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『【任説】齶田米衛門の場合 』
齶田 米衛門aa1482

 見渡す限り、オレンジ色に焼けた砂丘が広がる砂漠地帯。
 およそ人が住むには適さないその場所を、まっすぐに砂煙を巻き上げながら走る影がひとつあった。

「アッチャ〜、こりゃやっちまったッスなぁ」

 そんなことをうそぶきながら、その人影はホバーバイクのアクセルを全開にする。フルフェイスのヘルメットから覗く表情と口調は軽いものだが、操るバイクの速度は異様なまでに速い。
 大量の砂塵を舞い上がらせ、人影はまるで自分の居場所を知らせるかのように一条の線を描きながら爆走する。空の青と砂の赤が目が眩むようなコントラストを奏でる中、横目でチラリと後方を振り返って――その人はメットに隠れた口元を引きつらせた。

「やっべ」

 直後、爆煙と見紛うほどの砂塵が吹き上がった。
 同時に、唸りを上げるピストンの音と、重く固いもの同士がぶつかったような轟音が響く。
 時を置かずして、吹き上がった砂の柱からホバーバイクが踊り出し――しかしその上に人影はない。

「GYARRRRRRRRR!!」

 人影はどこへ。
 そんな疑問を抱く間もなく、聞くに堪えない異音があたりに鳴り響いた。

 ――それは、まるで意思を持った金属が泣き叫んだかのように耳障りな音。
 文字として形容しがたい異音をまき散らしながら、ソレは砂塵の中から姿を現す。
 見上げるほどの巨躯。照りつける太陽を反射してギラつく、咬み千切ることに特化したおぞましい形状の歯。不気味にうごめく表皮は、驚くべきことに砂を固めてできている。足はなく、堆積した砂を泳ぐ頑健な鰭を持つ、異形。

「砂鮫ッ!!」

 恐怖に怯える悲鳴とも、獲物を見つけた歓声とも取れる声が降る。次の瞬間、獲物を探してぎょろつく異形めがけて、黒い弾丸が放たれた。――バイクに乗っていた人影だ。吹き飛ばされた衝撃でフルフェイスのヘルメットが脱げ、その精悍な顔立ちが白日の下に晒されている。至極たのしそうに、しかし獰猛に瞳をギラつかせているのは年の頃二十歳そこそこの青年だった。真下からの襲撃を予見してバイクごと上空に跳んでいたらしい。

「先手必勝ッス!」

 自由落下に身を任せ、青年は無防備に頭部を晒していた砂鮫目がけて黒革のグローブに包まれた右の拳を振り下ろす!
 位置エネルギーと速度エネルギーを余すことなく乗せた拳は重く、疾い。結果として発生する破壊力は当然高く――しかし砂鮫を葬り去るには足りない。

「GRRRRRAAAAAAAA!!」
「っと」

 急所である鼻先に拳を受け、砂鮫が怯む。反射的に身を捩る砂鮫から距離をとるため、青年は打撃の反動を利用して後方に飛び――砂に足を取られて着地予定地よりだいぶ後方へと滑った。慣れない足場に不利を悟った青年の表情が曇る。

「あーあ、砂漠越えする羽目になるし砂鮫には遭うし、今日は散々ッスなぁ」

 年老いた砂漠の砂はさらさらと滑り、踏み込むには少々心許ない。
 徒手空拳で挑むには不利が過ぎる。それを悟った青年は、しかし深刻さの欠片もない口調で砂鮫を見つめていた。

「こーゆー日は姉さんとこで大人しくしてるに限るッス」

 半端なダメージを負い、怒り狂った砂鮫が獲物目がけて猛スピードで砂地を泳ぐ。それを泰然と迎え撃つ青年は徐に腰元へと手を伸ばし――金属製の棍を取り出した。

「これやったら兄さんに怒られるんスけど」

 ヒュッ、と空気を切って棍を振り、右肩を正面にして棍を構える受けの姿勢。自身より巨大な獲物を相手取るには些か心許ない構えだったが、青年の瞳に不安はない。

 待ち受ける青年に何を思うか。
 砂鮫は目障りな人間を食い千切ろうと、ざらりとした歯が並ぶ口を大きく開いて突進してくる。
 青年は臆することなくそれを引きつけ――砂鮫が己を食い破ろうと砂の中から躍り出た瞬間、大きく開いた口の中から脳天を狙うようにして棍を突き入れた。

「?!」
「シッッ!」

 常人ならば砂鮫の重量と顎の力に負けそうなものだが、青年の胆力は常人を遙かに上回っていたらしい。ついで精神力も。
 己を食い破ろうと躍りかかった砂鮫の口に棍を突き入れ支えとし、砂鮫が怯んだところで右腕で棍を支えたまま、右脚で巨大な顎を蹴り上げる! 青年に飛びかかるため前方に向かっていた砂鮫の推進力は、青年によって強制的に斜め上方へと逸らされた。同時に、砂鮫の口を支えていた棍が嫌な音を立てて折れる。あわよくばそのまま砂鮫の脳天を貫通することを目論んでいた青年が若干残念そうに眉をひそめた。

 多大な質量を誇る巨体が、無防備に中空を泳ぐ。
 だが戦意は収まるどころかより一層激しく煮え立った。邪魔なものは消えた、とばかりに、砂鮫は己の口腔に突き入れられたままの腕を咬み砕こうと口を閉じて。

 ガキンッ

「!?」
「ザンネンだったッスね!」

 青年が愉しげに片眼を眇めてわらった。

「OVERDRIVE」

 瞬間、砂鮫の牙を打ち負かした右腕の衣類が弾け飛ぶ。
 内側から衝撃が加わったかのように弾けた衣類の下、隠されていたその腕の色は鈍い銀――鋼の義腕だ。
 それが今、青年の意思に呼応するように淡く光り輝いていた。

 細く甲高く歓喜の産声を上げるように震動する義腕に、不穏なものを感じた砂鮫が逃れようと身を捩る。が、青年のほうが一歩早い。

「ブッ飛べ!!」

 爆音。
 否、轟音と表現したほうがいいか。

 青年の合図と共に、砂鮫が身の内から膨れ上がるように破裂した。
 血は出ない。飛び散るのは砂と、いくつかの固形物。一応骨格と呼べるものは存在したらしく、砂鮫は断末魔を叫ぶ余裕すらなく、確実にカルシウム由来ではない銀灰色の骨を晒して事切れていた。
 ずぅ、ん、と鈍い音を立てて、銀灰色の骨と残りの身体が砂地に落ちる。
 それを確認し、砂鮫がもう動かないことを悟った青年は、オレンジ色の砂漠に尻餅をつくように座り込んだ。

「っはーぁ、助かったぁ」

 心底安堵したように肩で息をして、青年は右腕を確かめるように眼前へ持ち上げる。
 一切の躊躇無く砂鮫の腔内へ突っ込まれたそれは、見るも無惨なほどボロボロになっていた。あちこちに裂けたような深い裂傷が刻まれ、装甲の薄い部分が剥がれ落ち、指部分など何本か無くなっている。むき出しの金属線が痛々しい。
 そんなボロボロの腕を確かめるように動かして、青年はぱったりと力尽きたように、砂地へと力なく仰向けに寝そべった。

「あ゙ー…………これは確実に怒られるやつッスな……」

 へへへ、と乾いた声で笑う青年は、吹き飛んだ衝撃でホバーバイクの推進部分がぶっ壊れていることなどまだ知る由もないのであった。

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【aa1482/齶田 米衛門/男性/25歳/アイアンパンク/防御適正】
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2018年05月21日

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