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『無人島奇譚 序章・島へ 』
海原・みなも1252

●旅
 海原・みなもはつばの広い帽子を押さえた。
 どこまでも続く海、海、海。
 水の眷属の血を引くみなもにとって、第二の故郷のように感じられる。
 しかし、ここの海はなぜか怖さがあった。この海は冷たさと人を拒絶する雰囲気がある。いや、拒絶どころか飲み込み、すべて同化してしまうような雰囲気もある。
 矛盾、している。
(草間さんは何も感じないのでしょうか?)
 みなもは漁船の船室を見た。草間・武彦は椅子の背に足を載せ、行儀の悪い格好で座り寝ている。
 二人がここに来たのは「六十年前の事件」の調査である。
 今更、なぜ、何があるのだろうか?

●手紙
 草間興信所にみなもが呼び出されたのは、一週間ほど前のことだった。
 片付けと縁がない事務所の中、みなもは武彦から手紙を見せられた。
 縦書きの便箋に、しっかりとした太さの、やや崩し気味の字。丁寧な内容運びで、手本になりそうな依頼書だ。便箋はたばこの煙を縫ってかすかな潮の香りが鼻孔をくすぐる。
 たばこの匂いは目の前にいる人物が遠慮なく吸っているからだ。

 ――の島の住民の失踪もしくは消失について調査をお願いします。

「気づいたことは?」
 教師のように武彦は問う。
「どこにあるんですか?」
「K県の無人島として存在している」
 無人島であれば、島民がいなくなっているのは事実だ。
「きれいな字ですよね……」
「筆跡鑑定するわけじゃないが、ある程度年齢の行った男性だろう」
「なるほど」
「しかし、当てにはならない」
 筆跡は性別や年齢で変わる部分もあるが、字を真似することができれば肉眼では区別がつかないことはある。
「というわけで……老人とは限らないし、字がうまい美少女かもしれない」
 武彦はたばこの火を消した。随分と短くなっているが名残惜しそうだ。
「今更、なぜということです」
 武彦はたばこを取り出すと、指でもてあそびながらうなずく。
「相続問題が発生したとか、不意に思い出して死ぬまでに事実を知りたいと思ったか……わからない。全員消えたなら、誰がこの手紙を出している?」
 約六十年経っているため、色々理由を考えてもどれも疑問を深めるばかりだった。
 住所の記載もない普通郵便だ。投函者の手がかりとなりそうなのは消印だけで、それは都内の海に接する地域とだけはわかる。
「あと一つ……ありますが」
「それがわかれば苦労しない」
「言っていないんですが……」
「お前を連れてこいということ。胡散臭いだろそれ」
 武彦は煙草を一旦くわえたが、机に放った。
 みなもを連れて行くことが一番のネックであるのは彼女も理解する。調査の理由以上に不自然な点だ。
「大体、なんで子供を連れて行く必要がある? おまえの先祖がそこに住んでいたとか?」
 一瞬みなもは抗議しそうになったが、それが子供だと認めることにつながると黙った。
「住んでいたなら、その島がどこにあるか聞きません」
「だよな」
 二人はうなずいた。
「あの……」
「できる限り調べた。結果、お前を連れて行く理由もわからない」
 みなもは考えてみるが、心当たりがない。
「で、どうする? あの学校、うまいこと言えば公休扱いにはしてくれるだろう」
 みなもが通う学校は古式ゆかしいが、自由を重んじる校風があり、部活動もアルバイトも推奨している。この件もきちんと説明すれば、出席日数を考えず休めるだろう。危険があるとなると許可が出るかわからないが、そのあたりはうまくするしかない。
「このまま放置するのは居心地が悪いです。あたしがいることで助けられるならば行きます」
 答えを予測していた武彦は特に反応を示さない。
「それに、水辺ですよね。あたしの力だって使えますよ」
「それは気のせいだ」
「……ちょ!」
 怪奇現象はお断りしたい武彦。そうなると、みなもの能力もそこに含まれる。
「で、ま、そこに行くチケットもカネもある。断らなくて済んで良かった」
 にんまりと笑う。
「え? 郵便でお金は送っちゃいけないんじゃなかったでしたっけ?」
「でも、あるぞ」
 先ほどまでの真剣さが嘘のように武彦は茶化す。武彦の態度に怒っていたみなもは、彼の目が笑っていないことに気づかなかった。

