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『たんけん、ぼくのしま SUN』
ミハイル・エッカートjb0544


 ーー 田中家の墓 ーー

 そう刻まれた墓石の上には、何故か下駄の形をしたオブジェが鎮座していた。
「田中一郎、か。平凡な名だ」
 墓標の前でダークスーツの男が呟く。
「だが、偉大な科学者の名だ」
 男は持参した花束を脇に置くと、墓石の表面にこびり付いた苔や汚れを丁寧に拭き取り始めた。
 もう何年、墓参りに訪れる者もないまま、ここにひっそりと佇んでいたのかーー


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・


「いいか章治」
 ミハイル・エッカート(jb0544)はサングラス越しに、門木章治(jz0029)の伊達眼鏡の奥をじっと見つめた。
「大抵の科学者は自分の功績を世に示したがるものだ。お前も科学者なら、その心理は理解できるだろう?」
「……あぁ、うん、まあ……」
 両肩に置かれた手にぐっと力を込められ、門木は曖昧に頷く。
「そう、必ず何かが残っているはずなんだ」
 その答えに満足そうな笑みを浮かべると、ミハイルは門木の頭に「安全第一」と書かれた黄色いヘルメットを被せ、手にずしりと重いツルハシを持たせた。
「章治、お前も手伝え」

 不良中年部の部室に残された、一枚の青焼きコピーから始まった宝探し。
 それがカオスのうちに幕を閉じてから、はや数ヶ月。
「俺は既に学園を卒業した身だ」
 相も変わらぬダークスーツに黄色いヘルメットのミハイルは、茫漠と広がる廃墟に目を細める。
「思えば充実した学園生活だった。ここで過ごした日々には一片の悔いも未練もない。ただひとつ、こいつを除いてな」
 手にした地図に残る、お宝のマーク。
 ポーチ・ド・エッグ博士などという、ふざけた名前のふざけた野郎が残したであろう「何か」を見付けるまで、彼の学園生活は終わらない。
「よし行け、しめりん! お前の鼻で、お宝の在処を嗅ぎ当てて来い!」
 声と共に、犬型自走炬燵ロボット「しいたけしめじえりんぎ」が尻尾を振りながら飛び出して行った。

『わん、わん、わんっ!』

 ある一点でぴたりと止まったしめりんは、電子音で吠えながらお腹のヒーターを点滅させ、一心にその場を掘り始めた。
「おっ、もう見付けたのか。偉いぞしめりん!」
 ミハイルもツルハシを手に加勢するーーが、いくら掘っても瓦礫の種類が更新されるばかり。
「おい、本当にここに埋まって……、しめりん?」
 額に流れる汗を拭いながら顔を上げれば、そこにはもう炬燵犬の影も形もない。
 あっちでガサガサこっちでガリガリ、嬉しそうに飛び跳ねながら手当たり次第に穴を掘る姿が遠くに見えた。
「遊んでるだけか!」

 その微笑ましい姿に細めた目を、茫漠たる廃墟に転じる。
 無謀だ。
 これはサハラ砂漠で一粒の砂金を見付け出すにも等しい苦行ではないのか。
 諦めるか。
 いや、まだだ。
「真の卒業証書は、この下に埋まっている!」
 ミハイルは最後の希望を振り返った。
「章治!」
「お、おう」
「何かないか、この状況を打破できる画期的な発明品は!」
「まあ……ないこともない、か」
 門木は周囲の瓦礫を見回しながら頷いた。
「少し時間はかかるが」
「おい、まさか今から作るなんてことは」
「大丈夫だ、材料ならいくらでもある。俺にとってはこの瓦礫の山すべてが資源、宝の山だ」
「そうか、探し求めていた宝はここに……!」
 ミハイルは新たな世界が開かれた思いで門木を見た。
 この、ゴミの山から黄金を作り出し、伝説の武具さえもくず鉄に変える現代の錬金術師、門木章治こそが人類の宝ーーな、わけがない。

