるような代物じゃねえ。あいつらの手は人の血で真っ赤だぜ? その赤にゃエージェントの身内だった誰かの赤も混じってる。水に流したって洗いきれるもんじゃねえだろうに。
 が、共生派の連中は討伐派を復讐鬼だと思ってるらしい。囚われてるってとこじゃ、確かにそうかもしれんがな。それにしても、だ。
「悲劇を踏み越えなお平和のために戦う者を、平和の名の下に暴力装置と罵る。――すぐそこで起こってたことじゃねえか。なんで自分にだけは当てはまらないと思った?」
 うそぶき、俺はコーヒーとは別の苦みを噛み締める。
 ファリンちゃん、大人になれよ。“わたくしの考えた正義”なんてもんで心を固めちまったガキのまんまじゃ、よそん家のガキの我儘にすり潰されちまうだけだぜ。
「いや……もっと我儘になっちまえばいい。自分と他人、どっちつかずは悪手だからな」
 だったら、どっちを取るかなんてわかりきったことだよな?
 俺は冷めたコーヒーを喉へ流し込み、立ち上がった。

4.ファリン/ヤン・シーズィ/ダイ・ゾン
 なにもない部屋の中から、なにもないわたくしはわたくしのいない世界を見ている。
 日ざしは世界の様を変え続けるが、わたくしの心は淡い寂寥の乳白に押し包まれたまま動かない。
「ファリン」
 ふと名を呼ばれ、わたくしは目線を巡らせた。
「お兄様」
 彼は誓約を一度捨てたわたくしのそばに今もいてくれる、かけがえのない存在。しかしわたくしに贖う術はなく、だからこそ思ってしまうのだ。
 お兄様はなぜ、空となったわたくしをお見捨てにならないのでしょうか?
 そんな思いに気づいてか気づかずか、兄は棒立つわたくしのそばに歩み寄り。
「出逢ったころのおまえが大事に抱えていたことを思い出したらつい、手にしていた」
 兄が差し出してきたのは、わたくしが捨てた本の一冊。いや、そのものではないのだろうが、幾度となく人の手でめくられてきた紙のにおいがかすかにひらめいた。
 空の心に染み出す泡立ち。これは懐古心?
 いらない。思い出したくない。過去のわたくしなど――!
 顔を歪めていたらしいわたくしの眉間の皺を兄が指先でなぞり、口の端を上げた。
「生じたな」
 え?
「ときに宇宙というものは広いばかりの空間だそうだ。太極も曼荼羅も描かれておらぬ虚無であると」
 唐突な言葉だったが、兄は大学への進学を決めてから、ずいぶんとこの世界の学問に親しんでいる。その中で得た初歩的な知識ということなのだろうが……
「空(くう)は空(から)に等しい。なにもないからこその空であり、空であるのだろう」
 兄は音を探るようにゆっくりと言葉を編む。
 なにが言いたいものかも知れないし、なにを聞きたいこともなかったが、わたくしの内に残った礼節は拒むことを許さず、結果としてわたくしは兄の言葉を聞き続けた。
「しかし、空(から)と思い込んだ空(くう)にも数多の星が生じるものだ。人であれ、それは変わらぬものだろう。今、おまえの心に思いが生じたように」
 と。
「空(から)になったというならば、そこからまた生じればいいだけのことだ……そう言いたいんだろうが、それでもまだまだ回りくどい。仙人だからって心まで置いてきちまったわけじゃねえだろう?」
 もうひとりの契約英雄――“おじ様”が戸口から声をかけてきた。
「大人にならなくちゃな、てめぇも」
 教え諭すように、兄へ言い重ねて。
「戴大哥……そうですね。俺もまた踏み出さなければならない。俺が思い込んだ分の内から」
 兄は息をつき、わたくしの顔をまっすぐ見据える。
「ファリン、自分の命を大切にしろ」
 強く紡ぎ出して。
「これは俺の願いだ」
 静かに添えた。

5.ファリン
 わたくしの部屋は今もがらんとしていて、引っ越しを済ませたばかりか引っ越してきたばかりかわからないような有様ですけれど。
 ほんの少しだけ、物が増えました。新品じゃなくて中古の品です。お兄様とお逢いした幼いころ、欲しくてたまらなかったもの。なにもかも捨ててしまう前に持っていたはずのもの。
 心は未だ定まらず、わたくしはあいかわらず空回りしているのでしょうけれど、それでも空(から)ではなくなりました。
 なぜならわたくしは生じたのですから。両手で抱え込んでいた正義というタオルケットを手放してこの空に。
 これまでわたくしは、手放してしまったものは消えて失せるものだとばかり思っていました。でも、たとえ手放したとしても、その熱が失われることはない。一度生じたものが無となることもない。だからこそこうして、思い出の品や新しいお洋服を買い求めたりもできるのですし。と、これは脱線ですわね。
 殺仏殺祖。その誓約を、これまでわたくしが顧みず、省みなかったわたくしにどれほど果たせるものかわかりませんが、それでも最善を尽くしていきたいと思うのです。揺るぎなさよりも強靱に、清ばかりではなく濁をも踏み越えてまっすぐと。
「わたくしがどのような道行を刻もうとも、最期まで見届けてくださいますわね、お兄様」
 わたくしは乳白玉から水晶へと変じた蝉をつつきます。
 天仙の無情を投げ捨ててまで見せてくださったお兄様の有情、それを映すような透明。
 わたくしは蝉を連れて部屋のドアを開けました。
 そしてわたくしが生きる世界へ一歩、踏み出したのです。


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【ファリン(aa3137) / 女性 / 18歳 / 紫峰皇ペンギン】
【ヤン・シーズィ(aa3137hero001) / 男性 / 25歳 / 紫峰翁大學の兵法者】
【ダイ・ゾン(aa3137hero002) / 男性 / 35歳 / 我を超えてゆけ】
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2018年05月18日

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