●現場へ
 そこからの準備はあっという間だった。その島の近くまで行くには週に一度の定期便に乗らないとならないため、逃せない。
 フェリーで二十五時間。途中、いくつもの島に寄る。シーズンから外れているため、乗客は少ない。そのため、三等室でも手足を十分伸ばせる、プライバシーを気にしなければ。
 食事をとったり、甲板に上がったり、自由に過ごす。武彦が調べた情報を頭に叩き込んでも、時間はほとんど残る。
 近くの島に到着後、漁船に運んでもらう。静かな島で、過疎が進んでいるのが明白だった。
 何か情報を得られないか島民に聞くが、武彦が調べたこと以上のことはわからない。
「ほんとに、そこに行くんか?」
 漁船の船長はみなもと武彦に問う。どこか不安そうだ。
「ああ、仕事だからな」
 武彦はぶっきらぼうに告げる。
「お前さんはともかく、嬢ちゃんは……」
「はい、仕事なのです」
 みなもは安心させるように笑顔で告げる。
「なぜ、止めるのかと聞いていいか」
「……俺の父から聞いた話だ……」
 漁師は海を見た。みるみる顔が青くなる。みなもも武彦もさりげなく海を見るが、波が揺れるだけで何か異変は見えない。
「ああ、何でもない……確か、飲み水の確保が難しくなって、全員移住したんだ」
 武彦の目が光る。何かを知っているのかもしれないが、無理に聞き出せばこの漁師が死ぬような気がした。
「飲み水は重要だよな……ということは、もっと、俺たちも持っていかないと駄目か」
 武彦は話を合わせた。すると、漁師はほっとした。
「次に呼びに行く時までは十分持つはずさぁ」
「もしもの時は、漁船に向けてこうだな」
 迎えが来る前に迎えがほしい場合は、航行する船に対して、閃光弾を打ち上げることや手旗信号を示唆されていた。
「そうそう」
「さて行くか」
 船は出た。
 連絡船と異なり、揺れるし、風や波を感じる。
 みなもは目を閉じ匂いと音を楽しむ。

 ――!
 ――NuAaaaa。

 みなもは目を見開いた。手すりをぐっと握り、海を見る。
(何もいない? あれは声? モーターと波の音でしょうか)
 敵意や同情など複数の感情を聞き取った気がするが、確認のしようがなかった。
 武彦に聞こうと思うが、彼は船室で寝ているようだ。

 青々としてこんもりとした島が近づいてきた。
「嬢ちゃん、あと少しだ。港の跡はあるからそちらに接岸するぞ」
 漁師が声をかけた。
「あ、はい」
「それにしても、あんたの父さんは、よく寝られるよな……今のうちだと思って寝ているのかもしれないな」
「……はい? 父さん!?」
「……え?」
 みなもは思わず素っ頓狂な声を出したが訂正はためらった。訂正するともっとややこしいことになりそうだ。
 それよりも漁師の言葉に不吉さを感じた。
(いまのうちに? 何かあって眠れない……でも、そうですよね、無人島だからと言って、たまたま来ている人がいない保証がないですし、安心はできませんよね。猿が住み着いて、荷物を狙ってくるかもしれません)
 みなもは前向きに考えた、先ほどの違和感を忘れるように。

 そして、荒れ果てた港にみなもと武彦は上陸したのだった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1252/海原・みなも/女/13/女学生
NPCA001/草間・武彦/男/30/草間興信所所長、探偵


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 発注ありがとうございます。
 タイトル、どうしようかとこねくり回した結果、そのままにしました。
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2018年05月23日

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