「出来たぞ」
 ミハイルが脳内で一人漫才を展開するうちに、あっという間に何かが出来上がった。
 元はトースターと思われるボディから生えた両手にスコップを持ち、顔と思しき部分にはサングラスをかけている。
「何だこいつは、モグラか?」
 随分とベタな表現ではあるが、その通り。
「モグラ型万能掘削機だ、名前はまだない」
「よし、良い仕事をしたら、お前に立派な名前を授けてやろう。行け、モグラ型万能掘削機!」
 ミハイルの声を受けて、掘削機が唸りを上げる。
 両手が駄々っ子パンチのようにグルグル回転を始めたかと思うと、その小さな姿はあっという間に地中へと消えた。
「こいつはすごいな、これなら底に埋もれたお宝も簡単に探し……」
 いや、違う。
 こいつ、もしかして……ただ穴を掘っているだけか?
 ミハイルの脳裏に、縦横微塵に掘られたトンネルの様子が浮かぶ。
 その想像が正しいとすれば、今この足下はスカスカにーー

 ぐらり、足下が沈む。
 やっぱりか。
「また落ちるのかあぁぁぁーーーーー!!」
 嫌な予感に限って嫌がらせのようによく当たるこの現象に、何か名前はあるのだろうか。
 そんなことを考えながら、ミハイルは足下の瓦礫と共に地の底深く沈んで行くのだった。


「ミハイル、大丈夫か?」
 陽光の降り注ぐ縦穴の上から、片翼の天使がのんびりと降りて来る。
「ああ、なんとかな……」
 ジンジン痛む尻をさすりながら、ミハイルはどうにか立ち上がった。
 わかっている、この天使は咄嗟に翼を広げ手を差しのべようとしたのだろうーーが、その判断に身体能力が追い付かなかったのだ。
「で、ここはどこだ?」
 光が届かない深海のような場所で、ミハイルはヘルメットに付けたライトのスイッチを入れた。
 やはり何もない。崖のようにそそり立つ瓦礫の壁以外には。
 しかし、その時。
 ライトの光に反応して、何かがキラリと存在を主張した。
「何だ?」
 近付いて光を当てると、瓦礫の山から何か四角い物の角が突き出ている。
 剥げかかってはいるが、派手な赤い色の塗装に金色の縁取りーー
「宝箱だ!」
 
 中に入っていたのは、分厚い書類の束だった。
「何が書いてあるんだ……章治、わかるか?」
「V兵器の強化改造の実験データ……それに、機械の設計図だな。かなり古いが、今でも使えそうだ」
「おい、そいつは門外不出の極秘資料じゃないか!」
 眉間に皺を寄せ、二人は顔を見合わせる。
 各国の軍事バランス崩壊を防ぐため、強化改造関連の技術は厳重に管理されていた。
 それは学園の科学室でしか使用を許されない、魔法にたとえるなら禁呪に相当するもの。
 だがそれだけに、欲しがる者も多い。
 実を言えば、近ごろ撃退士ビジネスを始めたミハイルの会社もそのひとつだ。
「こいつがあれば、頭ひとつどころか後続を突き放すレベルで抜けられる……たとえ時代遅れの代物でもな」
 残されていた機械類はスクラップだが、図面があれば充分だ。
「こいつを使えば、俺達人間にもV兵器の開発が可能になる。違うか?」
 だとすれば、喉から手が出るほど欲しい。
「持ち帰るつもりか?」
「先端技術を盗むわけじゃない、養成学園時代の物なら問題ないだろう? あったとしても章治と俺が黙っていればいい」
 これがなくても、いずれ人間は独自にその技術を開発するだろう。
 もしもそれが倫理観に欠けた奴の手に渡ったら?
 その時に止められる者が誰もいなかったら?

「理想を追うには力が必要なんだ」


 ・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・


「この技術は有効に使わせてもらうさ」
 ダークスーツにサングラスの男が、綺麗になった墓石に手を合わせて誓う。
「大丈夫だ、妙なことには使わない。章治も俺を信じてくれるよな?」
 その声に、背後に佇む影がそっと頷いた。
 少し間を置いて、小さな声が付け加えられる。

「親友、だからな」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb0544/ミハイル・エッカート/男性/外見年齢31歳/祝・卒業】
【jz0029/門木章治/男性/外見年齢36歳/親友って良いな】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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エリュシオン
2018年05月28日

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